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ドルト村編

第119話 森の中でレベリング

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 なんだかんだと馬車を護衛しつつ、村へと続く坂道を上ること二日。明日の昼には村に着くところまで来た。
 つーか、早いんだけど!
 一応、村に行くための手順に則って、道を右に曲がったり左に曲がったりしたけれど、馬車が軽いこととイデアの脚力、私とハビエルが持っている村人の証の力があったのか、比較的早く村に近づくことができたのだ。
 とんでもねー石だと、ハビエルと二人して溜息をついたものだ。
 で、ここに来るまでに新人二人のパワーレベリングをしたけれど、ヴィンもランツも納得がいかないようで、今いる休憩所で二日ほどパワーレベリングというか、ブートキャンプをすることに。
 キノコと薬草を教えて採取しつつ、襲ってきた魔物を討伐。パワーレベリングなのでピオかエバが雷で痺れさせ、痺れが取れる前に二人がトドメを刺すという具合にレベリングしているのだ。
 その時にヴィンがどこを狙えば効率的に倒せるかやその魔物の特徴と弱点を教え、それを踏まえたうえで討伐させるということを繰り返していた。
 さすがSSSランク冒険者。ほとんどの魔物を討伐したことがあるそうで、私も勉強になっている。

「よし、いいぞ。解体したら休憩所に戻ろう」
「「はい!」」

 ヴィンの言葉に、元気に返事をする新人二人。解体も手慣れたもので、いつの間にか綺麗に解体できるようになっていた。
 もちろんスキルとして発生しているから触るだけで解体することはできるけれど、解体したこともない知らない魔物を詳細に分けることは難しい。なので、ヴィンと私の指導のもと、今でもナイフを使って解体をさせている。
 これも、解体スキルのレベルを上げるためにも必要な経験値稼ぎになるからだ。そしてそれは他国に行っても有用な技術だし、冒険者を辞めてもギルド職員として働ける技術のひとつなのである。
 私もヴィンもそれをわかっているからこそ、しっかりと指導をしていた。
 解体が終わったのでキャンプ地である休憩所に戻り、お昼を兼ねて休憩。レベリングは冒険者の二人だけじゃなくて、イデアにもさせている。
 イデアの場合はリコとノン、ジルが付きっ切りでレベリングしている。ノンは通訳のためだ。
 いくら馬車用に購入した馬とはいえ、村周辺の魔物たちはイデアよりもレベルが高く、それ故に怯えて混乱されても困る。
 だからこそレベル差をある程度埋めて、尚且つイデア自身が倒さなくても相手の魔物が撤退するくらいのレベルと戦闘力を鍛えているのだ。素直なイデアは村人のためになるならと真剣に聞き、同じ馬種であるリコに教えてほしいとお願いしていた。
 本来であれば、スレイプニルには脚力さえあれば魔物を撃退することができる。けれどイデアはそれだけでは満足せず、リコだけじゃなくノンとジルにもお願いして魔法を習い、自力で習得したのだ!
 初めて魔法を使うのを見た時、従魔たち以外の全員で唖然としたよ……。もちろん、しっかりとイデアを褒めた。
 どうやらイデアは褒めると能力を発揮するタイプのようなので、褒めて伸ばす作戦にした。それもあり、あと少しで四種類の魔法を習得しそうな勢いだ。
 ご飯を食べつつ、これまでのことを思い出していると、ヴィンが午後の予定の話を振ってきた。

「午後からはどうする?」
「西側に行ってみるか。まだウルフの群れに出会っていないし」
「そうね。群れの対処もできたほうがいいものね」
「ああ。せめて五匹くらいまでは簡単にあしらうか討伐できるくらいになってほしいものだが」
「「頑張ります!」」

 ふんす! と気合い充分な二人に、父親であるランツも私も苦笑する。あまり気負って怪我でもされたら困るからと落ち着かせた。

「じゃあ、ピオ。引き続き二人をお願い。エバはイデアのほうね」
<<わかった>>
「従魔を貸してくれるのは助かる。が、アリサはどうするんだ?」
「馬車の中を改造しようと思って」
「「「「「あ~……」」」」」

 男五人が微妙な顔をして、頬や頭を掻いている。
 この二日間馬車の中で泊まった男たちによると、やっぱり狭いとのことだったのだ。特にヴィンは背の高い魔族よりもさらに高く、なおかつ尻尾があるからどうしても寝るスペースを取ってしまう。
 ヴィンが一緒に移動することはないが、月に一度帝都でギルマス同士の会議があるそうなので、それを踏まえて中を拡張することになった。
 他にもレベリング中に見つけた綿花で布団が欲しいだのクッションが欲しいだのと言われているので、それも作ることにしている。どうやらこの二日間で一気に気温が下がってきているみたいで、火鉢と毛布一枚だけだと寒かったみたいなのよね。
 なので、今後のことも考えたうえで、布団を作ることになった。テントの中は快適だし、ジルやピオ、エバの羽毛に埋もれて眠っていたから、気づかなかったよ……。
 拡張ついでに防寒と、布団や毛布をしまえる工夫もする予定だ。
 午後はハビエルとランツも採取ついでにレベリングするというので、頷いた。
 そして休憩も終わり、それぞれで行動を開始する。ランツは自分で名付けたからなのかイデアが心配なようで、一緒に行くと言うと、イデアも喜んでいる。ハビエルはヴィンたち冒険者組と一緒だ。
 全員を見送り、作業の邪魔をされるのも嫌なので結界を張り直したあと、馬車の改造をする。念のため馬車の足回りも確認したけれど特に問題もないからと中へと入ると、倍の広さにした。
 それから断熱材代わりにベアとウルフの毛皮を使って内部に貼り付け、状態維持や重量軽減、防寒など寒さに備えた付与などを施していく。幌に関してもワイバーンの被膜を出して二重にし、こっちにも防寒をつけた。
 間に合わせで作った火鉢は撤収した。密閉されていないことと馬車の前後に換気できるものをつけていたとはいえ、一酸化炭素中毒が怖かったからだ。幸いにしてそういった症状は一切みられなかったが、今後それが出ないとはいいきれない。
 なので、火鉢の代わりに魔石と神鋼とステンレスを使って電気ストーブもどきを作ってみた。温度調節もできる優れものだ。
 今晩実験してもらって、うまく機能するかどうか確かめてもらわないとね。
 そして椅子になっているところを改造し、収納できるチェストに変更。予備の武器や防具、何かあった時のための修理道具なども隠しておけるよう、拡張している。

「……よし。こんなもんかな? あとはクッションと布団、毛布も分厚いのを作っておくか」

 そうすれば、ストーブが失敗だったとしても大丈夫だろうと、ぶつぶつと独り言を言いながら作業をしているうちに、あっという間に時間が過ぎていく。空を見上げれば茜色に染まり、少し肌寒くなってきた。
 夜はボアを使った牡丹鍋にするかーと先に焚火にしていたところに火を熾し、竈にも火を入れて晩ご飯の準備。そうこうするうちに、まずはランツたちが帰ってきた。

「おつかれー。首尾はどうよ?」
「ありがとう。とても有意義な時間でした」
「それはよかった」

 紅茶を飲んで一息ついたランツ。イデアと一緒にレベリングをしたと、珍しく楽しそうに話をしてくれる。そしてヴィンたちも帰ってきたところでちょうどいい具合に鍋の中身も火が通ったので、晩ご飯。

「あったまるな、これ」
「野菜も一緒に食べられるのもいいですね」
「今回はボアの肉を使ったけど、ロック鳥やオークでもいいの」
「村に帰ったら教えてくれますか?」
「いいわよ」

 材料は相手持ちだし、教えるのは問題ない。基本さえ教えておけば、あとは勝手にアレンジするからね、魔族って。とにかく食べたり料理したりすることが好きみたいなんだよなあ。
 ……それでいいのかよ、元貴族様。
 肉や野菜を足しつつ、最後は雑炊にして〆る。従魔たちたけじゃなくて、イデアまで食べられるようになっていたのは驚いた。そこはやっぱり魔物なんだなあ……と実感したとも。
 ご飯のあとは戦闘の反省会をして、見張りの順番を決める。馬車の中に入った男たちから、喜んでいるような声が聞こえてきたあと後ろから顔を出し、揃ってありがとうと言われた。

「助かった、アリサ」
「お、おう」

 喜色満面なうえに、ご満悦状態な男たちに、気に入ってくれたならよかったと、胸を撫で下ろした。

 翌日もレベリングをして泊まった結果、ヴィンも新人二人も、そしてイデアも満足のいくレベルと技術を身に着けたようで、村へ帰ることになった。ヴィンが御者をして、村への道をのんびりと走るイデアと馬車。
 ストーブはばっちり機能してくれたようで、好評だった。
 途中で魔物に襲われても先行しているピオとエバによって倒され、そのままマジックバッグにしまってくれるから、いちいち馬車を停める必要もない。

「お、村が見えてきたわ」
「帰って来たと感じるな」
「だよねー」

 村人たちほど長い年月を過ごしたわけじゃないけれど、それでも〝帰って来た〟と実感できるほど愛着が湧いているわけで。
 明日は朝から漁港に行って、頼まれている魚の買い付けをしてこようと思いつつ、村の入口を通った。

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