上 下
158 / 190
ドルト村の春編

第174話 元王子たちの処遇

しおりを挟む
 日光のいろは坂のように蛇行した道を走ること三十分。村に着いた。
 直線距離だと十分もかからず着くんだけど、山道だからね。馬車が通る以上、危険は犯せない。
 ロック鳥三羽に襲われた以外は特に何もなかったので、そこはスルー。
 村に着いてからヘラルドの家に行き、そこで話し合い。宿がないから、どこに泊まるのかって話なんだけど、さすがに冒険者ギルド内の宿は、公爵夫妻と騎士たちだと狭いんだよね。
 大部屋もあるけれど、彼らが納得するような調度品があるわけでもないし。……ベッドと布団は最上級に近いものではあるが。
 で、結局宴会場にもなっている場所に泊まってもらうことに。

「アリサの家ではダメですの?」
「客室がないから無理。それに従魔たちが走り回ってるから、人を泊められる環境でもないし」
「そう……。残念ですわ」

 泊まる気満々だったんかーい! いくら前世が知り合いだとしても、そこは却下させてもらうがな。
 その分、料理のリクエストはできるだけ受け付けるとは言ったけれど……さて、どんなリクエストをされるんだか。
 そこは横に置いておくとして。
 まず、話ができなかった、愚か者の処罰について。
 取り巻きの五人は一応貴族の子弟らしい。ただ、普段から素行が悪くてあまりいい噂を聞くことがなく、本人たちも仕事を見つけることなく家に入り浸っている状態だったから、実家も頭を悩ませていたらしい。
 次男はスペア、三男以下は自分で職を探すくらいしかないらしいしね。
 しかもいい噂を全く聞くことのない第三王子と一緒につるんでいたものだから、余計に評価が駄々下がり。二度ほどやらかしてしまい、叱って諫めたものの改心することもなく、三度目のやらかしで実家も彼らを見限った。
 つまり、貴族籍剥奪のうえに家から追放され、平民になったのだ。それが五人の処罰。
 甘いというなかれ。ここからが本題だったりする。

「兄上、いえ元第三王子は継承権も王族籍も剥奪。追放された五人と一緒に魔法が使えないよう宮廷魔導師に魔法封じの術を施されたうえで、平民となりました。ただ、そのまま放逐しただけだと平民が困ることになりますし、また問題を起こされても困ることから、国内にある鉱山に放り込む予定です」
「おや……。犯罪奴隷と同じ扱いですか」
「ええ。実際に犯罪を犯しましたしね。もっとも、六人でずっと一緒にいてよからぬことを企まれても困りますから、それぞれ別々の鉱山か坑道で採掘ですね。もちろん、部屋も別々です」
「食事はともかく、他は一人で何もかもしないといけませんしね。彼らにそれができるかどうか」
「できないでしょうね。ですから、それも罰として組み込まれています」

 皇帝自ら裁いたので、本気で改心したとしても撤回はあり得ないと話すルードルフ。もちろん、魔法封じの術は一生解除されることはない。
 武器や防具を取り上げられ、食事休憩と寝る以外は休むことなくずっと監視されて採掘させられるというんだから、出奔や謀反を企てる暇もないだろうとのこと。
 寝る時間も五、六時間と短いらしい。すぐに眠れば、ギリギリ疲れがとれるくらいかな。しかも、休みは二ヶ月に一回あるかどうかという、ブラック企業も真っ青な待遇だった。
 本来の犯罪奴隷はそこまでひどくも厳しくもないし、週に一度は必ず休みがあるという――早々に潰れてしまっては罰にならないから。もちろんそれは借金奴隷にもいえることで、借金の返済が終わるまでは生かすために絶妙な労働時間と休みがある。
 が、元第三王子は牢屋内にいても反省しなかった。挙げ句、ずっと「俺が皇帝になるんだ」と喚いていた。
 だから、功績になり得るもので何ができるのかと問えば、答えに窮して黙り込む。
 剣術も魔術も中途半端だから騎士にも魔術師にもなれない、冒険者であっても新人に毛が生えた程度かやっと一人前になった程度の実力しかない。体力だけはあるからと、皇帝は一計を案じた。
 それは、誰かと協力することなく一人で、しかも一ヶ月で、皇帝が決めた金属の量と宝石を採掘することだった。できなければその分期間が延び、できたらその分期間が短くなる。
 それならばできると豪語した元第三王子と取り巻きたちは、鉱山に放り込まれることとなった。
 ――平民になっただけではなく、それすらも罰だと知らずに。

「陛下はその場で金属名や採掘する量と、宝石名を言わなかったのです。それに気づくことなく、確認することもせず、了承したと聞いています」
「……それは、おバカさんとしか言いようがないですね」
「でしょう? しかも、放り込むのは産出量が減ってきている、閉山間近の鉱山ですからね。陛下がどれほどの量を言い渡すのか知りませんが、確実に無理ではないかと」

 あ~、それはおバカさんと言われてもしょうがない。スキルがない人間が、指定された金属を採掘するのは難しい。つうか、無理。
 ずっと採掘していれば、いずれはスキルとして生えてくるだろう。けれど、それだって何度も採掘し、見た目だけでどんな金属かをきちんと把握できるようにならないと、スキルとして成り立たないという。
 ただでさえ物覚えの悪い勉強嫌いな王子にそれができるとは思えないし、こらえ性もないから集まるとも思えない。それは取り巻きにも言えること。
 なので、鉱山から出てくることはないだろうと、真っ黒い笑みを浮かべたルードルフが締めくくった。
 えげつねえな、おい。

「許可もなくあの場所に来たうえ、護衛の近衛を怪我させている。しかも、今後帝国の特産物になる可能性のある植物を教えにきていた客人を無視した挙げ句、無許可で抜刀しましたからね。当然の結果です」
「側室はどうなりました?」
「特にお咎めはありませんね。ずっと陛下と一緒に諫めていましたし。勉強どころか王族の教育からも逃げたくせに、王位だけは欲しいだなんて通用しませんよ」
「確かに」

 元王族同士、うんうんと頷き合っていた。
 話が終わったあと、甜菜とビーツを植えた畑に行き、そこで作業していた担当の兄さんから説明を受ける公爵夫妻一行。そこから他の畑を見学し、一旦ヘラルドの家へと帰る。
 私はそこで別れて自分の家へと戻った。

<<<アリサ、お帰り!>>>
「ただいま!」

 村で待っていたノンとリコ、ピオが飛び込んでくる。それを受け止めて撫で回した。
 その後は家中を掃除してからリュミエールにお供えし、囲炉裏で緑茶を飲んでまったりしていると、公爵夫妻が来たので囲炉裏に通す。

「囲炉裏か……。やっぱいいな」
「そうですわね」

 この世界だと魔族くらいしかその文化を持ち合わせていないものね。こちらに転生して約二十年。そりゃあ懐かしかろう。
 緑茶もまだ飲んでないようだしと二人に出すと、目を輝かせて啜る。

「そういえば昨日缶をいただいたけれど、緑茶もあったのね」
「ないよ? だから作った」
「「作った……」」
「私、錬金術が使えるからね。それで錬成したの。もっと欲しいなら渡すけど」
「お願いしますわ。できれば急須なども」
「わかった」

 だよね~、そうなるよね~。
 急須と湯飲みは彼らが帰ってから錬成すればいいとして。駄弁りながら従魔の紹介と、それに絡めて帝国に来ることになった経緯を話した。
 ただ、ヤミンとヤナの秘密に関しては私のものではないので話していない。

「リクエストなのだが、梅干が食べたい。あと味噌汁も」
「梅酒もいいですわね。もちろん和菓子も。ケーキでもいいですわよ?」
「刺身も食べさせてくれるんだろう?」
「それでしたら、海鮮丼が食べたいですわ!」
「お、いいね!」

 ついでにあれが食べたい、これが食べたいといろいろとリクエストしてくる公爵夫妻に、つい苦笑してしまう。王族と侯爵家のお嬢様だもんな。おいそれと口にできるものではないし、そんな料理もなかっただろうし。

「あんたら……。まあ、それくらいならいいよ。今日は宴会があるから、明日にしようか。しばらく滞在するんでしょ?」
「ああ」
「楽しみにしていますわ」
「はいはい」

 その後、領地にある屋敷に囲炉裏を作ってほしいと言われたので、それも依頼してくれればやると頷く。この村には冒険者ギルドもあると伝えると、宴会までに案内してくれと頼まれた。
 その時に、しばらく騎士たちを鍛えてほしいとお願いするんだと。
 まあねえ……この村に滞在するのであれば、それなりに鍛えられるしね。傲慢な態度だった騎士たちへの罰でもあるそうだ。
 とりあえず、手持ちの中にあった餅を焼いて磯辺にし、二人に食べてもらう。それ以上は宴会に響くからと渡さなかった。
 夕方近くまで駄弁り、そろそろいい時間だからとギルドへ案内する。そこで私に対する指名依頼をお願いしたルードルフは、イイ笑顔で私を見た。

「アリサ、指名依頼よ」
「はいよー」

 今回依頼したのは砂糖を作る工場と囲炉裏の設置。いつ彼らが領地に帰るかわからない状態なので期間は設けず、成功報酬のみ。
 公爵夫妻が納得のいく出来だったら、上乗せもすると言っている。
 まあ、前世ではお世話になったし、恩返しもできないまま死んでしまった。なのできっちり仕事するよ!
 ギルドを出たあとはヘラルドの家へと向かう。私が二人を相手している間に、ある程度の料理を作ってくれていたのだ。
 あとはコカトリスの肉を使った料理を提供するだけだ。
 さて、宴会ですよ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。