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死の森篇

いせかいで、であいたくなかったでしゅ

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 来た道を戻る形で、下山していく。最強で最凶のドラゴン夫婦がいるからなのか、ワイバーンやズーに襲われることはなかった。
 二時間ほどで北側へと行く道に辿り着き、一旦ここで休憩。セバスさんが紅茶を、テトさんがバタークッキーを用意してくれた。
 どっちもうまー!
 休憩が終わると、一路北へ。岩だらけだったものが土に変わり、丈の短い草が生え始める。
 その草も薬草らしく、バトラーさんに言われて鑑定したあと採取した。この薬草はゲンソウという名前で、見た目はゲンノショウコに似ている。
 花は紫がかった濃いピンクと白で、どちらも胃腸薬や毒消しに使われるらしい。茎や葉っぱだけじゃなく、花や根っこも薬になるという、平地にも多く生えている薬草だそうだ。
 それを、一部は根っこごと、他は根っこを残して採取する。種もあったので、それも採取した。
 種はセバスさんが瓶を作ってくれたので、その中に入れたよ~。
 採取が終わると再び移動する。
 次に見つけたのは、イヌタデ。日本で見たまんまの姿だった。色はピンクと黄色、紫がある。
 これは魔力を回復するポーションに使われる薬草だそうだ。
 日本だとたで酢なんてものもあったけれど、どうやらこれは食用ではないらしい。日本のも違う種類だったのかなあ? そこまで詳しくないから、違いがわからないのが残念だ。
 イヌタデは見た目も可愛いから、庭にも植えたいね。ってことで、これも採取。
 その途中で、先日見たものよりは二回りほど小さいベヒーモスに襲われたけれど、セバスさんが瞬殺して終了。綺麗に解体され、肉はセレスさんとテトさん行きとなった。
 セバスさんってば、両袖から短剣を出したと思ったら、飛び上がって両目に短剣をぶっ刺したんだぜ? そのあとで眉間に短剣を刺した。
 どっちも急所らしいからね……まさに瞬殺でござった。
 採取も終わったので立ち上がり、ちまちまと移動しては薬草や野草、果物を採取&鑑定していく。途中、三十センチくらいの長さでミニワームという、ミミズにしてはデカいものを見たりもしたけれど、私たちを襲うでもなくのんびりと進み、土の中に潜っていった。
 だいぶ気温が下がってきている地域に入ったからなのか、魔虫はほとんどいなかった。けれど、カマキリに似た一メートルくらいはあるビッグマンティスと、五十センチはある蛍光ピンクのG、スカラコックという魔虫に襲われて、鳥肌が立った。
 特にG、お前だけはダメだ! 色も相まって気持ち悪い!
 しかも、素材としても価値がない魔虫だそうだ。あっても羽を保護している甲殻部分だけで、その甲殻も見た目以上に脆くて使えないし、魔物や魔虫を食べるビッグマンティスですら食べないという。
 なので、キャシーさんとセバスさん、セレスさんが火魔法で焼き尽くしていたよ……。森の草木には一切火を点けることなく、綺麗さっぱりに灰にしていた。
 うん、気持ちはわかる! 許可が出ていれば、私も火魔法を使って焼き尽くした。
 だけどまだ戦闘での使用許可が出てないんだよね。相変わらず、いらない内臓や骨を燃やしている状態だ。
 こればっかりは仕方がない。森を燃やすわけにはいかないし。
 その後もちょこちょことビッグマンティスとスカラコックに襲われたけれど、その全てがキャシーさんとセレスさんによって燃やされた。ただ、スカラコックの出る頻度があまりにも高過ぎることから、どこかに巣があるかもしれないと、眉間に皺を寄せて唸っている。

「いくら死の森といえど、スカラコックがいるのはいただけないわ。巣があるなら潰さないと」
「そうね。他の魔物や魔虫たちの食料がなくなっちゃうわね」
「先に行っててくれる? 周囲を探してくるわ」
「アタシも行くわ、セレスちゃん」

 女二人? で獣道を外れ、森の中に入っていくキャシーさんとセレスさん。男性たちもさすがにうんざりしていたようで、快く二人を見送った。
 私たちはそのまま歩き、先に進んでいく。三十分ほど歩いたところで視界が開けた。

「きれいでしゅ……」
「ここはこの森の憩いの場なのです。あの花園の中心に、水が湧いているのですよ」
「しょうなんれしゅね。おはにゃもきれいでしゅ」
「そうですね。摘みますか?」

 セバスさんの言葉に、首を横に振る。だって大きな蜂が蜜を吸っていて怖いんだもん!
 スズメバチよりデカいミツバチなんだぜ? 近寄りたくないわ!
 それに、部屋に飾るならともかく、そうではないのなら切るのは可哀想だ。押し花やドライフラワー、プリザーブドフラワーを作ったり、エディブルフラワーならともかく、目的がないのであれば切ることはしたくない。
 つたない言葉でそう伝えると、セバスさんはにっこりと笑った。

「ところで、エディブルフラワーとはなんでしょう?」
「たべられりゅおはにゃのことれしゅ」
「なるほど。そうですね……もっと南に行けばありますが……」
「バトラーしゃんに、きけんとききまちた」
「ええ」

 もっと大きくなったら連れて行きましょうと言ったセバスさんに、元気にお返事しておいた。楽しみ~♪
 しばらくボーっと花畑を見ていたけれど、また移動開始。すぐに森の中に突入。
 ここからはビッグマンティスもスカラコックも出ず、黒と黄色の縞模様で真っ赤な目をした三十センチほどの蜘蛛だの、一メートル近い黒いアリだのに遭遇した。どっちも小さければ可愛いのに……。

「おや。ラジャススピンとアーミーアントですか」
「糸と蜜、甲殻が有用だな」
「そうだね。甲殻はともかく、蜜は欲しいかも」
「いととみちゅ……」

 糸や甲殻はともかく、アリの蜜とはなんぞや。いや、蟻蜜は甘いって聞いたことがあるけど、さすがに食べたことないぞ?
 やっぱ異世界だからなのかな。クッキーやパウンドケーキで喜ぶくらいだもの。きっと砂糖などの甘いものは貴重なのかもしれない。
 だけど、アーミーアントってことは軍隊アリのことだよね? 蜜なんて持ってるの?
 そんなことを考えている間に、セバスさんとバトラーさんのコンビにより、あっという間に戦闘が終わってた。そして二人で周囲に張り巡らされていた蜘蛛の巣を回収したり、解体したりあちこち動き回ったあと、不必要なものが一ヶ所に集められたので、しっかり燃やす。
 ちなみにテトさんは、私を抱き上げたまま戦闘してた(笑)

「これがアーミーアントの蜜だ」
「きれいないろでしゅね」
「そうだな。あとで舐めてみるといい」
「あい!」

 バトラーさんが瓶に詰まった薄いオレンジ色のものを見せてくれた。それがアーミーアントの蜜だという。
 瓶の大きさとしては、八センチ四方で高さ十五センチくらいのもの。それが一体につき五本も採れたらしい。
 確か、襲ってきたのは十体だったはず。てことは、全部で五十本!? スゲー!
 テトさんがどんな料理に使おうかと、楽しそうに悩んでいる。味によってはお菓子やパンにも使えそうだなあって思った。
 処理も終わったので、また移動。なんだかんだいってそろそろ一時間近くなる。キャシーさんとセレスさんは大丈夫だろうか。
 心配しつつも、新たに鑑定できる植物が出て来たので、きっちり鑑定。今回見つけたのは、アボカドとパイナップル、イチジク。
 つうか、マジで季節感無視というか気温差無視というか……。アボカドもパイナップルも、どちらかといえば南国の果物だよね? なんでこんな寒い場所に生えているのかな⁉
 やっぱり、教わった通り魔素が濃いからなんだろうなあ。だって、どれも日本で見たものよりも二回りほど大きいんだもの。
 あっちと比べたらダメだってわかってはいても、この世界の常識を知らないんだから、どうしようもない。
 バステト様が管理している世界だからなのか、同じものもあれば、似ていても違うものもある。村や町に行けば、そういうものがたくさんあるんだろうなあ。

「そろそろ広場に出ます。そこでお昼にしましょう」
「そうだね。それにしても、あいつら遅いなあ」
「探すのに手間取ることはありませんから。もしかしたら、かなり規模が大きな巣の殲滅をしているのかもしれませんね」
「そうかも」

 セバスさんとテトさんが心配そうにセレスさんとキャシーさんの話をしている。バトラーさんは周囲を警戒中だ。
 果物を採取しつつ五分も歩くと、開けた場所に出た。
 すると、うしろのほうから「ドーーーン!」という轟音が響き、木々に隠れていたらしいギャーギャー鳥が、悲鳴を上げて一斉に飛び立った。

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