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死の森篇

テトしゃんとりょうりでしゅ

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 ご飯を食べたあと、セレスさんに抱き上げられたと思ったら、耳元で子守唄が聞こえてきた。当たり前だけれど、知らない曲と歌詞だからこの世界のものなんだろう。
 その優しい旋律と歌詞の子守唄に合わせて背中をゆっくりと、そして優しく叩くその手は、母親のようにとても温かい。だからこそ、とても安心する。
 たわわでマシュマロのように柔らかい、大きなお胸様の弾力と温かさも相まって、いつの間にか寝落ちていた。くうぅっ!

 起きたらセレスさんが編み物をしていた。

「あら、起きたのね」
「あい」
「じゃあ、採寸しましょうか」
「ほえ?」

 採寸? なぜに?
 よくわからないままパンツ一丁になり、全身を測られた。その後はクリーム色でフリルがついている可愛いエプロンドレスを着せられたあと、タイツや靴を履かせられてお着換え終了。
 この色の服一式はなかったはずなんだが……どこから出てきたのかな?
 どうせキャシーさんも絡んでいるんだろうしと特に気にすることなく、セレスさんと一緒に寝ていた部屋から出る。そのまま暖炉があるリビングに行ったんだが、しっかりと拡張されていた。
 しかも、キッチンスペースもさることながら、食事をするテーブルまで大きくなっていたうえ、椅子の数も増えていたのには驚く。
 仕事がはえぇな、テトさん。
 きっとセバスさんとセレスさんの部屋だけじゃなくて、キャシーさんが使う作業部屋も増えているんだろうなあ……。
 遠い目をしつつキッチンへ行くと、テトさんとセバスさんが話し合っている。漏れ聞こえる内容からすると、料理関連の道具のことのようだった。
 途中で私に気づいた二人は、私を手招きする。

「ステラ、道具が欲しいと言っていたでしょ? セバスに作ってもらうといいよ」
「おや、ステラも料理をするのですか?」
「あい。スキルをもっているでしゅ」
「なるほど。どのようなものが欲しいのですか?」
「あにょね……」

 主に私が欲しいのは、大量のプリン型やマドレーヌ型、おしゃれなグラスだ。それをバステト様がくださった実物を見せつつ、大量に欲しいと話す。
 もちろんこれは、私と一緒に来てくれると言ってくれた人たちの人数分の、三倍は欲しいとお願いしてみた。

「なるほど、お菓子を作るためのものなのですね。あとで私にも食べさせていただけますか?」
「もちろんでしゅ!」
「ふふ。楽しみにしていますね」

 本当に楽しみなようで、嬉しそうに微笑むセバスさん。その微笑みも素敵やー!
 おっと、バカなことを言ってる場合じゃない。セバスさんが外で型を作って来ると言って出ていったのを皮切りに、テトさんと一緒にお菓子作り。
 無難なのはクッキーとパウンドケーキだよね。あとはフィナンシェやマカロンくらいかな。
 アーモンドプードルってあったっけ? と鞄の中を探せば、しっかりあった。あと生クリームも入ってた。
 バステト様……用意周到すぎるでしょ。これはお礼としてお供えしないと。
 どうすればいいのかテトさんに聞いてみよう。

「テトしゃん、ばしゅてとしゃまにおれいをちたいでしゅ。どうしゅればいいでしゅか?」
「ふむ……。それなら、セバスとセレスに言って、バステト様の像を造ってもらいましょう。そこにお供えすればいいですよ」
「あい!」

 頼んできますと言って外に行ったテトさんを見送ったあと、型抜きやパウンドケーキ型、絞り袋などの道具と、それぞれのお菓子の材料を用意して量る。そうしているとテトさんが戻ってきたので、材料と一緒に作り方を説明し、どんどん混ぜていく。
 マカロンは小さめに絞り、天板に並べて表面を乾燥させている間に、パウンドケーキを型に入れたり、クッキーの型抜きをして焼いてもらった。いつの間に作ったのか、テトさん自作の大型オーブンが三台もあるんだぜ? 凄いよね~。
 そのせいでキッチンを拡張したようなものみたい。

「なるほど。お菓子によって温度も材料も違うんですね」
「しょうでしゅ。おくがふかいでしゅ」
「確かに」

 テトさんと二人して頷く。焼き上がりを待つ間にギャーギャー鳥の胸肉とヴォーパルラビットの肉を出してもらい、一口サイズに削ぎ切りにしていく。
 テトさんにも説明しているから、同じ作業をしているのだ。
 塩コショウしたら片栗粉をまぶし、茹でるだけ。さすがにそのまま放置するわけにはいかないからと、茹でる直前の状態でテトさんが亜空間にしまってくれた。
 ご飯の時間になったら、テトさんが茹でてくれるそうだ。楽しみ~!
 そうこうするうちにセバスさんが戻ってきて、作業台の上に大量のプリン型とマドレーヌ型を置いてくれる。期待しているのか、セバスさんの目がキラキラと輝いていたから、サムズアップしておいた。
 型があるなら作るっきゃないよね~。
 てなわけでマドレーヌとプリンを作ってみた。マドレーヌはシェル型と通常の丸い型、なぜか肉球型もあったよ。
 それらを駆使して大量に作ったとも。もちろんプリンもね。
 プリンはグラスのまま食べられるようになっているのと、型に入れて後に抜くタイプと両方作ってくれたセバスさん。ガラス製のものはプリン・ア・ラ・モード用に見せただけなのに、それと一緒に作ってくれたのだ。
 気遣いのできるおじさまだ~!
 バステト様の像は、テトさんが部屋を作ってから安置することに決まった。なので、お供えはもう少し先になりそう。
 パウンドケーキやクッキー、ジャムを塗ったものと、ホイップした生クリームを絞ったマカロンが出来上がる。それに続くようにマドレーヌも大量に出来上がった。
 丸い形の定番のものと、小さめに焼かれているシェル型と肉球型は、見た目も相まってとても可愛い。それはセバスさんとセレスさんもわかっているようで、顔が綻んでいる。

「では、おやつにしましょう」

 セバスさんの合図で、ティータイム。淹れてくれたのは薬草茶。
 数種類の薬草を乾燥させてブレンドしたものなんだって。
 見た目の色はジャスミンティーやカモミールティーに近く、香りは紅茶。味は多少の苦みはあるけれど、それは緑茶や紅茶に近い苦みだ。
 だけど、飲んだあとは体がぽかぽかしてきて、生姜湯を飲んだあとみたい。そしてのどごしは爽やか、スッキリ。
 なんとも不思議な薬草茶だった。
 ティータイムが終わると、大人たちはそれぞれができることを始める。まあ、主に旅の準備だね。
 とはいえ、準備をするのはセバスさんとセレスさんだけで、バトラーさんとキャシーさんは薪用の倒木を探したり、木を伐採してくると言って、森に出かけて行った。元気だなあ。
 テトさんと私は晩ご飯の用意。メインの水晶鳥と水晶兎は大量にあるし、あとはパンかご飯、サラダとスープを用意するだけだ。
 できればご飯が食べたいなあ。
 てなわけでバステト様が用意してくれた一升炊きの炊飯器を鞄から出し、米を一升洗う。だって、大人たちがどれだけ食べるかわからないんだもん!
 主食を米にしたことでスープは味噌汁にしてもらい、これまたバステト様からいただいた削り節と昆布を使って出汁を取る。昆布は細く切って佃煮に、削り節は一回乾燥させてからふりかけだな。
 実はかつおぶしとさばぶし、あごだしに煮干しもあったりする。だけど、かつおぶしは削るのが面倒だったことと、そんな時間もないし削ってあるかつおぶしがあるんだからと、削り節を使ったのだ。
 それらを説明するためにテトさんに見せたんだけど。

「……海辺の町で見たような気がします」
「ほんとれしゅか⁉」
「ええ。ここからだととても遠いし、これから冬になります。春になったら行ってみようか」
「あい!」

 おお、目撃証言! 同じものかどうかわからないけれど、ぜひそこに行ってみたい! 魚介類も買いたいしね!
 今から楽しみ~♪
 そしてテトさんだが、セバスさんがいるからなのか、若干口調が崩れてきた。
 まあ、言葉だけだけれど、キャラがかぶってるものね。
 それはともかく、ご飯に話を戻して。
 味噌汁の具はシプリとパタタが入ったもの。他にも箸休めとして浅漬けを、あとはほうれん草に似た葉っぱのお浸しとトマトサラダを用意。
 水晶鳥と水晶兎の下には、千切りしたキャベツを添えてみた。
 ご飯も炊けたし味噌汁やキャベツの準備も完了。そろそろ四人の大人たちが帰ってくるころだからと、テトさんが下準備した水晶鳥と水晶兎を茹で始める。
 その間に私はタレの用意。ペースト状にした胡麻をベースに、醤油とみじん切りにした香味野菜をたっぷり。あとは、全て茹で上がったものにかけるだけ。
 よだれ鳥とはまた違った美味しさだと思う。味がよかったら、よだれ鳥や鳥ハムも作ってみようかな。
 そうこうするうちに大人たちが帰ってきた。
 いろいろ準備して、実食!

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