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ドルト村編

第122話 私と魔族たちの秘密

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 重い話はさっさとすませてしまおうと、ヘラルドがゲレオンとランツを呼びにいった。話す場所は、私の家だ。
 村の北側にあるけれど中心から離れているから、内緒話にはもってこいなんだよ。誰かが近づけばわかるしね。
 それに、ノンがいれば嘘をつくことができなくなる。もちろんそれはヘラルドたちだけじゃなくて私にも言えることだし、リュミエール像がある以上、彼の前で嘘をつくこともできないという、神を間に挟んだ契約に等しい行為をするのだ。
 どこまで話してくれるかわからないが、きちんと誠意をみせようと思う。
 彼らが来るまでにお湯を沸かし、飲み物とつまめるものを用意。コーヒーとクッキーでいいかな?
 砂糖とミルクはお好みで入れてもらおう。
 準備をしていると、三人がやってくる。おっさんばかりとはいえ、魔族の顔面偏差値は普通にヤバイ。観賞用としては最大級の美丈夫具合だよ、ほんと。
 それでもときめかない私の心は、だいぶすさんでるよなあ……と改めて認識した。まあ、結婚願望はまーーーったくないので、このまま従魔たちと一緒に村でのんびりと暮らしていこうと思ってる。

「あがって。囲炉裏の前で話そう。ノンにも立ち会ってもらうし、そこにリュミエール像もあるから」
「ええ、構いません」
「そのほうがいいでしょう」
「ノン、防音結界を張ってくれる? ジル、誰か来たら教えてね」
<<はーい>>

 素直に返事をして防音結界を張ったあと、私の近くに来るノン。縁側には小さくなったジルが寝そべり、日向ぼっこをしている。
 庭にはリコもいるし、誰かが来てもわかるようにした。
 まずは魔族側の事情から。基本的な事情は変わらない。侵略されて国を追われているけれど、戻るつもりも国として立て直すこともしないそうだ。……面倒だから。

「面倒、って……」
「面倒ですよ。自分勝手な貴族はいるし、人の話は聞かないし、私腹を肥やすバカはいるし」
「災害が起きればその対処。している途中で資金の横領が発覚し、てんやわんや。嘘の報告をして工事は遅々として進まないですし」
「大小様々な近隣諸国との調整や外交、輸出入するための食材や素材、通行税などの税金」
「「「それらの管理を思えば、国や領地よりも村を運営するほうが楽です!」」」
「おおう……」

 い、いきなり愚痴からきたぞ、おい。どんだけ鬱憤が溜まってたんだよ……。
 私にはその感覚はさっぱりわからないけれど、国を治めるのは大変なことなんだろうね。領地を治めている貴族全員が清廉潔白だなんてことはまずない。
 清濁併せて国というものだろうし。もちろん不正をするような輩は国にとったらあかんけど、それでも、今よりももっといい地位に就きたい、もっといい爵位になりたい、自分の能力を試してみたい、という野心は少なからずあるだろうし。
 当然、国をよくしたいという人もいる。けれど、転生前の日本の野党のような、文句しか言わないようなのはダメだ。文句を言うなら別の案を持ってこいと、車の移動中に国会中継を見ていた社長が、よく吠えていたよなあ……ってことを思い出した。
 国を運営していた時には「頭が痛いことだ」としか思わなかったが、いざ国がなくなって、苦労をしながらも村で生活しているうちに、今の生活がすごーく楽だって気づいたんだそうだ。
 もちろん、私が来るまでは畑や家などの問題はあったけれど、国の運営に比べたら些細なことだし、お国柄と人柄からのんびり穏やかに暮らせる今の生活のほうが性分に合っていると感じて、今に至るらしい。
 だから、国を取り戻そうとか国を興そうとかヘラルドたちは全く考えておらず、そういう野望を持った輩は早々に魔物にやられて亡くなったり、犯罪に走って盗賊になって捕まったり、奴隷を扱うことを許している国の奴隷商人に捕まり、奴隷として過ごしているらしい。

「…………」
「あれはスッキリしましたね!」
「ええ。口は立派ですが、行動が全く以てダメでしたからね」
「害虫駆除できたのはよかったですよね」
「「「そう思いませんか、アリサ!」」」
「お、おう」

 酒が入ってないのに、なんでそんなに口が悪いんだ、元王族たちよ。ま、まあ、今までずっと我慢していたようだし、第三者に聞かせられるような話でもないから仕方がないんだろう。
 いいよいいよ、愚痴を聞くのは得意だよ。今のうちにどんどん吐き出せと言ったら、もうね……言葉にしたらダメな口汚い罵りやつが綺麗な顔からポンポン出て来て、ドン引きした。
 それでも私に愚痴ったからなんだろう、最後はすんごくすっきりした顔をしていたから、よしとしよう。
 それからは私の話をした。
 転生者であること。
 その原因がリュミエールの部下であること。
 リュミエールに誘われてこの世界に転生し、その時にノンを預けられたこと。
 リュミエールからたくさんのスキルを授かり、全部カンストしていることを話した。さすがに他人のスキルを詮索するのはマナー違反なので、彼らも聞いてこないし全部のスキルは言ってないけど……結局話してたり全部行動で示しちゃってるもんなあ。彼らにはバレバレみたい。
 それでも黙っててくれるみたいだから、私もしっかりとお口チャックしますとも。

「にゃんすら様を預けられるなんて、よっぽど信頼されているんですね」
「うーん……どうなんだろう? ノンに気に入られたっていうのもあると思うわよ?」
「そうですね。それから、他の従魔たちも」
「従魔たちは本当に偶然なのよね。バトルホースのリコに関してはリュミエールから教えてもらった結果だけど、他はねぇ」
「それでも助けたからでしょう? それに、アリサ自身も彼らを大切にしています。だからでしょうね」
「懐に入れた以上、大切な家族だもの。大事にするわ」

 その他はどうでもいいときっぱりと言い切った私に、三人は優しい眼差しで私を見る。その中に、私に対する拒絶は全く感じられず、心底よかったと内心で盛大に息をついた。
 それからは魔族の転生者の話になったんだが。

「は? キリブチゴンゾウって言ったの? その王様」
「ええ。ご存じありませんか?」
「ご存じもなにも、私の祖父なんだけど」
「「「はあっ⁉」」」

 ですよねー! そうなりますよねー!
 桐淵権蔵は、マジで祖父であ~る。生きている間の話を私が知っている限り話すと、こっちでも同じようなことをしてたらしくてね……すぐに信じてくれたし、私もマジで祖父だと確信した。

「では、私と血が繋がっているんですね」
「厳密には違うけど、そうなるんでしょうね」
「ああ、言われてみれば。色は違いますが、皇太后様に似ていらっしゃる」
「皇太后様?」
「ええ。彼女も転生者と聞いていますよ? 前世はキリブチハルだと仰っていました」
「おおう……マジで祖母じゃん!」

 夫婦そろって転生者とはこれ如何に! どうなってんだよ、リュミエールぅぅっ!
 なんだか、リュミエールの「テヘペロ☆」って声が聞こえた気がするんだが、気のせいか⁉
 今度会ったら殴る! と決意し、この世界で祖父母がやらかした話を、遠い目をしながら聞いていた。
 夕方まで話して終わりかと思ったら、ヘラルドが「新鮮な魚が手に入ったことだし、宴会をしましょう!」とか言い出し、貯蔵庫から刺身になる魚を持ちだしてきた。なめろうが食べたいんだって。
 それならとなめろうやタタキ、ぬたや山かけ、海鮮丼などの食べ方も紹介し、ついでに錬金術で作った日本酒もどきと梅酒を放出。その味が気に入ったらしく、来年から日本酒もどきと梅酒を作ることが決定した。
 なんだかやらかしたような気がしなくもないけれど、みんなが美味しいと言ってくれたからいいかと、梅酒ロックを飲みながらたくさん話をした。ヘラルドたち三人の他にも、祖父母が政策という名のやらかした話を聞いたからね……。
 私が前世の孫だとは言わなかったが、話の途中でヘラルドの父親である元王様はどんな人だったのか聞いたところその話になり、その流れで祖父母の話になったのだ。祖父母は魔族が幸せになるように、そして農作物の収穫量が増えるようになど、国力を上げるような政策をしていたそうで、今でも尊敬されている王様と王妃様だそうだ。
 そうか、元気でやっていたのか。国が滅亡する前に亡くなったそうだから会えないのは残念だけれど、それでも好きに生きたんならいいや。
 私も自分なりにスローライフを送ろうと決め、村人に交じって親交を深めていった。

 翌日しっかり二日酔いになったのは、言うまでもない。

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