自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

文字の大きさ
上 下
123 / 190
ドルト村の冬編

第139話 異世界での新年は

しおりを挟む
 新年でござる。
 といってもテレビやラジオ、スマホなどの文明の利器はない世界なので、時間が過ぎれば……といった感じだろうか。除夜の鐘もなければ年越しそばも食べてないしね。蕎麦の実がなかったともいう。
 あれば緑の手で量産していたとも。
 うどんを作るという発想を誰もしなかったこともあり、オードブルで年越しをした。
 起きたあとは囲炉裏で餅を焼き、お雑煮を食べる。味噌を使ったものにしてみた。
 これはヤナのリクエストで、実家が味噌味だったんだとさ。私は醤油ベースのすまし、ヤミンは白味噌だったらしいので、見事に味が分かれた形になる。
 なので、まずは味噌ベースで作ったってわけ。
 美味しゅうございました。
 おせちも従魔たちに好評で、綺麗さっぱりなくなってしまった。三が日の意味とは……。
 まあ、それはともかく。
 雪が降っているというのに、従魔たちだけじゃなくてヤミンとヤナまで外に出て、一緒になって転げまわってるのが凄い。さすがに私はそんなテンションではなく、お昼用に白味噌のお雑煮を作っておいた。
 その流れで夜はすまし。
 そんな流れで元旦を過ごし、雪の中ヤミンとヤナは帰っていった。ずっと楽しそうにしていたから、それはそれでよかったよ。
 二日目も雪が降る中従魔たちは外に出て雪まみれになり、それを見ながらきりたんぽ鍋の用意。ご飯を炊いて、串用にとっておいた木を使って棒にし、ご飯を適度に潰してから棒に巻き付け、囲炉裏でじっくりと焼く。
 これが正しい作り方かどうかは知らないけれど、テレビで見たものをそのまま真似てみた。思っていた以上にうまくできたからよしとしよう。
 昼は磯辺を食べて、夜は野菜たっぶりで焼いた餅が入ったきりたんぽ鍋。
 三日目は、昼はカレーで夜は野菜と海鮮たっぷりな寄せ鍋にしてと、なんだかんだと食べてばかりいた三が日であった。
 そうなると、従魔たちと違って動かなかった私は、若干体が重いなあ……と思うわけで。

「白菜の様子を見てみようかな。ついでに氷豆腐も作ってみるか」

 雪に埋もれた白菜は甘いと聞いたことがあるので、一部の冬野菜はそのままにしてある。ただ、さすがに二メートル近くも積もるとなると、雪の重さで野菜が潰れてしまう可能性があるので、様子を見ながら雪かきをしないとなあ。
 いざとなったら従魔たちの誰かに魔法を使って除去してもらおう。
 こういう時、自分が魔法を使えないと不便だなあと感じるが、魔法の才能はないとリュミエールにきっぱりと告げられているので、仕方ない。とりあえず、今あるのだけでも雪かきをしてしまおう。
 そう思って作業を始めたらジルとノンが寄ってきた。何をしているのか聞かれたので野菜のことと雪かきの説明をすると、二匹は喜々として魔法を使い、雪を溶かしたり庭の隅に積み上げたりしてくれた。
 …………せっかくの労働が………。

「まあいっか! ジル、ノン。手伝ってくれてありがとう」
<<うん!>>
「ついでにこのあたりの雪もあそこに積み上げて、雪を固めてくれる?」
<いいけど、何をするのー?>
<我も気になる>
「ふふふ……できてからのお楽しみ!」

 不思議そうな顔をして首を傾げる二匹に、にっこりと笑って何をするのか教えない。といっても、かまくらを作るだけなんだよね。
 固めるのは魔法でやってもらい、中をくり抜くのは自分の労働で。普通にやっていたら固くて掘るのは大変だっただろうけど、そこはスキルを使って普通に掘ったとも。
 広さはヤミンとヤナが来た時のことも考えて三人プラス、ノン以外は小さくなってもらうことにして。どのみち、雪の塊自体もそれくらいの広さしか掘れなかったともいう。
 中を掘り終わったら一旦家の中へ入り、火鉢に囲炉裏の炭を入れる。その中に小さくした薪を入れて、一回火を熾しておく。
 鉄のインゴットを出して金網を作り、かまくらの中でも寒くないよう皮のシートや毛皮を用意していると、従魔たちと一緒にヤミンとヤナ、ヘラルドとレベッカが来た。

「「あけましておめでとうございます」」
「あけましておめでとうございます。どうしたの?」
「新年の挨拶ですよ。確か、ではそう言うんでしたよね」
「そうね。やっぱり王様が?」
「ええ」

 じいさん、やっぱりやりやがったな!
 そんな口汚い言葉を呑み込み、家の中へと入ってもらう。緑茶とみかんを出すと、ヤミンとヤナが喜んだ。

「アリサ、外にあったのは何かしら」
「かまくらという、雪で作ったものね。雪を固めてから中を掘って、その中で過ごすの」
「まあ! 面白そう!」
「ボクも中に入ってみたい!」
「俺も!」

 おおう……まさかの中に入ってみたい宣言が来た!

「さすがに従魔たちとこの人数だと全部は入りきらないから、ズルをして空間拡張してくるから待ってて。食べたいものがあるなら用意するから、戻ってくるまでに考えておいてね」

 そう告げてかまくらのところへと行き、中を拡張する。自分の家でやりたいのであれば、あとで作り方を教えればいいしね。
 今はそれほどの雪があるわけじゃないけれど、いずれは簡単に作れる量の雪が降るんだから、最初は子どもたちと大人二人くらいで楽しめるような大きさのものを作り、大人はあとで作ればいいだろう。
 家に戻ると、まずは敷物を中へと広げる。ついでにクッションも用意してみた。それから火鉢の数をふたつにし、もうひとつも準備したらかまくらの中へと入れておく。

「何を食べるか決まった?」
「「肉!」」
「野菜がいいわ」
「餅が食べたいですね」
「はいよー」

 少年二人は肉と来たよ。串焼きでいいかと旅をしていた時に作ったものがあったのでそれを出し、野菜もいろいろ串に刺す。餅は角餅にして、砂糖醤油とチーズ、海苔でいいか。
 飲み物は緑茶でいいやと小さめのやかんにお湯を入れ、金網の上に載せられるようにした。もちろん、重量軽減付きだ。
 皿や湯飲みなど諸々のものが準備できたら、全員で食材やらを持ってかまくらの中へ。毛皮は処理する前のものなので、土足でOK。
 火鉢の上にやかんを載せ、それぞれが食べたいものを金網に載せてもらう。焼きながら話をしていると、やっぱりヘラルドとレベッカが作り方を聞いてきたので教え、さっき考えた通り、子どもたち優先にしてもらった。
 新たに作るまでは、子どもたちが使い終わったら大人が使えばいいしね。もしくは順番や日にちを決めて使うとか。
 雪が大量になるまではそれで凌げばいいと話すと、ヘラルドとレベッカは頷いた。

「いいわね、これ。室内ではないから少し寒いけれど、これはこれで楽しいわ」
「たまにはいいですよね。ボクがいた国では滅多に雪が降らなかったから、嬉しいです」
「俺も! こうやって焼きあがるのを待つのも楽しい!」
「ふふ、そうね。楽しいわね」

 少年とレベッカが串を引っくり返しながら、楽しそうに話をしている。ヘラルドは緑茶が気に入ったようで、同じく餅を引っくり返しながらも湯飲みを手放さない。
 従魔たちはといえば、それぞれが座っている間に一匹ずつ座り、私だけではなく他の人たちが寒くないよう、ぴったりとくっついていた。
 ああ~! いやつじゃー! いい子やー!
 そうこうするうちに焼けて来て、食べながらまた次のものを焼き始める。

 ちらちらと舞う雪を見ながら、空が暗くなってくるまで、のんびりとかまくらの中で過ごしたのは言うまでもない。

 その後、何故かドルト村でかまくらブームが起き、一家にひとつは家の外にあるという現象が起きて乾いた笑いしか出なかった。

しおりを挟む
・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。