オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

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圭視点

Admiral

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 休み明け。先週末と同じように、時々泪に頼まれる仕事をしつつ、棚整理を進めて行くのだけれど、ふとしたことで昨夜泪に言われた言葉の意味を考えてしまう。

『早く自覚してね』

 何を自覚しろというのだろう? それがさっぱりわからない。
 溜息をついて悶々とした気分に囚われつつも、今は仕事中! と頭を切り替える。そしてまた黙々と棚整理を始め、また考える……ということを繰り返し、それでもなんとか週末までに二列ぶんを終わらせた。
 週末は泪に言われた通り、例のオカマバー(泪が道楽で始めた店と教わった)に行った。今日はここでカクテルの作り方を教えることになっている。

「アキちゃんさん、こんにちは」
「あら~、いらっしゃい! この間はありがとね~♪」

 店の前で待っていたアキちゃんにむぎゅーっと抱擁され、ぶちゅーっと頬にキスを落とされた。

「ちょっと、アキちゃん! お圭ちゃんはアタシのよ! 気安く触んないでちょうだい!」
「『アタシの』、って……。男を好いてナンボのオカマにあるまじきセリフね、泪ちゃん」
「はあ? 何言ってんのよ、アキちゃん! アンタと一緒にしないでちょうだい! アタシは至ってノーマルなの!」
「あー、はいはい。泪ちゃんはどうでもいいわ。今は恩人優先! それに、ハグくらいいいじゃないの! ねー?」
「『ねー』、と言われてましても……」

 アタシを軽くあしらって無視すんじゃないわよー! と叫ぶ泪をあしらうアキちゃんはすごい、と思ってしまった。
 開店前のせいか、ジーンズにTシャツ姿のアキちゃんは、ぱっと見は細マッチョなイケメン風である。通り過ぎて行く女性たちは皆二人の顔をみて目をハートにするのだけれど、如何せん言葉がオネエなせいで、一様にがっかりして歩き去るのだ。その人の個性だと思えば、別にいいと思うんだけれど。
 それはともかく、なぜかアキちゃんはいまだにハグを解かない。訝しげに見上げるとにこりと笑うだけで、手を緩める気配は全くなかった。
 いい加減苦しくなって来たので、身体を捩ろうするけれど、オカマとはいえさすがは男。全く動かない。

「アキちゃんさん、そろそろ苦しいんで離して……」

 くださいと続けようとして後ろから伸びてきた腕に絡めとられ、そのままぐっと抱き寄せられた。見上げると泪だったので、そのまま力を抜いて寄りかかる。

「あら、残念。柔らかくて気持ちよかったのに……」
「アキちゃん!」
「冗談よ!」

 一触即発な雰囲気にアキちゃんはウフッ、と笑ってシナを作り、手をお店のほうへと向けた。

「さあ入って。皆揃ってるから」

 どうぞと言って店の中へ案内してくれた。中にはたくさんのオネエさんたちがいた。ある意味壮観である。

「道具はこれでいい?」

 カウンターに案内され、そう聞かれてざっと見るときちんと揃っていたので、「大丈夫です」と答える。

「おうちレシピだけでいいですか?」

 そう聞くと「一応シェイカーの振り方も」と言われたので頷く。

「では……いいタイミングでジャズが流れていますし、『Admiral』にしましょうか」

 そう言ってグラスを用意し、材料を量ってシェイカーに入れていく。ふと思いついたように、アキちゃんが「『Admiral』ってなあに?」と聞いて来た。
 蓋をし、シェイカーを持つと、ゆっくりと八の字を描くように腕を振る。

「格式高いカーネギーホールにスィング・ジャズを持ち込んで、歴史的な演奏を行ったペニー・グッドマンというシンガーが雑誌の依頼で考案したカクテル、と言われています。まぁ、ジャズ好きのためのカクテルですね」

 シェイクが終わったので蓋を取り、グラスに注ぐと音も立てずにアキちゃんの前にスッ、とグラスを滑らせる。

「どうぞ。本来はレモンピールを絞るんですが、今はないみたいなので、今は目を瞑ってください」
「鮮やか……」
「お褒めに与り、光栄でございます」

 わざと時代がかった言い回しをし、道具をさっさと片付ける。泪の顔を見ると、ぽかん、としていた。

「これほどとは思ってなかったわ……家に道具あったわよね? 今度家で作ってね?」
「いいですよ。リクエストしてください」
「……その言葉、忘れないでね?」

 絞り出すような泪の言葉に、きょとんと首を傾げつつも、「わかりました」と頷いた。
 お店の従業員にシェイカーはどうやって振るのと聞かれ、あれこれきちんと説明する。どうしてもシェイカーが振れないのであればお店にあるお酒で作れて、尚且つシェイカーが無くても簡単に作れる「おうちレシピ」があるからと、それをたくさん教えた。
 人気だったのは焼酎や日本酒を使ったカクテルで、その中でも柚子茶を使ったホットカクテルは、「今の季節にぴったり!」とアキちゃんを喜ばせていた。

 その日はそのままとんぼ返りで自宅に帰り、着いたころには既に深夜近かった。
 近隣に迷惑はかからないものの、「遅い時間だから一緒に入ったほうが経済的」と押しきられてしまい、結局また一緒にお風呂に入ることになってしまった。先日と同じように体を洗われ、同じように膝に乗せられ、愛撫された。
 けれど、ベッドに連れて行かれた途端、まるで箍が外れたかのように、泪が満足するまで胸の愛撫で何度もイかされて股間を弄り倒された。
 翌日も朝から愛撫されたものの、憑き物が落ちたかのようにゆっくりと緩やかに、まるで私の身体に教え込むような愛撫をされた。

 週明けは泪の専属秘書という肩書き上、泪にくっついて穂積本社での仕事をこなしたり、一緒に出張に行ったり、泪の事務所で棚整理をしたり。週末は泪に愛撫を施されたり商店街へ買い物に行ったりということを繰り返していた。
 泪の書斎の棚整理も終わり、事務所の皆にも慣れ、私でもだいぶ無表情が解れつつあるなあと自覚しはじめたころ。
 なんだかんだとあと二週間でクリスマスが迫って来たある日。

「泪! 会いたかった……!」
「……里奈りな……?」

 困惑顔の泪を尻目にその女性は事務所に入って来るなり泪を見つけ、背中まである緩やかにウェーブしている髪を弾ませながら泪に抱きつき、そう呟いた。


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