オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

文字の大きさ
上 下
105 / 155
葎視点

Blood And Sand★

しおりを挟む
「聞いて……たん、だ……」

 圭が穂積エンタープライズに行ってしまった週の日曜日。プライベートの時間ができた僕は、圭にもらったUSBを読んでいた。

 僕を嫌うように仕向けたのは僕自身。
 そんなつもりは、これっぽっちもなかった。
 ただ、圭を守りたかった……親の暴力から。そのためについた嘘を、圭に聞かれてたなんて思ってもみなかった。
 両親が圭を虐待していたと聞かされた日、曾祖母は

『圭はある意味、先祖返りでな。葎は両方の親に似ていて、葎もわしに似てなくはないが、どちらかと言えば母親似だろ? だが圭は、わしの子供のころに本当にそっくりなんだよ』

 そう言って、戦争で焼け落ちなかった数少ない写真を見せてくれた。その写真は本当に圭にそっくりで、母も小さいことは隔世遺伝で祖父母よりも曾祖母に似てる部分もあったと祖父母は言っていた(今はむしろ祖父に似ている)けど、圭は母のその遺伝をより強く引いたんじゃないかと祖父はそう言っていた。

『確かめれば、すぐにわかったはずなんだがな』

 苦々しくそう言った曾祖母と祖父。

 ――本当に、僕はバカだ。祖父に殴られて当たり前だ。嘘をつくんじゃなくて、曾祖母や祖父母に言えばよかったんだ。……今更だけど。



 『葎へ

  貴方が私を嫌いなことは知っています。貴方が
  あの人たちに言った言葉を聞いていたから。

  『僕、圭が嫌い。お母さんたちを独り占めする
  から。……だから、お母さん、お父さん、僕だけ
  を見て?』

  あの言葉はショックだった。葎だけは味方だと
  思っていたから……。
  あの二人だけでなく、葎にも嫌われているとは
  思わなかったから、あの時は本当にショック
  だった。

  そんなに私が邪魔だった?
  そんなにあの二人を独占したかった?
  だったら、私にそう言えばよかったんだよ。
  そうしたら私はおじいちゃんちに行ったのに。
  ……今更、だけどね。

  『お前はいらない』
  『生むんじゃなかった』
  『子供は葎だけだ』

  さんざんそう言われたよ。
  ことあるごとに罵られ、叩かれた。
  あの当時、服に隠れて見えないところに痣が
  ない場所なんてなかった。
  ……葎があの言葉を言うまでは。
  言ったあとも、たまに罵られたり叩かれたり
  したけど。

  『いらない子なんだ。』

  何度そう思ったかな。だから笑えなくなった。
  家にいても、楽しくなかったから。
  葎だけが愛される。
  そんな葎を見ても辛いだけだったから。

  離れて行く友達。
  それも辛かった。

  日に日に減って行く食事。
  ひいおばあちゃんに頼んで、おむすびを作って
  もらったこともあったよ。

  発育が悪いことを先生たちに心配されたけど、結局
  何も言わなかった。

  ……言えなかった。あの二人が怖かったから。』



「そんな……け、い……っ……」

 そこまでひどかったなんて思わなかった。圭に憎まれても仕方がない。泣きたいのを我慢して、続きを読んだ。



  『葎が知りたいのは、どうして赤の他人なのか、
  だよね?

  葎が小田桐部長に告白していたのを聞いてから
  何日かたったあと、かずくんたちと図書館に行った
  帰りに、学くんを庇って事故に遭いました。
  新聞に載るほどの事故だったそうだから、
  葎も知ってるかも知れないけど……』



「事、故……? 何、それ……! 知らない!!」

 そう言えば一度、夜に誰かが来たことがあったことを思い出した。会話はよく聞こえなかったけど、父がなぜか怒っていたことを思い出した。
 新聞もそうだ。あのころは、新聞なんてせいぜい番組欄を見るくらいだった。

(まさか、両親は……知っていた……?)

 圭が家からいなくなって一ヶ月近くたち、もうすぐ卒業式というころ、珍しく二人が喧嘩をしていた。

『何でもっと早く言わない?!』
『まさか本当にそうだなんて、あたしだって思わなかったのよ! 葎の同級生のお母さんに言われて初めて知ったんだから!』
『とにかく、一度……』

 そのあとは何を言っていたのかわからなかったけど、珍しく喧嘩していたのを思い出した。



  『 入院中に仲良くなった女の子と一緒に本を
  読んでいる時にその子の両親が来ていて、一緒
  に話をしていたの。そのすぐあとくらいに
  一度も病院に来たことがなかった二人が来て

  『何で庇ったんだ! お前にかける金は一銭も
  ないんだぞ!』

  と言われたよ。
  それを聞いていた女の子のご両親や、本を
  読んでいた大人たちが怒ってくれたの。
  それでも何だかんだと言った二人に、女の子の
  両親が『なら私たちが養女にもらう』と言って
  くれたんだよ。
  それが在沢室長だったの。

  その時から私は羽多野 圭ではなく、在沢 圭
  になった。

  どっちみちあの二人には『中学卒業までは面倒
  を見てやるが、それ以上は知らん』と言われて
  いたし、奨学金で高校に行けることも、全寮制の
  高校に行くことも決まっていたから、私には何の
  未練もなかった。せいぜい、かずくんたちに会えなく
  なるのが寂しかったくらい。

  あの家から出られることが嬉しかった。
  もう、ことあるごとに罵られることも、叩かれること
  もなくなる。
  それだけで嬉しかった。

  だから私は、もう羽多野 葎の双子の姉、
  羽多野 圭じゃない。
  赤の他人の……他人の空似の在沢 圭だよ。』



 最後はそう締めくくられていた。

「圭……っ……ごめん……ごめんなさい……っ」

 後悔しても、もう遅い。

 ――僕は、なんてことをしたんだろう。

 僕は圭のプライベートの携帯の番号もアドレスも知らない。穂積エンタープライズに行ってしまった圭に、直接謝ることもできない。

(室長なら知ってるよね……。教えてくれるかな……)

 何かあったら電話を寄越せと言って渡された室長の携帯番号に、ダメ元で電話をかける。

『はい、在沢です』
「あの、羽多野、ですけど……」
『ああ、羽多野か。どうした?』
「圭の……在沢さんの、携帯番号が知りたくて……」

 尻すぼみになりながらもそこまで伝えたけど、室長は無情だった。

『……それは、教えられない』
「どうして、ですか……! 僕は……俺は……!」
『まず、圭に許可をとってない。それに、混乱した状態で圭と喋ったってお互い混乱するだけだ。あいつはああ見えて頑固だ。知ってるだろ?』

 ……知ってる。違うと言っても、何がどう違うのか、圭が納得するまできちんと説明しないと、圭は折れないし納得しない。

「だったら……事故のことを教えてください……!」
『……どんな事故だったのかは聞いてはいるが、俺の口から言うよりも、ネットで過去の新聞記事を詳しく調べたほうがいい。そのほうが詳細がわかるから。……役に立たなくてすまんな』
「いえ、そんなことないです。ありがとうございます。今度……いろいろと、教えてください」
『ああ。それじゃ』
「はい。失礼します」

 そう言って電話を切って圭が事故にあった過去の新聞記事を探すと、それはすぐに出てきた。

「――……っ!!」

 手足を折っただけだと思っていた僕は、その記事の内容に言葉が出なかった。
 死にかけていたなんて思わなかった。
 輸血が足りないなんて思わなかった。
 全身にガラスが刺さっていたなんて思わなかった。
 常にゆっくり歩く圭。
 雨が降っていると、足を引きずるように歩いて、手足を擦っていた圭。
 足を引きずっていたのも、擦っていたのも――痛かった、から。

「じいちゃん!!」

 新聞記事の画面を開いたまま、祖父たちにその記事を見せ、そのあとでUSBの中身も見せた。

「……こんなっ! ああ、圭……っ」
「……嘉雄よしお、あのバカ孫の二人を呼べ」
「わかった」

 新聞を取っていない祖父たちは、圭の事故を知らないみたいだった。……僕が引っ越して来てから、取ってもらうようにしたけど。
 泣き出した祖母を労りながら、曾祖母は怒り、祖父も怒りをたたえた声で両親に電話をかけたのを聞いていた。

 ――いつか、圭に謝ることができるかな……。

 後悔ばかりが頭を巡り、心の中でただひたすら圭に謝り続けた。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...