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本編
動き出したもの
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ご飯を食べたあと、オンノベ用の執筆をして更新し、「今日は帰る」と言ったら彬にブーイングされてしまった。
「なんでさ? 恋人同士になって初めての夜だよ? それに、まだ一緒にお酒飲んでないじゃない」
「あー……そう言えば、そんな約束だったよね」
「でしょ? それに、僕はまだ満足してないんだけど?」
「……はぁ?! さっき『僕も無理』って言ってたじゃない!」
「あれは『お腹が空いて無理』って意味であって、紫を抱くのが無理ってわけじゃないよ?」
それは屁理屈だと思っても、彬は笑いながらお酒とお摘みの用意を始めてしまっている。
「仕事になんないから、私は家では飲まないようにしてるんだけど……」
「今日はもう仕事終わったんじゃないの?」
「仕事は終わったけど、できれば今日中に、編集さんに頼まれてる新作のプロットくらいはメールしたいんだよね……」
「プロットの締め切りは?」
「明後日。でも、ちょうどネタが浮かんだから、概要だけでも書いておきたいの」
そう説明したら、彬は苦笑しながらも「終わるまで待っててあげる」と言って、結局飲むまでは帰ることができそうにないので、諦めてざっとプロットを書き起こした。それを保存し、とりあえずお伺い程度でメールをしておく。
(時間的にはまだ夜の九時前……って……。彬さんに連れて来られたのって、何時頃だったっけ……?)
いろいろと考えて……そこで諦めた。確かに一時間近くは仕事をしたし、彬ともそれなりの時間を話している。さすがに今日はもう抱かれたくはないけれど、彬の様子からすると、下手したら今日は解放してもらえないかも知れない。
小さく溜息をつくと、彬の側に行った。
「私としては、もう少し仕事がしたいんだけど……」
「僕とは飲みたくないってこと?」
「そうじゃなくて。私の場合、要領がすごく悪いから、いろいろなネタが浮かんでいる間にある程度文章にしておかないと、のちのち煮詰まるの」
「もしかして、今がその状態?」
「そう。と言うか、そもそも『飲もう』と言って連れて来たはずの人が、何で私みたいな面白味のない人間を見て欲情した挙げ句にセックスをしたの? 普通にお酒を飲めばよかったのに」
「いいじゃない、別に。紫を抱きたくなったのは本当だし」
クスクス笑いながら、彬は普通にビールを飲んでいる。
「そうだなぁ。……明日、僕と一緒に買い物行って、一緒にご飯作って食べて、体質改善のマッサージするなら今日は解放してあげるよ? 夜は……」
「セックスなしならいいよ」
「……なんでだよ」
「明後日、人に……担当さんに合う約束をしてるの。あの勢いで、その……彬さんに抱かれたら、動けなくなりそうだから。それに、さっきから私にばかり要求を飲ませてるくせに、自分は飲まないなんて不公平じゃない?」
「……」
「彬さんには彬さんの仕事と生活リズムと予定があるように、私にも私なりの仕事と生活リズムと予定があるの。相手の予定を無視した一方的な要求は、恋人同士の要求じゃないと思うんだけど? 体質と食事の改善には付き合う。今日お酒が飲みたいならあと少し、仕事が終わるまで待って。そして明日の予定も付き合う。でも、その後のセックスはダメ。例え恋人同士でも、ダメなものはダメ……それは誰に対しても同じことで、彬さんだろうと譲れない。それが嫌なら今すぐ別れて、他をあたって」
彬はムッとしながら私の話を聞いているけれど、いくら室内で仕事をしていようと、私にだって予定があるのだ。しかも、ほとんどが彬の一方的な要求。自分にできることならやるが、できないものはできないし、無理なものは無理だ。
帰ると謂わんばかりに席を立ち、パソコンと鞄を持ち上げれば、彬は溜息をついて「ごめん」と謝った。
「正直僕は、紫という女性の恋人ができて浮かれていたし、紫の話に怒ってもいたんだ。力になりたい、って。しかも僕の周りには、同じような時間帯で仕事をしてたり、人に会ったりする職業を持つ恋人とか友人が身近にいたことがなかったからさ……。相手にも予定があるってことを忘れてた」
「……」
「だからさ、紫。予定や仕事があるなら、今度から先に言ってくれる? そうしたら僕は、それに合わせるから。だから……今日は仕事終わってからでいいから、僕と一緒に飲んで、その後抱かせて?」
「……明日出掛けるんじゃないの?」
「出掛けるよ? でも、その辺りはセーブするし。もしくは別の日に、僕が満足するまで抱かせてくれるならそっちでもいいけど」
そんなことを話す彬は、どうしてこうも私を抱きたがるのかがわからない。胸はないしガリガリに痩せてるし……。
両刀の彬の何を刺激したと言うのか……。まさか、胸がないからとか?
内心で溜息をつきながら、結局私は彬の部屋で二時間ほど仕事をし、お酒を少しだけ飲み、また飲もうという約束と別の日に彬が満足するまで抱くということを約束して、自室に帰った。
自室に帰ってまた仕事をし、オンノベ用の話を少しだけ書いたあと、ようやくパソコンの電源を落とす。
布団に入り、彬に抱かれている時の彼の優しい手つきと顔、絶えず与えらる快楽とも呼べる快感……それを思い出してしまい、子宮の辺りからゾクリとした快感が這い上がって思わず喘ぐ。
乳首からもじんじんとした痺れが這い上がり、彬に悪態をついて身悶えながら何とか眠りにつけたのは、更に一時間後くらいだった。
***
『じゃあ、頼むね』
機嫌のよさそうな声でスマホを切った彬に溜息をつくと、ベッドに寝転がる。
『夜遅くにごめん。……話があるんだけど、今大丈夫?』
彬から電話をもらったのは、つい十分ほど前だった。俺自身も彬に話があったから助かったのだが。
「で……どうした?」
『紫の体質改善と、体重を成人女性並の体重に戻したいんだけど……要、協力してくれないかな?』
彬にそう言われて眉間に皺が寄る。……今日は皺が寄ってばかりだ。
「何で俺が? それに、紫はどう言っている?」
『要はツボ圧しができるじゃない? その話や体質改善をするって話を紫にしてある。だからそれを要にお願いしたいんだ。それに、紫は要がツボ圧しやマッサージをすることを了承したよ?』
彬の話にホッとする。あの話を聞いたあとでは、紫が怖がるんじゃないかと思っていたからだ。
「……なら大丈夫か。つうか、やっぱり彬の目から見ても異常なんだな、あの痩せ方は……」
『うん。……さっき紫に聞いたんだけどね……。多分もうあのボイスレコーダーを聞いたと思うけど、五人に代わる代わる長時間犯されながら、無理矢理食事をさせられたんだってさ。そんなことされたら、無意識にフラッシュバックして食べられなくなるのは当然かもね』
「な……っ?!」
彬のその言葉に、持ち上げようとしていたグラスを倒す。……そこまで酷いことになってるとは思わなかった。
『要とスーパーで会ったあと、紫と一緒にご飯を食べようと思っていろいろ買って帰ったんだけど……。紫が食べたのは、お弁当についていたご飯が半分、何種類かの惣菜を一口ずつ、サラダもパックに入っているぶんの半分以下だった。……それでお腹一杯、って言ったんだよ、紫は。『もう食べられない』って。そのくせ、普段はスティック状の栄養食品とか、冷凍したおにぎりとか味噌汁だけだって聞かされたら、要だってあの話を聞いている以上、いろんな意味でキレるでしょ?』
「……ああ、キレる。今すぐそいつらを殴りに行きたいくらいには、な」
『あとは、男が近付いても大丈夫なようにするか、最悪、僕や要が紫に触っても二人は大丈夫だと思うようにするか、だね』
「そうだな」
『尤も、僕は別の意味で紫を震えさせたけどね』
クスクスと笑いながら、俺に挑むような、何かを思い出すような声でそう言った彬を訝しみながら問う。
「……どう言う意味だ?」
『ふふ……。あのね……さっき紫を抱いたんだよ。正確には、要にボイスレコーダーを渡す前に、ね。……レイプを忘れさせるほど、僕は安全だと紫の心と身体に教えるよう、ゆっくりと愛撫しながらね。もちろん、レイプされた時の話をしてる時も、ずっと愛撫してたんだよ。……気持ちいいねぇ、紫の胎内は。ずっと抱いていたい、胎内に挿れていたいって思った女は初めてだよ。女とヤっても女をイカせるだけで、射精したことがない僕が三回も射精したんだよ? 紫から『長時間レイプされてた』って聞いたからそれなりに緩いかも、って思ってたんだけどね……ふふ……全然そんなことはなかった』
艶やかな声で『すんごい気持ちよかった。要も知ってるでしょ?』と言われてビクリ、と身体を揺らす。身に覚えがあったから。だが、今、それを言うわけにはいかない。
「……何のことだ」
『あれ? もしかして、そこまで覚えてない?』
「どう言う意味だ?」
『あれ……本当に覚えてないの?』
「さあ……どうだろうな。それを彬に言うつもりはない」
ふっ、と鼻で笑えば、彬もふっ、と息を吐いたようだった。
『ふうん……? まあいいさ、そういうことにしておくよ。あと、先に言っておくけど、あの朱里って女に何か仕掛けるなら手伝うよ?』
彬が先にそう言ってくれたことにホッとする。そのことをどうやって切り出そうかと思っていたから、俺としても助かる。
「助かる。俺もその話をしようと思ってたからな。その時は頼む」
『了解。で、要はいつからツボ圧し始められる?』
「三日後なら予定はないが……」
『なら、その時に、紫を交えて今後の日程を決めよっか。要は僕んちにこれる? それとも、要んちがいい?』
「できれば店のほうがいいんだが、あんな話を聞いたあとじゃなぁ……。うーん……俺んちならある程度の道具があるから、紫に俺んちに来るように言ってくれ。……紫は俺んちを知ってるから」
彬が紫をどこで抱いたかは知らないが……いや、多分自宅で抱いたんだろう。これくらいの当て擦りくらいは言わせろ。
そんなことを考えながら彬が話すのを待っていると、溜息をついた。
『わかった。なら、僕もそっちに行くよ。じゃあ、頼むね』
機嫌のよさそうな声で電話を切ったので、俺も電話を切って溜息をつくとベッドに寝転がる。
彬が紫を抱いた……。そのことに動揺が走る。
アイツを……紫を最初に抱いたのは俺だった。いや、俺自身が紫をずっと抱きたいと思っていたのかも知れない。
紫を抱いた日、俺は酔っていた。しこたま飲んだわけではないが、二十の誕生日を迎え、初めて酒が飲めると浮かれて飲み、結局は酔った。
ほろ酔い気分で帰る途中で『飲み物を買いに来た』という紫とコンビニで会い、少しだけ開いていたブラウスを覗けば、そこから見えた紫の初々しい谷間に欲情した。
この時、幸いというか不幸というか、たまたま俺は紫と朱里の家の近くにある1DKのマンションに引っ越して来ていた。勉強を教えるという名目で筆記用具を持ち出させ、俺の部屋である程度勉強を教えた。
『これも勉強だから……。紫が抱きたい……いや、抱かせろ』
そう言って、貪るように紫を抱いた。
『ああっ、東城、さんっ、ああんっ!』
高校生らしいすべすべとした白い肌とまだ硬い乳房、赤く色づいて尖った乳首……。そして、誰にも触らせたことがないであろう、毛が生え始めた秘部。
『だめっ、きたな……っ、ひゃぁっ、はぅっ、ああっ、あっ、ああんっ!』
秘唇を舐め、クリトリスを弄ったことで溢れでた蜜を啜り、乳房と乳首を愛撫した。そのたびに啼いて喘ぐ紫の声をずっと聞いていたくて、キスもせずに何度も愛撫を重ね、紫を抱いた。
『いあ……っ、いたいっ! やぁっ、あぅ……っ、はぁっ、あん……っ、あっ、あっ、ああっ』
紫のナカへと挿れた時、彼女は痛がった。それを和らげるために乳房と乳首、クリトリスを愛撫すると、肉壁が俺の肉竿を締め付けて、背中に快感が走った。ゆっくりと腰を動かし始めれば、徐々に啼き声を嬌声に変えた。
だが……酔っていた俺は、紫の名前を間違えた。そして、それを誤魔化すためにもう一度紫を抱いた。誤魔化さずとも、紫の身体は気持ちよかったから。
ただ……間違えた瞬間の、絶望したようなあの顔を、今でも忘れられない。
そして、あの気持ちいい身体も忘れられない。女特有の、蠢く胎内……。
姉妹なら似てるかと、お互いの虫除けとして朱里と付き合っていた頃に朱里を抱いたことがあるが、全く違っていた。
確かに紫の気持ちよさを知らなければ、気持ちいい身体だろう。だが、紫のあの締め付けるような、蠢く胎内ほどではなかった。
ふっ、と息を吐いて、倒してしまったグラスを元に戻す。中身がほとんど入っていなかったのは幸いだった。
「紫……また、抱きたい」
ふと本音が溢れて苦笑する。そして、一旦目を閉じたあとでまた開き、グラスを見る。そこに映っているのは、獲物を見定めた、獣の目だ。
彬が紫を抱いたと言うのなら。
俺も怖くない男だと教えるために紫を抱く。
彬の口振りからして、多分彬は紫を恋人にしたんだろう。だが、それがなんだ?
俺と紫の付き合いの長さは、たった数時間の出会いの彬の比ではない。
(紫……三日後を楽しみにしてろよ?)
くくっ、と喉の奥で嗤うと、今家にあるものをチェックし始めた。
「なんでさ? 恋人同士になって初めての夜だよ? それに、まだ一緒にお酒飲んでないじゃない」
「あー……そう言えば、そんな約束だったよね」
「でしょ? それに、僕はまだ満足してないんだけど?」
「……はぁ?! さっき『僕も無理』って言ってたじゃない!」
「あれは『お腹が空いて無理』って意味であって、紫を抱くのが無理ってわけじゃないよ?」
それは屁理屈だと思っても、彬は笑いながらお酒とお摘みの用意を始めてしまっている。
「仕事になんないから、私は家では飲まないようにしてるんだけど……」
「今日はもう仕事終わったんじゃないの?」
「仕事は終わったけど、できれば今日中に、編集さんに頼まれてる新作のプロットくらいはメールしたいんだよね……」
「プロットの締め切りは?」
「明後日。でも、ちょうどネタが浮かんだから、概要だけでも書いておきたいの」
そう説明したら、彬は苦笑しながらも「終わるまで待っててあげる」と言って、結局飲むまでは帰ることができそうにないので、諦めてざっとプロットを書き起こした。それを保存し、とりあえずお伺い程度でメールをしておく。
(時間的にはまだ夜の九時前……って……。彬さんに連れて来られたのって、何時頃だったっけ……?)
いろいろと考えて……そこで諦めた。確かに一時間近くは仕事をしたし、彬ともそれなりの時間を話している。さすがに今日はもう抱かれたくはないけれど、彬の様子からすると、下手したら今日は解放してもらえないかも知れない。
小さく溜息をつくと、彬の側に行った。
「私としては、もう少し仕事がしたいんだけど……」
「僕とは飲みたくないってこと?」
「そうじゃなくて。私の場合、要領がすごく悪いから、いろいろなネタが浮かんでいる間にある程度文章にしておかないと、のちのち煮詰まるの」
「もしかして、今がその状態?」
「そう。と言うか、そもそも『飲もう』と言って連れて来たはずの人が、何で私みたいな面白味のない人間を見て欲情した挙げ句にセックスをしたの? 普通にお酒を飲めばよかったのに」
「いいじゃない、別に。紫を抱きたくなったのは本当だし」
クスクス笑いながら、彬は普通にビールを飲んでいる。
「そうだなぁ。……明日、僕と一緒に買い物行って、一緒にご飯作って食べて、体質改善のマッサージするなら今日は解放してあげるよ? 夜は……」
「セックスなしならいいよ」
「……なんでだよ」
「明後日、人に……担当さんに合う約束をしてるの。あの勢いで、その……彬さんに抱かれたら、動けなくなりそうだから。それに、さっきから私にばかり要求を飲ませてるくせに、自分は飲まないなんて不公平じゃない?」
「……」
「彬さんには彬さんの仕事と生活リズムと予定があるように、私にも私なりの仕事と生活リズムと予定があるの。相手の予定を無視した一方的な要求は、恋人同士の要求じゃないと思うんだけど? 体質と食事の改善には付き合う。今日お酒が飲みたいならあと少し、仕事が終わるまで待って。そして明日の予定も付き合う。でも、その後のセックスはダメ。例え恋人同士でも、ダメなものはダメ……それは誰に対しても同じことで、彬さんだろうと譲れない。それが嫌なら今すぐ別れて、他をあたって」
彬はムッとしながら私の話を聞いているけれど、いくら室内で仕事をしていようと、私にだって予定があるのだ。しかも、ほとんどが彬の一方的な要求。自分にできることならやるが、できないものはできないし、無理なものは無理だ。
帰ると謂わんばかりに席を立ち、パソコンと鞄を持ち上げれば、彬は溜息をついて「ごめん」と謝った。
「正直僕は、紫という女性の恋人ができて浮かれていたし、紫の話に怒ってもいたんだ。力になりたい、って。しかも僕の周りには、同じような時間帯で仕事をしてたり、人に会ったりする職業を持つ恋人とか友人が身近にいたことがなかったからさ……。相手にも予定があるってことを忘れてた」
「……」
「だからさ、紫。予定や仕事があるなら、今度から先に言ってくれる? そうしたら僕は、それに合わせるから。だから……今日は仕事終わってからでいいから、僕と一緒に飲んで、その後抱かせて?」
「……明日出掛けるんじゃないの?」
「出掛けるよ? でも、その辺りはセーブするし。もしくは別の日に、僕が満足するまで抱かせてくれるならそっちでもいいけど」
そんなことを話す彬は、どうしてこうも私を抱きたがるのかがわからない。胸はないしガリガリに痩せてるし……。
両刀の彬の何を刺激したと言うのか……。まさか、胸がないからとか?
内心で溜息をつきながら、結局私は彬の部屋で二時間ほど仕事をし、お酒を少しだけ飲み、また飲もうという約束と別の日に彬が満足するまで抱くということを約束して、自室に帰った。
自室に帰ってまた仕事をし、オンノベ用の話を少しだけ書いたあと、ようやくパソコンの電源を落とす。
布団に入り、彬に抱かれている時の彼の優しい手つきと顔、絶えず与えらる快楽とも呼べる快感……それを思い出してしまい、子宮の辺りからゾクリとした快感が這い上がって思わず喘ぐ。
乳首からもじんじんとした痺れが這い上がり、彬に悪態をついて身悶えながら何とか眠りにつけたのは、更に一時間後くらいだった。
***
『じゃあ、頼むね』
機嫌のよさそうな声でスマホを切った彬に溜息をつくと、ベッドに寝転がる。
『夜遅くにごめん。……話があるんだけど、今大丈夫?』
彬から電話をもらったのは、つい十分ほど前だった。俺自身も彬に話があったから助かったのだが。
「で……どうした?」
『紫の体質改善と、体重を成人女性並の体重に戻したいんだけど……要、協力してくれないかな?』
彬にそう言われて眉間に皺が寄る。……今日は皺が寄ってばかりだ。
「何で俺が? それに、紫はどう言っている?」
『要はツボ圧しができるじゃない? その話や体質改善をするって話を紫にしてある。だからそれを要にお願いしたいんだ。それに、紫は要がツボ圧しやマッサージをすることを了承したよ?』
彬の話にホッとする。あの話を聞いたあとでは、紫が怖がるんじゃないかと思っていたからだ。
「……なら大丈夫か。つうか、やっぱり彬の目から見ても異常なんだな、あの痩せ方は……」
『うん。……さっき紫に聞いたんだけどね……。多分もうあのボイスレコーダーを聞いたと思うけど、五人に代わる代わる長時間犯されながら、無理矢理食事をさせられたんだってさ。そんなことされたら、無意識にフラッシュバックして食べられなくなるのは当然かもね』
「な……っ?!」
彬のその言葉に、持ち上げようとしていたグラスを倒す。……そこまで酷いことになってるとは思わなかった。
『要とスーパーで会ったあと、紫と一緒にご飯を食べようと思っていろいろ買って帰ったんだけど……。紫が食べたのは、お弁当についていたご飯が半分、何種類かの惣菜を一口ずつ、サラダもパックに入っているぶんの半分以下だった。……それでお腹一杯、って言ったんだよ、紫は。『もう食べられない』って。そのくせ、普段はスティック状の栄養食品とか、冷凍したおにぎりとか味噌汁だけだって聞かされたら、要だってあの話を聞いている以上、いろんな意味でキレるでしょ?』
「……ああ、キレる。今すぐそいつらを殴りに行きたいくらいには、な」
『あとは、男が近付いても大丈夫なようにするか、最悪、僕や要が紫に触っても二人は大丈夫だと思うようにするか、だね』
「そうだな」
『尤も、僕は別の意味で紫を震えさせたけどね』
クスクスと笑いながら、俺に挑むような、何かを思い出すような声でそう言った彬を訝しみながら問う。
「……どう言う意味だ?」
『ふふ……。あのね……さっき紫を抱いたんだよ。正確には、要にボイスレコーダーを渡す前に、ね。……レイプを忘れさせるほど、僕は安全だと紫の心と身体に教えるよう、ゆっくりと愛撫しながらね。もちろん、レイプされた時の話をしてる時も、ずっと愛撫してたんだよ。……気持ちいいねぇ、紫の胎内は。ずっと抱いていたい、胎内に挿れていたいって思った女は初めてだよ。女とヤっても女をイカせるだけで、射精したことがない僕が三回も射精したんだよ? 紫から『長時間レイプされてた』って聞いたからそれなりに緩いかも、って思ってたんだけどね……ふふ……全然そんなことはなかった』
艶やかな声で『すんごい気持ちよかった。要も知ってるでしょ?』と言われてビクリ、と身体を揺らす。身に覚えがあったから。だが、今、それを言うわけにはいかない。
「……何のことだ」
『あれ? もしかして、そこまで覚えてない?』
「どう言う意味だ?」
『あれ……本当に覚えてないの?』
「さあ……どうだろうな。それを彬に言うつもりはない」
ふっ、と鼻で笑えば、彬もふっ、と息を吐いたようだった。
『ふうん……? まあいいさ、そういうことにしておくよ。あと、先に言っておくけど、あの朱里って女に何か仕掛けるなら手伝うよ?』
彬が先にそう言ってくれたことにホッとする。そのことをどうやって切り出そうかと思っていたから、俺としても助かる。
「助かる。俺もその話をしようと思ってたからな。その時は頼む」
『了解。で、要はいつからツボ圧し始められる?』
「三日後なら予定はないが……」
『なら、その時に、紫を交えて今後の日程を決めよっか。要は僕んちにこれる? それとも、要んちがいい?』
「できれば店のほうがいいんだが、あんな話を聞いたあとじゃなぁ……。うーん……俺んちならある程度の道具があるから、紫に俺んちに来るように言ってくれ。……紫は俺んちを知ってるから」
彬が紫をどこで抱いたかは知らないが……いや、多分自宅で抱いたんだろう。これくらいの当て擦りくらいは言わせろ。
そんなことを考えながら彬が話すのを待っていると、溜息をついた。
『わかった。なら、僕もそっちに行くよ。じゃあ、頼むね』
機嫌のよさそうな声で電話を切ったので、俺も電話を切って溜息をつくとベッドに寝転がる。
彬が紫を抱いた……。そのことに動揺が走る。
アイツを……紫を最初に抱いたのは俺だった。いや、俺自身が紫をずっと抱きたいと思っていたのかも知れない。
紫を抱いた日、俺は酔っていた。しこたま飲んだわけではないが、二十の誕生日を迎え、初めて酒が飲めると浮かれて飲み、結局は酔った。
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『これも勉強だから……。紫が抱きたい……いや、抱かせろ』
そう言って、貪るように紫を抱いた。
『ああっ、東城、さんっ、ああんっ!』
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『だめっ、きたな……っ、ひゃぁっ、はぅっ、ああっ、あっ、ああんっ!』
秘唇を舐め、クリトリスを弄ったことで溢れでた蜜を啜り、乳房と乳首を愛撫した。そのたびに啼いて喘ぐ紫の声をずっと聞いていたくて、キスもせずに何度も愛撫を重ね、紫を抱いた。
『いあ……っ、いたいっ! やぁっ、あぅ……っ、はぁっ、あん……っ、あっ、あっ、ああっ』
紫のナカへと挿れた時、彼女は痛がった。それを和らげるために乳房と乳首、クリトリスを愛撫すると、肉壁が俺の肉竿を締め付けて、背中に快感が走った。ゆっくりと腰を動かし始めれば、徐々に啼き声を嬌声に変えた。
だが……酔っていた俺は、紫の名前を間違えた。そして、それを誤魔化すためにもう一度紫を抱いた。誤魔化さずとも、紫の身体は気持ちよかったから。
ただ……間違えた瞬間の、絶望したようなあの顔を、今でも忘れられない。
そして、あの気持ちいい身体も忘れられない。女特有の、蠢く胎内……。
姉妹なら似てるかと、お互いの虫除けとして朱里と付き合っていた頃に朱里を抱いたことがあるが、全く違っていた。
確かに紫の気持ちよさを知らなければ、気持ちいい身体だろう。だが、紫のあの締め付けるような、蠢く胎内ほどではなかった。
ふっ、と息を吐いて、倒してしまったグラスを元に戻す。中身がほとんど入っていなかったのは幸いだった。
「紫……また、抱きたい」
ふと本音が溢れて苦笑する。そして、一旦目を閉じたあとでまた開き、グラスを見る。そこに映っているのは、獲物を見定めた、獣の目だ。
彬が紫を抱いたと言うのなら。
俺も怖くない男だと教えるために紫を抱く。
彬の口振りからして、多分彬は紫を恋人にしたんだろう。だが、それがなんだ?
俺と紫の付き合いの長さは、たった数時間の出会いの彬の比ではない。
(紫……三日後を楽しみにしてろよ?)
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