自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村編

第116話 帝都東のダンジョン再び 3

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 翌朝。テント内で身支度を整えて顔を洗うと、テントから出る。そろそろ十月に近い季節だからなのか、夜は気温が下がっていたようで寒かった。
 そこは従魔たちがいたから温かかったけどね。つか、ダンジョンも寒いってこれ如何に、な心境だよ。
 テントを片付け、スープとパン、串焼きで朝食を済ませると、出発準備をしてからピオとエバに雷を解いてもらってから結界を解いた。新人冒険者なんだろう……彼らは私たちの様子を見て、唖然としていたっけ。
 いくらダンジョン内のセーフティーエリア内とはいえ、屑な冒険者が一定数いる。女である以上、しっかりと身を護るのは当然でしょ。
 女じゃなくても護るのは当然だし、外での野営なら当たり前のことだ。そういうのは先輩から教わるものだそうだから、今後はしっかりと先輩から学びたまえ。
 ちなみに、うちの新人二人は、私の行動を見たうえでヴィンと父親にしっかりと話をされていて、頷いていた。
 装備を整えたあと、セーフティーエリアを出て、またダンジョン内を進んでいく。あれ? そういえば、どこまで攻略するのか聞いてないや。

「ヴィン、このダンジョンはどこまで攻略する予定なの?」
「本来は完全攻略するつもりだったんだが、ワイバーンの被膜が手に入っただろ? だから、十階で採掘したら、ボスを倒して帰還するつもりだ」
「了解」

 このダンジョンの十一階からは草原や森が広がるダンジョンになっているという。予定ではその階層でウルフ系の皮を集め、それを幌にするつもりだったんだとか。
 来る時にワイバーンが手に入ったからこそ予定を変更したらしい。残りは自分たちの力で攻略してみせろ、だとさ。
 魔族の二人なら、近いうちに攻略するんだろうなあ……と思った。私は特に必要ないので、攻略するつもりはない。
 そんな話をしているうちに、ちらちらと採掘をしている人が出始める。

「ハビエルは採掘しないの?」
「狙ってる鉱石はこの階層に出ないしな。だから今のところは大丈夫だ」
「その鉱石はなに?」
「もちろん、神鋼を始めとした上位鉱石だ!」
「そ、そうなのね」

 ふんす! と鼻息も荒くそんな返事をしたハビエルに、鍛冶師ってやつはこんな性格の人しかしないんだろうなあと察した。近づいてもいいが、親友にはなりたくない。
 新人二人にきっちり指導しつつ、魔物を倒していくヴィンたち冒険者三人。彼らが打ち漏らしたものは私や従魔たちが対処している。
 討伐スピードが上がっているからなのかサクサク進み、七階で昼休憩。新人のためのレベリングと教育だからねー。ゆっくり攻略しているのだ。
 つーかさ、パワーレベリングはどうした。全然パワーになってないじゃないか。
 そんな疑問が顔に出ていたんだろう……ランツが「ここを出てからがパワーレベリングですよ」と、自分の息子たちに対し、楽しそうに話していた。……そうだね、帰りは馬車に乗って村に帰るんだもんね。
 村に近づくにつれてどんどん魔物が強くなるもんなあ。ダンジョンでレベル上げをするよりも手っ取り早い。
 頑張れ! と内心で応援しつつ、しっかりと体を休めた。
 休憩後はそのまま十階層に行くと、ボス部屋へと向かう道とは違う方向へと行く。途中でハビエルがスキルを使ったんだろう。「おお」とか「すげえ!」と子どものようにはしゃいでいたから、つい生温い視線になってしまった。

「よし。このあたりで一回採掘をしたい。アリサ、手伝ってくれ」
「わかった。何を掘るの?」
「このあたりだとオリハルコンがいいだろう」
「了解。リコ、ジル、手伝ってね」
<<ああ!>>

 リコは採掘を楽しいと思える子だからね~。手伝ってと行った途端、目を輝かせている。ジルも初めてだからなのか、ワクワクしたように目を輝かせ、尻尾を振っているし。
 私たちが採掘している間、他の人や従魔たちは護衛になるので、新人二人はその場合の注意点をヴィンから聞いている。

「リコ。ここからここまでがオリハルコンが埋まっているから、掘り出してくれる? ジルはここね」
<<わかった!>>
「さすがはアリサだな。やっぱスキルがあるのか」
「スキルといっても、装飾品を扱うからみたい。鍛冶師としてのスキルはないからね?」
「へえ! 装飾品を作るスキルだけでも採掘があるのか!」

 いろいろあって面白れえと笑うハビエルに、乾いた笑いしか出なかった。
 一時間ほどかけて採掘をし、あらかた掘り終わると奥へと移動する。そんなことを繰り返し、いろんな種類の上位鉱石を採掘したハビエルはとても機嫌がいい。
 最後は神鋼を採掘して、必要以上のものを彫り出せたからなのか、ハビエルはスキップしそうな機嫌のよさだった。
 馬車に使うものの他にも鍋や畑に使う道具、武器や防具に使う鉱石をたんまりあつめ終わったので、中ボスを目指す。そろそろ夜に差し掛かった時間だからね。
 ヴィンもランツもダンジョンでは泊まりたくないと言うので、さっさとボスを倒して地上に出ることに。ボスは私が潜った時と同じでゴブリンが五匹。
 それは新人二人だけで、呆気なく倒していた。
 その後ドロップを拾って奥へと行き、階段や転移陣の説明を受けた新人二人は、次に来ることを楽しみにしていると言って地上に戻った。次からは転移陣があるところまで一気にこれるからね。
 ダンジョンから出ると、外は夕暮れに赤く染まっている。近くで一泊しようと森から離れ、開けた場所を探すとすぐに見つかった。
 手分けして薪を集めたり竈を作ったりしたあと、テントを設置してから結界を張る。そしてまだ日があるうちに、解体の復習をしてもらった。

「なるほど。確かにダンジョンでやるような作業じゃないな」
「でしょ? どう? スキルになりそう?」
「ウルフかベアを解体したらいけそうな気がする」
「よし。ならブラウンベアを解体してみようか」
「「おう!」」

 てなわけでブラウンベアを二体だして二人に渡し、解体をしてもらう。途中で暗くなってしまったので魔法で灯りを出し、その灯りで解体を終わらせた。
 終わったあとはいらない内臓と骨を地中深く埋め、キャンプ地に戻ると、ヴィンとランツがご飯を作って待っていた。

「ありがとう。助かるわ」
「簡単なものしかないけどな」
「充分よ」

 冒険者の先輩としての意地でもあるんだろう。二人にどんな材料を使って料理したのか説明しているヴィンとランツ。
 ハビエルはというとすぐにでも馬車に使えるようにと、神鋼をインゴットにしてくれていた。
 ご飯を食べたあとは見張りの順番を決める。初めての外での野営だからね。魔物だけじゃなくて盗賊や夜盗にも注意しないといけない。
 今回は二時間交代で四チームに分け、ヴィンとランツに新人が付くことで教えるみたい。順番としてはハビエルが一番最初で次にランツたち、ヴィンたちが続いて私が最後になった。
 その流れで朝食も用意することにする。それぞれ準備ができたところでハビエルを残し、テントの中に入った。

「アリサ、交代だ」

 外からヴィンの声がして目が覚める。簡単に身支度を整えてテントから出ると、ヴィンから特に問題はなかったと言われて頷き、交代する。

<アリサ、採取してきてもいい?>
「いいけど、遠くにはいかないでね」
<わかったのー>
<ノン、あたしも一緒に行くわ>
<ありがとー!>

 小さな声で話しかけてきたノンに、同じく小さな声で答える。エバと一緒に行動しているなら問題ないだろう。
 焚火に薪をくべ、錬成して作った緑茶を飲みながら空を眺める。日の出が近いのか、徐々に明るくなってくる空には、雲が少し多めに見える。

<アリサ、もしかしたら夕方雨が降るかもしれん>
「そうなの? 助かるわ、ジル。ありがとう」
<いや……>

 お礼を言われて照れるジルを可愛いと思いつつもふり倒していると、ピオとリコも寄ってきたので同じようにもふり倒す。本当にいい子たちで助かるなあ。
 そうこうするうちにノンとエバが戻ってきた。ノンが持っている籠にはキノコや野草、果物がたくさん入っている。
 これを朝食にしよう。
 準備をしているうちにハビエルが起きてきて、次にランツたち親子と最後にヴィンが起きてきた。そのころには朝食がほぼ出来上がっていたので、すぐに食べ始める。

「ジルからの情報なんけど、夕方から雨が降るかもしれないそうよ」
「お? そうか。なら、できるだけ早く馬を買って、馬車を作って移動しないとな」
「そうですね。まずは帝都に行って、ギルドで素材を換金したあと、村人に頼まれているものや馬を買いましょう」
「馬車はどこで作るんだ?」
「帝都を出てからでいいんじゃない? 町のど真ん中で作るつもりはないわよ?」
「いろいろと面倒ですしね」
「ええ」

 作る場所については、村に行く街道の途中にある休憩所か森の中で作ることになった。錬金術で錬成するとはいえ、他人にジロジロ見られながら作るつもりはない。
 そろそろ行くかというヴィンにちょっと待ってもらい、従魔たちを偽装する。
 ノンはスライム、リコは馬、ピオとエバは従魔としては珍しくもないサンダーバード、ジルはグレーのフォレストウルフにした。するつもりはなかったんだけれど、ハビエルに私も偽装したほうがいいと言われたのでその通りにした。

「じゃあ出発する」

 ヴィンの言葉に全員で頷き、結界を解いて森から出た。

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