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ドルト村の春編

第176話 公爵夫妻のリクエスト

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 小屋を作ったあと、一旦ルードルフと別れる。なにせあれが食べたい、これが食べたいとリクエストをもらっているからね。その準備をしないといけない。
 その間にルードルフたちは畑仕事をしてくるそうだ。
 さて、何を作ろうか。
 刺身と海鮮丼、和菓子は確定として。とはいえ、和菓子もいろいろあるし、私も全部作れるわけじゃないし。
 どうせなら和食を中心に作るか。
 恐らく、ミショの実が調味料になると知らないはずなんだよね。知っていたら、ルードルフもロジーネも、ミショの実を使った料理を広めていたはずだ。
 広まり始めたのもここ数ヶ月だし。
 なので、各種ミショの実から絞り出した調味料も持って帰ってもらおう。どのみち一緒に行くことになるだろうから、領地に行ってから育ててもいいかも。
 その前に梅干各種と梅酒を分けておかねば。それが終わったら料理開始。
 芋ようかんに粒あんとこしあんのようかん、栗蒸しようかんときんつば。栗きんとんに茶巾絞り。茶巾絞りには栗の渋皮煮を入れてみよう。
 あとはどらやきともなか、肉まんとあんまん、ピザまんとチーズまんあたりがあればいいかな? パイもいくつか作っておくか。
 団子も食べそうだなあ……。みたらしとあんこ、磯辺でいいか。よもぎを使って草団子と草餅というか草まんじゅうもあったほうがいいかも。
 豆まんじゅうと酒まん、片栗粉を使ったわらび餅も用意しよう。
 他には……どうせ栗を使うからモンブランもだね。練り切りのようなものは無理だけど、鹿の子ならいける。
 練り切りは祖父が得意だったんだよなあ。習っておけばよかった。
 てなわけで、栗とサツマイモの皮を剥いて茹でたり、二種類のあんこを作ったり、肉まん用の生地を作ったりとあらかた準備をしつつ、山から採取してきた筍をゆでておく。
 肉じゃがと味噌汁の代わりに豚汁ならぬオーク汁、土佐煮や筑前煮、里芋の煮っころがし。サバの味噌煮やほうれん草のおひたしと胡麻和えに白和え。
 寒い時期ではないが湯豆腐と肉豆腐、揚げ出し豆腐も用意してみた。
 刺身と海鮮丼は彼らが来てからでいいかな? 他に鮭といくらの親子丼とマグロの漬け丼、海鮮ちらし寿司があればいいか。押し寿司でもいいし。
 一応、マグロ入りのぬたも用意しておこう。あとは鯵のなめろうとさんが焼き、たこを使った酢の物。たこ焼きはお土産にしてもいいかも。
 筍を使った筍ご飯に山菜おこわ、コッコを使った五目ご飯。キノコご飯とたこ飯も必要か。
 とはいえ、全部をいっぺんに出すわけじゃない。ほとんどがルードルフとロジーネのリクエストなのだ。
 思いついたらまた話すと言っていたので、その時にまた作ろう。
 料理の手を動かしつつも、いざ作ろうと思うと、案外レシピって思いつかないもんだなあ……なんて考えていると、公爵夫妻が来た。もちろん、側近二人を連れて。

「護衛はどうしたの?」
「今は訓練中だ。そのうち来る」
「そ、そう」

 罰を受けてる途中だったか。ヴィンと、Bランクに上がった息子二人が村で訓練したあと、三人の引率で一回森の中に入るらしいとルードルフが楽しそうに話している。
 それを聞いた男女の側近は、顔を引きつらせていた。

「とりあえず、囲炉裏にどうぞ」
「ありがとう」

 玄関から囲炉裏の部屋に案内し、座布団を出して座ってもらう。ヘラルドの家では見なかったのか、側近二人は物珍しそうに室内を見回す。
 その一角にリュミエールの像を見つけたらしく、ギョッと目をむいていた。

「アリサ、囲炉裏の火にかかっている鍋の中身は、どういったものなんだ?」
「オーク肉を使ったオーク汁よ。野菜もたっぷり入っているわ。先日王宮で食べた味噌汁の具沢山版だと思ってね」
「「なるほど」」

 前半はルードルフに、後半は側近たちに説明する。それだけでルードルフは豚汁だとわかったんだろう……ロジーネと一緒に目を輝かせている。

「側近の二人は生魚を食べられる?」
「「大丈夫です」」
「騎士たちは?」
「彼らも大丈夫だ」
「なら、彼らが来たら、リクエストの海鮮丼を出すわ。それまで、こっちを味わって待ってて」

 とりあえず、緑茶と一緒にミニサイズの肉まんとあんまん、チーズまんとお手拭きをトレイに載せて各人に配る。それを頬張っている途中で騎士たちが来たので彼らも案内し、同じように目の前に置いた。
 彼らが食べている間に海鮮丼と親子丼の用意。いろんな種類を味わいたいと夫婦揃って話していたから、子ども用のお茶碗サイズで出すつもり。
 あとは炊き込みご飯各種はおにぎりにして、酢の物と煮物各種、ほうれん草と豆腐料理が三種類ずつ。サバの味噌煮と刺身を全部おぼんに載せて、会席料理風のお膳にしてみた。
 本来は一汁三菜だけれど、あくまでも〝会席料理風〟の膳物なので問題ない。カトラリーはスプーンとフォークで食べてもらおう。
 もちろん、従魔たちもいるので、彼らの分も用意してある。
 飾り付けも頑張った!

「素敵ですわ、アリサ!」
「ええ! どれも美味しそうですよね!」
「刺身なんて久しぶりだ~!」
「魚も美味そうだ」

 わいわいとそれぞれが見た目の感想を言い合う一行に、胸を撫で下ろす。念のためどんな食材が使われているのか説明すると、全員がミショの実のところで固まった。

「あれが調味料になる、だと……?」
「気付け以外には使い道がないと思っておりましたわね……」
「これから広めていけばいいんじゃない? 帝都では徐々に広まってきているし、一部のレシピはギルドに登録されているはずだから」
「なるほど……。これも依頼を出さないと……」
「はいはい、それはあとにして。冷めないうちに召し上がれ」

 おかわりもあるから、お腹の具合を確かめてから言ってくれと話し、食べることを促す。味と色彩豊かな膳物を見て、和気藹々としゃべりながら食べる、公爵夫妻一行。
 膳を綺麗に食べきり、おかわりはせずそのままデザートに突入。
 デザートは芋ようかんに粒あんとこしあんのようかん、栗蒸しようかんとモンブラン、緑茶を添えて。彼らと従魔たちが食べている間に梅干を梅酒を分けたあと、ミショの実から作った調味料など、急遽作ったマジックバッグの中に入れる。

「ロジーネ、これはお土産ね」
「なにかしら」
「梅干と梅酒。あとミショの実から作った調味料よ。マジックバッグになっているから、腐ることもないわ」
「まあ! ありがとう、アリサ。急須や湯飲みは?」
「粘土質の土がないから、今は無理」
「なら、領地に帰ったらお願いしたいわ。とてもいい土があるの」
「はいよー」

 ご飯を食べている途中で、領地までの護衛を頼まれている。といっても依頼はこれからだし、砂糖の精製工場建設などなど依頼を請けているから、想定内だ。
 領地に帰ったらいろんなケーキを作ってくれと、ロジーネと女性の側近がはしゃいでいる。それに苦笑しつつも頷いた。
 そのまままったりと領地がどんなところか聞いているうちに夜になったので、おひらき。明日はおかずはいらないからデザートが食べたいとリクエストしたロジーネに頷いた。
 どれだけ甘いものに飢えてるんだ、ロジーネは。
 まあ、見た目も珍しいから、茶会に出そうと思ってるのかも。
 特産品とまではいかないが、領内だけで出回っている果物もあるというし、それを見て相応しいデザートを考えてみるか。彼らに対する恩返しなんて、これくらいしかできないから。
 そんなことを考えているうちに晩ご飯の時間になり、焼いた魚介類が食べたいと言った従魔たちのリクエストに応えた。
 囲炉裏で似非浜焼きをしつつ、夜は更けていった。

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