自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村の冬編

第141話 ダンジョン攻略 2

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 いつもの場所に降り立ち、帝都に向かう。村よりも標高が低いからなのか、思っていたよりも雪は少ない。
 とはいえ、それでも30センチほどはあるんだから、それなりに降ってはいるんだろう。
 さっさと帝都の中へと入る。冬だからなのか並んでいる旅人や商人などいなくて、門はあっさりと通り抜けた。そのまま歩いて会議の時に泊まっている宿屋へ。
 雪かきをしているのか、あるいは何かしらの仕掛けがあるのかわからないけれど、帝都内の道には雪がなかった。敷き詰められた石畳に何かあるのかもね。
 そのまま宿で一泊。

 翌日は会議で、午前は冒険者、午後は商業。その時にランツにインベントリになっているマジックバッグのことを自分の息子たちから自慢されたらしく、恨みがましく見られてしまった。

「……ランツも欲しいの?」
「当たり前ではないですか。一緒にダンジョンに行くのですよ? 仲間外れは寂しいじゃないですか!」

 そういう理由かよ!
 ま、まあ、確かに仲間外れは寂しいかと思い直し、会議が終わったら作ると約束した。形を聞いたらやっぱりポーチ型がいいらしい。弓を使う関係で、リュックだと触りがあるんだそうだ。
 矢筒を背負うもんね、弓だと。まあ、ランツの場合、持っている弓はかなりいいものらしく、魔力を矢にして放つから本来は矢筒は必要ないそうなんだけれど、そういう武器はあまりないそうで、誤魔化すためにも矢筒を背負うんだとか。
 まあ。今回はそんな強力な弓は必要ないと思っているから、三段落とした威力のものに変えて、矢筒も背負うという。

「矢はどうするの?」
「それくらいは自分で作りますよ。ただ、間に合わない場合はアリサに手伝ってほしいとは思いますが」
「まあ、それくらいなら」
「初心者のダンジョンなので、恐らく弓は必要ないかと。短剣と、魔法か素手で対処できそうですね」
「お、おう」

 さすが魔族、言うことが違う。
 てなわけで、ランツにもポーチを作った。
 会議もさっさと終わったらしく、時間がかなり余ったことから、食材の買い出し。今回は乾燥してあるものを中心に、バターやチーズなどの乳製品を購入。
 時間的に生野菜は売り切れているからね。そこはしょうがない。
 肉もこの時間よりも朝のほうが豊富だからと、あまり量を買うことはしなかった。

 翌日は朝市で不足している野菜を購入。一応肉が出るそうなので、そこはみんなが持って来たもので対処することに。
 買い物が終わるとそのままダンジョンへと行き、十階層へ。ボスを倒していることから、前回の続きになるんだが。
 どうしてランツとヤミンとヤナがその階層まで飛べるのか不思議で聞いてみた。
 私と新人二人はここまでしか攻略してないから仕方ないとはいえ、ヴィンは当然のとこながら、まさかランツだけじゃなくてヤミンとヤナも攻略が終わっているとは思わなかった!
 私と再会した時、攻略した二日後だった関係で休養日にしてたんだって。若いのにBランクまで行くわけだよね。
 でなわけで、さくっと十一階層へ。そこは草原と林が広がっていた。

「じゃあ、もうひとつのダンジョンも攻略したいから、最短で下りるぞ」

 ヴィンの言葉に全員で頷く。ちなみにリコは今回も小さくなっている。といってもジルと同じくらいの大きさなので、ロバくらいだろうか。
 まあ、そのジルも小さくなっていてそのサイズなんだから、苦笑するしかない。
 最短距離で歩きつつ、戦闘。もちろん新人二人の訓練なので、彼らがメインで戦っている。私は荷物持ちポーターなので、ドロップ品を集める係だ。

「ボクも手伝うよ、アリサ」
「俺も」
「ありがとう」

 草原に生えている薬草を採取しながら、そういってくれるヤミンとヤナ。ノン同様に薬草に詳しいから、本当に助かる。
 草原に出たのはスライムと一角兎、林にはコボルトとゴブリン。コボルトは上階にいたものよりも上位種になったうえにレベルも上がっているらしく、連携も取れていた。
 それを難なく倒し切る二人。見た感じ、レベル差がありすぎて訓練になっていなさそうだった。

「ふむ……。なら、さっさと下層に行くか。弱い相手の対処も必要だが、今みた限りでは問題なさそうだしな」

 とりあえず戦闘しながら行くというヴィンに全員で頷き、どんどん下の階層へと下りていく。最短で、しかも短時間で戦闘が終わるからあっという間に十五階に到着した。
 はえーな、おい!
 そこでお昼休憩を取ったあと、さらに下りていく。結局一日で十九階まで下りきり、朝からボス戦をすることに。
 晩ご飯は新人の訓練も兼ねて彼らに任せる。……荷物持ちポーターの意味とは……。
 まあ、晩ご飯だけだからね、彼らが作るのは。他は私の仕事だ。
 そんなこんなで彼らが作り上げたのは、ドロップした一角兎の肉を使ったステーキとミルクリゾット、乾燥した野菜とキノコがたっぷり入ったスープだ。うん、いいんでないかい?
 若干スープの味が薄いと感じたけれど、それでも充分美味しかった。
 寝るにしても結界を張ってしまえば見張りも必要なく、私が張った結界にピオとエバが雷を這わせればあとは寝るだけだ。そんな様子を他の新人冒険者が呆気にとられた顔をして見ていたのは笑ってしまった。

 翌朝。一日の始まりだからと米を炊き、大根の味噌汁を作る。おかずはベーコンエッグと野菜を用意。
 死蔵し始めている使い勝手の悪い小さな塊肉をかき集め、錬金でひき肉にしてハンバーグを作ると、中にチーズを入れて焼く。
 その音で起きて来たと同時にご飯が炊け、大根も火が通ったので火を止めたあとで味噌を投入。ハンバーグが焼きあがる直前に皿を出し、そこにご飯とベーコンエッグ、サラダをワンプレートにし、ご飯の上にハンバーグを載せたあとで肉汁を使ったソースを作り、かける。
 なんちゃってロコモコの出来上がりだ。まさかワンプレートで出てくるとは思わなかったらしく、ヤミンとヤナ以外は驚いていた。
 後片付けが楽なんだよね、ワンプレートや丼って。

『<いただきます!>』
「はい、召し上がれ」

 従魔を含めた全員に配り、食べ始めたのを見届けてから私も食べる。うん、我ながらいい出来だと自画自賛しつつ、かきこむ勢いで食べている男たちを見て彼らも気に入ってくれたんだと安堵した。
 ご飯が終わればお腹が落ち着くまで休憩し、装備を整えて片付けをすると、雷を解除してもらってから結界も解除。ヴィンを先頭にセーフティーエリアを出るとそのままボス部屋へ。
 ボスはゴブリンの上位種で剣と槍、弓と杖を持った二匹。杖は魔法使いと回復だろうか。
 念のため警戒しつつ戦闘を見守っていると、新人二人が一閃の下でどんどん斬り伏せていく。上位種でこれなんだから、ヴィンが簡単すぎるというのも納得だ。
 五分もかからずに戦闘を終え、攻略していない二人と私の前に宝箱が出現した。まさか、戦ってないのに初回特典が出るとは思わなかった。
 それについてヴィンに疑問をぶつける。

「ボス戦に限り、戦ってなくても初回討伐なら必ず宝箱が出るんだよ。そうじゃないと、戦えない荷物持ちポーターには何も出ないだろ? 全員の荷物を預かっているんだし、同じチームだからな」

 同じ空間にいるだけで宝箱が出る仕様なんだと、ヴィンが教えてくれた。
 言われてみれば、確かに戦える荷物持ちポーターなんてほとんどいない。パーティー内にいれば経験値はもらえるが、それでも直接戦っている人に比べると、少ないという。
 それでも経験値が入っている以上それなりにレベルも上がるし、魔法が使える荷物持ちポーターは一当てするだけで戦ったメンバーと同じだけの経験値が入るんだから、そこそこのレベルが上がっていくだろうしね。
 人によっては荷物持ちポーターをしている人間を嫌って寄生していると言っているそうだが、そういう人間は荷物持ちポーターどころか他の冒険者からも嫌われる傾向にあり、いざ雇いたいと思っても全く頷いてくれないそうだ。
 当たり前じゃんねー。メンバーの荷物全部預かってるんだぞ? 人によっては料理人も兼ねてるんだぞ? そんな人に嫌われてみろ、荷物どころかご飯も作ってくれなくなるんだから。
 その意味をきちんと理解している冒険者は、決して荷物持ちポーターを蔑ろにしないし、ボス戦でも必ず護衛するそうだ。

「まあ、今いるうちのメンバーに限っては全員がインベントリのマジックバッグがあるし、アリサは護衛の必要はないしなあ」
「そうですね。それでも、荷物持ちポーターの役割は大事ですから」

 本来はこの段階でインベントリのマジックバッグなんか買えるようなお金なんてないから、本当に破格の対応なのだよ、ランツの息子たちは。それを踏まえ、しっかりと荷物持ちポーターの重要性を解くヴィンとランツに、二人はしっかりと頷いた。
 宝箱の中身とドロップを回収し、下の階層へ。さて、二十一階はどんな仕様かな?

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