オカマ上司の恋人【R18】

饕餮

文字の大きさ
上 下
3 / 155
圭視点

Black Russian

しおりを挟む
「やっと見つけた!」

 三日後の昼休み。他部署である営業部にいる同期二人と昼食後のコーヒーブレイク中のことだった。昼休みも終わりに近いからか、食堂にいる社員はほとんどいなかった。
 誰かにそう声をかけられ、声のした方へ振り向くと困り顔の葎がいた。

「わお、圭と同じ顔!」
「圭と似てるが、微妙に違うぞ?」
「え?」
「あっちのほうが美人だ」
「あら、ホントね」
「……本当のこととはいえ、真葵さんも智さんも何気にひどいですよね……」
「「でも、圭のほうが可愛いけど」」

 面白がるような、からかうような素振りで話をふられ、危うく噴きそうになり、一瞬むせる。

「ごほっ! ちょっと! どこをどう見たら、こんな太っちょチビ眼鏡を可愛いだなんて言うんですか!」
「「そういうところ」」

 二人同時に同じことを言われたのだけれど。

(……似た者夫婦め!)

 まあ、内心ではちゃっかり毒づいていたりする。
 美作みまさか 真葵まき河野こうの 智の二人は、四つ年上の同期である。何かにつけて、私を構い倒す。社内恋愛OKな環境であるせいか二人は最近結婚を前提に付き合い始めたはいいが、なぜかまだ社内には内緒にしている。

「……圭、コイツらなに?」

 邪魔をされたせいなのか、不機嫌そうに話しかけて来た葎の言葉に、二人の視線が鋭くなる。

「圭、同じ顔したこのくそ生意気な新人ボウヤは誰? 」

 滅多に怒らない真葵が、珍しく怒っているような声音で私に尋ねる。それを溜息混じりで話す。

「……石川さんから聞いていませんか? 例の、他人の空似の羽多野 葎君です。羽多野君、こちらの二人は、四つ年上の私の同期です」
「つまり、お前の先輩」

 納得! という顔をした智が不機嫌そうに、冷たくそう呟く。

「……っ」
「厳密に言えば、圭もアンタの先輩だってこと、わかってるのかしら?」

 追い討ちをかけるように、真葵がそう呟く。そして腕時計を見た智が声をかけた。

「おっと、そろそろ時間だ。真葵、圭、行くぞ」
「りょーかい」
「あ、先に行っててください。忘れ物をしました」

 葎の存在そのものを綺麗に無視した二人に感心しつつも先に行くように促し、私はペットボトルのお茶を買うべく自販機まで行こうとして、またもや葎に手を掴まれた。

「圭、待って! 父さんと母さんが心配してるんだ! 家に連絡して!」
「……もう貴方の嘘には騙されませんよ。あの二人が心配している? あり得ないですね」
「嘘じゃない!」

 葎に握られていた手を強引に引き離す。

「今まで何の音沙汰も無かったのにですか? ふふっ! 笑ってしまいますね」
「圭! ホントなんだ! 連絡先もわからな……」
「知っていますよ?」
「え?」
「あの二人は、一応私の住所や連絡先を知っていますよ? 尤も、高校の寮の住所ですが」
「……えっ?!」

 ふぅと息を吐き、頭一つ半ほど高い葎の顔を見上げて睨み付る。

「今までさんざん『お前はいらない』だの『産むんじゃなかった』だの言われ、無視され続けてきたんです……今更心配? あり得ないですね」
「け、い、……?」
「貴方は周囲に嘘をついて親も友達も私から遠ざけ、愛情もたっぷり親から注がれ、ほしい物は全て買ってもらっていましたよね?」
「――っ!」

 私の指摘に対し、葎が息を呑む。私が知らないと思っていたのだろうか。

「知らないと思ってましたか? わからないと思ってましたか? ホント、滑稽すぎて笑ってしまいますね!」
「圭、違うんだ……!」
「何がどう違うと? 寮に入り、さらに高校生の時からバイトをしてる私と違って、何から何まで親の脛をかじって遊んで来たのでしょう?」
「寮に、バイト?! じゃあ、あのころずっと家にいなかったのは……」

 葎は、キュッと眉間に皺をよせ、何かに耐えるように俯く。
 怒りを鎮めるように一呼吸おき、私はいつもの仕事モードに切り替えて自販機のほうへ歩き出すと、葎がついて来た。

「あの人たちに何を言って何を言われたのか知りませんが、中学卒業と同時にあの人たちからは『子供は葎だけだ』と絶縁状をいただいており、紆余曲折あって既に貴方とも姉弟ではありません。なので、あの二人が心配している、というのもあり得ないんですよ」
「なっ?!」

 無表情でそう告げると、葎は驚いた顔で私を見下ろす。

「そういうことですので、私と同様に貴方の同期にも、同じ顔の赤の他人ということにしてください」
「圭! どういうこと?!」
「詳しくはご両親にでも聞いてください。――教えてくれるかどうかはわかりませんが」

 自販機にお金を入れてお茶を四本買うと「それでは」とその場を離れ、食堂の入口で待っていた同期二人に駆け寄った。

「待っていてくださったんですか?」
「当然でしょ?」
「圭がいないと仕事にならん。しかも石川さんに怒られる」
「……ありがとうございます」

 お茶を二人に渡して笑顔を向けると、真葵には「可愛い」と抱きつかれ、智には頭を撫でられた。

「石川さんといい、お二人や他の同期の人たちといい、皆して私を子供扱いしないでくださいっ!」

 膨れっ面をすると「その顔が子供だ」と二人同時に言われてしまった。


 ――そんな私たちの様子を、葎は辛そうな顔をして呆然と見ていた。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

処理中です...