自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村の冬編

第149話 ダンジョン攻略 10

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 翌朝。たくさんの種類の魚介類が手に入ったからと、そのうちのいくつかを使い、朝から海鮮丼を作る。今日一日かけて五十二階層を探索し、ある程度のマップを作るのだ。
 ここまでの日数はだいたい十日くらい? 最長で三週間だと言っていたので、あと二十日前後はダンジョンに留まる予定。
 とはいえ、五十五階層までの魔物の量によっては、ボスを倒して転移陣を発生させ、冒険者ギルドに報告に行くとヴィンが話す。
 まあねぇ……。スタンピード直前の様相を呈している魔物たちの多さを考えると、当然の結果だ。上に上がってくるまでにはまだまだ時間がたっぷりあるとはいえ、レベルの低い冒険者たちがいる場所に、レベルの高い魔物が上がって行かれても困る。
 なので、五十五階にいると考えられているボスを倒したら、一度地上に戻ることにしたってわけ。その後はギルドと相談したうえでの話になるので、そこはヴィンに丸投げだ。
 もしボスがいなかった場合は五十階に戻るか、転移陣を探してそこから地上に戻るという。各階層にある転移陣は、基本的に一階に戻るだけの一方通行だ。けれどボスを倒した階層までという制約はつくものの、ボスさえ倒していれば双方向で行き来できる。
 そのためにも五十五階のボスを倒したいってわけ。また五十階から下っていくのが面倒ともいう。
 そんなわけで探索したわけですが。前日にある程度間引いたからなのか、今のところ沸きは少ない。とはいえ、それでも上階に比べたら多いのだ。
 ドロップを拾うにしても、次々に襲ってくるのでぶっちゃけた話拾いきれず、消えてしまったものもある。せっかくの食材なのに! とヤナがキレた。

「アリサ、腕輪を作ってよ。それに俺がドロップの吸引魔法を付与するから」
「できるの?」
「うーん……正直なとこ、できるかわからない。けど、実験としてやってみたい」
「実験なら失敗しても問題ないものね。いいわよ」

 ヤナの提案で腕輪を作る。攻撃力と防御力を付与したものをヤナに渡すと、そこに【アポート引き寄せ】の魔法を付与するヤナ。

「……できた……」
「おー、やったじゃない!」
「引き寄せるだけならこれでいいよな?」
「そうね」
「アリサ、できれば収納も付けてほしいのですが……」
「うーん、どうだろう? ちょっとやってみる」

 ランツの要請で、アポートが付与されている腕輪に空間魔法を組み込んでみる。が、素材が鉄だったからなのか、見事に壊れた。仕方がないのでミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネや神鋼などの魔法に親和性が高いものやレア金属で作って実験してみたものの、空間魔法が付与できたのはミスリルと神鋼だけだった。
 しかもミスリルに至ってはアポートと空間魔法だけしか付与できず、攻撃力や防御力を付与すると壊れてしまい。全部を付与できたのは神鋼だけだったのだ。さすが最高峰の金属、なんでもアリだな、おい。

「アリサ、この腕輪を売り出しませんか?」
「却下。売り出したらインベントリのマジックバッグを作っている職人や工房が潰れるじゃない」
「あ」
「あ、じゃねーよ!」

 何ボケたこと言ってんだよ、ランツ。そもそも神鋼の入手は? だれが付与するの? それらのことが職人にできるのであれば丸投げするけれど、必ずしもできるとは限らない。
 そんなことをランツに質問攻めにしたら、さすがに現実的ではないと思ったらしく、黙った。

「値段だって、神鋼と空間魔法を使っている以上、最低でも白金貨一枚は行くんじゃない? 私が持ってるこの小さいポーチですら金貨60枚はしたのよ?」
「……」
「神鋼を掘り出す技術、空間魔法の付与、防御と攻撃の付与、そこにとても珍しいアポートという魔法の付与。特にアポートは今のところヤナしか使えない可能性が高い」
「それは……」
「ヤナは冒険者なの。職人じゃないわ。ヤナが職人になりたいのであれば別だけど」
「俺は冒険者がいい。アリサやヤミンと一緒に、世界中を旅するんだから」

 だよね。ヤミンもヤナも、そのために冒険者になったわけだし。

「私がいる場合に限り、この腕輪を貸し出しする。そうでなければ貸し出さないわ」
「はぁ……。わかりました。とてもお金になる話なんですがね……」
「工房や職人を路頭に迷わせたいならどうぞ。私もヤナも作らないし、商人としては失格だけどね」
「そうですね」

 村の住人だから作った。それに攻略に必要だと思ったからヤナに頼んだ。
 それは私もヤナも、このダンジョンを攻略するうえで必要だと思ったから作ったわけで、他の冒険者のために作ったわけではない。ヤナと二人してそのことをしっかりとランツに話すと、がっくりと肩を落とし、諦めた。
 そんな経緯はあったものの、従魔たちの分も含めた分の腕輪を作り、そこにアポートを中心に空間魔法や防御と攻撃、ついでに時間停止を付与した。それを全員に配る。

「一応、勝手に中に収納するようにしたから。夜に出して山分けするか、そのまま個人で持っててもいいんじゃないか?」
「そうだな、そのほうがいいだろう。話し合いはあとでしょう」
「そうですね。今はこの階の地図を作らなければ」

 ヤナってば有能だな。ヤナの説明に、ヴィンとランツが頷く。
 とりあえず二、三人で一チームを作り、方々に移動してマップを作製していく。メンバーは前回と一緒だ。ある程度の区切りをつけて移動し、マップを埋めていく。
 あくまでも大雑把なものなので正確ではないが、それでもマップがあるだけで違うのだから、攻略は楽になるはずだ。但し、マップに記すのは中の状態と階段、転移陣と罠だけで、宝箱は書かない。あとは隠し部屋くらいだろうか。
 ただ、隠し部屋は常にそこにあるとは限らないそうなので、ギルドに情報は出しても記入しないことのほうが多いという。楽しみは自分で探せってことだね。
 そんなわけで一日かけて五十二階層の地図を作った翌日。

『………………』

 階段を下りた先である五十三階層は、ところどころに雪が被る、畑だった。

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