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圭視点
Wedding Bells Sweet
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それからの一週間は怒涛の日々だった。
三日で式場や何やらを決めた母親たちのパワーに振り回され、その二日後に手渡された招待状を持って前嶋と一緒に小田桐に行って招待客に招待状を渡したり、泪にくっついて穂積本社に行って仕事をこなしながらの合間にそれらを行った。
瑠香に言われた約束の日の夕方、手作りのクッキーやパウンドケーキ、ウェッジウッドの茶葉を持って仕事終わりにお店に行くと瑠香はもちろんのこと、かよちゃんさんや麻ちゃんさん、他のスタッフまでぐったりとしているうえに疲れた顔をしていた。
「あら……お圭ちゃん……いらっしゃ……」
「瑠香さん?!」
「大丈夫よ……。お圭ちゃん、悪いんだけど、何か飲み物入れてちょうだい……」
「いいですよ」
瑠香に場所を教えてもらって笑顔で返事をすると、急いでそこに向かう。「アタシも手伝うわ」と言った泪に「お願い」とその場所に向かう途中、後ろで「可愛い!」「癒される!」という声が聞こえた。「猫とか犬がいたのかな」と泪に言うと、やはり泪は苦笑していた。頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにしながらも準備を始める。
泪にティーポットとカップを人数分取ってもらい、手に取って驚いた。
「あ、ウェッジウッドのボーンチャイナだ! しかも、『レースピオニー』のセット?! うわぁ……マグカップまである!」
泪の体の隙間から棚を覗くと、同じシリーズのマグカップもあった。
「ボーンチャイナはわかるけど……『レースピオニー』ってなに?」
「この柄のことだよ」
手に持っていたティーポットの柄を指差すと、泪は「へえ」と関心していた。
レースの模様にピオニーなどの花をあしらったウェッジウッドのティーカップのセットで、ピオニーは芍薬のことだよと教えると「そんなことまで知ってるのね」と感心された。
泪にパウンドケーキを切ってもらったり、クッキーを同じシリーズのお皿に並べたりしてもらう傍らでお湯を大量に沸かし、ティーポットとカップを温めてからお湯を捨てる。同じセットのミルクポットやシュガーポットを用意しながら、たまたまだったけれど茶葉がウェッジウッドでよかったと安堵する。
念のためにレモンスライス、蜂蜜、イチゴジャムを用意してからポットに茶葉とお湯を入れ、トレーに全てを乗せて瑠香たちのいる場所に戻った。
「あら……紅茶? 茶葉はなかったはずなんだけど……」
「いつもコーヒーでしたし、たまには紅茶がいいかと思って。瑠香さんたちに飲んでもらおうと思って、家から持って来ました」
「それに、クッキーと……パウンドケーキ?」
「はい。手作りです。紅茶と一緒に、と思って」
茶葉が蒸れたのでカップに注いで渡して行くと、砂糖やミルク、レモンスライス、蜂蜜、イチゴジャムをテーブルに並べる。
「蜂蜜はわかるけど、なんでイチゴジャム?」
「イチゴジャムを入れるとロシアンティーになるんです」
「……お圭ちゃん、つかぬことを聞くけど、資格ってビジネスだけよね?」
「違うわよ」
違うと言おうとして泪に先に言われてしまった。
「面接した時アタシも驚いたんだけど、カフェプランナーとフレアバーテンダー、確かティープランナーとかっていう資格も持ってたわよね?」
「は? どんな資格なの? バーテンダーはわかるけど、フレアバーテンダーってなに?」
確かにフレアバーテンダーは知らない人はわからないよね、と苦笑する。だから説明することにした。
「カフェプランナーとティープランナーはコーヒーと紅茶のエキスパートで、その資格があると喫茶店が開けます」
「……」
「フレアバーテンダーは、謂わば魅せるカクテルのバーテンダーで……『カクテル』って映画を知っていますか?」
「あれよね? トム・クルーズがお酒のビンを投げたりくるくる回したりしてたやつ」
「そうです。あれがフレアバーテンディングと言うもので、それをやることができるのがフレアバーテンダーです」
『えええええっ?!』
そこでその場にいた全員に驚かれた。どうして泪さんまで驚くの。
「あんなの、できるの?!」
「ビンを回したり投げたりするパフォーマンスだけだったら家でもできますけど、さすがに火を使ったパフォーマンスは、ちゃんとしたところじゃないとできません」
「あら? でも、アキちゃんとこで……」
「普通のお店は卓上ではやらないんです。特に火を使ったパフォーマンスはきちんとした店内なら別ですけど、普通はあれが限度ですよ。スプリンクラーが真上に無くて助かりました」
あんぐりと口を開けた人たちに苦笑しつつも、冷めますからどうぞと促し、私も座って紅茶を口にする。
「アキちゃんのとこでやったやつ、もう一度みたいわ」
と泪が言ったので「いいですよ」と頷くと、瑠香たちも「見たい!」と言い出した。
「やるのは構いませんが、ここではダメです。ちゃんとしたとこでじゃないと」
「直哉くんのところは?」
「ああ、そういえばバーが有ったわね……電話して聞いてみる」
「ちょっと、泪さん!」
そう言うなり泪はその場で電話をかけ、九時以降ならと約束を取り付けてしまった。
「そうと決まれば……さて、皆! ティータイムは終わりよ! フィッティングを開始しましょう」
パンパンと瑠香が手を叩くと、それまでゆったりとしていた人たちが動き出す。
「まずは泪からね」
「どうしてアタシからなの?」
「あんたのほうが小物とかあまりないし、早く終わるからよ」
「ではその間、私は片付けをしてますね」
「ごめんなさい。お願いね」
瑠香は泪を連れてフィッティングルームへと向かったので、私はカップ類をトレーに乗せて片付け始めた。
***
晴れ渡った、陽射しが暖かい二月の第二日曜日。
「お姉ちゃん、めっちゃ綺麗!!」
「ありがとう、真琴」
綺麗だとはしゃぐ弟妹達。
あの日、フィッティングが終わってから直哉の店に集まり、直哉の許可を得てフレアバーテンディングを行ったあとで『Irish Back Fire』と、おまけで『Blue Blazer』を作った。それを見た直哉は目を丸くして驚いていたものの、「たまに来てやってくれないか」といわれてしまった。
「泪さんがいいと言ったら」と言うと、泪のところへ行って交渉し始めたのには驚いた。その後二人からは何も言われていないので結局どうなったのかわからずじまいだ。
「時間です」
式場のスタッフが呼びに来たので席を立つ。時間は午前十時で、スタッフの人に案内されながら式場へ向かう。式のあとは披露宴が控えている。
入口に着くと父がいて、腕を差し出されたのでそれに腕をかける。
「綺麗だよ、圭」
「ありがとう、父さん。本当の娘じゃないのに……」
「それは言わない約束だ」
「でも……」
いくら献血してもらったとしても、戸籍上では娘でも、確かに血の繋がりはないのだ。言いよどむと父が溜息をついた。
「圭? 俺も真由も、圭を本当の娘だと思ってる。確かにこの十年ちょっとのお前しか知らない。だが、前も言ったが今のお前は俺たち二人の娘であり、俺たちに似てると思うぞ?」
「……うん」
「それとも、羽多野のほうがいいか?」
「あの人たち? 会いたいとも思わないよ。それに、私の両親は在沢 保と在沢 真由だよ。……あ」
「ほら、俺たちの娘だろう?」
そう言うと、空いていた手で絡めていた手をポンポンと叩く父。
「幸せにな」
「うん」
頷くと、すぐにオルガンの音と共に扉が開いた。中には両家の家族全員と石川や真葵や智、事務所のメンバーや直哉夫妻とおぼしき人たちもいた。今日の私は眼鏡ではなくコンタクトをしていて、その視線の先には泪がいる。
サテンのシルバーグレーのモーニングコートとベスト、同色の縞柄のアスコットタイ、白のウィングシャツ、白い手袋。胸ポケットには私のブーケと同じ花を使ったブートニア――白と黄色のスイートピーと、アップルティと呼ばれる品種のオレンジ色のバラ、スノードロップ、シュガーパインが飾られ、髪はオールバックにしている。
(素敵だしカッコいい……)
普段のスーツ姿も、カジュアルな格好もカッコいいと思うけれど、今日は格別だった。
泪の隣へ着くと泪が肘を差し出したので、父の腕を離して泪の腕に掴まるとゆっくり歩き出した。
オルガンの音を聞きながらゆっくり歩き、祭壇の前に立つ。神父の祝福のあとでお互いに誓いの言葉を延べ、指輪の交換をしたあとで、フェイスダウンしていたベールがそっと持ち上げられる。泪の顔を見ると今まで見た笑顔の中でも一番幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「誓いのキスを」
神父にそう言われると泪は私の唇に顔を近付けて唇にキスを落とす。それと同時にひやかしの声と口笛の音、拍手が聞こえた。
「一緒に幸せになろうね」
外に出てブーケトスをしたあとで泪に耳元でそう囁かれた。「一緒に」と言われたことが嬉しくて「うん」と小さく頷いた。
ブーケを受け取ったのは真葵だった。
***
披露宴が始まるまでの小休止。父親二人が「ちょっと出てくる」と言って出て行ったあとで、穂積家の面々(六人のお義姉さんもいる)と在沢家の面々(当然、弟妹三人もいる)と一緒にお喋りをしている時だった。父親二人が葎を連れて来たので戸惑う。
「け……在沢さん、結婚おめでとう」
「羽多野、君……?」
どうして葎がここに連れて来られたのかがわからない。確かに秘書課の同僚として招待状を渡した。渡しはしたけれど……。
「圭、穂積さんと話して決めたことがある」
父がそう言うと、穂積家の面々は私の事情をある程度知っているのか、不思議そうな顔をした在沢家の子供たちを連れ、義父のみを残して部屋の外に出て行った。その場に残っているのは泪と義父、在沢家の両親だけだ。
「羽多野の両親はともかく、羽多野とは連絡を取り合ったらどうだ?」
「……え?」
父がどうしてそんなことを言うのかわからない。
「父さん……?」
「事情は聞いたよ。確かに彼のやり方は間違っていたとは思うがね」
「お義父さん……?」
泪が側に寄って来て、私の肩をギュッと抱きしめる。
「本当は許したいんだろう? 圭。でなけりゃ、いくら同僚とは言え許せない相手に招待状なんて渡さないと思うぞ? 周りがなんと言おうと、俺なら絶対に渡さない」
「あ……」
「アイツらは許す必要はない。親として最低だからな」
「私たちが許す。だからもういいんだよ、許してあげなさい」
父と義父にそう言われ、つい涙が零れる。
どうして涙が零れるのかはわからない。でも、多分、きっと……私は心のどこかで誰かにそう言ってほしかったのだ――「葎を許す事を許してあげるよ」と背中を押してほしかったのだ、と。
「……今ね、じいちゃんやばあちゃん、ひいばあちゃんと住んでるんだ」
突然葎がそう言い出した。
「じいちゃんたち、圭に会いたがってた。在沢室長や穂積社長にも怒られたけど、じいちゃんたちにはもっと怒られて……『お前は馬鹿か!』って殴られた」
「……」
「圭からあのUSBをもらうまで、あれが最善だって信じてた……でも、違った」
苦しそうに歪んだ葎の顔は、今にも泣きそうだ。
泪を仰いで抱かれていた肩を外してもらうと、葎の側に行く。
「今すぐ許してなんて言わない。でも、じいちゃんたちには、会ってあげて?」
葎の側に寄ると給湯室でやったように頬をピタピタと叩いたあとで、手を思い切り振り上げて葎の頬をひっぱたくと、パンというこ気味良いほどの音が部屋に響いた。
「……ってぇ」
「「「「圭?!」」」」
「あのころの腕力じゃなくてよかったね」
そう言ってもう一発ひっぱたく。
「つぅ……っ」
「本当なら拳で殴りたかったけど、ね……もう、強く握れないんだ」
「け、い……っ」
「今度、泪さんと……旦那様を連れて行くからっておじいちゃんたちに言ってね」
「うん……うん……っ」
お互いにギュッと抱きしめ会うと、どちらからともなく手を離す。離れた葎の手をとり、四人に「二卵性の双子の弟で、葎です」と紹介したら、葎は涙を零した。葎が落ち着いてからプライベートのアドレスを交換し、そのあとで父は葎に何か言っていた。
***
披露宴は泣いたり笑ったりと楽しかった。歌ってくれた人もいたし、手品を披露してくれた人もいた。お色直しのあとで各テーブルを回ったけれど、その途中で泣き出した人もいた。
二次会は直哉の店で行った。途中、直哉に「フレアバーテンディングをしてくれって」乞われて一旦は断った。けれど、泪に「自慢したいから」と言われ、その言葉ですらも断ったのに「お仕置きするわよ?」と脅されてしぶしぶフレアバーテンディングを行うと、二次会に参加していた皆に驚かれた。
直哉の店を出たあと、一旦自宅へと戻ると荷物を持って車で新婚旅行に出かけた。
――場所は水上温泉で、部屋に露天風呂が付いている旅館だった。
帰りに妊娠が発覚したりといろいろあったけれど、毎日がとても幸せだった。
< 圭視点 了 >
三日で式場や何やらを決めた母親たちのパワーに振り回され、その二日後に手渡された招待状を持って前嶋と一緒に小田桐に行って招待客に招待状を渡したり、泪にくっついて穂積本社に行って仕事をこなしながらの合間にそれらを行った。
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「いいですよ」
瑠香に場所を教えてもらって笑顔で返事をすると、急いでそこに向かう。「アタシも手伝うわ」と言った泪に「お願い」とその場所に向かう途中、後ろで「可愛い!」「癒される!」という声が聞こえた。「猫とか犬がいたのかな」と泪に言うと、やはり泪は苦笑していた。頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにしながらも準備を始める。
泪にティーポットとカップを人数分取ってもらい、手に取って驚いた。
「あ、ウェッジウッドのボーンチャイナだ! しかも、『レースピオニー』のセット?! うわぁ……マグカップまである!」
泪の体の隙間から棚を覗くと、同じシリーズのマグカップもあった。
「ボーンチャイナはわかるけど……『レースピオニー』ってなに?」
「この柄のことだよ」
手に持っていたティーポットの柄を指差すと、泪は「へえ」と関心していた。
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泪にパウンドケーキを切ってもらったり、クッキーを同じシリーズのお皿に並べたりしてもらう傍らでお湯を大量に沸かし、ティーポットとカップを温めてからお湯を捨てる。同じセットのミルクポットやシュガーポットを用意しながら、たまたまだったけれど茶葉がウェッジウッドでよかったと安堵する。
念のためにレモンスライス、蜂蜜、イチゴジャムを用意してからポットに茶葉とお湯を入れ、トレーに全てを乗せて瑠香たちのいる場所に戻った。
「あら……紅茶? 茶葉はなかったはずなんだけど……」
「いつもコーヒーでしたし、たまには紅茶がいいかと思って。瑠香さんたちに飲んでもらおうと思って、家から持って来ました」
「それに、クッキーと……パウンドケーキ?」
「はい。手作りです。紅茶と一緒に、と思って」
茶葉が蒸れたのでカップに注いで渡して行くと、砂糖やミルク、レモンスライス、蜂蜜、イチゴジャムをテーブルに並べる。
「蜂蜜はわかるけど、なんでイチゴジャム?」
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「……お圭ちゃん、つかぬことを聞くけど、資格ってビジネスだけよね?」
「違うわよ」
違うと言おうとして泪に先に言われてしまった。
「面接した時アタシも驚いたんだけど、カフェプランナーとフレアバーテンダー、確かティープランナーとかっていう資格も持ってたわよね?」
「は? どんな資格なの? バーテンダーはわかるけど、フレアバーテンダーってなに?」
確かにフレアバーテンダーは知らない人はわからないよね、と苦笑する。だから説明することにした。
「カフェプランナーとティープランナーはコーヒーと紅茶のエキスパートで、その資格があると喫茶店が開けます」
「……」
「フレアバーテンダーは、謂わば魅せるカクテルのバーテンダーで……『カクテル』って映画を知っていますか?」
「あれよね? トム・クルーズがお酒のビンを投げたりくるくる回したりしてたやつ」
「そうです。あれがフレアバーテンディングと言うもので、それをやることができるのがフレアバーテンダーです」
『えええええっ?!』
そこでその場にいた全員に驚かれた。どうして泪さんまで驚くの。
「あんなの、できるの?!」
「ビンを回したり投げたりするパフォーマンスだけだったら家でもできますけど、さすがに火を使ったパフォーマンスは、ちゃんとしたところじゃないとできません」
「あら? でも、アキちゃんとこで……」
「普通のお店は卓上ではやらないんです。特に火を使ったパフォーマンスはきちんとした店内なら別ですけど、普通はあれが限度ですよ。スプリンクラーが真上に無くて助かりました」
あんぐりと口を開けた人たちに苦笑しつつも、冷めますからどうぞと促し、私も座って紅茶を口にする。
「アキちゃんのとこでやったやつ、もう一度みたいわ」
と泪が言ったので「いいですよ」と頷くと、瑠香たちも「見たい!」と言い出した。
「やるのは構いませんが、ここではダメです。ちゃんとしたとこでじゃないと」
「直哉くんのところは?」
「ああ、そういえばバーが有ったわね……電話して聞いてみる」
「ちょっと、泪さん!」
そう言うなり泪はその場で電話をかけ、九時以降ならと約束を取り付けてしまった。
「そうと決まれば……さて、皆! ティータイムは終わりよ! フィッティングを開始しましょう」
パンパンと瑠香が手を叩くと、それまでゆったりとしていた人たちが動き出す。
「まずは泪からね」
「どうしてアタシからなの?」
「あんたのほうが小物とかあまりないし、早く終わるからよ」
「ではその間、私は片付けをしてますね」
「ごめんなさい。お願いね」
瑠香は泪を連れてフィッティングルームへと向かったので、私はカップ類をトレーに乗せて片付け始めた。
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「お姉ちゃん、めっちゃ綺麗!!」
「ありがとう、真琴」
綺麗だとはしゃぐ弟妹達。
あの日、フィッティングが終わってから直哉の店に集まり、直哉の許可を得てフレアバーテンディングを行ったあとで『Irish Back Fire』と、おまけで『Blue Blazer』を作った。それを見た直哉は目を丸くして驚いていたものの、「たまに来てやってくれないか」といわれてしまった。
「泪さんがいいと言ったら」と言うと、泪のところへ行って交渉し始めたのには驚いた。その後二人からは何も言われていないので結局どうなったのかわからずじまいだ。
「時間です」
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「綺麗だよ、圭」
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「それは言わない約束だ」
「でも……」
いくら献血してもらったとしても、戸籍上では娘でも、確かに血の繋がりはないのだ。言いよどむと父が溜息をついた。
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「……うん」
「それとも、羽多野のほうがいいか?」
「あの人たち? 会いたいとも思わないよ。それに、私の両親は在沢 保と在沢 真由だよ。……あ」
「ほら、俺たちの娘だろう?」
そう言うと、空いていた手で絡めていた手をポンポンと叩く父。
「幸せにな」
「うん」
頷くと、すぐにオルガンの音と共に扉が開いた。中には両家の家族全員と石川や真葵や智、事務所のメンバーや直哉夫妻とおぼしき人たちもいた。今日の私は眼鏡ではなくコンタクトをしていて、その視線の先には泪がいる。
サテンのシルバーグレーのモーニングコートとベスト、同色の縞柄のアスコットタイ、白のウィングシャツ、白い手袋。胸ポケットには私のブーケと同じ花を使ったブートニア――白と黄色のスイートピーと、アップルティと呼ばれる品種のオレンジ色のバラ、スノードロップ、シュガーパインが飾られ、髪はオールバックにしている。
(素敵だしカッコいい……)
普段のスーツ姿も、カジュアルな格好もカッコいいと思うけれど、今日は格別だった。
泪の隣へ着くと泪が肘を差し出したので、父の腕を離して泪の腕に掴まるとゆっくり歩き出した。
オルガンの音を聞きながらゆっくり歩き、祭壇の前に立つ。神父の祝福のあとでお互いに誓いの言葉を延べ、指輪の交換をしたあとで、フェイスダウンしていたベールがそっと持ち上げられる。泪の顔を見ると今まで見た笑顔の中でも一番幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「誓いのキスを」
神父にそう言われると泪は私の唇に顔を近付けて唇にキスを落とす。それと同時にひやかしの声と口笛の音、拍手が聞こえた。
「一緒に幸せになろうね」
外に出てブーケトスをしたあとで泪に耳元でそう囁かれた。「一緒に」と言われたことが嬉しくて「うん」と小さく頷いた。
ブーケを受け取ったのは真葵だった。
***
披露宴が始まるまでの小休止。父親二人が「ちょっと出てくる」と言って出て行ったあとで、穂積家の面々(六人のお義姉さんもいる)と在沢家の面々(当然、弟妹三人もいる)と一緒にお喋りをしている時だった。父親二人が葎を連れて来たので戸惑う。
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「……え?」
父がどうしてそんなことを言うのかわからない。
「父さん……?」
「事情は聞いたよ。確かに彼のやり方は間違っていたとは思うがね」
「お義父さん……?」
泪が側に寄って来て、私の肩をギュッと抱きしめる。
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「あ……」
「アイツらは許す必要はない。親として最低だからな」
「私たちが許す。だからもういいんだよ、許してあげなさい」
父と義父にそう言われ、つい涙が零れる。
どうして涙が零れるのかはわからない。でも、多分、きっと……私は心のどこかで誰かにそう言ってほしかったのだ――「葎を許す事を許してあげるよ」と背中を押してほしかったのだ、と。
「……今ね、じいちゃんやばあちゃん、ひいばあちゃんと住んでるんだ」
突然葎がそう言い出した。
「じいちゃんたち、圭に会いたがってた。在沢室長や穂積社長にも怒られたけど、じいちゃんたちにはもっと怒られて……『お前は馬鹿か!』って殴られた」
「……」
「圭からあのUSBをもらうまで、あれが最善だって信じてた……でも、違った」
苦しそうに歪んだ葎の顔は、今にも泣きそうだ。
泪を仰いで抱かれていた肩を外してもらうと、葎の側に行く。
「今すぐ許してなんて言わない。でも、じいちゃんたちには、会ってあげて?」
葎の側に寄ると給湯室でやったように頬をピタピタと叩いたあとで、手を思い切り振り上げて葎の頬をひっぱたくと、パンというこ気味良いほどの音が部屋に響いた。
「……ってぇ」
「「「「圭?!」」」」
「あのころの腕力じゃなくてよかったね」
そう言ってもう一発ひっぱたく。
「つぅ……っ」
「本当なら拳で殴りたかったけど、ね……もう、強く握れないんだ」
「け、い……っ」
「今度、泪さんと……旦那様を連れて行くからっておじいちゃんたちに言ってね」
「うん……うん……っ」
お互いにギュッと抱きしめ会うと、どちらからともなく手を離す。離れた葎の手をとり、四人に「二卵性の双子の弟で、葎です」と紹介したら、葎は涙を零した。葎が落ち着いてからプライベートのアドレスを交換し、そのあとで父は葎に何か言っていた。
***
披露宴は泣いたり笑ったりと楽しかった。歌ってくれた人もいたし、手品を披露してくれた人もいた。お色直しのあとで各テーブルを回ったけれど、その途中で泣き出した人もいた。
二次会は直哉の店で行った。途中、直哉に「フレアバーテンディングをしてくれって」乞われて一旦は断った。けれど、泪に「自慢したいから」と言われ、その言葉ですらも断ったのに「お仕置きするわよ?」と脅されてしぶしぶフレアバーテンディングを行うと、二次会に参加していた皆に驚かれた。
直哉の店を出たあと、一旦自宅へと戻ると荷物を持って車で新婚旅行に出かけた。
――場所は水上温泉で、部屋に露天風呂が付いている旅館だった。
帰りに妊娠が発覚したりといろいろあったけれど、毎日がとても幸せだった。
< 圭視点 了 >
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でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
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