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ドルト村編

第102話 特別な贈り物

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 翌日、特にやることもなく、ブイヨンやコンソメを作るべく、牛骨や鳥ガラを使ってのんびりと出汁をとっていた。従魔たちはそれぞれ森や庭に行き、好きなことをしている。

「アリサ、いるー?」
「いるわ。ちょっと手が離せないから、庭に回ってくれるー?」
「わかった」

 そこにレベッカとヘラルドがやってきたので庭に回ってもらい、囲炉裏がある部屋に上がってもらった。チェストにリュミエール像が飾ってあることと、花や食べ物がお供えしてることに驚いたみたいだけれど、それでも微笑ましそうな顔をしてにっこりしていた。
 くそー、彼らから見たら成人したてのガキだもんね、私。イラつくけど我慢だ、我慢。

「どうしたの?」
「ポーションと薬ができたから持ってきたの」
「あと、服ですね」
「はあ……?」

 全く意味がわからん。説明プリーズ!
 二人によると、ポーションと薬はレベッカが作り、村人に渡しているそうだ。これはいわゆる常備薬で、錬金術だけじゃなく医師のスキルを持っているレベッカだからこそできる芸当らしい。
 つまり、常備薬以外での病気や怪我は、レベッカの診療所に来いってこと。
 それはいいとして、めっちゃ疑問なんだけれど……王太子妃ってなんでもできないといけないわけ? そんなことを遠回しに聞いたら、ここに移り住むようになってから覚えたそうだ。やっぱり苦労したんだね。
 で、服に関しては、私がまだ機織りに慣れていないことと、似たような服ばかり着ているのが気になり、女性たちと手分けして作ってくれたんだって。買おうと思っていたのに、すっかり忘れてた!

「いいの?」
「もちろんよ。わたしたちばかりアリサにもらってばかりでしょう? ずっと気になっていたのよ」
「気にしなくていいのに」
「ダメよ。この村は持ちつ持たれつが鉄則で、何かされたらお礼をするのが魔族の特色だと思って」
「あー……」

 魔族の習性というか習慣というか、そういうことか。
 そういえば、畑を手伝っても料理を教えたあとでも、働いた対価とばかりに野菜をくれたり、逆に料理を教えてくれる人もいたなあと思い出す。レシピはとてもありがたいが、よく食べる従魔たちがいるとはいえ、食材をもらってもそんなにたくさんは食べきれないんだよね。
 だから、そのほとんどが貯蔵庫に眠っているわけだし。つか、まだアイテムボックスに死蔵してる肉や野菜もあるんだが。
 それなのに、従魔たちが肉だ野菜だ果物だと言うから買ってしまうのだ。まあ、買う私も私だが。

「冒険者だからスカートは必要ないかもしれないけれど、山に行かない時なら穿けるでしょう? だからもらってね」
「わかったわ。ありがとう」
「どういたしまして」

 ニコニコと嬉しそうに、風呂敷代わりなのか大きな布に包んであったものを三つ、床に置くレベッカとヘラルド。どんだけ張り切って作ったのかな⁉ つか、機織りをしたのってつい先日じゃん!
 お針子の職人でもいるのかよ! それとも、私が来る前も機織りをしてたんだろうか。そういえば、一台壊れたって言ってたね。それを考えると、私が来る前も、あの豆腐建築の中で作業していたのかもしれない。
 内心でそんな突っ込みをしつつもしっかりとお礼を言う。薬に関しても、冒険者が使うポーション各種と、胃薬や風邪薬、消毒に使う軟膏など、この世界の庶民なら必ず一家にひとつは持っているものを木箱に入れて渡してくれた。
 あれだ、救急箱の代わり。持ち手がついているから持ち運びもしやすく、便利だ。これはこれで依頼を受けた時用にもワンセット欲しい。

「レベッカ、これと同じものをもうひとつ欲しいの」
「依頼の時に持っていくのかしら」
「ええ。ノンがいるとはいえ、常に近くにいるとは限らないもの」
「そうね。いいわ。ポーションもセットで作るわ」
「ありがとう!」

 報酬はどうしようかと話したところ、今までのお礼だからいらないと言われたので、好意に甘えることにした。
 実際問題、ノンが離れるとは思わないけれど、ダンジョンや山では何があるかわからない。特に私は攻撃どころか回復魔法すら使えないからね~。こういうキットは必須なわけだよ。
 だから頼んたってわけ。
 で、レベッカの話が終わったら、今度はヘラルドだ。ヘラルドから渡されたものは15センチ四方の木箱。開けてと言われて蓋を開けると、小さな魔石がいくつか嵌った腕輪と、比較的大きめの魔石が嵌ったペンダントトップが四つ現れた。

「これは?」
「腕輪はアリサに。外見を変える魔法が組み込まれている。残りの四つは従魔たち用にだね。同じ魔法が込められていますよ」
「はあっ⁉」

 なんだそれは。そんなものまであるんかい!
 つか、なんで外見を変える魔法を込めたものなの? しかも、腕輪ってことはハビエルに依頼したってことでしょ?
 よっぽど私が不思議そうな顔をしていたんだろう……苦笑したあとで真剣な目を向けるヘラルドに、若干ビビる。

「アリサの場合はあまり必要ないかもしれませんが、従魔たちが特殊すぎますからね。だからこそ形と魔石を指定して、僕が魔法を込めました」
「え……? 魔法を込める?」
「ええ。この外見を変える魔法は、魔族に伝わる魔法ですから」

 な、ナンダッテ―――!?

「どうしてこれを贈ろうかと考えたのは、先ほども言った通り、従魔たちが特殊だからです。黒いにゃんすら様にバトルホース、フレスベルグの夫婦……。特殊な場合を除き、従魔になったりしません」
「え? バトルホースもフレスベルグもいないわけじゃないわよね?」
「いないわけじゃありません。が、特殊な場合だと言ったでしょう?」
「どういうこと?」

 さっぱりわからん!
 そんな私に、ヘラルドは淡々と説明してくれる。
 まず、ノン。黒いにゃんすらなんて特殊すぎるし、普通の白にゃんすらですら従魔になることはない。どんなに気に入った人間がいたとしても、仲間として共闘することはあっても、という。
 それほどににゃんすらは特別で気高い存在の神獣で、だからこそ貴重なのだというヘラルド。だからノンは特殊なんだそうだ。
 次にリコ。これも、本来は従魔になることはないという。主従という意味で連れて歩くことはあるが、それはあくまでも移動のための道具としてだ。だから、リコのように魔法を駆使するバトルホースは珍しいし、従魔になったからこそできることだと言われた。
 あ~、だから獣人たちが驚いていたのか。移動手段としてではなく、常に連れて歩ける従魔だから。
 そしてフレスベルグは以前聞いた通り、卵から孵して雛を育てれば従魔にすることはできるけれど、まず卵自体を持って帰ってくることが難しい。卵を抱えているフレスベルグは普段以上に攻撃的で狂暴になるから。

「ああ~……だから、あちこちの町で従魔泥棒に狙われたのか」
「でしょうね。一度従魔になったバトルホースとフレスベルグはおとなしいですからね。きっと、仔馬や雛から育てたと思われたのでしょう」
「あちゃー」
「実際はどうなのですか?」
「ノンは気に入ったからついてくると言って自ら従魔契約でもいいと言ったし、リコやピオとエバもそうね」

 転生したことやリュミエールに会ったことは話さず、リコやピオとエバと出会った時のことを話すと、苦笑された。

「滅多にないことですよ、それは」
「アリサが気に入ったのね……寿命を気にすることもないほどに」
「きっと、道中も大切にしてきたのでしょう。そういう部分もあると思いますよ? そうでなければ、彼らのほうから従魔契約を切られているでしょうし」
「そうね。従魔たちを見ていると、本当に楽しそうで幸せそうで……そしてアリサを慕っているようにみえるもの」
「……」

 二人に褒められて、ちょっと照れる。ぞんざいな扱いをしたことはないし、彼らを大事にしてきたとは思ってる。もし本当に彼らがそう思ってくれているなら、とても嬉しいな。

「だから、もし帝都に出ることがあるのであれば、これを身に着けて偽装しなさい」
「彼らを護ることにも繋がるから」
「わかったわ。ありがとう。彼らが帰って来たら、さっそく着けるわ」

 私や従魔たちのことを考えて、貴重な魔法を込めてプレゼントしてくれた二人。それがとても嬉しい。
 どうやって使うのか説明を受けていると、続々と村人がやってきた。

「アリサ、釣り竿ができたぞー。今度湖まで釣りに行こうぜ」
「カーテンを作ってみたの。この柄、どうかしら」
「冬用に敷物を作ったんだ。手触りがいいぞ?」
「……っ」

 どんどん集まってきては、手に持っていたものを見せてくれる住人たち。自分の得意なものなんだろう……どれも品質がよくて、全てSランクになっているのが凄い。

 ――ああ、本当に仲のいい親戚の家に来たみたいだ。

 祖父母の家に引き取られた私と弟に、心配してあれこれ気を遣い、私や弟の好きなものや好きそうなものを土産だと言ってくれたことを思い出す。常識や知識、料理やマナーも、パーティーではどうしたらいいかも教えてくれた伯父さんや伯母さん、いとこたち。
 そんな彼らの行動を思い出す。

「釣りね? いいわ。いつ行く? カーテン素敵! 冬用に分厚いのが欲しいの。作ってくれる? 敷物はこれから作ろうと思っていたから嬉しい!」

 それぞれに返事をしながら差し出されたものを受け取るといつ行こうだの、カーテン作りは任せてだの、敷物が欲しければまた持ってくるだのと言ってくれる。
 ああ、いいなあ、こういう雰囲気。癒されるってこういうことをいうんだろうなあと心の中が温かくなっていくのを感じた。

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