自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村の春編

第173話 休憩所にて

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 唖然とした顔をしている騎士たちに溜息をつき、ヘラルドたちに声をかける。特に具合が悪くなっているということはないらしい。
 もちろんイデアも。
 その私の行動に、騎士たちが慌てて御者や公爵夫妻に声をかけたが、こちらも特に具合が悪いということもなかった。

「それならよかった。ただし、ここはAランクとSランクの魔物が闊歩している山の中よ。くれぐれも騒いだり油断したりしないで」
「わ、わかりました」
「とにかく、一回休憩しましょう。アリサ、お茶を頼みます」
「はいよー」

 通常運転のヘラルドに促され、焚火と同時に簡易竈を作る。そこにやかんを置いて湯を沸かし、ティーポットに茶葉を入れたあとで時間を計る。
 当然、休憩所内といえども結界を張っているので、安心して寛いでくれたまえ。
 ここからはヘラルドが村周辺はこのあたりに跋扈する魔物の説明をしている。私が言ったようにAランクとSランクの魔物ばかりだから、村に着くまでは必ず私やヘラルドの指示に従ってほしいとお願いをしていた。
 騎士たちは不満そうな顔をしていたが、ここは街道沿いにいるような弱い魔物じゃない。その感覚のままでいると、死ぬのは騎士たちだ。
 そこを間違うと確実に死ぬ。
 ヘラルドはそれを明確に感じ取り、忠告している。

「死にたいのであれば、ご勝手にどうぞ。そこまで責任は持てませんから」
「「「「「……」」」」」
「なんなら一度戦闘してみますか? アリサ、あとで一体引っ張ってくることはできるかい?」
「従魔の誰かを呼んでいいならできるよ」
「ではお願いします」

 てなわけで、従魔の誰かを呼ぶことに。

<みんなー、帰ってきたよ。誰か手があいている子はいる?>
<<<<<アリサ! おかえり!>>>>>
<我があいてるぞ>
<あたしもあいてるわ>
<なら、ジルとエバ。村に一番近い休憩所にいるから、来てくれる? その時に魔物を一体引っ張って来てほしいの>
<<わかった!>>

 ジルとエバが暇だったらしい。エバがいるなら、もしも何かあった時に対処できるから助かる。

「ヘラルド、ジルとエバが来るわ。その時に魔物を引っ張ってきてとお願いした」
「ありがとうございます。どれくらいで到着しそうですか?」
「五分もあれば来るんじゃない?」
「「「「「は?」」」」」
「それまでにお茶を飲み切ってね。地元民の話を聞かず、舐めた態度をとったのはそっちなんだから、しっかり倒せよ?」
「「「「「なっ!」」」」」

 煽るように騎士たちに言えば、怒りをあらわにしていきり立つ。飲みかけていたお茶を飲み終わったころ、エバとジルの念話が届く。
 どんだけのスピードで来たんだ? 五分もたってないんだが!

<<アリサ、エンペラーホーンディアを連れて来た!>>
<ありがとう>

 到着したので、騎士たちを連れて休憩所の外に出る。

「従魔が到着したわ。従魔は緑色の鳥と白銀の狼だから、攻撃しないでね。引っ張って来た魔物は、エンペラーホーンディアよ」
「「「「「えっ?」」」」」
「ちなみに、Sランクの魔物だから。怪我してもレベッカがいるし、私の従魔もいるから、安心して戦ってね♪」
「「「「「えええっ⁉」」」」」
「五対一なんだからできるでしょ? 怒りをあらわにしたんだから、しっかり戦ってこい!」

 ジルとエバが飛び出してきて、騎士たちをすり抜けると私の傍に来る。ジルは甘えるように頭と体をこすりつけ、エバは肩にとまって頬ずりをしてきた。
 いい子いい子と二匹の頭を撫でていると、エンペラーホーンディアが飛び出してくる。唖然としながら私たちを見ていたが、そこから一気に緊張感が増す騎士たち。
 それぞれが持っている獲物で対処し始める。が、想像以上に桁違いの強さだったらしく、その荒々しさに顔を青ざめさせ、怪我を負っていく。
 死なれても困るから、さっさと行動に移すか。

「エバ、雷を落としてあげて」
<はーい>
「雷を落とすわ! そこから離れて!」
「「「「「っ!」」」」」

 私の言葉に反応し、すぐにうしろに下がる騎士たち。突然の行動に戸惑ったエンペラーホーンディアだが、すかさずエバが雷を落とし、ジルが風魔法で首を落とす。
 その呆気ない最期に、騎士たちが体を震わせた。

「こ……、こんな、に……強いのか、Sランクとは……」
「だから舐めるなって言ったでしょ」
「街道やそちらの領地にいる魔物と違うと、理解できましたか?」

 ヘラルドの言葉に無言で頷く。そして顔色を真っ白に染め上げ、震える声で話す側近の騎士。他の四人は言葉もなく、真っ白になって震えているだけだ。
 それを眺めて溜息をつくと、エバとジルが倒したエンペラーホーンディアを解体し、ポーチにしまう。休憩所に戻ろうとしたところで、剣戟音を聞きつけたのか、キングブラックボアが突っ込んできた。
 なんか後方で騎士たちとルードルフたちが悲鳴をあげている気がするけど、キニシナーイ。腰に佩いていた刀を鞘から抜き、突っ込んできたところをひらりと避け、首を一閃。
 ボトリと音を立てて首が落ち、体のほうはしばらく走ると、そのまま横倒しになった。

「「「「「「「「「え……?」」」」」」」」」

 唖然とした顔をして私を見る、騎士五人と公爵夫妻、側近二人。

「さて、〝解体〟っと。ヘラルドー、これ、どうする?」
「肉は公爵夫妻の歓迎会で使いましょう」
「わかった」

 通常運転の私とヘラルドに、呆気にとられる公爵夫妻一行。

「王城でも言ったかもしれないけど、これでもSランクに上がってくれと言われているAランク冒険者よ? 普段から村周辺の魔物に対処しているんだから、当たり前でしょ」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
「だから言ったでしょう? ここから先は本当に危険なんです。指示に従ってくださいね」
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 ヘラルドの言葉に、無言で頷く公爵夫妻一行。私はといえば、大きな体のジルにじゃれつかれてもふもふを堪能している。
 まあ、私だけじゃなくジルとエバもいるからね。いちいち停まって戦闘しないだけ楽だ。
 震えている一行と怪我の治療のために、レベッカがポーションと、薬草とカモミールを配合したハーブティーを配っている。私はいらないと断り、周囲を見回ってくると言って休憩所を出た。
 もちろん、ジルとエバも一緒。
 見回るのは、キングブラックボアのように、さっきの戦闘音を聞きつけて、寄って来られてもこまるからだ。村の食料になるし、素材はギルドに売ることで村の資金にもなるのは言うまでもない。
 それに、魔物たちにとっては恋のシーズンであり、出産ラッシュの時期だ。秋とは違う出産ラッシュは私も従魔たちも初めてなので、村周辺を回っていても警戒をしている。
 だからこそヴィンも「見たい」と言って一緒に森を見て回ったわけだしね。
 まあ、村にいる冒険者にとっては、いい訓練になるだろう。特に少年組と息子二人は。
 休憩所からそれほど離れていない場所にコカトリスがいたけれど、一体だけ残して殲滅したくらいで、他は特に問題なかった。まあ、コカトリスの卵自体が六個しかなかったことから一体のみ残したわけで、半分は無精卵だったのでそれだけ回収した。
 そろそろオーク肉も欲しいなあ。ルードルフの領地にいるかな。いるなら、くっついて行ってオーク狩りをしてもいいかも。
 そんなことを考えながら休憩所に戻ると、出発準備ができていた。

「アリサ、何かいましたか?」
「コカトリスがいたぐらいで、特に問題ないわ」
「おや、コカトリスがいたのですか。それも料理に使いましょうか」
「「「「「「「「「コカトリス!?」」」」」」」」」
「はいよー。あと、村まではジルとエバに先行してもらうから、魔物の対処は私たちに任せて」
「わかりました」

 コカトリス如きで叫ぶんじゃない、公爵一行。とはいえ、コカトリスもランクが高いうえに、平原にはいないものね。驚くのは当然か。
 それぞれ馬車や馬に騎乗し、休憩所を出る。ゲレオンが御者台に座ったので、私はジルの背だ。
 それを羨ましそうに見るルードルフとロジーネに苦笑しつつ、護衛でもある私たちが先行し、休憩所を出た。

 ……あ。騎士たちのせいで、おバカたちの処遇を聞き忘れた!
 村に着いてからでいいかと、道中の護衛に専念した。

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