オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

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圭視点

Confession

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「お圭ちゃん、小田桐に行って、お義父さんにこれを渡して来てくれる?」
「それはなんでしょうか?」
「会食の場所。これはファックスを流すわけには行かないから」
「確かに」

 充さんに遭遇してから三日がたった。
 あのあとデートする気分にはなれず、喫茶店でどうしようかと泪と相談した。

「だったら瑠璃姉さんの店に用事があるから、寄ってくれる? そのあと直哉の店で食事して帰りましょう。それくらいのデートならいいでしょ?」

 ちょうどお腹も空いていたのでそれくらいならと泪にくっついて喫茶店をあとにし、瑠璃の店に寄ったあとで(従業員の人にすごい勢いで感謝された)、直哉の店での食事中に会食の話を聞かされたのだ。

「それでは行って参ります」
「うん、よろしく。あ、二時くらいまでに戻って来てね。そのあと作ってほしい書類があるから」
「どのような書類でしょうか?」
「ラテン語と英語の書類。お圭ちゃんが戻って来るまでに必要な書類を用意しておくから」
「畏まりました。では行って参ります」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい。あと……」
「ブレスレットはしてますから! それでは」
「……」

 泪の言葉を遮って事務所をあとにするとエントランスへ向かう。電車で行こうと思って外に出ると「出かけるのか?」と声をかけられた。声のしたほうを向くと前嶋が車に寄りかかっていた。

「あれ、圭……前嶋さん」
「以前のように圭輔で構わん」

 圭輔お兄ちゃんと言いかけて前嶋さんと呼ぶと苦笑された。けれど昔みたいにお兄ちゃんと呼ぶわけにもいかないので、圭輔さんと呼ぶことにした。

「で? 圭は出かけるのか?」
「はい。泪さんのお使いで、小田桐にいる父のところに行くんです」
「じゃあ、一緒に行くよ」
「え? でも、忙しいのでは……」
「社長も瑠香さんも出張に行ってるから、今日は暇なんだよ、俺」

 前嶋の言葉にそう言えば……と思い出す。社長と副社長は今朝からそれぞれの秘書と出張に出かけており、帰社予定が二日後になると泪から聞かされていた。

「ではお願いします。お土産を買いたいので、途中でどこかに寄っていただけますか?」
「いいよ」

 前嶋に促されて車に乗り込む。シートベルトをすると、車はすぐに発車した。


 ***


「美香さん、美樹さん、お久しぶりです。お父……在沢室長はおられますか?」
「「圭?!」」

 小田桐についてエントランスを覗くと、受付には年上の同僚二人が座っていた。受付に近付いて声をかけると、嬉しそうな顔をして出迎えてくれた。

「久しぶり! 元気だった?!」
「はい、お陰様で」

 笑顔でそう答えると、二人にぽかんとした顔をされた。

「あの……?」
「……あんたの笑顔なんて、久しぶりにみたわ……。それに、なんだか感じが変わったわね。良いことでもあったの?」
「ほんと。なんか綺麗になった気がするわ」
「……」

 二人の言葉に顔が熱くなってくる。案の定突っ込まれた。

「あら、真っ赤になっちゃって……可愛い!」
「ほんと! それで? どうなの?」
「えっと、あの……ここではちょっと……」
「仕方ない……わかった。あ、在沢室長よね? ちょっと待って、在室か確認するわ」

 大橋はそう言うが早いか、さっさと秘書課に確認を入れてくれた。

「『待ってる』だって。じゃあ行きましょうか。美樹、先に行って来るから、あとをお願いね」
「はーい、行ってらっしゃい。美香、あとで教えてね?」
「え? ちょっ?!」
「了解。ちょうどお昼交代なのよ。時間があるなら一緒に食事くらいしたいわ。圭とは滅多に一緒にならないんだもの、たまにはいいでしょ?」
「もう……相変わらずですね」

 苦笑すると、残った受付嬢――相良さがら 美樹みきに「受付の皆さんで召し上がってください」とお土産の紙袋を渡し、大橋と一緒に歩き出す。

「で? 何があったの?」

 エレベーターに乗った途端に大橋がそう聞いて来たので、恋人ができたこととその人と籍を入れたことを話すと、「えええええっ?!」とものすごい勢いで驚かれた。

「いつの間に?! それでなに? 室長にその報告?」
「違いますよ。それに、室長は知っています」
「ああ、それはそうよね。なるほど……だから最近、在沢室長の機嫌がいいのね」

 何だか納得ー、と、大橋は一人で頷いている。

「それでね、美香さん、あの……」

 できれば黙っていてほしいのですがと話すと怒られた。

「ダメよ、圭。きちんと言わないと、小田桐ここに来るたびに食事だのなんだのって誘われるわよ?」
「それは困ります……」
「でしょ? それに、指輪は? してるんでしょ?」
「はい」
「だったら尚更よ。目敏い奴はすぐに気づくから、今のうちに言っちゃった方がいいわよ?」

  そう言われて押し黙る。それは泪にも言われていることだった。

『お圭ちゃんはアタシのものなんだからね? もちろん逆も然りでアタシはお圭ちゃんのものよ。だからお圭ちゃんも指輪は外しちゃダメよ? アタシも指輪は外さないから』

 私は指輪を外すつもりは毛頭ない。ないけれど……。

「恥ずかしがらないの。それに、恥ずかしいことじゃないんだから、堂々としてなさい」

 どうしてわかったのだろうと不思議に思いつつも、「はい」と返事をする。

「ん、よろしい。じゃあ、先に食堂行って席を取っとくね。何か食べたいものはある?」
「久しぶりに、サンドイッチセットが食べたいです」

 そう言うと大橋は了解、と言って小さく手を振り、食堂のほうへ歩いて行った。そのサンドイッチはたまごサンド、ツナサンド、豚カツサンド、ハムチーズサンドとサラダ、コーヒーがセットになっているもので、サンドイッチは小さめに切られてきるから食べやすいものだった。
 お弁当を忘れたり、それが食べたくてわざと持って来ない日もあったくらい、そのセットが好きだった。

 秘書課の扉から少しだけ顔を覗かせて中の様子を窺うと、自分の席に座ってそわそわしている父が目に入る。他には葎と三島がいるだけで、他の人は出払っているようだった。できれば葎には会いたくはなかったけれど、いるなら仕方がない。小さく溜息をついて扉をノックし、「こんにちは」と声をかけて中に入る。

「圭! 待ってたぞ!」
「申し訳ありません、とう……在沢室長。穂積専務から預かった書類をお持ちいたしました」
「在沢?! 久しぶり!」
「け……在沢さん?!」
「三島さんも羽多野君もお久しぶりです」

 驚いた顔をして私を見た二人にそう言うと、父は席を立って応接場所のソファーに座るよう促された。言われるがままに父の前に座って書類の入った封筒と、「秘書課の皆さんでどうぞ」とお土産の紙袋も一緒に渡す。

「ありがとう。圭、コーヒーでいいか?」
「あ、いえ。これから美香さんと食事をするので」
「どこで?」
「食堂です」
「なら、書類を読んでいる間に久しぶりにコーヒーを淹れてくれ。それくらいの時間はあるだろ?」
「畏まりました。三島さんも羽多野君も飲みますか?」
「「是非!」」

 二人の嬉々とした返事を聞いて席を立ち、給湯室に向かおうとすると「手伝います」と葎がついて来た。

「あの、さ……」

 給湯室に入ってコーヒーの用意をし、コーヒーメーカーのスイッチを入れると葎が遠慮がちに話かけて来た。

「なんでしょうか」
「あのUSBの中身だけどさ……勉強したよ」
「……」
「まさか、あんなことになってるなんて知らなくて……。その……僕の独り善がりだった。ごめ……」
「葎」

 葎の言葉を遮って向き直り、顔を見上げる。名前を呼ばれたからか、驚いた顔をしている。

「もう終わったことです。過去には戻れない。そして葎が私にしたことも、あの人たちが私にしたことも、許すことはできない……それはわかりますよね?」
「……うん」
「できることなら、二度と関わってほしくない。でも、職場にいる以上関わらないわけにはいかない」
「……うん」
「許すことはできないけれど……でも、仕事を認めることはできる」
「……っ」

 右手を上げ、葎の左頬をピタピタと軽く叩く。事故にあう前……少なかったものの、まだそれなりに葎と会話をしていたころによくやった仕草をすると、葎の顔が泣きそうな顔に歪んだ。

「まだまだ半人前ですから、今すぐ認めるわけには行きませんが……」
「わかってる。追いつけるように努力、する」
「……」
「姉弟じゃなくても……赤の他人でもいいから、せめて、同僚でいさせて……っ」

 葎はぎゅっと私に抱きつき、小さな声で「ごめん」と言って一歩引くと、カップの用意を始めた。ちょうどコーヒーが落ちきったので、葎が用意したカップにコーヒーを入れて持って行こうとすると止められた。

「あとは僕がやるから。先輩に持って行かせるわけには行かないでしょ?」

 葎はそう言って、コーヒーを持って秘書課に行ったので、私は後片付けをする。

 正直、まだ許すことはできない。でも、仕事くらいは認めてあげたい……きちんと仕事をこなしている葎を知っているから。

(泪さんなら『甘過ぎる』っていうかな……それとも『それくらいなら』って言うかな……)

 帰ったら聞いてみようと一人ごち、給湯室をあとにして秘書課に戻るとまた父の前に座ったのだけれど、座った途端、三島と葎が寄って来た。

「圭、専務に『わかった』と伝えてくれ」
「畏まりました」

 封筒を受け取って鞄にしまうと、三島の「在沢……その指輪……」と焦ったような声がしたのだけれど、父がそれを遮った。

「圭、大橋が待ってるんだろ? 行っていいぞ」

 その言葉に甘えて返事をし、立ち上がる。「俺が言ってもいいか?」と父が聞いたので「構いません。では失礼します」と秘書課を出る。食堂のほうに向かった途端、「えええええっ?!」という、三島と葎の声が私のほうまで届いた。


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