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ドルト村の冬編

第148話 ダンジョン攻略 9

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 今さらなんだが、四十一階からフロアのパターンが変わった。今までは洞窟だったものが、草原に変わったのだ。明らかな変化に、本来であれば誰かしらが突っ込みを入れるはずなんだけれど、誰も突っ込まない。
 すでに攻略しているヴィンですら何も言わないのだ。どう考えてもおかしいと突っ込みを入れてみたものの、〝ダンジョンだから〟と一蹴されてしまった。なんでだ!

「他にもあるんだよ、そういうのが。むしろ、このダンジョンのほうが珍しいんだ」
「ダンジョンによっては全部同じフロアというところもありますし、ボスごとに変わるところもありますしね」
「俺は行ったことはないが、中にはボスしかいないダンジョンもあるんだぜ?」
「恐らく、食材を優先しているからこそのダンジョンなのでしょうね。不思議なことに、〝食材ダンジョン〟と呼ばれるものが各国にひとつは必ずありますし」
「おおう……」

 ダンジョンは迷宮と呼ばれているが、まさか仕様まで摩訶不思議な場所になっているとは思わなかった! 入ったダンジョンは、同じパターンが続くところばかりだったからだ。
 といっても迷宮都市で攻略したダンジョンしか知らないんだけどね。
 それは横に置いておくとして。四十一階の草原を皮切りに、草原と林、森と川というか大河、里山のような山林に畑と続いてボス。そして四十六階層からは浅瀬というか遠浅、深い場所になってからなぜか群島になり、洞窟になってから五十階層がボスだった。
 ……どこから突っ込んでいいのかわからんよね、これ。
 食材自体は変わらなかったけれど、遠浅や畑では種類が増えていたし、群島では樹木になる果物が大半だった。そのまま下層も同じとは限らないというヴィンの話から、急ぎながらもしっかりと採取をしたとも。
 大活躍したのはノンとヤミンだったのは言うまでもない。

 そんなわけで草原だった五十一階層の攻略をほぼ終え、階段を下りきった五十二階層。いきなり海になった。パターンが崩れた瞬間で、全員そろって唖然としたのは、本当に一瞬だ。
 ひしめき合っているとまでは言わないが、それでも上の階層よりも魔物の数が多い。見た目もサハギンや恐ろしい顔をした人魚、大きなカニや貝が、そこら中を徘徊している。
 空中を泳いでいるサメやマグロ、カツオもいるんだよ? 純粋な魚にはまったく見えないのだ。そんなフロアは砂浜が多い遠浅だったりする。

「……殲滅してから、ゆっくりとセーフティーエリアを探すか」
「そのほうがいいかもね」
<オレは海のほうへと行くな>
<あたしも>
「はいよー。ピオとエバが海のほうを担当してくれるそうよ」
「じゃあ俺もそっちに行く」

 海の担当は雷魔法が使えるピオとエバとヤナが負うことに。ただ、そこに行くまでには陸地の魔物を殲滅しないとまずいので、まずは私以外の全員が今使える中でも強力な範囲魔法を使うことになった。
 ……私の出番がないじゃん!
 それはそれで情けないので、足場と通路を確保するために特攻隊長に志願。槍を駆使して戦い、マップを見ながらセーフティーエリアに先導する。
 本来であれば一撃で倒せるようなレベルじゃないが、そこはリュミエール謹製の槍。刀同様に切れ味抜群なので、一撃で屠ることができていた。それを見ていたみんなが一言。

「「「「「「さすがアリサ!」」」」」」
「どういう意味よ!」
「どこで手に入れたのか知らんが、そんな切れ味の槍なんてねえからな?」
「そうですね。ヴィンですら三撃はかかるのに」
「……」

 じっと見てくるヴィンとランツに、視線を逸らせてシカトする。言えるわけないじゃん、神様からもらっただなんて。
 同じ転生者であるヤミンとヤナ、事情を知っているヘラルドたちやランツにすら伝えていないんだぞ? いつかは話すだろうけれど、それは今ではない。
 閑話休題それはともかく
 私がある程度戦えるスペースを作ると、ノンがそこにサンクチュアリという魔法を展開する。聖域と名付けられているだけあり、その空間には魔物が入ってこれないばかりか、寄ってこれないのだ。
 さすがは神獣であるノンだね。そこに全員入ると、私以外の全員が魔法を放つ。私は寄ってこれないのをいいことに、聖域から出入りしては槍でザクザクと突いていたりする。

「お~、壮観だねぇ」

 風に炎、水に氷、土属性の魔法が方々に炸裂し、魔物を屠っていく。その隙間をぬってヤミンが風魔法で集めてくれたドロップを、せっせと拾ってポーチに入れる私。
 ある程度殲滅したあと、拾いきれなかったドロップを全員で集め、ノンがサンクチュアリを消したところで移動。それを何度か繰り返し、セーフティーエリアに着いた。
 それと同時に私のマップと連動しているピオとエバの案内で、仲良く揃ってセーフティーエリアに来た。

「三人とも怪我はない?」
「<<ない!>>」
「それはよかった」

 かなり長い間戦っていたこともあり、それなりに疲労している。時間もお昼になるからと、用意をしながら話し合いだ。
 海風があるからなのか、かなり寒く感じる。このダンジョンは外の季節に影響されないということなので、純粋に風による寒さだろう。
 つか、外に影響されるダンジョンなんてあるの?
 そう質問したら、帝都のもっと北にあるダンジョンは、もろに影響を受けるダンジョンらしい。それはそれで行ってみたいような気がするけれど、さすがにこの時期に帝都よりも北にある、影響を受けるダンジョンになんか行きたくはない。
 なので、うずうずしている従魔たちには、冬が終わってから! と言い含めた。
 おっと、脱線した。
 とにかく一回体を温めたほうがいいだろうと、しょうがとねぎ、野菜とロック鳥をたっぷりと入れた、うどんにしてみた。それだけだと足りなさそうなので、キノコがたっぷり入った炊き込みご飯も用意。
 お茶は紅茶とスパイス、ミルクを使ってチャイを作り、とにかく体を温めてくれるものを出した。パスタとは違う太さの麺にヴィンは戸惑っていたけれど、ランツたち魔族親子とヤミンとヤナは、目を輝かせてうどんをすすっていた。
 どうやら爺様はうどんも広めていたらしいと察した。
 ……ヴィンがいるからね。ランツたちも「先王陛下が」と漏らしていたから一応世界に認識されているんだろうけれど、さすがに転生者とは言えないものね。
 まあ、公然の秘密だったらしいから、他国の人間だとしても知ってる人は知ってるみたい。ただし、そういうのは王族や貴族の場合だけで、庶民ともなると囲われて搾取され、使い捨てられる可能性のほうが高かった時代だったそうなので、隠している人のほうが多いかもしれないと、ヘラルドが言っていたっけ。
 今はそこまでの偏見はないが、それでも一定数の国にはそういう風習が未だに残っていたりするのだよ……かのエスクラボ国や、ヤミンとヤナがいた国のように。
 そこは王族と貴族が切り替えて、下々に知らしめていかないといけないはずらしいが、それだってそう簡単に意識改革などできるはずもない。なので、短くても十年から二十年、長いと百年単位で意識改革するんだとか。
 ちなみに、魔族の場合は王と王妃がそんな感じだったから、わりとすんなり意識改革もできたらしい。できなかったら拳で語ったらしいしね、爺様は。
 ……そのあたりも健在でなによりだ。とっくに故人だが。
 まあ、そんなわけで、亡国となった魔族の国には、それなりに日本食が流通していたらしい。それでも材料の関係でごくわずかな種類しか伝えられなかったらしいけれど。
 会ってみたかったなあ。亡くなってからすでに百年は経っているんだから、仕方ないが。
 そんな望郷ともいえることを考えつつ、うどんをすすった。

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