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過去問題と暴かれた実力
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「それでは、はじめ!」
学園長の合図で、伏せられていた紙を裏返します。それから問題を読み、次々に答えを書いていきます。
静まり返る室内には、ペンを走らせる音、話し合いをしているのか小さな声と、見守ってくださっている方の息遣いしか聞こえません。時折ミランダがうーうー唸っておりますが、誰も――兄も話しかけません。
話しかけた瞬間に、ミランダの制限時間がなくなるとわかっているのでしょう。
集中しているうちにそれらも聞こえなくなり、どんどん問題を埋めていきます。
試験問題は歴史、算術、マナーの三種類。学園では国語、歴史、算術、魔術、マナーの五種類を基本とし、あとは自分の能力や将来を考慮したうえで希望する学科をいくつか選び、専門的に学ぶことになります。
とはいえ、今出されている問題はあくまでも基本のものだけですので、きちんと勉強していればわかる範囲のものばかり。中には今年の試験で見た問題もあります。
意地悪な問題もいくつかありましたが、なんとか解くことができました。
「そこまで」
学園長の言葉に我に返り、ペンを置きます。見直す時間がありませんでした……。三分の一とはいえ、一教科の時間で三教科の問題を解かなければならなかったので、仕方がないですね。
全部の問題を解いたわけではありませんが、それでもわかるものは全て回答したつもりです。……合っているかどうかわかりませんが。
学園長とオビエス様が手分けして答えの確認作業をしていらっしゃいます。
「ふむ……。差は歴然だな」
「そうですね」
あっという間に確認を終えたお二人は、ミランダの答案用紙を見て、揃って溜息をついています。そしてまずはミランダの解答用紙を兄に手渡しました。
それを見た兄が息を呑みます。
「こ、これは」
ミランダの答案用紙を見て、兄は息を呑みます。さて、ミランダはどれほど問題を解いたのでしょうか。
「アルマス・ジョンパルト。回答できている問題がほぼない。これでもオフィリア嬢が不正をし、ミランダ嬢がSクラスに入れると言うのかね?」
「……っ」
学園長の言葉に、顔色が悪くなる兄。まさか、ミランダの回答がほぼ白紙だとは思いませんでした。
「そしてこちらがオフィリア嬢のものです。学力の差は歴然としています」
「そ、そんなバカな! オフィリアには教師をつけてなどいなかった! なのに、なぜ!」
……それをここで言うんですか、兄は。バカですか?
兄の言葉を受け、見学していた方たちの目と顔が厳しくなりました。どう聞いても虐待していたと取れる発言ですものね。
「ほう? つまり、オフィリア嬢は家庭教師がいなかったにもかかわらず、独学で勉強したということになる」
「そうですね。オフィリア嬢、勉強はどのようにしていたのですか?」
「一応、八歳までは家庭教師がいたのです。けれど、途中でわたくしだけ勉強しなくていいと、ジョンパルト伯爵とそちらにいらっしゃる令息に言われました。それ以降は、家の書庫にある本で勉強をいたしました」
「嘘をつくな! ぎゃあ!」
兄が否定すると、雷が落ちました。学習しない人ですね。
そんな兄の様子を見て、殿下も側近候補の二人も、学園長と教師三人もオビエス様も、呆れたように兄を見ています。殿下に至っては溜息までついていますね。
その後、オビエス様がわたくしのほうへ向きなおります。
「なるほど。これだけの差があり、ミランダ嬢が怠けていたのであれば、教師もきっとオフィリア嬢を褒めたことでしょう」
「恐らくは。それが気に入らなかったのだろうな」
「ミランダ嬢もきっと何かしらの嘘をついたのでしょうしね」
「そ、そんなことしてな、きゃあ!」
ああ、ミランダも学習しない子でしたか。……ジョンパルト伯爵家の未来は大丈夫でしょうか。
「実際はどうだったのだ、オフィリア嬢」
「同じ問題を出されたのですが、ジョンパルト伯爵令嬢はわからないと泣きました。教師が噛み砕いて丁寧に説明してくださっても、そのお話を聞くことなく、ただ泣き喚くばかり。その声を聞きつけた伯爵夫人が飛んできて、教師に説明を求めました。そこで伯爵令嬢の状況とわたくしの出来を褒めてくださったのですが、夫人は伯爵令嬢の「先生がっ! お姉様がっ!」との言葉により聞く耳を一切持つことなく、先生は解雇され、別の方になりました」
「そして勉強しなくていいと言われたと」
「はい」
「わたしは、やってないわっ、あああっ!」
連続で雷を落とされたからなのでしょう。ミランダはとうとう泣き始めてしまいました。その様子に、学園長もオビエス様も、冷ややかな目でミランダを見ています。
「嘘をつくのも大概にしたまえ! まったく……。これで不正はないとわかったな、二人とも」
「学園長のおっしゃる通りです。自分の学力すら把握できないのですか?」
「「……」」
学園長とオビエス様の言葉に、兄とミランダが黙ります。
「入学早々に問題を起こすなど、前代未聞だ。恥を知れ! これより処分を言い渡す。アルマス・ジョンパルトは十日間、ミランダ・ジョンパルトは一ヶ月間の自宅謹慎を命ずる。その間、しっかりと勉強すりように」
「「そ、そんな!」」
「そんなではない! 謹慎が不服か? ならば退学でもよいのだぞ!」
十日間と一ヶ月間とは、かなり長いです。それは仕方がないのかもしれません。
問題行動と制服の横領に加え、虚言を調べもせず鵜呑みにしましたもの。
怒り心頭な学園長の覇気に、兄とミランダがすくみ上り、顔色も真っ青です。
「「……っ」」
「それが嫌であれば、謹慎しなさい。ああ、それと、アルマス・ジョンパルト。次の試験で点数が悪ければ、Cクラス落ちになる。しっかり勉学に励むように」
「……っ! は、はい」
とうとう兄も学力で咎められてしまいました。身に覚えがあるのか兄は顔色を真っ白にさせ、震えています。
この学園は、成績が悪くなる、またはよくなるとクラス替えをするという制度があります。軽いものならクラスが変わることはありませんが、大幅な増減はクラスが変わる対象になるのです。
特に特待生として入学した場合、成績が落ちるということはいろいろと融通や優遇されているものが使えなくなるばかりか、下手をすると退学になる可能性もあるのです。
まあ、貴族で特待生になる方は滅多におりませんが、家に事情や問題があると特待生になる場合があるのです――わたくしのように。
ひとまず確認はできたからと、学園長が退室を促します。学園長と三人の教師、オビエス様にお礼を言うと、部屋を出ました。
「オフィリア嬢、制服を取りに行こう」
「そう、ですね。あまり行きたくはありませんが」
「どうしてです? ご自分の家でしょう?」
「ええと、その……。あのお二人の言動からわかるかと思いますが、今までずっと、家族として接していただいた記憶がありません。もちろん、使用人たちもそれに倣っています。なので、行きたくないというか……」
「……」
「やっと入学式を終え、学園の寮に逃げ込むことができるようになったのに、制服のためとはいえ、家に戻るのは憂鬱なのです」
わたくしの言葉に、殿下をはじめとした三人が黙り込んでしまいました。
学園長の合図で、伏せられていた紙を裏返します。それから問題を読み、次々に答えを書いていきます。
静まり返る室内には、ペンを走らせる音、話し合いをしているのか小さな声と、見守ってくださっている方の息遣いしか聞こえません。時折ミランダがうーうー唸っておりますが、誰も――兄も話しかけません。
話しかけた瞬間に、ミランダの制限時間がなくなるとわかっているのでしょう。
集中しているうちにそれらも聞こえなくなり、どんどん問題を埋めていきます。
試験問題は歴史、算術、マナーの三種類。学園では国語、歴史、算術、魔術、マナーの五種類を基本とし、あとは自分の能力や将来を考慮したうえで希望する学科をいくつか選び、専門的に学ぶことになります。
とはいえ、今出されている問題はあくまでも基本のものだけですので、きちんと勉強していればわかる範囲のものばかり。中には今年の試験で見た問題もあります。
意地悪な問題もいくつかありましたが、なんとか解くことができました。
「そこまで」
学園長の言葉に我に返り、ペンを置きます。見直す時間がありませんでした……。三分の一とはいえ、一教科の時間で三教科の問題を解かなければならなかったので、仕方がないですね。
全部の問題を解いたわけではありませんが、それでもわかるものは全て回答したつもりです。……合っているかどうかわかりませんが。
学園長とオビエス様が手分けして答えの確認作業をしていらっしゃいます。
「ふむ……。差は歴然だな」
「そうですね」
あっという間に確認を終えたお二人は、ミランダの答案用紙を見て、揃って溜息をついています。そしてまずはミランダの解答用紙を兄に手渡しました。
それを見た兄が息を呑みます。
「こ、これは」
ミランダの答案用紙を見て、兄は息を呑みます。さて、ミランダはどれほど問題を解いたのでしょうか。
「アルマス・ジョンパルト。回答できている問題がほぼない。これでもオフィリア嬢が不正をし、ミランダ嬢がSクラスに入れると言うのかね?」
「……っ」
学園長の言葉に、顔色が悪くなる兄。まさか、ミランダの回答がほぼ白紙だとは思いませんでした。
「そしてこちらがオフィリア嬢のものです。学力の差は歴然としています」
「そ、そんなバカな! オフィリアには教師をつけてなどいなかった! なのに、なぜ!」
……それをここで言うんですか、兄は。バカですか?
兄の言葉を受け、見学していた方たちの目と顔が厳しくなりました。どう聞いても虐待していたと取れる発言ですものね。
「ほう? つまり、オフィリア嬢は家庭教師がいなかったにもかかわらず、独学で勉強したということになる」
「そうですね。オフィリア嬢、勉強はどのようにしていたのですか?」
「一応、八歳までは家庭教師がいたのです。けれど、途中でわたくしだけ勉強しなくていいと、ジョンパルト伯爵とそちらにいらっしゃる令息に言われました。それ以降は、家の書庫にある本で勉強をいたしました」
「嘘をつくな! ぎゃあ!」
兄が否定すると、雷が落ちました。学習しない人ですね。
そんな兄の様子を見て、殿下も側近候補の二人も、学園長と教師三人もオビエス様も、呆れたように兄を見ています。殿下に至っては溜息までついていますね。
その後、オビエス様がわたくしのほうへ向きなおります。
「なるほど。これだけの差があり、ミランダ嬢が怠けていたのであれば、教師もきっとオフィリア嬢を褒めたことでしょう」
「恐らくは。それが気に入らなかったのだろうな」
「ミランダ嬢もきっと何かしらの嘘をついたのでしょうしね」
「そ、そんなことしてな、きゃあ!」
ああ、ミランダも学習しない子でしたか。……ジョンパルト伯爵家の未来は大丈夫でしょうか。
「実際はどうだったのだ、オフィリア嬢」
「同じ問題を出されたのですが、ジョンパルト伯爵令嬢はわからないと泣きました。教師が噛み砕いて丁寧に説明してくださっても、そのお話を聞くことなく、ただ泣き喚くばかり。その声を聞きつけた伯爵夫人が飛んできて、教師に説明を求めました。そこで伯爵令嬢の状況とわたくしの出来を褒めてくださったのですが、夫人は伯爵令嬢の「先生がっ! お姉様がっ!」との言葉により聞く耳を一切持つことなく、先生は解雇され、別の方になりました」
「そして勉強しなくていいと言われたと」
「はい」
「わたしは、やってないわっ、あああっ!」
連続で雷を落とされたからなのでしょう。ミランダはとうとう泣き始めてしまいました。その様子に、学園長もオビエス様も、冷ややかな目でミランダを見ています。
「嘘をつくのも大概にしたまえ! まったく……。これで不正はないとわかったな、二人とも」
「学園長のおっしゃる通りです。自分の学力すら把握できないのですか?」
「「……」」
学園長とオビエス様の言葉に、兄とミランダが黙ります。
「入学早々に問題を起こすなど、前代未聞だ。恥を知れ! これより処分を言い渡す。アルマス・ジョンパルトは十日間、ミランダ・ジョンパルトは一ヶ月間の自宅謹慎を命ずる。その間、しっかりと勉強すりように」
「「そ、そんな!」」
「そんなではない! 謹慎が不服か? ならば退学でもよいのだぞ!」
十日間と一ヶ月間とは、かなり長いです。それは仕方がないのかもしれません。
問題行動と制服の横領に加え、虚言を調べもせず鵜呑みにしましたもの。
怒り心頭な学園長の覇気に、兄とミランダがすくみ上り、顔色も真っ青です。
「「……っ」」
「それが嫌であれば、謹慎しなさい。ああ、それと、アルマス・ジョンパルト。次の試験で点数が悪ければ、Cクラス落ちになる。しっかり勉学に励むように」
「……っ! は、はい」
とうとう兄も学力で咎められてしまいました。身に覚えがあるのか兄は顔色を真っ白にさせ、震えています。
この学園は、成績が悪くなる、またはよくなるとクラス替えをするという制度があります。軽いものならクラスが変わることはありませんが、大幅な増減はクラスが変わる対象になるのです。
特に特待生として入学した場合、成績が落ちるということはいろいろと融通や優遇されているものが使えなくなるばかりか、下手をすると退学になる可能性もあるのです。
まあ、貴族で特待生になる方は滅多におりませんが、家に事情や問題があると特待生になる場合があるのです――わたくしのように。
ひとまず確認はできたからと、学園長が退室を促します。学園長と三人の教師、オビエス様にお礼を言うと、部屋を出ました。
「オフィリア嬢、制服を取りに行こう」
「そう、ですね。あまり行きたくはありませんが」
「どうしてです? ご自分の家でしょう?」
「ええと、その……。あのお二人の言動からわかるかと思いますが、今までずっと、家族として接していただいた記憶がありません。もちろん、使用人たちもそれに倣っています。なので、行きたくないというか……」
「……」
「やっと入学式を終え、学園の寮に逃げ込むことができるようになったのに、制服のためとはいえ、家に戻るのは憂鬱なのです」
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