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死の森篇

うえからのけしきでしゅ

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 翌朝。

「ステラちゃん、甘くて美味しいわっ!」
「ああ。上品な甘さだ」
「口の中でとろけるのもいいですね」
「じょれはよかったでしゅ!」

 朝ご飯のあとのデザートに、昨日作ったプリンを出してみた。プッチンするわけじゃないから器に入ったままカラメルをかけてもらって食べたよ!
 気に入ってくれたみたいでよかった~。
 これなら綺麗な器を買って、底にカラメルを入れて冷やせば大丈夫かも。生クリームはあったっけ? あとで確認してみよう。
 ご飯を食べたあとは支度をし、テトさんが家をしまってから出発。これから向かうのはバトラーさんたちの知り合いで、万年雪がかかっている山の中腹に住んでいるんだって。
 この湖からだと、バトラーさんたちの徒歩スピードで三時間くらいらしい。ただ、これはお天気がいい場合であって、天候が荒れるともっとかかるそうだ。
 なので、今回は人型での移動じゃなく、本来の姿で行くという。

「これからどんどん気温が低くなる。ステラは我の背におれ」
「そうね。残念ながら、ブルーライオンのコートは間に合わなかったし」
「僕も一緒に乗りますから、転げ落ちる心配もないですよ」
「あい!」

 これから斜面が急になっていくんだと。道があるのであればくねくねとしたカーブが続くんだろうけれど、ここは人や馬車が入ってこれるような場所ではない。
 なので、騎乗するか徒歩で行くかするしかないらしい。
 もっとも、こんなところまで来れるような人間はいないみたいだが。
 テトさんによって本来のデカいサイズになったバトラーさんの背に乗せられ、私のうしろにテトさんが乗る。跨るにしては大きすぎるから、乗るが正解なのだ。
 下半身が蜘蛛であるキャシーさんはそのまま地面を走るようで、バトラーさんよりも前に出て移動するみたい。それぞれが準備できたので、出発。
 最初は木々や草があったけれど、上に行くにつれてなくなり、土から岩肌になっていく。テトさんに支えられながら周囲を見渡せば、聳え立つ万年雪が積もる山と、それに連なる低い山脈が見える。
 上は白い雲が浮かぶ青空が広がり、今のところ風はそこまで強くない。とはいえ、上に行くに従って空気は薄くなるうえに風も冷たくなってきているので、キャシーさんが防寒をしっかりしとけと言ったのも頷けた。

「テトしゃん、うしろをみたいでしゅ」
<はい、どうぞ>

 下界がどうなっているのか見たくてテトさんにお願いすると、抱き上げてくれた。しっかり背後が見えるようにしてくれたテトさんにお礼を言い、これまで辿って来た場所を見下ろす。

「おおお……きれいでしゅ!」
<ふふ……それはよかった>

 嬉しいとばかりにギュッと抱きしめてくれるテトさん。不思議なことに骸骨だと感じなかった。
 テトさんの肩越しに見た眼下には広大な森が広がっている。緑が濃い部分が多いものの、遠くにある森の一部は赤や黄色に色づいていた。
 このあたりは針葉樹が多いようで緑色ばかりだけれど、ところどころで白や黄色、ピンクや赤、紫や青といった色が点在していることから、あの場所は果物が生っている木々が群生しているであろうことが伺えた。
 遠くを見渡しても果てが見えない森と、ニョキっと伸びた山。その上空を巨大な影が横切っていく。
 恐らくワイバーンやギャーギャー鳥、ズーといった飛べる魔物たちなんだろう。
 たまに森の木々が揺れて倒れぽっかりと穴が開いたのが見えるけれど、キニシナーイ。どうせベヒーモスとかキングボアとか、大型の魔物たちが暴れたあとだろうし。
 まだこの死の森でしか生活していないが、本当に綺麗な世界だと思う。飛行機から見たアメリカの広大な国立公園やブラジルの密林のように、人間たちの手が入っていない、ありのままの姿がそこに鎮座している。
 空気も、地球と比べたらいけないほどに澄んでいるし、常に森林浴をしているみたいに美味しい。そして清々しい。
 いろいろと感動していたら、無粋な影が近づいてくる。真っ赤な鳥のズーだ。
 いち早く気づいたテトさんは私を抱いたままズーのところまで行くと、片手で大鎌を振るって首を落とす。同時に亜空間にしまうという芸当を見せつけたあと、すぐにバトラーさんの背に戻った。

<ふむ……。まだステラについた称号が馴染んでいないようだな>
<そうですね。それでも、習得直後に比べたら格段に減りました>
<確かにな>

 ですよねー!
 ベヒーモスを倒して称号を習得したばかりのころ、立て続けにベヒーモスとズーに襲われた。だけど、時間が経つにつれて襲われることもなくなってきていたのだ。
 バトラーさんたちいわく、称号の効果が表れ始めているのに襲ってくる竜種は、進化することができないか、生まれたてで本能すら理解できないおバカさんらしい。そういう危険察知ができない魔物たちは淘汰され、死にゆくだけだそうだ。
 弱肉強食の世界だもんな。確かに危険察知は大事だ。
 その後、ロックワームという石を好んで食べるミミズみたいな魔物に何度か襲われたけれど、他は特になく。岩肌の合間にところどころ丈の短い草が生えた場所には、白い花が群生しているだけ。
 この白い花がエーデルワイスに似ていて、とても可愛い。その周辺では森にいなかった小さい虫や鳥がいて、なんとも長閑だった。
 ……どっちも魔物だけどね!
 そこを過ぎると、遠くに岩棚のような場所がぽつぽつと現れ、時折そこからワイバーンやズーが飛んで行くのが見える。なるほど、あの穴が巣になっているのか。
 隠れられる森がないから襲われ放題なはずなんだけど、そんな素振りも見えないのはなんでだろう?
 聞いたら、隠匿という魔法をかけ、見つからないようにしているんだとか。

「いちいち戦闘するのも面倒なのよね」
<そうだな。特にこの場所は小さきものが多いし>
<大多数で来られると厄介ですしね>
「にゃるほろ」

 小さきものとは、さっき見た虫と鳥のことなんだって。あとはヘビがいるそうだ。
 彼らは小さいが故に、餌となり得る魔物を集団で襲うんだそうだ。それこそ、周囲が真っ黒になるほど集まって。
 ……某台所の黒い悪魔を想像したら鳥肌がたってしまった。
 彼らは知能が低いから、神獣だろうとお構いなしに襲うから面倒らしい。
 そんな話をしているうちに、中腹に辿り着く。そこはとても大きな穴がぽっかりと開いていて、奥は真っ暗で見えない。

「到着よ。おーい! いるかしらー!」

 キャシーさんが穴に向かって声をかけている間に、私はバトラーさんの背中からテトさんに降ろされた。そしてテトさんとバトラーさんが人型になり、バトラーさんが私を抱き上げる。

「ステラ、寒くないか?」
「ちょっとしゃむいでしゅ」
「あと少しで温かいところにいけますから、我慢してください」
「あい」

 もちろん待つとも。
 抱き上げられたまま周囲を見回していると、穴の奥からドシン、ドシンと音がし始める。そこに現れたのは、ベヒーモスやズーなんか目じゃない、とっても大きい影が見え始めた。

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