自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

文字の大きさ
上 下
130 / 190
ドルト村の冬編

第146話 ダンジョン攻略 7

しおりを挟む
 四十一階層。スライムはビッグスライムになり、一角兎はビッグバイコーンラビットになった。ビッグ二角兎じゃないのが不思議だ。
 兎のくせにレトリバーくらいのサイズがあるんだよ? 驚きよね!
 他にもビッグホワイトカウとビッグシープが出て来たりと、明らかにそれぞれの上位種や変異種に変わっている。

「ヴィン、五十一階も同じ魔物なの?」
「ああ。レベルは違うが、同じだな」

 戦闘をするとはいえ、できるだけ最短距離で階下に行き、攻略されていない階層を探索したいと話すヴィン。このメンバーだからこそ、そう考えているらしかった。

「ぶっちゃけた話、俺がギルマスになるまでいたパーティーだと、四十五が限度だったんだよ」
「SSSランクなのに?」
「ああ。技術も力量もレベルも問題ない。ただ、年齢的に体が思うように動かないから、下層に行くのがしんどくてなあ……」
「あ~……」

 ヴィンは竜人族だからあまり体力などの衰えはないが、同じパーティーにいたのはエルフと人族を含めた五人パーティーだったという。それぞれが孫ができるほどの年齢となり、体力も衰えてきていて、場合によっては一回の戦闘で疲れて動けなくなることもあったそうだ。
 そういったレベルや技量に関係なく、老齢という生きている以上どうにもならない事情からパーティーを解散。しばらくはソロで活動していたヴィンだったけれど、ギルマスの打診と、噂になっていた私に興味を持ったからこそ、ドルト村のギルマスになったそうだ。
 ……そういえばそんなことを言っていたね。
 そんな事情もあり、ヴィンはソロで五十階層まで攻略したらしい。すげえな、おい。
 まあねぇ……戦っている姿を見れば、ずば抜けて技量が違うというのがわかる。模擬戦をした時にも感じたけれど、目の前で戦闘スタイルを見ていると、明らかに手加減してくれていたことがまるわかりだった。
 魔物のレベルも軽く380を超えてる。
 十階層までは強くてもレベル50までしかなかったから、確実に魔物のレベルが上がっていることを実感した。ヤミンとヤナにとってはきつい戦闘だとしても格上だ。
 今は私だけじゃなくて全員がパーティーを組んでいる状態なので、従魔たちやヴィンが倒すと全員に経験値が入るようになっている。もちろん、レベルが低い人のほうに多くの経験値が流れているので、ヤミンとヤナが有利なのだ。
 二人はそれをとても申し訳なさそうにしているけれど、二人以外は誰も気にしないし、納得もしている。そういう仕様だと言われてしまえばそれまでだけれど。
 ドロップ自体も、四十階まではBランクだった。だが、ここに来てAランクに変わった。
 それでもまだAランクの素材という事実に驚くとともに、どれだけ階層が深くなっているのかと慄く。百まではいかなくとも、少なくとも七十階はあると察せられてしまったから。
 それはヴィンだけじゃなくてランツも感じているようで、眉間に皺を寄せながら溜息をついている。
 確かめるだけなら私のマップでも確かめられるんだよなあ。まあ、黙っているが。
 それに、下手に確かめてヴィンが「行こう!」と言わないとも限らない。それだけは勘弁願いたい。
 攻略するにしても、せめて次の会議まではお預けにしたい。それくらい、ここまで急いで進んできたのだ。
 だからこそ、完全に攻略されている五十階層までは急ぎだとしても、それ以降は時間がかかろうとも、ゆっくりと攻略したいと思ってしまった。
 それをヴィンに伝えれば、一瞬固まったあと、豪快に笑った。

「確かにな! どうやら俺は急ぎ過ぎていたようだ」
「ヴィン……」
「ここ十年は、ずっと一人でこのダンジョンを攻略していたからな。俺の仲間に近い力量の者ばかりが今ここにいて、尚且つあいつらよりも若い者ばかりだ。それで浮かれていたんだろう」
「ふふ、そうですね。ヴィンは急ぎすぎていましたね。まるで死ににいくようにも見えますよ?」
「んなわけあるかよ、ランツ。俺はまだまだ現役で活動するぜ?」
「はいはい、そうですね。きちんとギルマスの仕事さえしてくれていれば、本部も文句を言わないでしょうし」

 それでいいのかよ、ランツさんや。
 まあ、確かにヴィンはしっかりとドルト村でギルマスの仕事をしているし、今は村の事情もあって仕事ができない状態だ。本部側もそれをわかっているうえで、ダンジョン攻略を許可しているんだろう。
 いくら脳筋といえど、ヴィンは愚かではないからね。勝手にダンジョンに行こうなんて言うとも思えない。
 もちろんそれはランツにも言えることで、きっと二人は許可を得て攻略しているんだろう。それがギルドの利益になることを知っているから。
 もちろん自分の懐にもお金が入るから、両者Win-Winになるわけで。じゃれ合うおっさん二人を見つつ、ちゃっかりしてるなあと内心で呆れた。
 そんなこんなで一時間かけてセーフティーエリアに辿り着く。休憩と四十二階のセーフティーエリアまではどうするかなどの打ち合わせをし、階段への到達時間によってはそこで軽くお昼。
 もし早く着くようであれば、セーフティーエリアでご飯にすることに。
 階段の場合は干し肉とパン、果物で間に合わせ、エリアに着いてからがっつりと食べる方向だ。せっかく牛と羊、兎の肉が手に入るんだからと自分たちが食べる分とギルドに売る分、村での宴会のために大量に確保しておきたいらしい。
 ……これからどんどん深くなるんだが……それも確保するんだろうか。
 インベントリになっているマジックバッグがある以上、きっとかなりの量の肉や野菜を確保するんだろうなあ……。ダンジョンで採れるんだからタダ同然だし。
 食材を求めて歩く男たちと従魔たちのギラギラとした眼差しに視線を逸らしつつ、私も槍で斬りつける。村では木々が密集しているから刀を中心に狩っていた。なので、林や森の中ではない限り、今は槍を中心に使っている。
 ダンジョンだと素材をはぎ取ることをしなくていいから、どこを斬りつけても問題ないしね。
 全員で戦闘を繰り返し、階段に着く。今のところ予定通りに進んでいることから、軽く休憩。それから四十二階へと下り、セーフティーエリアへと向かった。

しおりを挟む
・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。