上 下
88 / 190
ドルト村編

第104話 ノンの〇〇

しおりを挟む
 門を出て北に向かう。依頼を受けた魔物はある程度の方角に分布しているから、ウルフ系がいるほうへと向かうことにした。ボアとベア、ディアはあちこちの方角にいるものの、ウルフ系は北にいることが多い。あとは西だろうか。
 ウルフ系はどうも寒い場所を好むようで、北のほうに集中しているのだ。たぶん、水場としての湖があることも大きいんだろう。
 で、刀を装備して歩くと、すぐにエンペラーグリズリーに出くわした。体長3メートル越えの、とても大きな灰色熊だ。
 グリズリーが立ち上がる前にリコがストーンランスで頭を貫き、呆気なく戦闘は終了となった。こういう時、魔法って便利だなあと思うよ。あとは弓か。
 確か双子が弓の名手だと聞いたから、彼女たちに習うのもいいかもしれない。弓は自分で作るか、ハビエルに依頼してもいいしね。
 お金が貯まる一方だから、こういう時に使うしかないんだよなあ。ペットでもいればいいけれど、野生の猫や犬はいないし。いないわけじゃないが、ほとんどが帝都のような大きな町にいるのだ。
 帝都にいけばペットショップのようなものがあるかなあ? この世界特有の愛玩動物がいるって話だしね。
 なんつったっけ。ビエルカだったかな。見た目はリスで、尻尾が二本ある、とてもおとなしい魔物だ。この森でも時々見かけるが、人間に飼われているのは飼育されているもので人に慣れている。
 あとは小鳥系と猫が人気らしい。
 猫かあ。野生の子がいるならそういう子をうちの子にしたい。死ぬ前に行くはずだった譲渡会も、飼いきれなくて捨てられてしまった猫や飼育崩壊で引き取った子ばかりだった。
 そういう子を引き取って育てるつもりだったんだけれど、結局死んだから飼わなくて正解だったかもしれない。
 おっと、脱線した。
 リコが倒したエンペラーグリズリーは解体せず、そのままギルドに貸し出された袋に入れる。袋は時間停止と空間拡張が施されているものだから、すぐに袋に入れてしまえば、そのままギルドに渡すことができるのだ。
 今回の依頼はベア系は全部の素材が必要だし、解体すれば一発だけれど血を分けるとなると容器が必要だ。それだったら解体せずに倒してすぐ袋に入れてしまえば、ギルドが責任を持って血抜きをしてくれるというわけ。
 外で血抜きしながら容器に入れるのは面倒だしね。
 袋に入れたあとはポーチにしまい、また歩く。楽しいのか、ノンの尻尾はピンっと立っていて、籠を頭に乗せてキノコを採取している。
 ピオとエバもカラスサイズになり、リコの背中に括り付けてある大きな籠に、見つけた果物を採っては入れていた。そしてまたもやエンペラーグリズリーを三体見つけるとすぐに雷を使って倒していた。
 ……血が必要だもんな。首を斬るわけにもいかない。
 その三体を袋に入れた時点でベア系の依頼はほぼ終了しているけれど、ベア系の内臓は需要があるからね~。肉もそこそこ美味しいし。村に帰るまでにまた見つけたら狩ろう。
 次に見つけたのは、エンペラーホーンディアを四体。しかも、どれも立派な角を持つオスだ。

「ピオ、エバ。痺れさせて」
<<はーい>>

 二羽が魔法を放って痺れさせたのと同時に走り出し、次々に首を斬り落としていく。全部の素材が必要だから、これも別の袋に入れてポーチにしまうと、また歩きだす。
 そんなことをしているうちにエンペラーブラックウルフの群れと遭遇した。

「一気に殲滅するよ! 毛皮が欲しいって言われているから、できるだけ傷つけないでね!」
<<<<はーい!>>>>

 元気に返事をした従魔たちにほっこりしつつ、私も刀を片手に走り出す。群れとしては二十頭ほどなので、それほど大きな群れではない。
 従魔たちと一緒に戦闘をしていると五分くらいで終わった。ウルフ系は毛皮が欲しいと言われているので解体し、毛皮とその他に分けて袋に入れておく。あとになって肉や牙、魔石も欲しかったと言われても困るからね。
 全部解体して袋の中に入れると、また歩きだす。しばらく歩いていると遠くでウルフ系が戦っているような声が聞こえた。群れ同士の縄張り争い? それとも、ボスを決める対決? 下手に近寄って巻き込まれても困るので、ピオにお願いして偵察に行ってもらう。
 警戒しつつノンと一緒にキノコ狩りをしていると、ピオが戻ってきた。

「どうだった?」
<エンペラーホーンウルフの群れがいた。ただ、戦っていたのは真っ白なウルフだった>
「真っ白?」
<ああ。群れ全体でその真っ白な一体を取り囲んで争っていたが、そのウルフの後ろやお腹には小さな生き物がいて、それをかばっているみたいでな……>

 こんな森に真っ白なウルフと小さな生き物、だと? ウルフはどこかから流れてきた可能性はあるけれど、小さな生き物ってなんだ?
 それはあとで確かめればいいとして。……よし、決めた。

「……よし。ピオ、エバ、ノン。先に行ってくれる?」
<<<何をするの?>>>
「まず、ピオかエバのどっちかでその白いウルフと小さな生き物を結界で覆ったうえで、雷を這わせて。そのあとで群れを雷魔法で攻撃。倒してもいいし、痺れさせるのでもいいわ」
<<わかった>>
<ノンはー?>
「ノンは、もしそのウルフと小さな子たちが怪我をしていたら、ヒールで治してあげて。それから攻撃よ。もちろん、毛皮は有効だから、できるだけ傷つけないでね」
<わかったのー>

 行こうと声をかけると、ピオの背中に飛び乗るノン。すぐにピオとエバは飛んでいく。そのあとを追いかけるように私とリコも走り出すと、すぐに「ギャン!」という声が聞こえてきた。
 さすが、早い!
 私たちが近づいてきたのがわかったのか、後ろのほうにいたエンペラーホーンウルフの三体がとびかかって来たけれどそれを躱しつつ首を斬る。それを見た二体が一瞬ひるんだのを見逃す私とリコじゃない。
 すぐにリコは魔法を放ち、私も一足飛びに近寄って首を斬った。そのままにして群れに近づくとそのほとんどが三匹に倒されていて、追加で魔法を食らっていた。
 そして全ての戦闘が終わり、しばらく警戒しても特になにもなかったので、刀をしまう。視線の先にいたのは、真っ白な狼。真っ白というよりも白銀か。
 毛皮が血で染められていて、その後ろから赤ちゃんのような声が聞こえてくる。

「え、まさか赤ちゃんがいるの?」
<違うよ、アリサ。動物だよ>
「動物? 魔物じゃなくて?」
<うん>

 ノンが言うには小さな動物がたくさんいて、この白銀の狼はその動物をかばっていたそうだ。そしてこの狼はノンの友達だという。
 そのあたりの話はあとで聞くとして。まずは結界と雷を解除してもらい、ちょっと離れた位置まで歩くと、止まる。近づいたことで、余計に赤ちゃんが泣いているような声が聞こえてきたけれど、それは複数あるように聞こえる。
 ……どの種族の赤ちゃんだろうか。

「きみ、大丈夫?」
<あ、ああ>
「そう、よかった。酷い怪我はない?」
<黒にゃんすらに助けてもらったから大丈夫だ。って、我の言葉がわかるのか⁉>

 驚きに目を瞠る狼に、そういうスキルを持っていると話すと人間臭い仕草でポカーンと口を開けた。

「話はあとで聞くから、ちょっと待ってて。先にこれを片付けないと」
<わかった>

 おとなしくしててとお願いし、念のために結界を張っておく。友達だというノンに傍にいてもらった。それからエンペラーホーンウルフをどんどん解体して袋に入れると、結界を大きくして休憩することに。
 どのみちお昼に近いしね。
 彼らもお腹がすいているだろうし、赤ちゃんにも何か食べさせないといけない。お粥を作っている時間はないから、ミルクで煮たパン粥にしようと竈を作ろうとしたところで、狼が私をじっと見ていることに気づく。

「なあに? 私の顔になんかついてる? それとも、食べたい肉でもあるの?」
<我にもくれるのか?>
「当たり前でしょ? ノンの友達なら大歓迎よ」
<そうか……ありがとう>

 ゆるく左右に揺れる尻尾に、ついその動きを追ってしまう。そしてその近くにノンがいて、触手を出して尻尾に掴まると、そのままゆらゆらと揺れて遊んでいた。
 なんつー羨ましいことを! 私もその尻尾で戯れたい!
 なんてことを考えてみたものの、もふらせてもらうにしても狼は血で汚れている。魔法を使って綺麗にするとすぐに料理に取り掛かったんだけれど。

 お腹の下から這い出して来たのは、サバトラ模様の仔猫だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

出戻り巫女の日常

饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。 ★本編完結済み。後日談を不定期更新。

ゲーム世界といえど、現実は厳しい

饕餮
恋愛
結婚間近に病を得て、その病気で亡くなった主人公。 家族が嘆くだろうなあ……と心配しながらも、好きだった人とも結ばれることもなく、この世を去った。 そして転生した先は、友人に勧められてはまったとあるゲーム。いわゆる〝乙女ゲーム〟の世界観を持つところだった。 ゲームの名前は憶えていないが、登場人物や世界観を覚えていたのが運の尽き。 主人公は悪役令嬢ポジションだったのだ。 「あら……?名前は悪役令嬢ですけれど、いろいろと違いますわね……」 ふとした拍子と高熱に魘されて見た夢で思い出した、自分の前世。それと当時に思い出した、乙女ゲームの内容。 だが、その内容は現実とはかなりゲームとかけ離れていて……。 悪役令嬢の名前を持つ主人公が悪役にならず、山も谷もオチもなく、幸せに暮らす話。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。