自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ファウルハーバー領編

第190話 穢れとは

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 屋敷に戻るとすぐに離れに案内される。見た目の大きさは、一階部分は2LDKか3DKが五部屋で三階建てのマンション、もしくはアパートくらいか。
 離れにしてはデカいな、おい。これでこぢんまりとはこれ如何に、な心境だ。
 これだから貴族は……。
 ヤミンとヤナの三人で顔を見合わせたあと、同時に小さく溜息をつく。仕方なく案内に従って中へと入ると、小さいながらもエントランスがあった。
 目の前には左右に分かれた階段があり、上階へ行けるようだ。
 エントランスの奥にある壁際には左右に分かれた廊下があり、右側へと進む。
 最初の扉は応接室、その隣に客室と思われる部屋がいくつか並び、大きな観音扉の中は食堂となっている。その奥には厨房があり、なかなか立派だ。
 そこまで案内されたあと、私たちが泊まる部屋へと案内される。もちろん、通ってきた中にある客室で、一人一部屋だ。

「こちらのお部屋をお使いください」
「「「ありがとうございます」」」

 そのあとは厩舎に案内してもらい、ヤミンとヤナの従魔となったバトルホースを中へと入れる。気を使ったのか、あるいは護衛として残ってくれたのか、リコもそこに入るようにしたようだ。
 まあ、公爵家に忍び込むようなバカはいないだろうし、使用人が盗むとは思えないけれど、魔が差してまだレベルが低い子たちを連れ去られても困るしね。その点、リコがいれば大丈夫だろう。
 厩舎の前には馬場が広がっている。これなら従魔たちが訓練と称して多少暴れたとしても、問題ない広さだ。
 とりあえず、ご飯の時間まではここで戦闘訓練しててもいいと許可を出すと、うちの従魔たちだけじゃなく、ヤミンとヤナの従魔たちも喜んだ。二人はまだ名前を考えている途中だそうなので、君たち呼びなのは許してくれ。

「訓練してもいいと言ったけど、これだけは守って。他の人の迷惑にならないよう、結界を張ること。訓練はその結界の中で行うこと。地面を凸凹にしたら、きちんと魔法で元に戻すこと。できなければ、それ以降禁止にするわよ?」
<<<<はい!>>>>
「ここは自分たちのテリトリーじゃないからね。本格的な魔物との戦闘は、その都度教えるか、ダンジョンに行ってから。それまでは、私の従魔相手に頑張って」
<<<<ありがとう!>>>>

 元気に返事をする、ヤミンとヤナの従魔たち。本来ならば他人の従魔の声は聞こえないけど、そこは全種族言語理解のスキルを持ってる私だから聞こえるのであって、普通は聞こえないのだ。
 こういう時ありがたいと思う。まあ、ありがたくないこともままあるが。
 とりあえず、ご飯だと呼びに来るまではここにいてと話すと、すぐにピオとエバ、ノンが結界を張り、訓練が始まる。頑張れよ~。
 そのまま離れの中へと戻り、ヤミンとヤナにも従魔たちの訓練のことを説明。それからご飯の支度をしたあと、全員で食べた。
 さすがは公爵家の離れ。各部屋はお風呂付だ。まあ、ドルト村のように魔道具がついているわけではないので、自分でお湯を用意しないといけないが。
 そこは生活魔法を駆使してお風呂を用意したとも。
 ベッドも布団もなかなか快適だったと言っておこう。

 翌朝、ご飯を食べていると、ルードルフとロジーネ、彼らの側近が来た。

「朝早くすまない」
「いいけど、ご飯食べるまで待っててくれる? てか、ご飯は?」
「食べてきた」
「なら、これでも食べて待ってて」

 一緒に行動していた側近に加え、見知らぬ人もいる。彼らの側近なり事業に携わる人たちなんだろう。
 それならばと、クッキーとパウンドケーキ、紅茶を出して待っていてもらう。焼き菓子に関しての説明は、ルードルフに丸投げだ。
 説明してもらっている間に私たちはご飯を食べ、そのあとはこれから行く場所についての説明を受けた。これから工場を建てる場所に行くんだと。

「遠いの?」
「この町の外側だ。東側に何をしても作物が育たなかった場所があってな」
「過去にスタンピードでも起こった?」
「そうだ。とはいえ、それは二十年前の話らしいが……」

 作物でなければ問題ないのではないかと、溜息交じりで話すルードルフ。
 いやいや、それはあかんでしょ。

「神官や巫女とかに浄化してもらわなかったの?」
「したがダメだったらしい。穢れが消えたのも半分もいかなかったそうだ」
「おやまあ。スタンピードが起きると、早くても五十年は使えないものね」
「なに……?」
「あれ? もしかして伝わってない? もしくは国によって伝承が違う?」

 おやあ? なんか以前聞いた話と違うような……?

「僕たちは三十年と聞いたんだが……」
<違うのー。スタンピードが起きると、最低でも五十年は穢れてるのー>
「なんだと⁉」
<教会の巫女や神官じゃ、力が弱くてキレイに浄化できないのー。できるのは神官長か教皇、聖女か神獣だけなのー>
「……っ」

 ノンの言葉に、公爵サイドの人間全員が息を呑む。知らなければそうなるだろうね。
 基本的に、神官も巫女も浄化自体はできる。ただ、あまりにも強力なものだったり死者(魔物も含む)の数が多かったりすると、神官や巫女の力量では間に合わない。
 だからこそ、それ以上の力を持つ神官長や教皇、聖女や神獣の力が必要になってくるのだ。だが、教皇は神殿というか全教会全てのトップで俗世に出ることはなく、聖女もよくて国に一人か二人、下手するといなかったりする。
 神官長はひとつの教会、または神殿に一人だけだ。もちろん、教皇や聖女同様に、滅多なことでは外に出ることはない。
 そうすると、神官と巫女を複数人派遣し、大人数で浄化することになるから、神殿にお布施として寄付する金額も跳ね上がる。なにせ、浄化は教会の関係者にしか使えないのだから。
 神獣だって本来は姿を見せることもなければ、数も多いわけではない。しかも、神獣は災害級とも言われる魔物である場合が多く、にゃんこスライムのように人間に優しいとは限らない。
 ぶっちゃけると、にゃんこスライムだけが特別なのだよ。言い方は悪いが、スライム如きが、全神獣の頂点に立っているのだから。
 しかも、リュミエールの仕事で、本来であれば一種族に一匹しかいない神獣に対し、にゃんこスライムは破格の十匹もいる。その中でも特別なのが、黒いにゃんこスライムなのだ。
 そんな、全世界で三匹しかいない黒いにゃんこスライム様のうちの一匹が、ここにいるわけで。

「ノン。その場所に行ったら、浄化してくれる?」
<はーい>
「すまない。ありがとうございます、神獣にゃんこスライム様」
<いいのよー♪>

 高位貴族なんだから無暗に頭を下げるんじゃない! とは思うものの、ノンは神様の遣いでもある神獣なので、王族よりも偉いのであ~る。そこはルードルフたちもきちんとわかっているみたい。
 そんな話をして、さっそく馬車でそこへ移動する。降り立った場所は、見事に草すら生えていなかった。
 ノンにお願いして浄化をしてもらうと、あたり一帯がキラキラと光る。

<終わったのー>
「ありがとう、ノン。お礼に、あとで美味しいものを出してあげるね。なにがいいかな?」
<うん! あのね、桃のジュースがいいの! あと、こーんなに大きなエビー!>
「いいわよ。夜に出すね」
<やったー!>

 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶノンに、ついほっこりする。
 ノンは相変わらず桃のジュースが好きだ。そして最近のお気に入りは、ロブスターや伊勢海老のような、大きなエビ。
 もちろんそれは他の従魔たちも同じで、エビが大好きなわけで。
 そんな話を聞いたルードルフたちに恨めしそうな顔をされたけれど、知らんがな。元王子で高位貴族なんだから、それくらいは自分で発注しろと言うと、ガックリと項垂れた。

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・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

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