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死の森篇

たくしゃんのまものでしゅ

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 起きたら平坦な道になっており、両サイドは森だった。あれ? 寝る前は緩やかな上り坂だったはずなのに……。
 私が寝ている間に、本気で歩いたか走ったりしたのかもしれない。

「あら、起きたのね、ステラちゃん」
「あい。おあようごじゃいましゅ」
「はい、おはよう」
「いまろのあたりれしゅか?」
「ちょうど一山越えて、これからふたつ目に行くところよ」
「は……?」

 な ん だ そ れ は !
 思わずキャシーさんの肩越しにうしろを見ると、確かに山を越えていた。どんだけのスピードで移動したんだよ!

「ステラが寝ている間に距離を稼ごうと思ってな」
「ステラちゃんが鑑定できるような魔物もいなかったしねぇ」
「にゃるほろ~」

 戦闘するたびに鑑定させてもらってたしね。全部鑑定してしまったのであれば、幼児を連れている大人たちとしてはさっさと森を抜けてしまいたかったんだろう。
 しょっちゅう幼児に青い血を見せたいとは思わないよね。私なら見せたくないわ。
 特に毒を持っている魔虫が多かったから、余計だろう。
 彼らと話をしていても、キャシーさん以外は人型なのに、歩くスピードは速い。魔物も結構な頻度で襲ってくるから、鑑定さんの仕事が大変だ。
 そのうち、鑑定さん自身がAIのように意思を持ち、勝手に鑑定して私に教えてくれたりして。
 それはないか。
 今いる森は、死の森の中でも最深部と呼ばれているもので、中心部とはまた違った魔物がでるという。特にこのあたりに多いのは熊とイノシシ、狼とトラ。あと、ライオン。
 なぜにライオン?

「肉も美味しいですが、素材もいいものが多いのです」
「特に毛皮は人族の王侯貴族に人気なのよね」
「おおぅ……」

 ライオンの肉……食えるのか……。さすが異世界、なんでもアリだな!
 そうこうするうちに、魔物が三体襲ってきた。見た目は4メートルくらいの大きさのオスライオンだけど、色はブルー。ブルーライオンと呼ばれる魔物で、上下の牙が少しだけ長く、口からはみ出している。
 鑑定によると、レベルは700ちょい。かなり高い。
 それでもこのメンバーだと雑魚扱いなんだよね……。サクッと倒して解体したバトラーさん。

「きれいなあおでしゅね」
「だろう? 胴体はコートにしたり、敷物にしたりする貴族がいる」
たてがみも、糸状にしてから布を織ることもできるのよ」
「尻尾の先についているふさふさは、カーテンを留めるものに使われることもある」
「ほえ~」

 いろいろ有効活用できるってことか。まあ、デカいもんね、ブルーライオンは。

「防寒にも向いているから、あとで鬣でステラちゃんにコートを作ってあげるわね」
「いいんでしゅか?」
「ええ。このあたりにはたくさん出るもの。期待してて♡」
「あい!」

 鬣で作ったコートかあ。異世界ならではだよね。
 どんなコートを作ってくれるのか、今から楽しみ!
 なんて話をしている間にも、ブルーライオンが襲ってくる。それに交じってキングビッグボアとキングブラックベオウルフとキングヘルハウンドという狼種、ティグラキというサバ柄の魔トラが出現。
 どれも死の森にしかいない魔物たちだそうだ。
 かろうじて下位のヘルハウンドが魔の森の奥で出ることもあるけれど、中心部に行かないといないし、そこまで行けるような冒険者はそんなにいないので、討伐数が少ないらしい。
 人間たちにとって、それだけ危険な森ってことだ。
 中でも、見た目は真っ白なウサギなのに、性格が獰猛で凶悪なものまで交じってきて驚く。

「おや、珍しいですね。ここでヴォーパルラビットが出るとは」
「ぼーぱるらびっちょ?」

 耳ではヴォーパルラビットと聞こえるのに、幼児の舌!

「そうよぉ。とぉっても危険な、首狩り兎なの」
「くびかりーーー!?」

 それは怖いんだけど!
 真っ白い躰と赤い目、長い耳。それだけ見れば可愛いよ?
 だけど、後ろ足だけで立ち上がった体高は一メートルを超えてるし、目は吊り上がっている。口にはギザギザの歯が見えていて、まるでサメの歯みたい。
 それに、手足の爪は長く、ナイフのように鋭い。前脚を振った先に葉っぱがあったんだけれど、それがスパッと綺麗に切れたのだ。
 こ、こわーー!

「ヴォーパルラビットは毛皮も有用だし、尻尾は幸運のお守りとして人気だし、肉も美味しいのよねぇ……」
「スティーブ、首だけ狙え」
「もちろんよ! ステラちゃんのコートとブーツを作るわ!」

 じゅるり、とキャシーさんの声が聞こえたような気がした瞬間、周囲にいた五羽のヴォーパルラビットの首が飛んだ。ひ、ひえぇぇぇ!

「しゅ、しゅごいれしゅ、キャシーしゃん!」
「ふふ、ありがとう。あと五羽も出てくれば、全員のコートとブーツを作れるわ」
「それはあとでもいいが、奴らの土産はどうする?」
「どうにでもなるんじゃない? これまでいっぱい狩ったしねぇ」
「確かに。なら、奴らに選ばせるか」

 物騒な話をサラッと流したよ、こいつら。さすが神獣!
 土産とか奴らとか気になる単語はあるけれど、今はお口チャックしておこう。
 そうこうするうちにふたつ目の山の麓まで辿り着く。時間的にはまだ余裕はあるけれど、すぐに日が暮れるというので、今日はここで夜を明かすそうだ。
 テトさんが進化したログハウスを出している間に、バトラーさんとキャシーさんと一緒に倒木集め。その途中で例の不思議植物を見つけて、バトラーさんが全部刈り取っていた。

「ステラを見たら、恐らく一緒に来るというだろうからな」
「だれがれしゅか?」
「これから会う奴らが」
「ほえ~」

 なるほど、そんな人がいるのか。というか、大人三人の口ぶりからして知り合いか友人で、神獣なんじゃなかろうか。こんなに短い期間で、どれだけの神獣に会えばいいんだろうね……。
 思わず遠い目になったけれど、仕方がない。高ランク冒険者ですら入ってこれないような場所にいるらしいから。
 どんな人たちだろうなあ……なんて考えていたら、「ギエェェーー!」と空から声がした。上を見上げると、とっても大きな影。
 なんだろう……恐竜図鑑で見たプテラノドンみたいな影で、尻尾が長い。

「スティーブには無理な高さか。どれ、我が行く」
「お願いね」
「あい?」

 ニコニコしながら手を振るキャシーさんに、予備動作なしに軽~く飛び上がったバトラーさん。あっという間にプテラノドンみたいな奴のところまで飛び上がると、剣で斬りつけた。
 それと同時に皮一枚で繋がった状態で首が切れ、呆気なく青い血を撒き散らす。

「まものなんれしゅね」
「そうよ。あれはワイバーンというの。ドラゴンのなりそこない、かしらね」
「ワイバーン……」

 あれがワイバーンか!
 そうこうするうちにバトラーさんが戻ってきたので、全体像を見せてもらう。体長は十メートルを軽く超え、顔はドラゴンのように細長く、牙がある。角はない。
 翼の部分はコウモリのようになっていて、その先端に鉤爪がついていた。胴体は太く長い。そこから尻尾に繋がっていて、尻尾の先端は華道で使う剣山みたいにとげとげがついていた。

「ステラ、棘に触るなよ? そこには毒があるからな」
「あい!」

 さ、触ろうとしなくてよかった! ファンタジーあるあるで、やっぱり毒があるんだね。
 ワイバーンは捨てるところがほぼないそうだ。捨てるとすれば血と腸だけ。肝臓や心臓は薬の材料になり、毒も一部は薬の材料になるという。もちろん、矢じりに塗って狩りをする場合もあるし、犯罪に使われる場合もあるらしい。
 お肉も美味しいんだって。
 ……ほんと、なんでもアリだな、異世界。
 バトラーさんが一瞬で解体したので、また倒木集めをする。他にもキノコや果物、野生の野菜と野草を見つけたので採取した。
 もう一度ワイバーンに襲われたけれどバトラーさんが呆気なく倒し、ログハウスに戻ったのだった。

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