フォーチュンリング

饕餮

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過去篇

始まりは過去 肆

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 家族が事故に遭い、祖父母が本人かどうか遺体を確認しに行ってる間、その寂しさや哀しさを紛らわせるために庭で母の好きだったホタルブクロを見ていたら、急に強く光ったこと。
 光るホタルブクロから女性が助けを求める声が聞こえ、私の手をぐっと引いたこと。
 そして手を引いた女の人が、この姿だったこと。
 気付いたらここにいて、それは昨日の夜だったこと。
 銀の長い髪で紅い目の女は私自身で、それが本来の姿であることを最後に告げるとかなり驚かれた。
 まあ、銀髪に赤い目なんて、この時代の人からしたら妖怪とか物の怪の類だよねぇ……と内心溜息をついた。

「そなた自身であると?」
「はい。何て言うか……。うーん……簡単に言えば、病気、なんです」
「病気? やまいということか?」
「はい。……人にうつることはない代わりに、治ることもなく、治すこともできない病なんです」
「ふむ……? 病ならよほどのことがない限り、薬湯や湯治で治るのではないのか?」
「まあ……普通はそうですね。でも、この病は何ていうか……」

 どう説明していいかわかんなくて、そこて言葉を切る。確かに病気の類ではある、この時代よりも進んだ文明にいた私にとっては。だけど。

(『遺伝子疾患』って言っても絶対にわからないよね……)

 遺伝子疾患なんて言葉はこの時代にはない言葉だから、説明がとても難しいのだ。

「口で説明したところで、宗重さんにはわかってはもらえないと思いますし……」
「確かに、そうでござる、な」
「うーん……どう説明したらいいんだろう……」
「ああ、そなたが気に病むことはないでござるよ」

 確かに宗重さんはあんまり気にしていなさそうだけど、そう言ったわりには二人して黙り込む。
 宗重さんは思案気に、私は苦し気に。本当にどうしたらいいんだろう……。
 ここに来て私の不勉強さ加減が出てしまった。
 まあ、専門医とか現代の人じゃない限り、どう説明したところで私の病気のことはわかってもらえないんだけどね。中には気味悪がって、いじめられたこともあるし。
 そんなことをぐるぐると考えていたら、宗重さんは考えが纏まったのか、溜息をついたあと話しかけて来た。

「そなた、これからどうするのだ?」
「本当なら今すぐ帰りたいです。私にとっては誰も知らない、何もわからないこの場所から……。でもこの姿の女の人は『助けて』と言っていたんです」

 宗重さんが聞いて来たのは、今後のことだった。そんなことを聞かれても私にはわからないから、女の人に言われたことを教えたら宗重さんは「うーん……」と唸ってまた考えて込んでしまった。

「あの……お姫様は誰かに狙われているんですか?」
「恐らくは。……まあ、拙者の憶測でしかないでござるが」

 もしかして、助けてって言ってたのはこのことかも知れない。だったら、私にもできることがあるかも知れないと提案してみる。

「あの……この人――奈都姫さんを助けるのに、私は役に立てますか?」
「……なっ?!」

 そう聞くと、宗重さんにとても驚かれた。

「この人を……奈都姫さんを助けたいんです」
「そなた自身のためにでござるか?」
「それもありますけど……それだけじゃないです。うまく言えませんけど……」
「……ふむ……」

 助けを求められたんだから、いつになるかわかんないけど、それを解決すれば帰れるかも知れないって思った。それを正直に告げるつもりはない。

 宗重さんは腕を胸の所で組み、左手をアゴの下に入れて考えながら、じっと奈都姫わたしを見た。何を考えているのか、私にはわからない。
 でも、そんな宗重さんを、奈都姫わたしはじっと見上げている。その姿が彼の目に映る。

(……この人を見る宗重さんの目……綺麗で、鋭くて、優しいな……。そんな目で見てくれる人なんて私の近くにはいないから、この人がとても羨ましい。私も同じように見てほしいなぁ……なんて、無い物ねだりはダメだよね)

 そんな、諦めにも似た感情が私を支配する。込み上げた悲しみを宗重さんに見られないように、また庭や池の中の鯉を見るふりをして、然り気無く横や下を向いた。


 ――そんな奈都姫わたしの様子を、宗重さんが一部始終見ていたとは思わずにいた。

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