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ドルト村編

第120話 ランツとお話

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 村に帰還早々に、ヴィンとランツ、ハビエルがこれまでのことを説明している。最初はニコニコしていたヘラルドも、話が進むうちにしかめっ面になったり呆れたりと、一人で百面相をしていた。

「アリサのせいだ!」
「知らんがな。私はヘラルドから渡された設計図通りに作っただけなんだけど?」
「う……っ」

 使った人から改良を言い渡されたとはいえ、基本は村人たちの要望に応えた馬車を作っただけだ。なのに私のせいにされても困るっての。
 ジトーっとした目でヘラルドを見ていたら、スッと視線が逸らされた。

「と、とにかく。無事に帰ってきてくれてよかった。馬車はきちんと有効利用させてもらうよ。ありがとう」
「どういたしまして。どこか変だと思ったら教えて。調整するから」
「ええ」

 一通り話したあとはイデアの紹介と馬車を確認する村人たち。試し乗りしよう! と張り切って、村の中を走らせたりしている。
 その姿はお貴族様に見えず、純粋に自分たちのものなのが嬉しいと表情が物語っていた。そんな様子を見ていたらランツに呼ばれたので、ヴィンと一緒にギルドへと行く。

「「おかえりなさい」」
「「「ただいま」」」
「アリサ、ご相談があるのですが」
「先に言っておくけど、内容によっては却下するからね?」
「もちろんです」

 ニコニコにっこりとしているが、その笑みはとても胡散臭い。できる商人の顔をしているのだ、ランツは。
 前世でいうところの、できる営業や社長といった雰囲気を醸し出している。
 さすがは商業ギルドの長といったところか。
 カウンターで話す内容ではないからとヴィンと別れたあとでランツの部屋に通され、椅子に腰かける。私やハビエルが用意したものとは違うものも存在しているから、ランツが個人で持って来たんだろう。
 どれも嫌味のない上品なものばかりだ。
 自らお茶を淹れて私と自分の前に置くと、ランツも腰かける。

「さっそくですが、ご相談したいことが二点あります。ひとつは馬車の足回りの件です」
「レシピを公開してほしいってこと?」
「ええ。あの馬車は揺れがなく、旅の道中はとても快適でした。恐らく真っ先に貴族が飛びつくでしょう」
「でしょうね。その点に関しては構わないけど、一番の問題はサスペンションと呼ばれる、揺れを少なくできるバネを作れるかどうかね」
「そうですね。そこは鍛冶師か錬金術師に頑張ってもらうしかありません。そんなに難しいものではないのでしょう?」
「構造を理解すれば難しくないと思うわ」

 問題は、一定の細さを保つことと、しっかりと巻き付けるだけの技術があるかどうかだ。そこは練習してもらうしかないと話すと、ランツも頷いていた。
 もちろんそのレシピも公開することになるので、ランツと話し合いをしながらしっかりと契約書を作ったし、利益や報酬はできるだけ技術者に行くようにしてもらった。

「いいのですか?」
「ええ。お金には困ってないし、技術者が一番活躍するんだから、彼らの報酬を高くするのは当然でしょ」
「ふふ……。アリサは彼らを大事にしてくれるのですね」
「当たり前じゃない。錬金術を持っているとはいえ、専門家じゃないもの。彼らに花を持たせるのが筋でしょう?」
「そうですね」

 とても嬉しそうに笑みをこぼすランツに、彼も職人や技術者を大切に扱う人だと察する。いくら錬金術を使えるとはいっても、私の場合、あくまでも趣味の範疇から出ない。
 なので、専門的なことは専門家に丸投げするさ~。……自分が面倒だと思っていることもあるけどね。
 ギルドに一割、私に二割、残りは職人や技術者にお金が行くように契約する。問題なく契約が通ったので、神も納得する内容だったのだろう。
 その契約が終わると、次の相談になった。

「実は、子どもを育てるための玩具がほしいのです。アリサはけん玉と数字パズルを登録していましたから、他に何か知らないかと思って」
「んー、知育教材ってこと? それとも純粋な玩具?」
「ちいく、ですか?」
「ええ。簡単に言うと、想像力を育てたり文字や数字を覚えるための教材、かしら」
「なるほど。その知育教材? とやらが、数字パズルに当てはまるのですね」
「ええ」

 この世界の教材は多くない。数字パズルを提案するまでは、せいぜい文字を勉強する絵本と本しかなかった。しかも、そのほとんどが貴族のためのものなので、庶民の識字率は低い。
 商人には必要なことなので彼らは数字も文字も覚えるけれど、他は絵で覚えるか、就職先で教えてもらうしか勉強ができないのだ。
 大きな都市だと教会で教えることもあるが、小さな町や農村だと、勉強できる環境がないのが現状だったりする。
 ちなみに、今いる帝国は庶民にも文字や計算を教えることにしているようで、農村でもしっかりと勉強させている。ただ、農村だと子どもも立派な労働力なので、午前中はしっかりと親の手伝いをし、午後の二時間を勉強にあてているそうだ。

「一番簡単なのは、やっぱり絵本なのよね。あとは図鑑かしら」
「そうですね。図鑑を全員に配るのは、さすがにね……」
「そうね。そこは教会に一、二冊置いてもらって、回し読みができるほうがいいかも。特に魔物と食べられる植物、薬草を中心にしたほうが、貧しい農村は助かるかもしれない」
「確かに。そこは各ギルドと相談して、どうにかしましょう。他はありませんか?」

 他、かあ。玩具ならいくつか思いつくけど、教材となるとなあ。

「んー、遊び道具はともかく、想像力を育てるのであれば、今思いつくのはジグソーパズルと積み木、かなあ」
「ほう? どのようなものでしょう?」

 興味津々な様子のランツに紙とペンを借り、絵を描いて説明する。積み木はともかく、ジグソーパズルは絵に描いたほうがわかりやすいから。
 そんなわけで説明すると、ランツが唸る。なんで唸るんだよ!

「そうか……! 薄い板に絵を描いたあとでやればいいんですね!」
「ええ。難しくなくていいと思うわよ? 魔物でも動物でも、最終的に一枚の絵になればいいんだもの」
「そのために先に絵を描いて、それから切る。はめる場所は必ず決まっていますが、バラバラにすることで考えることと想像力が試されるということですか!」

 キラキラとした目でジグソーパズルの説明を聞くランツ。最初はピースの数を少なくして、興味を持ったら徐々に難しくなるよう、ピースの数を増やしていけばいい。
 もしくは年齢に合わせてピースの数を増やすとかね。
 最初は動物や魔物、植物など身近なものの絵でパズルを作り、慣れてきたら動物の数を複数にしたり、風景画をパズルにしたらいいと提案すると、面白そうだとランツが頷く。
 見本を作ってくれと言われて顔を引きつらせたけれど、なんとか錬金術を使って完成させた。ちなみに、絵は従魔たち一匹ずつと集合したものにした。
 レシピの登録になるかどうかは、一度ランツが懇意にしている職人に作らせてからということに。もちろん、積み木も採用された。
 他にも玩具がないかと聞かれたので、ヨーヨーとお手玉、輪投げ独楽とベーゴマを提案。ボーリングも面白そうだと思ったけれど、真っ平な地面なんてないし、室内で遊ぶには危険すぎる。
 縄さえあればできるからと、縄跳びも提案してみた。これはあとでヴィンとランツのところにいる子どもたちに教えるつもりだ。
 そこでふと、ランツを見る。ランツのところにいる子って息子と娘の子だから、孫にあたるんだなあと思ったからだ。
 ずいぶん若いおじいちゃんだな、おい。そのあたりは早く結婚するからなんだろうなあ……と、遠い目になった。
 玩具に関しては、登録はランツが全部やってくれるというので丸投げし、簡単にできるからとさっさと錬金術でいくつか作り、レシピと一緒にランツに渡した。その他に子どもたちに試してもらえるようにと人数分作り、遊び方は明日教えると言って解散。
 採取や戦闘、畑仕事は親か村人たちで教えればいいことだしね。もちろん私たちも手伝うさ~。
 馬車の報酬は半分貯金してほしいとギルドタグを渡し、しっかりと貯金してもらったあとで半額もらう。これは漁港で買う魚と真珠の資金にするつもりだ。
 鍋のレシピは明日の昼ごろ家に行くからと話し、ギルドをあとにする。
 久しぶりの旅で疲れたけれど、従魔たちも満足してくれたようなのでよかった。帰ったらお風呂にゆっくり浸かって疲れを取ろうと決め、家路を急いだ。

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