転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮

文字の大きさ
上 下
32 / 87
死の森篇

コートでしゅ

しおりを挟む
「む……」
「あら……」
「なんと……」
「美味しいわ。何のお肉なの?」

 バトラーさん、セレスさん、セバスさん、キャシーさんの順番で唸っている。
 まずはおかずからどうぞと水晶鳥と水晶兎を勧める。見た目の大きさも色も全く同じなので、どっちがどうかというのはぱっと見わからないようになっている。
 実際はお皿の右側に兎、左側に鳥を配置し、その仕切りとして千切りにしたきゅうりとニンジン、大根が添えられているのだ。
 味見してみたけど、味自体はどっちも淡泊。けれど、鳥のほうが弾力が強く、兎はそうでもないという結果になった。
 それでも片栗粉をまぶして茹でてあるからなのか、肉自体の旨味は逃げていないから、淡泊な割にはとてもジューシーなのが不思議。だけど、鶏肉とは違う味わいで、とっても美味しい!
 タレを濃いめにしてよかった。野菜も一緒に食べられる味付けだしね。
 どっちも食べたところで種明かしをすると、テトさん以外の全員が目を丸くした。

「ええっ⁉ あの淡泊な胸肉と兎肉が、こんなふうになるの!?」
「これは驚きました。表面のつるつるとした見た目も面白いですし」
「これがあるから、味が逃げていないのねぇ」
「タレもいい。肉だけではなく、野菜にも合っている。いくらでも食べられそうだ」
「「「確かに!」」」

 おお、気に入ってくれてよかった! 思わずテトさんとハイタッチしたよ!
 タレの味が濃いからなのか添えてある野菜も一緒に食べているし、ご飯も味噌汁も気に入ってくれたみたい。バトラーさんとテトさんはともかく、セバスさんとセレスさんも最初は味噌汁の見た目の色に引いてたけど、出汁の香りに我慢ができなかったようで、一口飲んだあとはふわりと微笑んだ。
 出汁の味っていいよね~。そのままでも飲めちゃうよ、私。
 テトさんも味わうように味噌汁を飲んでいて、ついでに何やら考えたりしている。きっと、この世界にある料理との違いを確かめているんだろう。
 鰹節っぽいものを知っていたんだもの。きっとそこに、昆布もあるはず!
 ……売っているかどうかは別としてね。
 食べながら使った食材や調味料を説明し、味見がしたいと言ったものは小皿に出して味わってもらう。もしかしたら、他の人がそれに近い味のものを知っているかもしれなからだ。
 今すぐじゃなくていいから、思い出したら教えてほしいことと、そこまで旅をしたいと伝えると、大人たちは快諾してくれた。やったね!
 デザートにプリンを出し、食事は終了。
 その後は明日に備えて準備したり、自分のやりたいことをしたりして、まったり過ごした。ある程度の時間が過ぎると、私はおねむだ。
 いつもの如くバトラーさんに抱っこされ、もふもふな腕の中で寝落ちた。

 翌朝。
 身支度をして食堂兼ダイニングに行くと、セレスさんがキッチンに立っていた。

「せれしゅしゃん、おあようごじゃいましゅ!」

 あああ! 名前を噛んだ! 幼児の舌ーー!

「しゅみましぇん……」
「ふふふ、落ち込まなくていいのよ。ステラの年齢なら仕方がないことだもの」
「れも……」
「あたしたちといっぱいお話していくうちに、きちんと発音できるようになるわ」

 頑張ってと微笑むセレスさんのご尊顔が眩しい。あああ、女神様やー!
 頑張ると返事をすれば、バトラーさんが席に座らせてくれる。そのうちこれも、いつの間にかルーティンワークと化してそうだよね。
 そうこうするうちに全員揃い、朝ご飯。なんと、パンケーキ!
 バターとジャム、サラダと果物、野菜と卵が入ったスープ付き。いただきますをして実食。
 厚みのあるパンケーキは食べやすいように切られているし、ふわふわでほんのり甘い。添えられているジャムは、リンゴのような味がする。
 サラダはレタスときゅうり、シプリとラトマで、私のは口に合わせた大きさに切り揃えられている。果物はオレンジで、こちらも薄皮がむかれているのが凄い。
 スープはふわふわの卵で、野菜の味も感じられるコンソメスープ。いつブイヨンを作ったんだろう?

「おいちいれしゅ!」
「ありがとう。たくさん食べるのよ?」
「あい!」

 ワンプレートに載せられた朝食を食べきる。これでだいたい腹八分目くらい。
 セレスさんってばすごいよね、出会って一日しかたっていないのに、もう私の食事量を把握しているんだもの。あとは何を食べようかと考えたけれど、果物とスープのおかわりでお腹がいっぱいになってしまった。
 これ以上食べると動けなくなる。てなわけで、ごちそうさまでした!
 お腹が落ち着くまで紅茶を飲んだあとは、出発の準備。その時にキャシーさんが手に何かを持ってきた。

「ステラちゃん、これを着てみて」
「なんれしゅか?」

 キャシーさんに渡されたのは、ブルーのダッフルコート。おお、この世界にもダッフルコートがあるのか!

「これね、あのブルーライオンの毛皮で作ったコートなのよっ! コートだけじゃなくて、帽子にも拘ったのっ!」
「おお~」
「さあ、お袖にお手手を通して」
「あい!」

 なんと、ブルーライオンのコートでござった!
 着やすいようにキャシーさんが広げてくれたので、そこに腕を通す。おお、すんごくあったかい!
 表は青い毛皮に覆われ、中は白い毛皮。どっちも肌触りがよく、着心地も抜群。
 なんという職人芸かっ!

「中の白い毛皮はねぇ、ヴォーパルラビットのものなの。裏返して着ることもできるのよっ! 青いほうだけだけど、帽子には耳もついていてね~」
「ふおお、しょうなんれしゅね!」
「ええ。ほら、帽子を被ってみて? この鏡で見るといいわ」
「あい!」

 キャシーさんいわく、ブルーライオンもヴォーパルラビットも、毛皮としては最高峰のひとつにあたるという。死の森にいてレベルの高い魔物だからこそ、その毛皮は極上品。
 故に防御力にも優れていて、防具を身に着けられない子どもや女性の防具の代わりにぴったりなんだとか。
 特に私は幼児だからこそ、コートを作ったらしい。
 それに、これから行く場所は更に北にある国だ。防寒は必須。
 そんな気持ちでキャシーさんが作ってくれたコートは、マジで温かい。袖と裾、フードのふちには真っ白なファーがついていて、ボタンは三つ。
 首元が寒ければ、マフラーをすればいいだろう。
 しかも、コート自体に汚れ防止の魔法がかけられているから、転んでもご飯をこぼしても、拭けば汚れが綺麗さっぱり落ちるんだって! おお、魔法、万歳!
 フードを被ったまま鏡を見ると、ライオンのまあるい耳がついている。猫耳とは違うけれど、これはこれで可愛い~!

「かわいいれしゅ! キャシーしゃん、ありあとうごじゃいましゅ!」
「うふふ♡ どういたしまして♪」
「さあ、こっちがアンタたちのよ」

 大人たちの分もしっかりと用意するキャシーさん。それぞれに渡したコートも、ダッフルコートだ。
 途中で雨が降ってきたら雨合羽の役目も果たす外套を着ることになるけれど、それでも土砂降りでなければ、雨粒をはじくようにもなっているらしい。ただし、あくまでも小雨程度の雨量なら大丈夫なだけで、本格的にはじきたいのであれば、専用の外套を着るしかないんだとか。
 今はその外套を作るために適した素材がないから作っていないが、見つけたら狩りをしたいと大人たちにお願いしていたのには笑ってしまった。
 どんな魔物が適しているのかな?
 聞いたら、出会うまで内緒と言われてしまった。残念。
 全員がコートを羽織って外に出ると、テトさんが大きくなったログハウスを亜空間にしまう。洞窟の外に出るまではキャシーさんに抱き上げられて移動だ。
 死の森を抜けるまで、あと三分の一と聞いた。どれくらいの日数で抜けるのかわからないけど、新たに鑑定できる植物があればいいな、と思った。

しおりを挟む
感想 515

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。