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死の森篇
でかいにもほどがあるでしゅ
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あれから二日たち、小さな山を四つ越えた。
え? 計算が合わないって?
歩くというか、走るスピードが尋常じゃねーんだよ、大人たちは! 私はバトラーさんの背中やテトさんとキャシーさんに抱き上げられた状態での移動だったので、まーーーったく疲れていない。
それでも時々地面に下ろしてもらい、キノコやベリー系と思われる果物、薬草を採取させてもらっていた。別の山に入るたびに、植生が違うんだもの。つい採取しちゃうよね!
キノコ類もいろいろあって面白いんだけど、中には食べられないものもあるわけで。以前テトさんにも教わったけど、そういうものは薬や冒険者が使う虫除けと攻撃の手段になったりするんだって。
なので、採取しないということはない。
毒と薬は紙一重だもんな。納得。
「そろそろ着くぞ」
「ステラはマフラーと手袋をしなさい」
「あい!」
これから向かうのは、国境手前にある万年雪がかかっている山だ。ここに出る魔物は手前からエンペラージャイアントボア、エンペラーブラックベア、エンペラーブラックホーンディアが出る。そこにエンペラーヴォーパルラビットとエンペラースライムが交じる。
そこを抜けるとエンペラーギャーギャー鳥とベヒーモス、エンペラーバイパーという20メートル越えのヘビが出るそうだ。特に竜種であるベヒーモスは体長が軽く25メートルを越え、怒ると熊のように立ち上がって威嚇するらしい。
想像したのは、某最後の幻想のベヒーモス。あれみたいに、胸筋が凄いことになっているんだろうか……。
ま、まあ、神獣が三人もいるわけだし、そう簡単にやられることはないでしょ。
他にもズーという鳥型のドラゴンが出たり、エンシェントトレントが出たり。あとはズーに交じってドラゴンが出たりするそうだ。
なんともおっかない山だね。
この山自体は北寄りにあって、ここを越え、森をふたつと山をひとつ越えると、バトラーさんが言っていた国になるという。隣国というには遠すぎて……最早それは隣国とは言わないんじゃないかと思った。
ちなみに、山を越えた森も死の森の一部だそうで、山に近いところにある森の奥は、レベル400を超える魔物が闊歩しているんだって。マジで広大で恐ろしいところなんだと実感した。
そんな説明を受けている時、スライムと兎、ボアに襲われる。さすがエンペラーの名を冠しているだけあり、今まで見た同種の魔物よりも大きい。
とはいえスライムを見るのは初めてなので、ついじっくりと観察してしまった。
見た目は水まんじゅうのような色合いの半円形で、透き通っている。中心には赤くて角ばっているものと、黒くて丸いもののふたつあった。黒いほうは核なので、これを壊すとスライムは死ぬという。
言うまでもなく、赤いのは魔石。
スライムの大きさは公園にあるジャングルジムくらいはあるだろうか。目と口はないけれど、にゅっと触手を伸ばして攻撃してきたり、そこの先端から液体を吐き出しているから、それが口の役割をしているのかもしれない。
ヴォーパルラビットも二回りほどデカいし、ボアも本来の大きさのバトラーさんに匹敵するくらいはある。とはいえ、大人たち三人からしたら雑魚同然なわけで、瞬きひとつしている間に戦闘が終わっていた。
「スライムゼリーがあるのは嬉しいわね」
「にゃににちゅかうでしゅか?」
「布と木材を繋げる糊ね。もちろん金属や革もくっつけられるの。糊を塗ったうえでアタシの糸で縫い付けると、とても丈夫になって長持ちするのよ」
「へ~! しゅごい!」
「あとは肥料だな。このまま森に放置しておけば、木々や薬草の栄養となる」
「にゃるほど!」
ラノベで見たような話が聞けたよ!
「たべたりできないでしゅか?」
「そうれはどうだろうな」
「僕も聞いたことはないですね」
「アタシも」
「じっけんしてみたいでしゅ。しゅこしもらってもいいれしゅか?」
「いいぞ」
やったね!
鑑定さんによると、ゼリー部分は可食と出ているんだよね。ラノベにはあるあるな話だけど、濃度を確認してゼリーを作ってみたい。
バステト様から粉寒天やゼラチンをいただいているけれど、いつまでも頼ってばかりはいられない。なので、できるだけ現地の食材を使って料理してみたいのだ。
お昼だとどうしても眠くなってしまうから、夜にでも実験してみよう。
倒した魔物をバトラーさんが解体し、食材となるものはテトさん、毛皮などはキャシーさんに渡される。私が所望したスライムゼリーは、キャシーさんが持つことになった。
あとで必要な量を言ってくれれば出してくれるんだって。
それは助かる。
その後も二度ほど同じ魔物に襲われ、さくっと倒して処理する大人たち。スライムゼリーは売っても二束三文にしかならないほどくっそ安い素材だそうなので、五匹ほど確保したあとは周囲にばら撒いていた。
スライムってどこにでもいて、村や町周辺にも出るスライムは子どもでも倒すことができるほど弱い魔物なんだって。しかもGやネズミ算的に増えるから、見つけたら倒すことが推奨されているらしい。
核を狙えばそこらへんに落ちている棒きれでも倒すことができることから、冒険者を目指す子どもたちは真っ先にスライムを倒して経験値を貯めていくらしい。登録できるころになると、ホーンラビットを倒せるくらいの強さを身に着けているから。
もちろん戦闘訓練は必要だけれど、そこは冒険者ギルドがしっかりと指導するそうだから、町から出たあともきちんと対処できるようになっているんだとか。
とはいえ、そこで増長してランク外の場所に行き、命を落とす新人もいるから、一度も負けたことがない子には大人たちにこてんぱんにやられ、魔物にもやられということをするらしい。
命を長らえさせるためとはいえ……えげつねえ!
そんなことを教えてもらっている間に、そこそこひらけている場所に着く。
「ここでお昼にしよう」
「薪は大丈夫か?」
「ええ。お昼分くらいなら問題ないですね」
「なら、出来上がるまで夜と翌朝の分の薪を集めてこよう。ステラはテトの手伝いをしていろ。スティーブ、行こう」
「あい!」
「わかったわ」
バトラーさんとキャシーさんが森の中へと入っていく。魔物がデカいものばかりだから、危険だもんね。
さっさと竈と作業台を用意し、テトさんと一緒に作業する。焚火を用意してその中に魔物除けの香草を入れたテトさんが、何を作ろうかと悩んでいる。
「スープはひちゅようでしゅよね」
「そうですね。あとはパンと肉、サラダくらいでしょうか」
「なら、おにくとやさいをパンにはしゃんだらろうでしゅか?」
「それはいいですね! では、僕が肉を焼きますから、ステラはサラートを手でちぎってください」
「あい! ラトマとチーズもひちゅようでしゅか?」
「そうですね……お願いしても?」
「もちろんでしゅ!」
サンドイッチもどきを提案したら通ったので、材料を準備。チーズはとけないやつでいいか。それをテトさんに渡すと、交換とばかりにサラートとラトマを渡される。
ちなみに、サラートはレタス、ラトマはトマトのこと。どっちも死の森に生っていたものだ。
ラトマはフルーツトマトのように甘いんだぜ~? 肉やパンと一緒に食べたら絶対に美味しいはず!
今度BLTサンドを提案してみよう。
そんなこんなでかなりの量のサンドイッチもどきを用意しつつ、スープも作る。スープは野菜をたっぷり使ったものだ。
各自のお皿に載せているとバトラーさんとキャシーさんが帰ってきて、そのまま結界を張ってくれる。魔物除けが焚かれているとはいえ、食べている間は無防備になるからね。
あ、料理中はテトさんが結界を張ってくれていたから、のほほんとしてられた。
テトさんが全員に全身を綺麗にする魔法を使い、ご飯。お肉は残っていたギャーギャー鳥を使ったのか、チキンサンドみたいになっている。
照り焼き味じゃないけど、ハーブ塩を使っているのかとても美味しい!
ご飯を食べたあとはお茶をしてお腹を落ち着かせる。それが終わると私はおねむタイムだし、大人たちは出発準備だ。
「おやすみ、ステラ」
いつもの如くバトラーさんの背中トントン攻撃に撃沈され、あっさりと寝こけた。
*******
お知らせです。
いつも「転移先は薬師が少ない世界でした」をお読みいただき、ありがとうございます。
現在、「転移先は薬師が少ない世界でした」四巻の書籍化企画が進行しております。
詳しくは近況ボードにて。
え? 計算が合わないって?
歩くというか、走るスピードが尋常じゃねーんだよ、大人たちは! 私はバトラーさんの背中やテトさんとキャシーさんに抱き上げられた状態での移動だったので、まーーーったく疲れていない。
それでも時々地面に下ろしてもらい、キノコやベリー系と思われる果物、薬草を採取させてもらっていた。別の山に入るたびに、植生が違うんだもの。つい採取しちゃうよね!
キノコ類もいろいろあって面白いんだけど、中には食べられないものもあるわけで。以前テトさんにも教わったけど、そういうものは薬や冒険者が使う虫除けと攻撃の手段になったりするんだって。
なので、採取しないということはない。
毒と薬は紙一重だもんな。納得。
「そろそろ着くぞ」
「ステラはマフラーと手袋をしなさい」
「あい!」
これから向かうのは、国境手前にある万年雪がかかっている山だ。ここに出る魔物は手前からエンペラージャイアントボア、エンペラーブラックベア、エンペラーブラックホーンディアが出る。そこにエンペラーヴォーパルラビットとエンペラースライムが交じる。
そこを抜けるとエンペラーギャーギャー鳥とベヒーモス、エンペラーバイパーという20メートル越えのヘビが出るそうだ。特に竜種であるベヒーモスは体長が軽く25メートルを越え、怒ると熊のように立ち上がって威嚇するらしい。
想像したのは、某最後の幻想のベヒーモス。あれみたいに、胸筋が凄いことになっているんだろうか……。
ま、まあ、神獣が三人もいるわけだし、そう簡単にやられることはないでしょ。
他にもズーという鳥型のドラゴンが出たり、エンシェントトレントが出たり。あとはズーに交じってドラゴンが出たりするそうだ。
なんともおっかない山だね。
この山自体は北寄りにあって、ここを越え、森をふたつと山をひとつ越えると、バトラーさんが言っていた国になるという。隣国というには遠すぎて……最早それは隣国とは言わないんじゃないかと思った。
ちなみに、山を越えた森も死の森の一部だそうで、山に近いところにある森の奥は、レベル400を超える魔物が闊歩しているんだって。マジで広大で恐ろしいところなんだと実感した。
そんな説明を受けている時、スライムと兎、ボアに襲われる。さすがエンペラーの名を冠しているだけあり、今まで見た同種の魔物よりも大きい。
とはいえスライムを見るのは初めてなので、ついじっくりと観察してしまった。
見た目は水まんじゅうのような色合いの半円形で、透き通っている。中心には赤くて角ばっているものと、黒くて丸いもののふたつあった。黒いほうは核なので、これを壊すとスライムは死ぬという。
言うまでもなく、赤いのは魔石。
スライムの大きさは公園にあるジャングルジムくらいはあるだろうか。目と口はないけれど、にゅっと触手を伸ばして攻撃してきたり、そこの先端から液体を吐き出しているから、それが口の役割をしているのかもしれない。
ヴォーパルラビットも二回りほどデカいし、ボアも本来の大きさのバトラーさんに匹敵するくらいはある。とはいえ、大人たち三人からしたら雑魚同然なわけで、瞬きひとつしている間に戦闘が終わっていた。
「スライムゼリーがあるのは嬉しいわね」
「にゃににちゅかうでしゅか?」
「布と木材を繋げる糊ね。もちろん金属や革もくっつけられるの。糊を塗ったうえでアタシの糸で縫い付けると、とても丈夫になって長持ちするのよ」
「へ~! しゅごい!」
「あとは肥料だな。このまま森に放置しておけば、木々や薬草の栄養となる」
「にゃるほど!」
ラノベで見たような話が聞けたよ!
「たべたりできないでしゅか?」
「そうれはどうだろうな」
「僕も聞いたことはないですね」
「アタシも」
「じっけんしてみたいでしゅ。しゅこしもらってもいいれしゅか?」
「いいぞ」
やったね!
鑑定さんによると、ゼリー部分は可食と出ているんだよね。ラノベにはあるあるな話だけど、濃度を確認してゼリーを作ってみたい。
バステト様から粉寒天やゼラチンをいただいているけれど、いつまでも頼ってばかりはいられない。なので、できるだけ現地の食材を使って料理してみたいのだ。
お昼だとどうしても眠くなってしまうから、夜にでも実験してみよう。
倒した魔物をバトラーさんが解体し、食材となるものはテトさん、毛皮などはキャシーさんに渡される。私が所望したスライムゼリーは、キャシーさんが持つことになった。
あとで必要な量を言ってくれれば出してくれるんだって。
それは助かる。
その後も二度ほど同じ魔物に襲われ、さくっと倒して処理する大人たち。スライムゼリーは売っても二束三文にしかならないほどくっそ安い素材だそうなので、五匹ほど確保したあとは周囲にばら撒いていた。
スライムってどこにでもいて、村や町周辺にも出るスライムは子どもでも倒すことができるほど弱い魔物なんだって。しかもGやネズミ算的に増えるから、見つけたら倒すことが推奨されているらしい。
核を狙えばそこらへんに落ちている棒きれでも倒すことができることから、冒険者を目指す子どもたちは真っ先にスライムを倒して経験値を貯めていくらしい。登録できるころになると、ホーンラビットを倒せるくらいの強さを身に着けているから。
もちろん戦闘訓練は必要だけれど、そこは冒険者ギルドがしっかりと指導するそうだから、町から出たあともきちんと対処できるようになっているんだとか。
とはいえ、そこで増長してランク外の場所に行き、命を落とす新人もいるから、一度も負けたことがない子には大人たちにこてんぱんにやられ、魔物にもやられということをするらしい。
命を長らえさせるためとはいえ……えげつねえ!
そんなことを教えてもらっている間に、そこそこひらけている場所に着く。
「ここでお昼にしよう」
「薪は大丈夫か?」
「ええ。お昼分くらいなら問題ないですね」
「なら、出来上がるまで夜と翌朝の分の薪を集めてこよう。ステラはテトの手伝いをしていろ。スティーブ、行こう」
「あい!」
「わかったわ」
バトラーさんとキャシーさんが森の中へと入っていく。魔物がデカいものばかりだから、危険だもんね。
さっさと竈と作業台を用意し、テトさんと一緒に作業する。焚火を用意してその中に魔物除けの香草を入れたテトさんが、何を作ろうかと悩んでいる。
「スープはひちゅようでしゅよね」
「そうですね。あとはパンと肉、サラダくらいでしょうか」
「なら、おにくとやさいをパンにはしゃんだらろうでしゅか?」
「それはいいですね! では、僕が肉を焼きますから、ステラはサラートを手でちぎってください」
「あい! ラトマとチーズもひちゅようでしゅか?」
「そうですね……お願いしても?」
「もちろんでしゅ!」
サンドイッチもどきを提案したら通ったので、材料を準備。チーズはとけないやつでいいか。それをテトさんに渡すと、交換とばかりにサラートとラトマを渡される。
ちなみに、サラートはレタス、ラトマはトマトのこと。どっちも死の森に生っていたものだ。
ラトマはフルーツトマトのように甘いんだぜ~? 肉やパンと一緒に食べたら絶対に美味しいはず!
今度BLTサンドを提案してみよう。
そんなこんなでかなりの量のサンドイッチもどきを用意しつつ、スープも作る。スープは野菜をたっぷり使ったものだ。
各自のお皿に載せているとバトラーさんとキャシーさんが帰ってきて、そのまま結界を張ってくれる。魔物除けが焚かれているとはいえ、食べている間は無防備になるからね。
あ、料理中はテトさんが結界を張ってくれていたから、のほほんとしてられた。
テトさんが全員に全身を綺麗にする魔法を使い、ご飯。お肉は残っていたギャーギャー鳥を使ったのか、チキンサンドみたいになっている。
照り焼き味じゃないけど、ハーブ塩を使っているのかとても美味しい!
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いつもの如くバトラーさんの背中トントン攻撃に撃沈され、あっさりと寝こけた。
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