自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村の冬編

第155話 ダンジョン攻略 16

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 さて、五十八階層だが、草原と林がある風景に、オークキングとジェネラルオーガがひしめき合っている階層だった。それまでの階層にあった薬草や果物はあるが、これといった特筆すべき薬草や食べ物などはなく、有効な素材はオークの肉と魔石、オーガが落とす武器と防具と魔石という、食材ダンジョンにしてはなんとも微妙なものばかり。
 ただ、ジェネラルオーガが落とす武器と防具はかなりいいものが多く、BランクやAランク冒険者が扱っているような耐久性と強度、切れ味や防御力が優れているものばかりだった。レアなものもあるようで、それはSランク以上が持っているものと遜色ないものばかりだと、ヴィンが驚いていた。

「ここまでいいものを作れる鍛冶師はそういない」
「そうですね。この弓もここまでいいものではないですし」
「大剣もだな」

 セーフティーエリアでドロップ品を出し、あれこれと品定めをしているヴィンとランツ。もちろん、私も含めて全員で確認してはいるけれど、ぶっちゃけた話私には必要ないんだな、これが。
 リュミエールにもらったもの以上のものなんて、この世界にはないからね。なので、従魔たちが欲しいと言ったものは私がもらったけれど、他は自分たちが使えそうなもので外に出回っていないものはメンバーでもらうことにし、残りは全て冒険者ギルドに売ることになった。
 商業ギルドには必要ないしね。
 まあ、私たちがいただいもののほとんどがレアドロップなのが笑えるが。
 残ったレアドロップはオークションにかけるかもしれないと、ヴィンが言っている。

「その場合のお金ってどうなるの?」
「この場にいる全員で山分けだな」
「なるほどね」

 パーティーで行動している以上、当然ではあるか。
 ただね……オーク肉がすでに飽和状態に近いんだよ。これを冒険者と商業の両ギルドに売るとなると、確実に値段が暴落する。
 なので、これに関して半分は村へ持ち帰り、保存食を作ることに決めた。残りは両ギルドに売るか、ランツが懇意にしている商会に話し、他国に売ってもらうかするという。
 国によってはオーク自体の数が少なく、肉が出回らないところがあるらしい。特に帝国の北側に位置する国々はオークがほとんどいないそうで、ワイバーンよりも高級品扱いになっているらしい。
 ……なんとも面白いなあ。その国にも行ってみたいな。
 それはともかく。そんな五十八階層は半日だけ滞在し、五十九階層へ。
 ここも特筆すべきものはなく、村の北側にあるような湖と森林があるだけのフロアだった。ただし、湖は凍っているわ、周囲は常時雪が降っているわで、碌なフロアじゃなかった。
 薬草はなかったけれど椿があり、花だけじゃなくて種もあったのは驚いた。これなら椿油が採れるかもしれないと、お願いして種だけを大量に採取してもらったのだ。
 食用にしてもよし、髪に塗ってもよし、荒れた手に塗ってもよしといろいろ使えるし、手荒れを気にしていた村の女性たちにハンドクリームを作ってもいいかもしれない。
 こればかりは錬金術を使っていろいろと実験してみないとわからないけれど、日ごろからお世話になっているんだから、それくらいはプレゼントしたい。できればシャンプーやリンス、トリートメントも作ってみたいしね。
 この世界にもあるにはあるけれど、日本のものと比べたら劣るものばかりだ。それでもそれなりに髪が輝いているんだから、この世界の人がどれだけ研究してきたのかが窺える。
 もしかしたら転生者が頑張った可能性もあるが。
 まあ、日本にあったものと比べたらダメだけれど、それでもそれに近いものは作れるんじゃないかとは思っている。実験あるのみだけどね。
 で、このフロアにいた魔物は上にいたものと同じだったので割愛。ここのセーフティーエリアで一泊することになり、作った小屋が大活躍だった。

 そして翌日、六十階層。

「……ボスだな」
「……ボスですね」

 この階層は予測通りボスだった。思ったよりも疲れていないからと、装備の点検をしてからボス部屋へ。

「ここに来てこれか……」
「ドラゴンゾンビとは……」
「面倒だなあ……」
「俺たちで倒せますかね、父さん」

 心配そうにランツに話す息子二人。それに対し、私とヤミンとヤナは首を傾げる。

「え? 簡単でしょ?」
「簡単だよね」
「簡単だよな」
「「「「え?」」」」
「「「え?」」」

 ボスはドラゴンゾンビが一体。ただし、レベルはそれほど高くない。
 ただ、この世界の骸骨系は体力バカが多いので、ガチの戦闘だと面倒なのだよ。聖水があれば簡単に倒せるというのがこの世界の常識。だからヴィンとランツは苦い顔をしている。
 だけどね?

「「「だって、ノンがいるじゃない」」」
「「「「あーーー!」」」」

 ですよねー!
 ノンは神獣であ~る。なので神聖魔法が使いたい放題であ~る。
 てなわけで。

「ノン先生、サクッとやってね、サクッと」
<はーい! ホーリークロス、それからホーリーレインなのー>

 ノンがサクッと魔法を唱えると、十字になっている槍が十本出てドラゴンゾンビに突き刺さり、あとを追うように雨が降り注ぐ。ただし、この雨は聖水なので私たちは回復し、ドラゴンゾンビには致命傷なわけで。
 戦闘を開始して10秒も経たず、ノンにより戦闘を終了した。
 パッカーンと口を開けて戦闘を見ていたヴィンとランツ親子。ぶっちゃけた話、ノンの戦闘力だとオーバーキルだ。

<アリサ、終わったのー>
「ありがとう。お疲れ様!」
<うん!>

 ぴょんぴょん跳ねて嬉しさと表現するノン。尻尾もピーンと立ってるし、よっぽど嬉しいみたい。
 ドロップは骨と真っ黒い鱗、そして大きな魔石。そして各種属性がついている魔石もあった。
 宝箱の中身は同じく各種属性がついている魔石と、それぞれが得意としている武器と防具だった。もちろん、私の前に現れた宝箱には、従魔たちの分も入っている。

伝説級レジェンドか……」
「オーガのレアドロップが古代級エンシェント世界級ワールドですから、破格ですね」
「そうだな」

 ヴィンとランツは絶句しつつも、かなりいいものが出たと喜んでいる。
 この世界の鍛冶師の腕前は、かなり高い。この世界の現代において、現在最高峰の武器や防具を作れるのは、ごく稀に古代級エンシェント世界級ワールド、ほとんどが希少級レアだ。この呼び方は鍛冶師の間で呼ばれているもので、普通は素材と同じBとかAランクと呼ばれている。
 SSSは創世級ジェネシス神話級ミソロジー、SSは伝説級レジェンド古代級エンシェント、Sは世界級ワールド秘宝級アーティファクト、Aは希少級レア、Bは製作級アンコモン、Cは一般級コモン、それ以下は粗悪品ジャンク扱いになる。
 ただし、素材はこれに適応されないという、なんとも形容し難いというか複雑というか、誰がこんな面倒なシステムを考えたんだという頭が痛くなるようなものになっているのだ。
 ただ、ヴィンやランツによると、それだと素材はSランクなのに武器や防具はBランクに下がってしまうというなんとも不思議な状態になってしまうので、二十年ほど前から素材のランクに統一しようという動きが出て、今はそれが当たり前になって来ているという。
 それでもダンジョンから出るものを鑑定するとSだのAだのとは出ず、昔の呼び方のままのほうが多いらしい。
 ちなみに、私の宝箱から出たのは刀と弓、従魔たちの物理と魔法両方の防御力と攻撃力や素早さが上がる腕輪や首輪、リボンだった。そしてなぜか外神話級オーパーツ

 リュミエールうぅぅぅ! やりやがったな! ヴィンたちに見せられないじゃないか!
 内心で頭を抱えつつ、すぐにアイテムボックスへとしまったのだった。

 その後、下へと向かう階段を発見してからボス部屋手前の場所に戻ったあと、ボスが固定なのかの確認。結果的に人数を変えようが何しようが、ドラゴンゾンビ一体の固定だった。
 その時に確かめたいことがあると回復魔法やポーションを使ってみたところ、どれも倒せたのだ。もちろん、属性魔法についているどの回復魔法でも三発で倒せたのだから、聖水や神聖魔法がなくとも倒せることがわかっただけでもいい情報になるだろう。
 それはドラゴンゾンビに限らず、他の骸骨系にも有効かもしれないという、希望が持てるからだ。
 なにせ、聖水は神殿に属する巫女や神官、聖女や神子など、神聖魔法が使える人間にしか作れないうえ、値段もバカ高い。それだったら神殿に願い出て彼らを派遣してもらい、骸骨系を浄化したほうが安いくらいだ。
 それを考えると、値段が一番安いポーションや回復魔法で倒せるのは、とても画期的だと言えるだろう。
 まあ、それもきちんと検証したうえで冒険者たちに通達するだろうけれど、それを検証するのはギルドの役目なので、私の関与することではないとはヴィンの弁だ。

「よし。ここまでにして帰るか」
「そうですね」

 残り五日ほどを残し、このダンジョンを出ることになった。

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