26 / 29
現代篇
フォーチュンリング 1
しおりを挟む
食後の夜の稽古も終わった、夜九時過ぎ。
「君は、生まれ変わりというものを信じるか?」
ゆっくり歩きながら話す中村先輩にそう聞かれて、中村先輩を見上げる。
『さっきの約束覚えてるか?』
そう言われたけど私には何のことかさっぱりわからなくて首を傾げたら、夜の稽古が終わったら話がしたいと言われたのだ。だから『祖父とお弟子さんたちの稽古が終わったあとなら』と言えば中村先輩はそれでいいと頷き、その終了を見計らって声をかけて来た。
せめて道着を着替えたいからと言って、二十分後の待ち合わせをして今に至る。
(てっきり剣道の話かと思ってたんだけど……)
どうやら違うようだと思いながら首を傾げる。
「いきなりどうしたんですか?」
「いきなり、か。まぁ、普通の反応だよな」
庭に差し掛かった所で、中村先輩がホタルブクロを見つけ、立ち止まる。
私が見つけたのとは違う茎。だけど、ホタルが入って淡く光っているのは同じ、ホタルブクロを。
「君は……奈都姫様は、『ホタルブクロが光って、手を引かれてこちらに来た』……そう言ったんだ」
「……え?」
くるりと私に身体を向けてそう呟かれた。それに固まってまた中村先輩を見上げる。
そして気づいた。あの時と……キスをした時の『宗重さん』と同じ眼差しに。
(……え?)
どうして中村先輩がそんな顔をしているんだろう? それに、どうして知ってるんだろう……夢だと思っている、やっと夢に思えてきた話のことを。
「居合いも見事だった」
「あ、の……?」
彼は一体何の話をしているんだろう? そう思っていると、一歩、中村先輩が寄った。
「猫に引っ掻かれて傷を作って……。俺が……拙者が手当てをすると言ったのに拒絶された」
そしてまた一歩、中村先輩が寄ってくる。
彼の言葉に驚愕で目を見開いたまま、彼を見つめる。
(誰にも言ってないないのに……夢だと思ってたのに、何で知ってるの?!)
そのことに、とても混乱する。
「君が安東殿に組み敷かれていた時は、怒りで安東殿を殺そうかと思った」
そして、また一歩。
「姫様に騙され、あのような言葉を吐いてしまったが……この三百年、そなたを想って……そなたを探して――」
そして最後はギュッと抱きしめられた。
「――やっと見つけた」
「え……」
どうして抱きしめられたのかわからなくて顔をあげると、愛おしそうな、切な気な顔が目の前にあった。
(ななななな……っ)
内心わたわたしていたけど、ふと、中村先輩の姿が宮本武蔵のような髷をゆった宗重さんと重なった。
「む……ね、しげ、さん……?」
驚いてそう呟いた時、更にギュッと抱きしめられた。
「火乃香……っ。やっと、やっと見つけた……っ!」
そして耳元でそう囁かれた。
どうして生まれ変わりを信じるかって聞いたのか、そこでわかった……わかってしまった。中村先輩は宗重さんの生まれ変わりなんだって。
そう理解したら、涙が溢れてしまった。
『ああ……火乃香……! ならば、そなたに約束をしよう』
『約束……?』
『そう、約束でござる。もし引き離されても、いつかまた逢えるように……拙者が必ずそなたを見つけられるように……』
あの時宗重さんは、そう言ってくれた。そしてまたあの時と同じ様に、低い声が囁く。
「約束したであろう? 引き離されても、必ず見つけられるように、と」
更に低い声で、耳元に囁かれて、余計に涙が溢れてくる。
「瀬を早み
岩にせかるる
滝川の」
(本当に……宗重さん、だ……っ)
やっぱり夢じゃなかった。こんなにも好きで……口では誰が好きでもいいと言いながらも諦められなかった人が、今ここにいる。
「「……われてもすゑに
あわむとぞ思ふ」」
声が震えてしまう。二度と逢えないと思っていた、愛しい人――。
ポロポロと泣きじゃくる私に、キスを落とす中村先輩――宗重さん。
額に、目尻に、頬に、鼻先に……そして、唇に。
あの時と同じ様に、徐々にキスを深まっていく。
あまりにも気持ちよくて膝から力が抜け、宗重はさんはくずおれないように抱いていた私の腰を、グッと彼のほうに引き寄せた。
「おっと、すまん、本気で貪るとこだった」
そんなことを言った宗重さんがニヤリと笑う。
(――なななななっ!)
そんな顔は、やっぱり過去の彼を思いおこさせるもので、宗重さんの生まれ代わりなんだと信じることができた。
真っ赤になりながらもふと、そういえば、と思う。
「あの、中村先輩……」
「名前でよんでくれ、火乃香」
「うっ……。そ、その……宗重さん」
「ん?」
「私は貴方の愛しい奈都姫じゃありませんけど……いいんですか?」
そう聞くと、宗重さんは私を抱き締めたままガクーッと項垂れた。なんでそんなにがっかりしているんだろう?
「うう……そこから話さなきゃならんのかよ……」
「はい?」
意味不明とばかりに、真っ赤な顔をしながらも涙を浮かべて首をかしげた私が「くしゅん」とくしゃみをしたので、宗重さんは「夏とは言え夜は冷えるから」と言って、家に入るよう促してくれた。
「君は、生まれ変わりというものを信じるか?」
ゆっくり歩きながら話す中村先輩にそう聞かれて、中村先輩を見上げる。
『さっきの約束覚えてるか?』
そう言われたけど私には何のことかさっぱりわからなくて首を傾げたら、夜の稽古が終わったら話がしたいと言われたのだ。だから『祖父とお弟子さんたちの稽古が終わったあとなら』と言えば中村先輩はそれでいいと頷き、その終了を見計らって声をかけて来た。
せめて道着を着替えたいからと言って、二十分後の待ち合わせをして今に至る。
(てっきり剣道の話かと思ってたんだけど……)
どうやら違うようだと思いながら首を傾げる。
「いきなりどうしたんですか?」
「いきなり、か。まぁ、普通の反応だよな」
庭に差し掛かった所で、中村先輩がホタルブクロを見つけ、立ち止まる。
私が見つけたのとは違う茎。だけど、ホタルが入って淡く光っているのは同じ、ホタルブクロを。
「君は……奈都姫様は、『ホタルブクロが光って、手を引かれてこちらに来た』……そう言ったんだ」
「……え?」
くるりと私に身体を向けてそう呟かれた。それに固まってまた中村先輩を見上げる。
そして気づいた。あの時と……キスをした時の『宗重さん』と同じ眼差しに。
(……え?)
どうして中村先輩がそんな顔をしているんだろう? それに、どうして知ってるんだろう……夢だと思っている、やっと夢に思えてきた話のことを。
「居合いも見事だった」
「あ、の……?」
彼は一体何の話をしているんだろう? そう思っていると、一歩、中村先輩が寄った。
「猫に引っ掻かれて傷を作って……。俺が……拙者が手当てをすると言ったのに拒絶された」
そしてまた一歩、中村先輩が寄ってくる。
彼の言葉に驚愕で目を見開いたまま、彼を見つめる。
(誰にも言ってないないのに……夢だと思ってたのに、何で知ってるの?!)
そのことに、とても混乱する。
「君が安東殿に組み敷かれていた時は、怒りで安東殿を殺そうかと思った」
そして、また一歩。
「姫様に騙され、あのような言葉を吐いてしまったが……この三百年、そなたを想って……そなたを探して――」
そして最後はギュッと抱きしめられた。
「――やっと見つけた」
「え……」
どうして抱きしめられたのかわからなくて顔をあげると、愛おしそうな、切な気な顔が目の前にあった。
(ななななな……っ)
内心わたわたしていたけど、ふと、中村先輩の姿が宮本武蔵のような髷をゆった宗重さんと重なった。
「む……ね、しげ、さん……?」
驚いてそう呟いた時、更にギュッと抱きしめられた。
「火乃香……っ。やっと、やっと見つけた……っ!」
そして耳元でそう囁かれた。
どうして生まれ変わりを信じるかって聞いたのか、そこでわかった……わかってしまった。中村先輩は宗重さんの生まれ変わりなんだって。
そう理解したら、涙が溢れてしまった。
『ああ……火乃香……! ならば、そなたに約束をしよう』
『約束……?』
『そう、約束でござる。もし引き離されても、いつかまた逢えるように……拙者が必ずそなたを見つけられるように……』
あの時宗重さんは、そう言ってくれた。そしてまたあの時と同じ様に、低い声が囁く。
「約束したであろう? 引き離されても、必ず見つけられるように、と」
更に低い声で、耳元に囁かれて、余計に涙が溢れてくる。
「瀬を早み
岩にせかるる
滝川の」
(本当に……宗重さん、だ……っ)
やっぱり夢じゃなかった。こんなにも好きで……口では誰が好きでもいいと言いながらも諦められなかった人が、今ここにいる。
「「……われてもすゑに
あわむとぞ思ふ」」
声が震えてしまう。二度と逢えないと思っていた、愛しい人――。
ポロポロと泣きじゃくる私に、キスを落とす中村先輩――宗重さん。
額に、目尻に、頬に、鼻先に……そして、唇に。
あの時と同じ様に、徐々にキスを深まっていく。
あまりにも気持ちよくて膝から力が抜け、宗重はさんはくずおれないように抱いていた私の腰を、グッと彼のほうに引き寄せた。
「おっと、すまん、本気で貪るとこだった」
そんなことを言った宗重さんがニヤリと笑う。
(――なななななっ!)
そんな顔は、やっぱり過去の彼を思いおこさせるもので、宗重さんの生まれ代わりなんだと信じることができた。
真っ赤になりながらもふと、そういえば、と思う。
「あの、中村先輩……」
「名前でよんでくれ、火乃香」
「うっ……。そ、その……宗重さん」
「ん?」
「私は貴方の愛しい奈都姫じゃありませんけど……いいんですか?」
そう聞くと、宗重さんは私を抱き締めたままガクーッと項垂れた。なんでそんなにがっかりしているんだろう?
「うう……そこから話さなきゃならんのかよ……」
「はい?」
意味不明とばかりに、真っ赤な顔をしながらも涙を浮かべて首をかしげた私が「くしゅん」とくしゃみをしたので、宗重さんは「夏とは言え夜は冷えるから」と言って、家に入るよう促してくれた。
0
あなたにおすすめの小説
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる