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ドルト村の冬編

第131話 帝都・商業ギルド 前編

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 村を出発して、早三日。お昼過ぎに帝都に着いた。
 馬車はランツとヴィン、護衛にヤミンとヤナを乗せ、快適な走りで山道を下ってきた。イデアの脚力と馬車の軽さが合わさった結果だ。
 ランツとヴィンの会議は明日で、午前中が冒険者、午後が商業だそうだ。冒険者は各地の状況や特殊素材の融通及び流通、盗賊や魔物の分布の変更がないかなどの報告が主なので、そんなに時間はかからない。
 が、商業は産業や特産物、新たに発生したレシピなどの公開や商取引があり、金が絡むことからどうしても時間がかかるんだそうだ。場合によっては翌日にまで長引くこともあるという。
 まずは先に宿を取り、ランツとヴィンは宿で留守番。二人がやられるとは思わないけれど護衛として来ているので、二人の護衛にヤミンとヤナ、エバとジルが残ることに。
 リコはイデアと一緒で、ノンとピオは私と一緒だ。

「じゃあ、ディエゴのところに行ってくる。夕飯までには戻るから」
「わかりました。お気をつけて」
「おう。気をつけてな」

 依頼主なので二人にディエゴのところへ行くことを告げ、ノンとピオを連れてディエゴの店に行く。久しぶりだと挨拶を交わしたあと、ミショの実関連の正式な契約を交わした。

「では、これから提出してきます」
「ありがとう。他は大丈夫よね?」
「ええ。装飾品関連は既に登録してありますし」
「真珠の残りは?」
「そうですね……。特に言われてはおりませんが、念のためいくつか譲っていただけますか?」
「わかった」

 真珠も、今のところ貴族限定ではあるが売れているという。爆発的な人気ではないけれど、少しずつ売れているんだとか。
 ただ、これから社交シーズンになるそうなので、もしかしたら一気に売れるかもしれないという懸念もあり、真珠の在庫が欲しいみたい。それならと五箱渡し、代金は口座振り込みでと伝える。
 泊まっていけと言われたけれど、護衛依頼で来ているだけで、その隙間で出て来たからと断り、ディエゴの店をあとにした。ディエゴたちは残念そうにしていたが。
 宿に戻るまでの間にあった商店や露店を見つつ、通りを歩く。昼を過ぎていたからか食材はほとんどなく、あるのは他国から来たらしい行商人の商品などがほとんど。
 いいものなのはわかるんだが、特に心惹かれるようなものがなかったから、さっさと宿に帰ってきた。
 そのままリコとイデアのところに行って二頭をブラッシングし、戻ってきたことをヴィンとランツに告げる。夕飯までまったり過ごしたあと、ランツとヴィン、従魔たちとご飯。
 今日はブラウンシチューとパン、サラダのセット。それだけだと足りないらしいヴィンは、ステーキも頼んでいた。

「冒険者は体が資本だしな」
「それはわかるけど、食べすぎないでね」
「わかってる。あ、そうだ。明日は八時から会議だ。一応ギルドまで一緒に来てくれ」
「了解」

 一応護衛だからね。ヴィンよりも弱い護衛ってどうよ、な感じだけれど、それはそれ、これはこれ。仕事だからと割り切った。

 翌日、ヴィンと一緒にギルドに行き、会議をしている間はギルド内にある食堂で待つことに。ヤミンとヤナは顔なじみなだけあって、知り合いと思しき冒険者たちと楽しそうに話をしている。
 そんな様子を微笑ましく思いながら見ていたら、ヴィンをはじめとした屈強な男たちが上から下りてくる。会議だと言って中に入って一時間。ずいぶん早くないか?

「アリサ、会議が終わったぞ」
「もう終わったんかい!」
「ああ。ほとんど報告だけだし、特に問題があったわけじゃねえし」
「ああ、そういうこと」

 問題があると時間が伸びることはあるけれど、ほとんどないそうだ。あってもすぐに的確な意見が出るので、喧嘩腰の話し合いになることはないんだとか。
 さすが、ベテランで人格者たちだ。どこぞの国のギルマスがおかしいともいう。
 会議が終われば解散。中には久しぶりに王都に来たからと、ダンジョンに潜るギルマスもいるらしい。……脳筋かよ。
 そんな話をしながら宿に戻ると、昼まで休憩。その後はランツを連れて商業ギルドへ。そこで別れて宿に戻ろうと思っていたんだけれど、例のことがあるから待っていてくれと、別室に通された。
 あ~、あれか。本部のギルマスに会おうと言われたやつか。
 面倒だが仕方がない。ただし、数字パズルとけん玉の復活はないときっぱり断ろうと思う。じゃないと神意に反することになるだろうし。
 それがわかっていて復活させろと喚くようであれば、神罰が下るだろうしね。
 神様の心なんてわかるはずもないが、二心は許さないと思うんだよ。許してしまえば神罰は下せないと思うし、神の威信にも係わるだろうから。
 そんなことを考えつつ、会議が終わるのを待つ間に、ランツに用意しておいてと言われた玩具を作る。といってもみほんとして見せるものなので、たくさんは作らない。
 せいぜい、ジグソーパズルのピースを増やしたものだけかな。
 一応、年齢に合わせたものとして、五歳くらいまでは30~50ピース、十歳で100ピース。それ以降は能力や趣味などに合わせ、300、500、1000、2000ピースを用意。
 絵柄については、図鑑から引用してこの世界の魔物や薬草を全体に散りばめたものと、ダンジョン都市の風景画を用意してみた。ピースが多くなる分、出来上がりの絵自体は大きくなる。それを飾ることができるフレームと、バラバラにならないようにする糊も用意。
 糊はスライムゼリーから作れるもので、市販されているので問題ないだろう。
 フレームは木材とアルミで作ってみた。ただ、見える部分をガラスにした関係でちょっと値段が張ることになるけれど、そこはスライムゼリーの糊を二重に塗ることで完全コーティングにしてしまえば、庶民でも買えるかもしれない。
 そこはランツとギルマス次第かな。
 色とりどりのジグソーパズルと積み木、お手玉とヨーヨーを用意して待っていると、ノック音が。

「はい」
「ランツです。お待たせいたしました」
「どうぞ~」

 席を立ってから許可を出すと顔を出したのはランツ。隣には四十代後半から五十代くらいの見た目で、紺色の髪とハシバミ色の目をした、一見柔和そうなおじさまが。
 顔は笑みをはりつけているが、目は油断なく私を見ている。なんだか社長と一緒に仕事に行く前の社長の雰囲気と目にそっくりだ。
 厄介なおっさんが来たなあという思いを綺麗に隠し、挨拶をする。

「呼びつけてすまんかったのう。帝都商業ギルドのマスターで、トマス・アルレオラという。トマスと呼んでくだされ」
「はじめまして。Aランク冒険者のアリサよ。この子たちは私の従魔よ」
「そうかそうか。よろしくの」

 とりあえず、お互いににこやか~にご挨拶。で、席に着いた途端に、目に入ったらしい玩具をキラキラとした目で見た。

「おおお、これがランツが言っておった玩具か!」
「ええ。どれも子どものための玩具ではあるけど、大人も楽しめると思うわ」
「うむ、そうじゃの。どうやって遊ぶのじゃ?」
「基本的に室内で遊べるわ。ただし、このヨーヨーは人に当たると怪我をしたり、ものに当たって壊す可能性もあるから、周囲に何もない場所で遊ぶことを薦める」

 念のため、問題点ともなる注意点を話したあと、ヨーヨーの使い方を説明する。最初は簡単に、それからは難しいものをいくつか。
 私ができるのってそんなにないので、他の技術というか技に関しては自分で探してほしいと話した。
 あ~、しまったなあ。ヤミンとヤナにヨーヨーができるか聞いておくか、一緒に連れてくればよかった。
 二人ならヨーヨーの技を知ってそうだったし。それはあとで聞くとして。
 次にお手玉。最初はふたつから、そして三つ四つと数を増やし、次々に放り投げていく。最初は円、クロスさせてみたりと、祖母に教わったものを披露した。

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