自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

文字の大きさ
上 下
112 / 190
ドルト村編

第128話 パーティーを組んだ

しおりを挟む
 そろそろディエゴが村に来る時期が近づいてきた。ただ、馬車を作ってからは村を離れて王都に行くことが増えたから、今後ディエゴが来るかどうかはわからないが。
 といっても馬車を使ったのはコッコを買いに行ったのと、コッコの餌や藁を買い溜めるために一回使っただけなので、そこはヘラルドの裁量次第かな?
 そんな中、ヤミンとヤナ、従魔たちを連れて森を散策中だ。二人からお願いされ、パーティーを組むことになったからだ。
 これは、ギルマスのヴィンからもお願いされた案件だったのもあり、断りづらかった。そこは仕方がないよね。ヤミンもヤナもまだ未成年なわけだし。

「成人したての私じゃ、他のベテランが黙ってないんじゃないの?」
「ん? それはねえな。だってこの村に来れるような奴もいないし、いたとしてもヘラルドに認められるような奴もいないしな」
「あ~、そういう理由なのね」
「おう」

 つまり、今帝都にいるBランクとAランクは、力量と技術に問題がなくとも、人格に問題ありってことだ。いくら力量や技術がよくても、人格に問題があるとSランクに上がれない。
 だからヘラルドに認められた私につけたいってことみたい。
 あと、従魔たち全部をひっくるめると、全属性の魔法が使えてしまう。ヤミンとヤナは魔法使いだからこそ、私につけたいとも言っていた。
 私自身は魔法が使えないけれど、従魔たちは全員使えるからね~。そこを見越して、成人するまでにしっかりと育てろってことらしい。
 他国はどうか知らないが、帝国は魔法を使う人は種族に関係なく、帝都にある魔法学校に通って魔法を学ぶことを定めているという。けれど、ヤミンとヤナは職業として冒険者を選んでしまっている。
 だから学園に入ることができないそうだ。冒険者なら実践で覚えることができるから。
 なので、魔法を扱える人に指導してもらわないといけないんだけれど、一流と呼ばれる魔法使いは貴族の家に仕えたり国に仕えたりするから、まず冒険者になることはない。
 いても初級クラスの魔法しか使えず、それ以上のことを教えることができない。中級や上級と呼ばれる魔法を使える人が冒険者になっていることもあるが、基本的に人見知りか変人、指導が下手糞な人ばかり。
 それもあり、二人を指導できる人材がいなかったらしい。
 その悩みを帝都のギルマスとヴィンで話し合っている時に二人が私を探していることと、私の従魔たちの話をした二人のギルマスの利害が一致し、もし私たちが出会うことができたのなら、私に面倒を見てもらおうと考えたという。
 チッ……お前らのせいかよっ!
 まあ、ギルマスたちの懸念もわかるんだよね。村に来る時に見たヤミンとヤナの魔法の使い方は、とても危ないものだった。なんというか、魔力を込めすぎっていうのかな? 魔力の使い方がよくわかっていない人や下手な人の魔法と同じだと、従魔たちが指摘していた。
 だからレベルの高い魔物を倒す力量があっても、技術がなかったせいでなかなか倒すことができなかったわけだし。
 なので、村に来る道中では従魔たちが中心となり、ヤミンとヤナの指導を徹底的にやってもらったのだ。もちろん、一緒にいたヘラルドたちも二人に教えていた。
 理論は魔族の四人が、実践は従魔たちというふうに分けてね。
 基本的に、魔族は村にいるからね~。日々森で遊びという名の戦闘をしている従魔たちのほうが、実践経験値が高い。なので、そういう指導の仕方になった。
 そのおかげもあり、ヤミンとヤナは山頂付近の魔物を倒せるようになったというわけ。
 まあ、そんな二人の事情はともかく。

「ヤミン、ヤナ。ここに山芋があるわよ」
「なるほど!」
「これが山芋か!」
「むかごはほとんど落ちてしまっているから食べられないけど、掘ることは可能ね」
「やり方を教えて?」
「自分でやってみたい」
「はいよー」

 魔法がある世界にいるんだからと、リコに実践してもらいつつ山芋を掘ると、二人はキラキラとした目でそれを見ている。近くにあと三つほどあったのでそれを掘ってもらう。
 これも土魔法を扱う練習のひとつになっているのだ。
 山芋を折ることなく、土を丁寧に柔らかくしたうえで、髭を残しながら山芋を掘る。言葉だけなら簡単そうに聞こえても、いざ実践するとなると難しい。
 それを少ない魔力で、尚且つ丁寧にやらないと山芋はすぐにポッキリ折れるので、繊細な使い方を学ぶには最適だと、ジルとリコが話していた。

「「で、できたー!」」
<上手にできたのー>
<ああ、うまいぞ>
「「ありがとう!」」

 ノンと、ノンの通訳によるジルに褒められ、ヤミンとヤナは嬉しそうにしている。軽く水洗いしたあとは自分のアイテムボックスにしまっていた。
 そうしながら、この山で採れる果物やキノコと薬草を教えつつ、魔物の分布も教える。村のギルドが必要とする素材は上位種ばかりだからね~。効率よく、そして無駄な殺生をしないためにも、しっかりと憶えてもらう。

「あ、そうか。先輩冒険者が真っ先にどこにいるのか情報を聞くのって、そういうことなんだね」
「そうすれば探し回る時間も無駄にならないってことか」
「そうよ。受付で聞くか、ギルド内にある資料室を探せば、魔物の分布や特徴、弱点などがわかる。だから、ベテランになるほど情報を集めるの」
「「なるほど~」」

 弱点を知っていればそれに対処することができるから。
 外にいる魔物であれば、必ず戦うことになるから動きや弱点、分布先がわかる。けれど、ダンジョンだとそうはいかない。
 ダンジョンによって出現する魔物が違うし、外よりも強くなっているからだ。
 もし外と同じ感覚で戦闘すると、必ず痛い目を見ることになる。先輩たちの失敗談や自分の経験を経て、新人たちは成長していく。
 中には増長して手酷い怪我を負い、冒険者を辞めざるを得ない状態になったり死んだりすることもある。だからこそ、慣れ始めた時が一番危険だと言われているし、その時期が一番怪我や死亡が多いのだ。
 それをわかっている新人は慎重になるし、浮かれていた人は気を引き締める。できないやつは冒険者から離脱することになる。
 魔物がいる世界ならではのシステムとでもいうのかな。命が軽いとまでは言わないが、死と隣り合わせである以上哀しいことだ。世界が違えば常識も変わるんだから、しょうがない。
 同じ世界の地球だって、国によっては常識が違うんだから、当たり前だ。
 例えば結婚。ほとんどが一夫一妻制だが、一部の地域や国には一夫多妻のハーレムが存在する。
 例えば銃。日本だと一般市民が持つのは禁止されているが、アメリカは一般市民が持っていることも多い。
 他にもあげたらキリがない。
 地球内ですらそうなんだから、異世界でも常識が違うのは当然だよね。
 採取や戦闘をしながら話す内容ではないけれど、ヤミンとヤナは常識の違いを改めて感じたのか、神妙な顔で頷いていた。

<アリサ、ブラックウルフの匂いがする>
「ほんと? なら、全員で仕留めようか。ヤミン、ヤナ。ブラックウルフの匂いがするそうよ。戦闘後は解体の練習をしようか」
「「うん!」」

 ふんす! と気合いを入れる二人に肩の力を抜くように言い、襲ってきたブラックウルフの群れを全員で殲滅。その後、私も解体と解説をしつつ、二人の経験値稼ぎのために解体してもらった。
 それ以降もベア種やサル種、ボア種やディア種に襲われたが難なく倒し、しっかりと解体の勉強をするヤミンとヤナ。村に来る前の状態に比べると、今は危なげなく解体できるようになっているのが凄い。
 二人が若いってこともあるが、それだけ真剣に学んでいる証拠だ。
 将来はどんな大人になるんだろう。
 真剣に、そして楽しそうに解体している二人を見て、そんなことを思った。

しおりを挟む
・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。