自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村の冬編

第144話 ダンジョン攻略 5

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 二十四階層は海であ~る。魚介類大好きな従魔たちがはしゃがないわけがない。
 そこにヤミンとヤナも交じり、まさに殺る気モードではある。が、ここでも戦闘はないわけで。
 砂浜を歩いていると崖になり、また砂浜になる。海の中に砂の道もあるんだから不思議。
 なんというか、天橋立のような感じといえばいいのかな? 引き潮の時に道ができるイメージなのだ。ただし、ダンジョンには引き潮も満潮もないくせに、波があるのが面白い。
 この砂の道は海から魚の魔物が襲ってくる。海から飛び出して突撃してくるのだ。
 それを一刀両断にしてドロップを拾い、ポーチにしまう。ドロップしたのはカツオの切り身と魔石。日本で見たカツオの倍の大きさがあるカツオの魔物だ。
 なので、切り身も大きいから食べ応えがある。
 他にも上顎というか上唇というか、その部分が長く尖っているマグロ――カジキマグロに似た魚やサメも襲ってくるんだから恐ろしい。カジキのあの尖ったもので刺されたらひとたまりもないだろう。
 まあ、ボア種のように一直線に飛んでくるから軌道も読みやすいし、目の前に来たらバッサリ斬ればいいし。あとは雷や風、火魔法で倒すかだね。
 ところどころで襲われつつもなんとか階下への階段に着く。ここで遅いお昼。お昼というよりもおやつの時間だ。
 お昼はおにぎりと味噌汁、浅漬けのみ。これは朝のうちに握ったり作ったりしておいたものだ。
 階段で料理なんてできないしね。なので、おにぎりやサンドイッチなど、お手軽に食べられるもののほうがいいのだ。
 その代わり、夜はしっかり食べるつもりみたい。

「さて、この下はボスなんだが、時間的に微妙なんだよな」
「そうですね。この階のセーフティーエリアに行くにしても、少々遠いですし」
「ああ。完全に日が暮れるから、移動も土と違って危険が増す」
「ボス部屋の手前って泊まれないの?」
「泊まれるが、俺たちだけじゃなさそうだしな」

 ヴィンに言われて下の気配を探ると、冒険者の気配がする。マップを確認すると、五組ほどが点々としていた。

「順番待ちをしているのよね?」
「ああ」
「もし順番を譲ってもらえるのであれば、先日のようにエリア外で泊まる?」
「そうだな。無理なようなら手前で泊まるしかないがな」

 とりあえず下りてみようと階段を下る。周囲を見渡してみると、壁に沿ってテントを張っていた。たぶん今日はなにもせずに泊まり、明日に備えるつもりなんだろう。
 その様子を見たヴィンが集まっている冒険者のところへと行き、話をしている。しばらくするとヴィンが戻ってきて、ボスの挑戦権を譲ってくれたというので移動し、ボス部屋に入る。
 ボスは一際大きな一体とお供が四体のオークだ。大きいのはファイターオークなんだろう。胸当てと剣を持っていて、他はこん棒だ。

<<<<<肉ーーー!>>>>>

 肉扱いかよ、従魔たちは。全員でサクッと倒し、ドロップと宝箱の中身を拾い、さっさと下の階層へと行く。夕暮れに染まった空はオレンジと紺が混じったマジックアワーで綺麗だ。
 すでに薄暗いのでどんな景色かわからないが、波音がするからまだ海なんだろう。そして階段の近くにあるというセーフティーエリアを目指して歩くこと三十分。すぐにエリアに着くが、珍しく誰もいなかった。

「この階層からエリアがふたつになるんだ。恐らくそっちのほうに行っているんだろう」
「なるほど」

 ヴィンの説明に納得する。
 さっさとテントを設置したあとで焚火と竈を用意。誰もいないから結界はなしだ。
 オークのバラ肉の半分もらい受け、一部をベーコンにすることに。二週間塩水に漬けてる時間はないので材料を出して錬成し、すぐに燻せるようにしておく。
 男たち六人と従魔たちが肉だ肉だと騒ぎながら料理をしている間に、鍋と網を使って簡易の燻製窯を作るとリンゴチップを入れ、燻していく。その間に羊やウサギ、オークやボアの小さな塊をひき肉にし、調味料を入れてソーセージのタネにした。
 ひき肉は錬金でやった。ミンサーを出してもよかったんだけれど、ランツがいるからね。それはなんだと言われても詳しい構造を語れないし、説明するにも紙がないので説明しづらい。
 なので、今のところ内緒だ。
 ソーセージを作る道具を出し、羊腸をセット。もちろんオークの腸も使うつもりだ。
 肉を道具に入れてどんどんソーセージを作っていく。それに興味をひかれたのか、ヤミンとランツが寄ってきた。
 あちゃー。

「アリサ、これは?」
「ボク、実際に見るのは初めて!」
「ソーセージを作る道具よ。やってみる?」
「「やりたい!」」

 目を輝かせて頷いた二人に、苦笑しつつも使い方を説明する。交互にやっても時間がかかるからともうひとつ道具を錬成し、二台でソーセージを作ってもらった。
 その様子を気にしつつ燻製窯の様子を見て、そこにチーズを足し、ソーセージは一回茹でてから燻製にする。本来のやり方ではないだろうけれど、食べられるのであれば適当でいいんだよ。
 そうこうするうちに串焼きと野菜たっぷりのミルクスープ、パンが出来上がる。そこに出来上がったばかりのソーセージとチーズを出していただきます。

「出来立てだからなのか、ソーセージが美味しい!」
「だよね!」

 ヤミンとヤナが頬を染め、美味しそうにソーセージやチーズを頬張る。
 たんと食え。そして大きくなれ。
 従魔たちもご機嫌な様子で食べているのがなんとも可愛い。
 大人たちは酒が欲しいとぶつぶつ文句を言いつつ、しっかりと食べていたのには笑ってしまった。
 あっという間にご飯も終わり、寝る準備。薪は夜でも平気なノンとジルがくべてくれるというのでお願いした。

 翌朝。出来上がったばかりのベーコンを使う。ロック鳥のもも肉とスライスした玉ねぎ、ベーコンを細長く切ったものとキノコを残っていたミルクスープに入れる。そこにベシャメルソースを投入して味を調え、バターライスとともに器に盛る。
 その上にチーズを載せ、生活魔法の火で炙ればドリアの完成だ。真ん中にミートソースも入れてあるから、飽きることはないだろう。
 他に野菜スープとパンを用意していると、それらの匂いにつられたのか全員起きてくる。揃ったところでいただきます。

「ヴィン。昨日波音がしていたんだけど、ここも海なの?」
「ああ。砂の道もあるが、二十四階よりも深い場所だと思ってくれ」
「あっちは浅瀬ってこと?」
「ああ。あの階層にはないが、下に行くと渦を巻いた貝やよくわからん形の貝もあるんだ。アリサはいろいろ知ってそうだから、教えてくれると助かる」
「はいよー。もしかしたら名前がわからないものもあるかもだけどね」
「それでもいいさ。食えるかどうかだからな」

 そういう理由かよ!
 まあ、下層に行けば行くほど持って来た食料は乏しくなっていく。できるだけ現地調達したいと考えるのは当然のことだろう。
 今のところ、上の階層には肉と魚、野草と果物、薬草しかなかった。野菜を一切見ていないのだ。
 食材ダンジョンと言われているんだから、きっと野菜もあるはずだ。ついでに香辛料やミショの実のような調味料もあればいいなあと思うけれど、こればかりは探索してみないとわからない。
 ヴィンとランツのことだから、私に対してそれも期待しているんだろう。
 期待に答えられればいいなと思いつつ片付けをすると、セーフティーエリアを出発した。

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