オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

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泪視点

Amour

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 これから行く商店街は子供の頃から入り浸ってる商店街で、あのビルを買い取り、最上階をペントハウスや事務所にした時にもここの商店街でいろいろ買い揃えた。それほどに愛着のある商店で、人情あふれるこの場所が好きだった。だからこそ、売りに出されたこのビルを買ったとも言える。
 まだ伝えてはいないが、圭に俺の育った場所を見てほしくて、案内がてら商店街へ出向く。近くにスーパーがあるわけではないので、買い物はもっぱらここになる。二人で手を繋いで買い物をする……そう想像するだけで、楽しくなる。買い物をしたあと圭の手料理を食べ、最後はデザートに圭を食べる。

(ああん……早くそこまでこぎ着けたいわ!)

 そんな自身の妄想はさておき、どこに向かっているのか分からないといった顔の圭に気づく。

「なあに? ああ、先に布団買いに行くわよ! 洋服は知り合いんとこに行くから何の問題もなし!」

 そう伝えると、圭が慌てる。

「おおありです! 布団はともかく、洋服くらい自分で買います!」
「……圭? アタシの言うこと聞かないと……」
「う……」

 からかうためにわざと声を低くすると、何を言われるのか分からず、内心ビクビクしている圭を見る。

「……その顔もそそるわね」

 と額にキスをする。あたふたしながら真っ赤になった圭は、なんとも可愛い。
 本気で怖がることはしないと言うと、人の話は聞いてないと言われてしまった。あちゃーと思いつつ、これはこれで楽しいといろいろな話をする。どこに向かっているのかわからないといった顔の圭に、商店街に向かっていると答えると、どうしてわかるのか不思議そうな顔をした。

「アンタ、無表情のわりに目が語ってるのよ。よく見ないとわからないんだけどね」

 と、ふふんと笑った。そう……無表情なのに、不思議と圭の考えていることがわかる。

 圭の歩調に合わせ、ビルから歩いて二本目の路地を曲がると、自分のテリトリーである昔ながらの商店街だ。
 布団屋に入って声をかけると馴染みの顔が出て来て、嬉しそうに声をかけて来た。一組のつもりの布団一式を二組の羽毛にし、一組は自分用のダブルにしてと頼み、その他に毛布やリネン類も頼む。

「うちは助かるけどね。……あら、初めまして。ちょっと泪ちゃん、とうとうロリコンに走ったの?」

 挨拶代わりに頭を下げた圭を見たおばちゃんがとんでもないことを言い、慌てる。二十六であることと出来立てホヤホヤの恋人であることを告げるも、納得していない顔だった。さらにとんでもないことを圭に聞くおばちゃん。

「別に違和感はないですよ? 言葉遣いはアレですけれど、泪さんはちゃんとした男の人ですし」

 そう答えた圭の顔はいつもの無表情ではなく、柔らかく微笑んだ……照れ笑いの顔だった。言葉に関係なく俺を男と認める圭。それが嬉しくて……そんな顔を引き出したのが俺自身だと思うと尚更嬉しくて。

 嬉しさのあまり、思わず抱き締める。

 恥ずかしいのか、嫌がる圭を無視して「あーん、もう! お圭ちゃんてば、そんな顔もできるのね!」と離さない。なぜならいいい具合に腕に柔らかい感触が当たるからだ。「エプロンが見たい」と言う圭の言葉にしぶしぶ離れた。
 エプロンを前に悩む圭を見ていると「良い娘を見つけたね」とおばちゃんに言われる。心の底から大事にしたいコなのと伝えると、おばちゃんは「頑張んな!」と励ましてくれた。

 選び終わったのか、エプロンを二枚持っておばちゃんにそれを渡している。「出すわよ」と言ったのだが圭は頑として譲らなかった。
 そのあとコーヒーショップに寄って豆や紅茶の茶葉、柚子茶を買う。柚子茶は作れると言う圭に自分たち用のだけでいいと告げ、そのままビルの二軒隣にある姉のブティックに行くと、ひきつり顔の圭の背中を押し、店に入る。

「いらっしゃ……あら?! 泪! 久しぶりね!」

 抱き付いて来る店員――姉の瑠香を鬱陶しいと思いつつ、「久しぶり」と抱き止める。ちらりと圭を見ると、悲しそうな顔をしていた。

(もしかして……嫉妬、したの?)

 そんなことを考えているうちにそのまま視線を反らしてゆっくり歩きながら服を見ている圭を見て、なんとなく嬉しく思う。

「あら、珍しい目をしているのね。泪、あの娘は?」
「詳しいことはそのうち話すけど、出来立てホヤホヤのアタシの恋人。ご覧の通り足が悪くてね。パンツスーツばかりの彼女にスカートを履かせたいんだけど」
「ふうん?」
「あと、ブラもサイズが合ってないみたいで……ここなら下着も置いてるでしょ? だから見てほしくて」

 ブラウスのタグを見て固まった圭に、姉は「どれ」と言って圭の側に寄り、胸や肩などまだ俺ですら触っていない場所を触る。「ひゃっ?!」とあげた声に俺があげさせるつもりだったのに……と姉に嫉妬する。

「あら、本当にアンバランスね……ブラのサイズも合ってないみたいだし……」
「でしょ?」
「あああ、あの?!」

 混乱しているらしい圭を無視して話す。服はいいが、さすがにこのサイズのブラはないと言う姉に、嬉しい反面どうしようと考える。

「いっそのことオーダーメイドにする? 他ならぬ泪の頼みだもの、頑張ってデザインするわよ。希望のデザインある?」

 姉がそんな提案をしてくれた。これ幸いと「フロントホックにしてくれたら、あとは任せるわ」と完全に任せ、頼まれた店じまいをしたあと圭のための服を選び、「ブラウス脱いで」との姉の声にそろそろね……といそいそと服を持って奥の扉を開けようとして鍵をかけられた。

「ちょっと、なんで鍵をかけてんの?! アタシも入れなさいよ!」
「はあ? 泪、何言ってんの? いくらオネエ言葉使ってたって、アンタはオトコなのよ! こればっかりはダメ! 今は我慢しなさい!」
「ええっ?! ……アタシがお圭ちゃんの胸を持ち上げようとしたのに……!」

 そう。持ち上げ、どさくさに紛れて今朝のように揉むつもりだったのだ。

「アンタはこれから先、いくらでも持ち上げる機会はあるでしょ?!」

 今は我慢しなさいと姉に怒られ、「アタシが全ての初体験もらう筈だったのに……」と拗ねた。仕方がないので扉の前に座り込み、中の会話を聞く。時々話が聞こえづらいが、さすがに「うわぁ……思った以上に重いですね」との言葉に反応してしまった。しかも、「なんて、もちもちしててすべすべな肌なの……」という言葉にも。

「こんなのがあるとは思えないわよね」
「そうなんです!」
「しかも、この白さ!」
「「たまんない!」」

 はしゃぐ姉たちに、ギリギリを奥歯を噛む。

って何?!)

 そう思いつつも三人の言葉に我慢の限界を超えた。

「ちょっと! アンタたちズルいわよ?! それはアタシのモノよ! アタシだってまだ見てないし、じかに触ってないのよ?! そんな実況中継はいいから、アタシも中に入れなさいよ!」

 そう訴えると何だかんだと鍵を開けてくれた。

(圭の胸はアタシが持ち上げるのー!)

 嬉々としながら満面の笑みでドアを開け……姉に騙されたことを知ってガックリと項垂れた。
 選んだ洋服にダメ出しをされ、圭に「お姉さん?!」と突っ込まれてから「あら、言わなかったかしら?」と姉とハモった。オネエ言葉は家族の影響だと言うと「女嫌いだと思ってた」と二人の店員に誤解されていたこともわかり、またもや項垂れる。
 サイズを直して明日届けてくれと姉に頼み、店を出たあと純和風が食べたいと圭に頼んで、一旦ペントハウスに戻る。そして、圭にキッチンのダメ出しをされ、キッチンを掃除するまではここでは作らないと雷を落とされてしまい、帰ると言う圭に妄想が過ぎて罰が当たったかしら、と落ち込む。
 明日迎えに行くからと圭を送り、車の中で「強引に進めたアタシが言うのもナンだけどね……」と前置きをしてから本当にいいのか聞くと、圭がこちらを見た。
 敢えて素直じゃない反応を返して来た圭にまぁいっかと布団屋でのことを思い出して少し浮上し、着いた場所が小田桐に近いことに驚く。持ち帰るものがあれば持って帰ると強引に彼女の部屋に行き、炬燵に案内されて座ると「インスタントですみません」とコーヒーが出て来た。
 圭が支度をしている間に、さっと部屋を眺める。良く言えば片付いている、悪く言えば殺風景な部屋だった。小さな食器棚には食器やカップ、ティーポットなどのセット、茶葉の缶が数種類入っている。別の場所にはサイフォンなども置いてあった。

「これだけお願いします」

 そう言って少し大きめの紙袋を渡された。鍋はどうするのか問うと、買い替えようと思っていたからいらないという。そしてついでとばかりに他に持って行くものも聞いてみた。

「せいぜい、コーヒー豆と茶葉、炬燵、サイフォンやティーポットやセット、食器、クローゼットに入っている服くらいです」

 そう言いながら冷蔵庫や冷凍庫を開けて行くが、冷凍庫に何かあったのか「泪さん、これ、食べますか?」とタッパに入ったものと、ラップにくるまれたおにぎりを見せてくれた。中身は何かを聞くと、焼きおにぎりと純和風のお弁当用に作ったお惣菜だと言うので手を出すものの、キッチンの掃除が条件だと渡してくれない。
 ずっと作ってくれないのも嫌なのできちんと掃除することを約束し、できなかったところは手伝ってほしいと言うと承諾してくれた。帰ったら頑張って掃除しようと決め、明日に備えて今日は帰ることにした。
 下まで一緒に来て見送ってくれる圭に「じゃあね。明日、九時に来るから」と運転席の窓を開け、手をあげる。

(恋人になったんだし、いいわよね?)

 引っかかるわけないかと思いつつも「助手席に忘れ物!」とベタなことを言うと、運転席側から助手席を覗こうとした。
 まさか、本当に引っかかると思ってなかった圭に驚いた。

「……こんな簡単な手に引っかかっちゃうのね」

 苦笑し、手を伸ばして後頭部を触ってグッと引き寄せ、唇にキスをする。

「あ、の……え?」
「ファーストキス、いただき♪」

 戸惑う圭にそう言うと、暗がりでもわかるほど真っ赤になっていく圭に、愛しさが込み上げる。

「恋人になったんだから、これくらいはいいでしょ? ちゃんとしたキスは……」

 ――あの部屋で教えて、ア・ゲ・ル・♪

 目を見てそう囁き、もう一度チュッ、と少し長めのキスをした。
 名残惜しいが、明日も会えるからと唇と手を離した。

「また明日。おやすみ」
「あ……お、おやすみ、なさい」

 圭の挨拶を聞いてから窓を閉め、ゆっくりと車を走らせる。道路に出る直前で確認を装い車を停めると、圭がフラフラとした足取りでマンションの中に入るのが見えた。

「また、やり過ぎちゃったかしら?」

 一人ごちたものの、嫌がる素振りは見えなかったので、上機嫌でペントハウスに戻る。
 圭にもらった食料をレンジに入れて温め、やっぱり美味しいとあっという間に完食してしまった。

 お腹が落ち着くまでまったりすると、仮眠室に置いてあった予備の洗剤とスポンジを取り出して自宅のキッチンに戻り、ここに立って料理をする彼女に悪戯をする幸せな妄想をしながら、できるだけキッチンを片付け、明日の引越しのためにさっさと眠りについた。


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