オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

文字の大きさ
上 下
23 / 155
圭視点

Blue Monday

しおりを挟む
「お待たせ。行きましょうか」

 仕事場となるであろう場所からの眺めを堪能していると、着替え終わったのか、穂積がそう声をかけて来た。
 黒い細身のジーパンに、同色のVネックのセーターはカシミヤのようだった。洗ったのか、髪はオールバックではなく、オカマバーで会った時のようにサラサラだった。

「はい」
「あ、お圭ちゃん、その前に」
「何でしょうか? 専務」
「……」
「あ……る、泪さん」

 名前で呼べと言われたことを思い出し、名前で呼ぶとニコッと微笑まれた。

「出かける前に、目を戻してちょうだい。あと眼鏡も」
「……目はともかく、初めて歩く場所は、眼鏡がないと不安なんですが……」
「アタシがいるんだから、大丈夫」
「……わかりました」

 強引だなあと思いつつも持っていたバックから眼鏡ケースとコンタクトケースなどを出し、洗面所を借りてカラーコンタクトを外すと、それぞれに入れる。

「うん、やっぱりこうでなきゃ」

 私の様子をずっと見ていた泪にいきなり顎をとられて、目を覗かれる。彼のその相貌は、綺麗な黒。それに呆然と見惚れていると不意に視線を外され、同時に顎も自由になった。

「……さあ、行くわよ」

 返事をする間もなく手を掴まれ、ペントハウスを抜け出して地下の駐車場に連れて行かれる。

「さて、どうしようかしら……アタシたちは家電製品よね?」
「あの……近くに量販店がありましたよね?」

 ペントハウスから見えた看板を思い出しながら告げると「あったわね」という答えが返って来た。

「どうせなら、そこまで歩いて行きませんか? あ……ゆっくり歩くのが嫌なら車でも……」
「歩いて行きたいのはやまやまだけど、今すぐ使う家電製品を大量に買った場合、その荷物はどうやって持って帰ってくるの?」
「あ……」

 泪に指摘されて、そのことに思い至った。しまった、すっかり忘れていた。

「歩いて行くのはいつでもいけるから。また足りないのが出たら行きましょう。ね?」
「……はい」
「じゃあ、出発ー!」

 今日はこれで行くわとシルバー色の車を触る。車の名前を聞いたら、「シトロエンの5ドアよ」と言われたのだけれど、詳しくない私にはよくわからなかった。
 なぜか上機嫌な泪を横目に見ながら、「何を買うんですか?」と問う。

「さっきも言ったけど、パソコンも含めて、電化製品全部一新しようと思うの。まあ、パソコンは本社に頼んだけどね」
「全部、ですか?!」
「そうよ。中には古かったり壊れたのもあったりするのよね、実は」
「……よく今まで平気でしたね……」
「アンタが言わなきゃ、ずっとあのままだったわよ? そういう意味ではアンタに感謝ね。アレは強烈だったけど」
「あ、あれは!」

 クスクス笑う泪に膨れっ面をする。

「何回か別の人を雇って綺麗にしようとしたんだけどね……五分で匙投げられちゃった」
「あははは……」

 あの状態では当然である。話している間に着いたので、車を降りて売り場に行く。車を降りた途端、私の手を握る泪に驚いて目を向けると、やはり上機嫌だった。
 買うものは大型冷蔵庫、コーヒーメーカー二台、ポット二台、電子レンジ、掃除機、そしていつの間にか追加されていた洗濯機。

「あの……せ……泪さん」
「なあに?」
「冷蔵庫とレンジは何に使うんですか……? あと洗濯機も……」
「え? 一新するって言ったでしょ? レンジはアタシの仕事場のと交換。ちなみに、冷蔵庫と洗濯機は私物で、もちろん会計は別にしてもらうわ。……こんなものかしら?」

 後ろに店員を従え、あれこれ指示を出して行く泪に呆気にとられていたのだけれど、どうせならと一つ提案をしてみることにした。

「あの……コーヒーメーカーなんですが……」
「なあに?」
「どうせなら、一台はサイフォンにしませんか?」
「さすがのアタシでも、サイフォンは使ったことないわよ?」
「私が使えますから、大丈夫です」

 私の言葉に唖然とした顔を向ける泪。

「……お圭ちゃん……アンタ拘るのが好きなの?」
「はい?」
「あら、違うのかしら……まぁいいわ。すみません、サイフォンは置いてある?」

 泪の質問に、店員は「こちらにございます」と案内してくれた。
 そんなこんなで買い物を済ませてサイフォンと掃除機は持ち帰ることにし、それ以外は夕方運んでくれるとのことだったので、二つだけ持って帰ることにした。
 ――そして量販店の駐車場に戻るまで、泪はずっと私の手を握っていてくれた。なぜかそれが嬉しかった。

 事務所に戻ると、仮眠室に大量の買い物が置いてあった。私たちとほぼ同時に帰って来たらしい。
 まずは仮眠室の窓を開け放って空気の入れ換えをすると、給湯室を片付け始める。ちょうど帰るところだったのか、「帰っていい」と言われていた人たちがいたので、要るものと要らないものを聞き、要らないものをどんどん捨て、片付けていく。

「ふ……ふふふ……やりがいがありますね……」

 ブツブツ言いながら綺麗にすること三十分。泪に手伝ってもらいたかったけれど、彼は忙しそうに仕事をしていたので諦めた。
 買って来てもらった物の中からカップを出し、給湯室に持って行って洗って伏せておく。そこにサイフォンを置いて、持っていたコーヒー豆を使ってゆっくりとコーヒーを落としていく。
 待っている間に応接室を掃除し、仮眠室も簡単に掃除し、時間を見計らって給湯室に戻る。いいタイミングでできたので、まずは泪のところへ持って行った。

「どうぞ」
「ありがとう。いただくわ」

 コーヒーの味の答えを聞かずにその場をあとにし、掃除の続きを始めた。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...