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ドルト村編

第121話 漁港に買い付け

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 翌朝。夜明けとともに漁港に行く。今回は従魔たち全員も行きたいと話したので、連れてきているのだ。
 特にジルは初めてだからなのか、鼻をスンスンさせて匂いを嗅いだりしていて、嬉しそうだ。ノンもそうだけれど、ジルも旅がしたかったみたいで、一緒に連れていくととても喜ぶ。
 楽しそうならいいかと従魔たちを連れ、仲良くなった商店のおっさんと挨拶。

「おお、久しぶりだなあ、嬢ちゃん」
「久しぶり。今日もたくさん買って帰るわ」
「お、そうか! それは助かる! もうじき店員がセリから帰ってくるから、ちーとばかし待っててくれや」
「はいよー」

 おっさんや両隣の店主たちとおしゃべりしていると、店員がやってくる。今回も大量に仕入れたようで、木箱が台車に山積みされていた。

「あれ? アリサじゃないか! 今日も大量に仕入れていくのかい?」
「そのつもり」
「やったね! そろそろ買いにくるような気がして、いつもよりも多く買い付けたんだ」
「よくやった! よし、ここに並べろー!」

 おっさんの合図で、店に魚貝が並べられていく。その時におっさんも店員もどんな魚か、そして白身なのか赤身なのかを教えてくれるから助かる。もちろんこの世界にも青魚と呼ばれるアジやサバもあるから、しっかりと買い付けるとも。
 村の人数とうちの子たち、そして貯蔵庫に入れることも考え、全部ふた箱ずつ買うことにした。中には足りないものもあるので、それは両隣の店主にお願いしたり、他の店に行って買ったりしているのだ。
 同じ店だけが儲かるのはよくないからね。だから、おっさんのところに行く前にあれこれと話をして情報を集め、場合によっては取り置きしてもらっていた。

「「「ありがとな!」」」
「こっちこそ」

 また一月ひとつき後に来ると話し、他の店に向かう。そこで取り置いてもらっていた魚を買って市場を歩き、この国でしか売っていない野菜も買う。
 この国で売っている野菜で珍しいのは、地球でいうところのカリフラワー。ただし、形はロマネスコと呼ばれていた、先が尖がっていてドリルのような形の種類だ。
 もちろん普通のカリフラワーも売っている。どっちも個人的に食べたいものなので、そんなに数はいらない。
 まあ、従魔たちも興味津々で見ていたから、その分も含めて多めに買っておこう。
 そんな感じで個人と村用の食材を調達しつつ漁港の隅っこに行くと、いつものように真珠を買い付けているお兄さんがいた。

「久しぶりー!」
「久しぶり。これが今回の分だよ」

 手で指し示されたところに、木箱が三十箱あった。ず、ずいぶんあるなあ。相当張り切ったのか? この分だと、当面の間――年単位で来ることはなさそうだ。

「す、凄い数ね」
「でしょう? 他の人が手伝ってくれたり、僕のところに持って来たんだ。今年最後になるから、って」
「なるほどね」

 冬になると魚の漁が主流になるから、真珠が採れる貝は出回らなくなるという。なので、今年最後だからと全員で張り切った結果、この数になったんだとか。
 もちろん全部買うとも! その分上乗せして、手伝ってくれた人や持って来てくれた人にもしっかり報酬を渡すことに決めると、その足で商業ギルドへと赴く。
 しっかりと上乗せした報酬をお兄さんに払ったあとで手伝ってくれた人や持って来てくれた人に渡すように話し、契約を解除した。途中での契約解除だけれど、ものがないのに契約を続行するわけにはいかない。
 なので、職員立ち合いのもと、双方合意のうえで契約解除になった。
 季節的な商品を扱っている場合、季節が過ぎると同時に契約が解除になるのはよくあることらしい。もちろん神も認めている行為だ。
 ただし、不当な場合は天罰が下るそうなので、解除も慎重にならざるを得ないんだけれど、マジで真珠は季節ものだからね~。神も納得している契約解除だった。

「今までありがとう、アリサ」
「こちらこそ。とても助かったわ。薬師の仕事、頑張ってね」
「ああ。ありがとう!」

 握手をしてお兄さんを励まし、見送る。錬金術のレベルも上がっていたし、何気に薬師のスキルも生えていたから、きっと凄腕の薬師になるだろう。
 その後、獣人たちの村に行ってみると、村自体が活性化していた。畑も広くなっていたし、アクセやレストランも繁盛しているみたい。
 顔見知りの獣人たちと挨拶をして、家のことで困ったことがないか聞くと特にないと言われた。大工職人が頑張っているそうで、できることをコツコツとやっていると、村長むらおさが嬉しそうに話してくれる。
 獣人たちに囲まれて話していると、時間が過ぎるのが早い。そろそろ行くからと告げて村を出ると、転移して帰ってきた。
 そのままヘラルドのところへ行って魚を買い付けてきたことを告げ、村人全員を呼んでもらう。

「こ、これは、また……」
「今朝あがった魚を漁港で買い付けてきたから、刺身で食べられるわよ?」
『おおおーーー‼』

 自分の家から籠や笊を持って来ていた村人たちが、家族の人数に合わせて魚を持っていく。もちろん、倍の数を持っていっても問題ない量を買ってきているので、そこは自由にしていいとヘラルドも話していた。
 残ったものはそのまま貯蔵庫へいれておけば腐ることもないしね~。時間停止様様だよ。
 で、ポーチ型の無限マジックバックを持ってる私に「貯蔵庫に置いてきてほしい」とヘラルドに頼まれ、貯蔵庫に入れたあとで一回ヘラルドの家に報告に寄ったわけなんだが。
 背後に真っ黒いオーラを出しながら、めっちゃイイ笑顔なのはナンデカナー? 嘘をつけるような状態ではないから、きちんと話すことにした。

「アリサ、単刀直入にお聞きします。あの魚をどうやって買い付けに行ったのですか? 行った場所は?」
「買い付けはセガルラ国にある、ミュルデルっていう漁港。普通に転移して行ってきた」
「なっ! セガルラはふたつも先にある国ではないですか! しかも、転移!?」
「ええ」
「あれは……とてつもない魔力を消費するはずなのに……」
「そう? そんなにいらなかったわよ? まあ、カンストしているからかもだけど」
「……」

 カンストしてるって言ったら、パッカーンと顎が外れるんじゃないかってくらい口を開け、愕然とした顔をしていた。
 まあねえ……リュミエールから聞いて驚いたんだけれど、転移魔法自体なかなかレベルが上がりづらいことに加えて、距離が延びれば延びるほど魔力を食うらしいんだよね。それが解消されるのは、カンストしてから。
 だから、ぶっちゃけた話、レベルが上がっている人でもレベル2とかで、転移魔法がカンストになるレベル5まで行ってる人はいないんだって。
 よくそんな魔法を私にくれたよなあ……って思ったよ、その時は。
 めっちゃ便利で助かってるけどね。

「その若さで……」
「んー、私もいろいろ事情があるから」
「それをお聞きすることは……」
「魔族の話を聞いていないのに、私だけ話をするのは違うんじゃない?」
「それは……」
「まあ、別にいいわよ? 貴方が内緒にしてくれるというならね、殿?」
「……っ!」

 思いっきり目を見開き、固まるヘラルド。
 名前と地位まで表示されるんだぜ? カンストしてる鑑定さん様様でござる。最初に鑑定で見た時、驚いたよねー、マジで。
 しばらく固まったままだったヘラルドは、一度目を瞑るとそのまま息を吐き出す。

「私だけではなく、ゲレオンとランツにも話をしなければならいし、聞いてもらいたいのです」
「二人は元宰相一家で、王家の影だから?」
「そ、そこまで……っ。ええ」
「いいわ。もちろん私のことも話すけど、お互いに他言無用ってことでいい? 私はこの村を気に入っているし、受け入れてくれたヘラルドや村人たちに感謝しているから」
「もちろん」

 信じてくれるかわからないが、本当のことを話せる人ができたのはよかったことなんだろう。ただ、拒絶される可能性もあるからこそ、恐怖心もある。
 やっと信じてもいい、そして信頼できると思える人たちに出会えたのに、拒絶されたら人間嫌いがグレードアップして、引きこもりになりそうだなあ……なんて考えていたんだが。

 ――話したあと、改めて魔族の懐の深さと柔軟さに、すげえな! と思った。

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