オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

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泪視点

Iron Man

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「お圭ちゃん、小田桐に行って、お義父さんにこれを渡して来てくれる?」
「それはなんでしょうか?」
「会食の場所。これはファックスを流すわけには行かないから」
「確かに」

 あれから三日が経った。
 あのあと結局お互いデートする気になれず、喫茶店でどうしようかと圭と話していたら、瑠璃の『指輪ができたから』の言葉を思い出し、ついでに直哉のところで食事でもして帰ろうと思い

「だったら瑠璃姉さんの店に用事があるから、寄ってくれる? そのあと直哉の店で食事して帰りましょう。それくらいのデートならいいでしょ?」

 と提案すると圭が頷いたので、そのまま喫茶店をあとにして瑠璃の店に寄った。だが、そこで一悶着あったために圭に見つからずに誕生日プレゼントの指輪を受け取れたのは幸いだった。
 その後は直哉の店に行き、直哉に「彼女と結婚した」と言うとすごく嬉しそうな顔をして「今日の料理は俺にまかせろ」と言って、なぜか会席料理を出された。その食事中の席で会食の話をしたのだが、その会食の場所と時間が書かれた書類を圭に渡す。

「それでは行って参ります」
「うん、よろしく。あ、二時くらいまでに戻って来てね。そのあと作ってほしい書類があるから」
「どのような書類でしょうか?」
「ラテン語と英語の書類。お圭ちゃんが戻って来るまでに必要な書類を用意しておくから」
「畏まりました。では行って参ります」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい。あと……」
「ブレスレットはしてますから! それでは」
「……」

 ほんと、察しがよくなったわと脱力しそうになりながらも、下にいるはずの前嶋に電話をかける。

「泪です。下にお圭ちゃんが行ったから、よろしく」
『了解』

 前嶋はそう言って電話を切ったので、俺も電話を切る。
 最近、前嶋は瑠香の護衛についていない。前嶋は元々、高林が瑠香に何かしらをしでかそうとした時のためについていた。たが、既に瑠香は離婚をしたために脅威もなくなり、以前は出張にも一緒に出かけていたがそれすらも止めていた。
 穂積での仕事をしてはいたが、瑠香も父もいないと暇になってしまい、「暇だ……」とぼやいたので、以前義父や義妹から聞いた圭のストーカーもどきの話をして、今は時間のある時は圭の護衛についてもらっている状態だった。もちろん、父も瑠香も了承済みだ。圭には内緒だが。

 圭が小田桐から帰って来たあと、前嶋から「話がある」と言われたのでプライベートの玄関に回ってもらう。前嶋が移動している間に圭に資料を渡して指示を出し、「何かあったら自宅のリビングに顔を出して」とプライベートのほうへ向かい、鍵とドアを開けて前嶋を待っていると前嶋はすぐに来たので、あがってもらう。何か飲むかと聞くと「水でいい」といったので、冷蔵庫からペットボトルを出してそれを渡すと、前嶋の前に座った。

「どうしたの?」
「小田桐の帰り際、圭をねめつけるように見ていた男がいた」
「え……?」
「年は泪さんくらいに見えた」
「……」
「もしかしたら、泪さんが言っていたストーカーもどきは彼かも知れない」
「なんですって?!」

 義父は『長期の海外出張中だ』と言っていたはずだ。

(もう帰って来たと言うの……?!)

 じわじわと不安が広がる。

「圭と仲良さげにしていた受付嬢が気づいたくらい、強い視線だった」
「受付嬢?」
「茶髪でパーマがかかっていて、むしろ美人の部類に入る女性だ」

 そう言われて一瞬眉を顰めるが、小田桐に行った時を思い出した。

「あ……圭の同期の受付嬢!」
「そういえば、帰りの車の中で、圭もそんなことを言っていたな」

 前嶋の言葉に苦笑する。

「前嶋さん」
「わかってる。しばらく俺が張り付いておくよ。社長や瑠香には俺から言っておくから」
「お願いします」
は絶対に外させるなよ」
「わかったわ」

 じゃあな、と言って前嶋は帰った。
 その日の夜は珍しく圭が小田桐での出来事を饒舌に喋っていたのだが、それを聞きながら前嶋の話を思い出し、圭を行かせたのは失敗だったかも……と、昼間感じた不安を再び感じぜずにはいられなかった。


 ***


 その翌日の夜、「お父さんが『週末は二人で帰ってこい』って言ってるよ」と言われたので、「いいわよ」と素直に頷いて、圭と二人で在沢家に行って驚いた。たくさんの結婚祝いの品々があったからだ。
 義父が圭に、「お前が帰ったあとで大変な思いをした」と苦虫を何匹も噛み潰したような顔でそう言ったので内心苦笑しつつ、俺が義弟の勉強を見ている間に圭は「どうしよう……」と呟きながらも、丁寧にお礼状を書いていた。
 お祝いの品を全部持って帰って溜息まじりに

「それにしても、すごいわね……なんか嫉妬しちゃうわ」

 と言うと苦笑されたのだが、お祝いの中に明らかに個人的なお祝いとおぼしきものがあった。名前を見ると『羽多野 葎』となっており、その名前が圭の元双子の弟の名前だったのでホッとしていたのだが。

「元弟は、あれから何か言って来た?」
「ううん。でも、父さんからのメールだと、『何か吹っ切れたのかすごく頑張ってる』、って」
「そう。でも、二人で話したのは良かったのか、悪かったのか……」
「泪さん……」
「アタシにしてみれば甘いと思うわ。でも、二卵性とは言え、双子なら仕方ないのかもね」
「どうして?」
「だって、双子は魂が二つに分かれたものだとも言うでしょ? それにお圭ちゃん、あの弟を憎みきれなくなって来てるでしょ」

 そう言うと、こくんと頷いた。

「葎と話したからなのか、或いは私が泪さんと出会い、幸せになったからなのかはわからない。確かに葎の両親に関しては会いたいとも思わないし未だに蟠りはあるけれど、葎に関しては会いたいとは思わないものの、蟠りは薄れている気がする」

 とそう言った。

(全く、この子は……)

 本当に甘い。甘いとは思う。

「お圭ちゃんは優しいから……。まあ、その辺がお圭ちゃんたる所以なんだと思うし」

 苦笑しながらも、そう言い

「他の男の話は終わり! 嬉しいことを言ってくれたお礼に、今度はアタシが構い倒してあげる♪」

 と言って圭を抱き上げてお風呂へ行くと、お風呂とベッドで動けなくなるまで抱き潰した。

 そして久しぶりに朝から圭を抱こうと胸をまさぐって柔らかさを堪能していると、圭に「お仕事でしょ!」と怒られ、仕方なしに胸の愛撫と首筋と鎖骨にキスマークをつけた、会食の日の昼。

「じゃあ、アタシは先に行ってるわね。お圭ちゃん、クライアントに書類を渡したらお店に来てちょうだい。前嶋さん、よろしく」
「了解。じゃあ、圭、行こうか」
「はい」

 そう言って圭は前嶋の車に乗り込むと、車は俺よりも先に出た。そのあとを追うように俺も車を運転し、会場へ向かう。

(それにしたって、慌てすぎよね……)

 思わず苦笑する。つい三十分ほど前にクライアントが来社し商談をしていたのだが、何かトラブルがあったのか、時間がないからとこちらの書類を待たずに帰ってしまったのだ。まさか重要書類をファックスするわけにもいかず、クライアント側が誰か別の者に取りに行かせると言ってくれたのだが、会食があるし、会食の会場に行く道すがらにクライアントの会社があるため、それらの事情を伏せて別の商談に向かう途中で寄るからということで落ち着いたのだ。

(元々それほど重要な取引ではないし、様子を見ながら他の会社に変えた方がいいかも……)

 先ほどのトラブルのことといいい、もしまた何かあってはこちらが損をする。あとで父か瑠香に相談するかと一人ごち、会場へ向かった。
 会場に着くと既に両親と圭の両親、瑠香がいた。瑠香は何やら紙袋を持っている。

「遅くなってごめんなさい」
「いや、大丈夫。ちょっと早く着きすぎてしまって……。圭は?」
「アタシのお使いに行ってるから、すぐに追い付くと思う。ところで姉さん……その紙袋、なに?」
「ん? お圭ちゃんのた目に作った新作の服や下着よ? 確か明日はお圭ちゃんの誕生日だったわよね?」
「……誰に聞いたの?」
「瑠璃だけど」

 そう言えば、瑠璃は圭の本当の誕生日を知ってるんだったと思い出す。

「お圭ちゃんが来たら、アタシから渡すわ。いいわよね?」
「もちろん」

 そう言うと瑠香は嬉しそうな顔をした。ほくほく顔の瑠香から離れ、圭の両親のところに行く。

「お義父さん」
「やあ。今日はありがとう。穂積社長も副社長も忙しいんだろ?」
「まあ。でも、楽しみにしてましたから」
「そうか。ならいい」
「圭が来るまで、うちの両親と少し話しませんか?」

 両親の側に連れて行くと父親同士はお互い知っているためか簡単に挨拶をし、それぞれの妻を紹介していた。
 しばらく歓談をしていたのだが、瑠香が「お圭ちゃん遅くない?」と言って来た。確かに遅い。途中に大型の交差点があるため渋滞にでもはまったのかと思い、圭に電話しようとスマホを出したところで鳴った。ディスプレイは『前嶋』と出ていたので、そのまま出た。

「はい、穂積です」
『泪さん、前嶋です』
「あら、前嶋さん。遅いから連絡しようと思ってたの。今どこ?」
『それどころじゃない! 圭が拉致された!』
「なんですって?!」
『すまん、俺のミスだ! 今からそっちに行くから、一緒に追いかけよう!』
「わかったわ!」

 言うが早いか、直ぐに電話を切ると、父が心配そうに話しかけてきた。

「泪、どうした?」
「お圭ちゃんが拉致されたそうよ」
「なんだって?! 圭は?! 無事なのか?!」
「わからない。今から前嶋さんがこっちに来るから」
「前嶋……?」
「今、圭に内緒で護衛をしてもらってるの。……お義父さんは以前会ってるはずよ? 圭の入院中に」
「……あ!」
「だから大丈夫。それに、圭は姉さんと同じブレスレットをしてる。だから、行方はすぐにわかるわ」

 瑠香をちらりと見ると、あっ、と言う顔をした。

「GPS!」

 あのブレスレットには超小型のGPSが仕込んである。もしもの時のためにと前嶋が作ったものだ。あの時はまさかこんなことになるとは思いもしなかったのだが。

「そう。だから行方はすぐにわかるわ。だから教えてちょうだい、お義父さん。以前言いかけたストーカーもどきの名前を」
「小田桐……小田桐 政行、だ」

 小田桐商事の社長子息だと言った義父の言葉に息を呑んだ父と瑠香を余所に、義父は怒りを押さえているのか低い声でそう教えてくれたところで、「泪さん!」と呼ばれた。振り向くと、前嶋が駆け込んでくるところだった。


 ***


「課長、前嶋です。ホシの名前がわかりました。小田桐 政行です。――……はい、そうです。――……いえ、桐だんすの桐です。名前は行政をひっくり返した字です。――……はい。座標は動いていません。――……はい、今からマップを送ります。――……今送信しました。お願いします」

 電話を切った前嶋が「ほぼ同時に着きますから」と言ホッと息をついたので、俺も息を吐く。
 あのあと前嶋は応援を頼んだと言って自ら運転しようとしていたのだが、いろいろ電話しなきゃならいだろうから俺が運転すると代わり、前嶋の車を運転中だ。GPSの座標は前嶋が会食会場に着いたあたりから固定されており、会場からおよそ二十キロの場所だという。前嶋に指示をもらいながら右へ左へ車を操り、座標である圭のいる場所に着くとすでに車が停まっており、車の側には二人の男が立っていた。
 「俺の元同僚」と言った前嶋に驚きつつも、応援が現職の刑事だということに感謝し、安心する。簡単に自己紹介をして一緒にマンションの中に入る。郵便受けで部屋番号を確認してその場所に向かう途中でいろいろ聞かれたので、前嶋ち二人で洗いざらい話した。

「状況はわかった。……拉致監禁、と」

 件の扉の前でそう呟いた男(自己紹介の時、矢島と名乗った)は、ドアノブに手をかけ、そっと回そうとしたところで圭の叫び声が聞こえた。

『痛っ! いやっ、いやぁっ!』

「おやおや……婦女暴行も追加、っと……。おや、鍵がかかってる…まあ、当然か。宇佐美、頼む」
「はいはい、っと」

 宇佐美と呼ばれた男は、ドアノブの鍵穴を見つめてからポケットから何かを出すと、それを鍵穴に差し込んだ。

『やっ、ひ……っく…………るい……っ……く……』

 圭が泣いてる。圭を泣かせた男に対し、怒りがふつふつと沸き上がる。

「急いでくれ! 圭が……妻が…っ!」
「もうちょい」

『いやっ! やめて!』

 圭がそう叫んだところで「開いたよ」と宇佐美に言われ、矢島は音も立てずにドアを開くとそのまま踏み込み、俺もそのあとに続く。
  
「やだ! やめて! 泪さん! 圭輔さん! 助けて!!」
「助けは来ない。諦めて、俺だけのモノになれ!」
「いや……いやああぁぁぁっっ!!!」

 ――それだけで充分だった。「おい!」という制止の言葉を振り切って声のするほうへ走ると、扉を開いて目を見張る。圭は手を縛られてベッドにくくりつけられ、男は圭の胸に顔を埋めて片方は乳首を挟んで揉んでおり、もう片方は吸っているのかちゅうっと音が聞こえた。スカートは捲り上げられ、片手は圭の下着の中に入っていた。圭の顔を見ると、何かに耐えるように目を瞑り、泣いている。

 ――ブツリ、と何かが切れた。

 足を思い切り上げて男の脇腹を蹴り上げると、すごい勢いでベッドから落ちた。痛いのか脇腹を押さえながら踞っている。圭をちらりと見ると鎖骨から胸にかけてキスマークがつけられ、先ほどまで舐められていた乳首は濡れていた。

「てめえっ! 俺の妻に何しやがる!!」

 そう怒鳴ると男は顔を上げて呆然としながらも目をゆっくりと見開いたので睨み付ける。急いでジャケットを脱いであらわになっていた圭の胸を隠すと、圭はポロポロと涙を溢し始めた。

「間に合った?!」
「泪……さ……うん……うん……っ!」

 間に合わなかったのかと思って不安になりながらもそう聞くと、圭は頷いたのでホッとする。
 ネクタイを外して手が自由になると、圭は腕を伸ばしてきた。その手を掴んで引き寄せるとそのまま強く抱き締め、圭を抱き上げる。身体の向きを変えると少しだけ目を泳がせた前嶋の鋭い目と二人の警察官がいた。

「あとをお願い」
 
 そう言ってそのまま歩き出したのだが、圭を見た矢島がすれ違いざまに「下に婦人警官がいますのでお話を」と言って動きだしたので、そのまま扉をくぐり抜け、玄関を出た。

「拉致監禁と婦女暴行の現行犯で逮捕します」
「婦女暴行?! 違うっ! 俺は…………」

 扉が閉まる瞬間そんな言葉が聞こえたが自業自得だろうがと吐き捨てたいのを我慢し、一秒でも圭をこんなところに居させなくないと思い、急いでエレベーターのほうへ歩いて行った。


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