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お付き合い編

デートかーらーのー、カッコいい姿

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 翌日。待ち合わせは十時、駅の改札前です。
 改札だから人の流れがすごい。時計を見てそろそろかなあ……と思っていたら、後ろから声をかけられた。

「小夏ちゃん、おはよう。お待たせ」
「うわっ、びっくりした! おはようございます、森川さん」

 いつ来たんだ、どこから来たんだという言葉を呑み込み、森川さんと連れ立って歩く。映画館は駅から歩いて五分のところにあるのだ。

「映画の時間は何時からですか?」
「十時半の回だよ。座席指定もされてるのをもらったんだよ」
「え、それは凄いですね! でも、本当にいいんですか?」
「いいから誘ったんだし、くれたやつも行けなくなって困ってるっていうからさ」
「そうなんですね」

 映画館に着いたのでそんな話をする。チケット代を渡そうとしたんだけど、受け取ってもらえなかった。
 で、まだ少しだけ時間があるからと観ながら食べるポップコーンや飲み物を買い、そのまま中へと入る。指定されていた座席は、なんとペアシートだった。

 うー……マジか!

 座席を見た森川さんも驚いていたから、彼も知らなかったんだろう。

「まいったな……。小夏ちゃん、この席だけど……いい?」
「別にいいですよ~」

 嫌いなら一緒に出かけたりしないしね、私は。そもそも嫌いだったら、話すらもしないし。
 もちろん仕事中は別だけど、本当に嫌いなら告白された時点で断っているし、誘われてもきっぱり断る。
 なので、本当に大丈夫なのだと森川さんに伝えると、目を瞠ったあとで嬉しそうな、安堵したような顔をした。それを見てドキッとする。
 確かに宴会中の森川さんを含めた警察官たちは羽目を外しているけど、他のお客さんに迷惑をかけたことは一度としてないのだ。まあ、外し過ぎて店長に注意されることはあるけど、それだって一度言われれば二度としないし、やっても控えめだ。
 お客さんの中には、森川さんたち以上に羽目を外す人もいる。特に、若い社会人や大学生が多い。
 もちろんその人たちにも注意するし、彼らも聞いてくれる。だけど、何回も同じことをして他のお客さんに迷惑をかけたりすると、お店を出禁にしたりする。
 まあ、そんなことをされた人は、入る前は知らないけど私の知るかぎり一人だけだ。しかも個人で、絡み酒という、とっても迷惑な人だった。

 それはともかく、私が左側、森川さんが右側の席に座り、上映が始まるまで話をする。暗くなってきたから、スマホの電源をオフにした。
 そして会場が暗くなって、他の映画やこの映画館で上映している映画の番宣が始まる。それを見ながら森川さんを盗み見ると、彼も私を見ていた……店でも見たことがないほど、すっごいご機嫌な顔で。

 なんでそんな顔をしてるんだろう、森川さんは。

 そりゃあ告白されたけどさ、私はまだそれに対して明確な返事をしていない。すっごい宙ぶらりんな状態なのだ。
 そろそろ返事をしなきゃいけないかなあ、とは思ってるんだけど、森川さんが何も言わないからそれに甘え、私も何も言わないでいる。
 ずるいことをしているという自覚はあるけど、私から切り出すのはなんか違うというか、言い出せないというか……。そんな状態なのだ。

 どうしようかなあ……なんて悩んでいたら、森川さんに手を握られてまたドキンと鼓動が跳ねる。うう……今日の森川さんは積極的というか、驚かされてばかりだ。

 とりあえず映画に集中しようと前を向く。森川さんにもそれが伝わったようで、握っていた手がさらにぎゅっと握られた。


 ***


「面白かった!」
「ああ。評判通りだったな」
「ですよね!」

 スマホの電源を入れて時間を確かめ、お昼ご飯には遅いけどお腹が空いたからと映画館の近くにあるイタリアンに入った。そこで注文をしてから映画の感想を言い合う。
 やっぱり大きな画面で観ると迫力が違う。だからこそ、興奮するし感動する。
 そんな話をしながらご飯を食べ、コーヒーを飲みながらゆっくりと時間を過ごした。

「このあとどうしようか」
「そうですね……」

 お店を出て、どこに行こうかと話そうとしたら、森川さんのスマホが鳴った。

「はい、森川です。……あー、そうか、わかった。今から行く」

 そう言って電話を切った森川さんが溜息をついた。

「ごめん、小夏ちゃん。仕事が入っちゃった」
「それは大変ですね。私のことは気にしなくていいですから、行ってください」
「ありがとう。あと、今言うつもりはなかったんだけど……あの時の返事をくれないか?」

 まさか、いきなりここで返事を聞かれるとは思わなかった。
 いつか言われるかなあ、とは思っていたけど、これは想定外だ。
 だけど、私の返事は決めてある。

「まだ、明確な気持ちはわからないんです。それでもいいなら、お付き合いをお願いしたいで……きゃっ!」
「ありがとう!」

 全部言い切る前に森川さんにガバッと抱きつかれた。周囲に人がいるのに、何をやってるのかな?!

 それに、森川さんの顔が本当に嬉しそうで、今まで見た笑顔の中で、一番いい笑顔をしていたから、余計にドキドキしてくる。
 うう……普段は強面のくせに、こういう時はカッコいいとか……なんだか腹が立つ。
 くそう……と思いながら背中を叩くと、すぐに離してくれた。

「ごめん、埋め合わせは今度。じゃあ」
「はい。頑張ってください」
「ああ」

 森川さんはこれから自分が勤めている警察署に行くんだろう。そういえば、どこの署に勤めてるのか知らないや。
 まあ、おいそれと聞いていい話じゃないだろうし、何かあれば言ってくれるだろうからと何も聞かないことにし、駅のほうに歩きだした。ついでに本屋に寄って雑誌でも買おうと思い立ち、本屋に寄る。

「あ、新刊が出てる」

 集めている漫画の新刊が出ていたのでそれを手に持ち、他にも雑誌のコーナーに行く。この漫画は兄も読んでいて、「面白いぞ」とオススメされたものだった。
 特にこれといって他に新刊が出ていたわけでもなく、他にもないか小説のコーナーにも寄った。

「あ、これって書籍化してたんだ」

 以前無料投稿サイトで読んでいたタイトルがあり、途中まで読んでいたんだけど、展開が好みじゃなくて読むのをやめてしまった小説のタイトルだった。悩みに悩んだけど結局は買わず、漫画の新刊だけを買って帰った。
 そのまま周辺を歩き、ついでだからとまた服や靴、鞄を買って自宅方向に向かった。途中で夕飯をどうしようと悩み、作るのも億劫だったのでコンビニでサンドイッチとカップに入っているお味噌汁を買い、自宅に帰る。
 そして夕飯まで買って来た漫画を読み、無料投稿サイトに行って更新がないか見たらあったので、それを読もうと最新ページを開いて読んだ。それからテレビを点け、ニュース番組を見ようとした時だった。
 ピンポーンとドアチャイムが鳴る。

「はい」
『警察の者なんです。少々お話を伺いたいのですが』
「あ、はい。今行きますね」

 どっかで聞いたことのある声だなあ……なんて思いながら扉を開けると、なんとそこには森川さんといつも来る人がいて、お互いに驚く。

「あれ? 小夏ちゃん」
「こんばんは。あの……どうしたんですか?」

 そう聞けば二人ともハッとなって顔を引き締め、警察手帳を見せながら「〇〇警察署の者で森川と荒井です」と名乗った。ドラマみたいだ、と思ったのは内緒。

「実は、一週間前、薬局近くのビルで強盗殺人がありまして。もし何か目撃していたら、お話を伺いたいのですが」
「んー……もしかして、本屋さんの従業員が亡くなったって話ですか?」
「ええ、そうです。何か目撃したとか、不審な車などを見ていませんか?」

 そう聞かれて、なんとか一週間前のことを思い出す。あの時、確か……。

「えっと……うろ覚えなんですけど、普段は停まっていない車があったような……」
「色などは覚えていますか?」
「車種などは覚えていないんですけど、黒い車で、ワンボックスとか四駆とかのような、大きな車だったと……。あ、あんな感じの車です」
「え?」

 玄関から出て話をしていたんだけど、ちょうど私の視線の先に、黒い車が停まった。うん、あんな形のやつだったと思う。
 それを指差しをしながら停まってい場所を説明したら、森川さんたちが顔を見合わせ、小さく頷いていたから首を傾げる。

「なるほど。他に何か覚えていませんか?」
「すみません、特にこれといって覚えてなくて……」
「そうですか。わかりました。ご協力ありがとうございます」
「いいえ」
「それでは」
「お疲れ様です」

 軽く頭を下げた二人が、足早にマンションのエレベーターのところに行く。
 電話が入ったのってこれかなあ、と思いながら家に入ると、さっさと鍵を閉めた。

「ちゃんと警察官の顔だった」

 普段のはっちゃけた感じしか知らなかったから、驚く。それに、今日だけで森川さんのいろんな表情を見れたことにも驚いた。

「……かっこよかったかも」

 さっきの森川さんの顔を思い出して、ドキドキしてくる。完璧に絆されたかもなあ……と溜息をつき、テレビを見始めた。


 二日後、私が見た車は犯人の車で、森川さんたちに教えた車が実は犯人のもので、職務質問をしたら逃げたとのことで、現行犯逮捕となったと店に来た森川さんがこっそり教えてくれた。
 そんな偶然あるんだなあ……と思った日だった。

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