自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村編

第114話 帝都東のダンジョン再び 1

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「アリサ、馬車を作ってくんねえか?」
「相変わらずいきなりだな、オイ」

 ギルドに依頼がないか行くと、挨拶もそこそこにヴィンがそんな話をしてきた。何事かと思ってよく聞くと、ランツの息子たちと村人数人がディエゴが来るのを待たずに、野菜などを持って行ったらどうかと言ったんだとか。
 そうすれば食材も新鮮なまま持っていけるし、ギルド本部からの依頼を達成したものもすぐに届けられるし、帰りはみんなが欲しいと思っているものを買って帰ってこれるから。

「作るのは吝かじゃないけど、馬はどうするの? リコは貸せないわよ?」
「ああ。だから、行きは悪いがアリサに帝都まで送ってもらって、帰りは馬を買い、馬車に繋いで帰って来ようかと……」
「ふうん……? まあいいわ。きっちり報酬はもらうからね?」
「もちろんだ。そこはヘラルドも納得しているから、安心してくれていい」
「わかった」

 てなわけで、馬車を作ることに。形状としては幌馬車で、内部を拡張してほしいという。そうすれば雨が降った時、中で寝ることができるから。
 テントだとどうしても中に雨水が入り込んでくるし、必ずしも土魔法を使える人がいるとは限らないから、それをさけたいという。それなら作るのはいいけれど、木材はともかく他の材料はどうするのか聞くと、ダンジョンに潜って鉱石を採掘する予定だそうだ。
 ついでに、冒険者登録をする予定であるランツの息子たちを連れて行って、パワーレベリングもしてしまうらしい。人のことはいえないけれど……過激というか、なんとも脳筋らしい答えだな、おい。

「そこでアリサに指名依頼だ。俺とランツと一緒に引率して、そのレベリングの手伝いと採掘をしてほしいんだ」
「確か、指名依頼って断れないのよね?」
「ああ。あと、ランクを上げるにしても、何度か新人を連れて指導しないといけないから、そのための布石でもあるな」
「……ランクはもう上げるつもりはないんだけど?」
「それでも、だ。自分の持っている技術を後輩に伝えるという意味でも、指導は必要なんだ」
「なるほどね」

 新人にとってはいろんな先輩から技術を教わり、その中で自分に合ったやり方を見つけることにも繋がるし、採取の仕方を教えてもらうチャンスでもあるんだそうだ。そして先輩からしてみると、Aランク以上は必ず一度は請けないといけない依頼でもある。
 面倒ではあるが、ギルマス直々の依頼だもんな。断るのは難しいし、私も忙しいわけじゃないから、引き受けることにした。
 で、村の人が使うからということで幌馬車の形をみんなで考え、その設計図みたいなものを渡される。作るのはダンジョンに潜ってレベリングと鉱石を入手したあとで、幌は魔物の皮を使う。
 皮はそんなに丈夫じゃなくていいいけれど、最低でもベア種のものが欲しいと言っていたので、それもダンジョンで仕入れることにした。最適なのはやっぱワイバーンの被膜らしい。
 もし出会ったら狩ろうという話になったのでいいとして。
 ……それ、思いっきりフラグなんだが! 絶対にフラグが立ったでしょ、これ!
 他にも中に入れるクッションだの御者台の椅子に柔らかい素材のものを使いたいだのとまあ、いろいろ出てくるわけですよ、希望が。口を出さずにそれを聞きながら、もし作れなかったらどうするんだと内心溜息をついていた。
 そんなことをしている間に登録が終わったらしく、ハビエルのところに行って装備を整えてくるというので、私は出発の準備をするために、先日も使った籠を用意。
 ダンジョンに潜るための道具は、エビータのところにないからね。だからそれらは帝都に行ってから買うことにしたみたい。

「で、ダンジョンはどこに行くの?」
「帝都東のダンジョンだ。あそこは初心者用のダンジョンだから、訓練を兼ねたレベル上げにちょうどいいんだよ」
「な、なるほど」

 やっぱりあそこは初心者用のダンジョンだったか。上の階には薬草もあったしなあ。森で採取して失敗されるよりは、日付が変わるとまた生えてくるダンジョンで訓練したほうがいいんだろう。
 全部採取しようが採取を失敗しようが大丈夫だから。また生えてくるダンジョンならではの訓練方法なんだとか。
 いろんな意味でパワーレベリングだなあ……。
 そんな話をしているうちに新人二人とギルマス二人の装備も整い、「採掘に行くなら儂も行く」とハビエルまで来たので、思いっきり溜息をついたあと、全員を籠に乗せた。

「じゃあ行くよ。ダンジョンの少し手前で下りるから、そこから歩くわよ」

 そう告げてから空に飛び立ち、一度帝都で必要な食材や道具を買いあさったあと、帝都東のダンジョンへと向かう。帝都に着く途中で、案の定ワイバーン三体に絡まれてね……。
 ピオとエバがサクッと雷を落としで痺れさせ、リコとノン、ジルが魔法を使って頭や首を貫き、呆気なく戦闘が終了。それを私が回収し、ダンジョン手前に着いた時にパパっと解体した。

「……アリサはギルド職員としても働けそうだな。やらないか?」
「やらないわよ」
「させませんよ。職員にするには勿体ないですしね」
「だよなあ。まだ若いってえのもあるが、戦闘技術も申し分ないからな」
「そうですね」

 ギルマス二人が何やら盛り上がっているけれど、スルースキルを発揮しておいた。で、新人二人が唖然としていた顔をしていたから、解体スキルを持っていると話すと、納得された。
 しかも覚えたいってことだったので、まずはレベルを上げ、ダンジョンの中で解体の練習をすることに。ただ、ダンジョンはドロップなので解体できないからと、ダンジョンに着くまでに襲ってきた一角兎やボア、ウルフを持ち込んで練習することに。
 もちろん、ヴィンが戦闘指導をして武器の扱い方を丁寧に教えていた。ちなみにランツは弓と短剣、ハビエルはハルバードだ。……戦闘ガチ勢でござった。
 私は刀だからねー。この世界の剣捌きは教えられないんだよ、刀と剣の用途が全く違うから。刀は斬ることに特化しているし、剣は押しつぶして切るという感じだからね。
 なので、役に立つとすれば槍か採取と採掘しかない。
 とりあえず解体していない魔物たちは時間が経過しない麻袋に入れたうえ、私のポーチにしまう。ポーチ自体は迷宮都市で買ったと公言しているから、何の問題もない。
 そうこうするうちにダンジョンに着いたので、装備を槍に変える。

「アリサ、どうして槍に変えた?」
「最初は洞窟タイプなの。そこにバット系が出るから、そのためね。刀だと間合いが届かないし、私は魔法が使えないから」
「なるほどな」

 魔法が使えるのであれば、飛んでいる魔物は魔法で倒せばいいと話し、ヴィンが先頭で次に新人二人、その後ろにランツとハビエル。私が殿で従魔たちが私たちの周辺という布陣で中を進んでいく。
 あくまでも新人二人の訓練なのでヴィンが二人に説明し、魔物の特徴や弱点、どういった動きをするかなど、その魔物に出会った時に説明したあとで戦闘させている。そこはさすがSSSランクなだけあって適格で、私も勉強になる。
 つか、私が来る必要あった?
 恐らく実績作りのためなんだろうけれど、他にも採取と採掘があるから、そっちを私に指導しろってことなんだろう。くっそ面倒ではあるけれど。
 二階に下りる手前で休憩し、新人たちと話しながら反省会をしているヴィン。ギルマスに立候補するだけあって、本当に知識が豊富だ。
 そこにランツも交じっていろいろと教えているから、新人たちは素直にあれこれ質問したりして、その知識を蓄えていっているのが印象的だ。まあ、ランツの息子たちだもんな。下手なことを教えたら叱られるもんな。
 頑張れ~と生温い視線を投げかけつつ、ハビエルと一緒に馬車の素材の話をするのだった。

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・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

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