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ドルト村編

第100話 機織り

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 村に帰ってくると、ヘラルドとレベッカを先頭に、全員が村の敷地内に勢ぞろいしていた。おいおい、ハビエルやエビータ、ギルド職員までいるじゃないか!

「……これは一体なんの集まりなわけ?」
「アリサを待っていました。もちろんキノコはありますよね?」

 笑顔ではあるが、背後はおどろおどろしいものが出ているに違いないヘラルドに、わざと溜息をつく。そんなに威圧しなくても、ちゃんとキノコは採ってきたっつーの。

「もちろん採取してきたわよ。あと、魔力草と新たな食材を発見したから、それもね」
「魔力草! 嬉しいわ!」
「新たな食材、ですか?」
「ええ。とりあえず、レベッカには魔力草と種を渡しておくわ」
「ありがとう!」

 麻袋と瓶ごとレベッカに渡し、あとで袋だけ返してほしいとお願いする。そして門のところで食材を広げるのもなんだからと集会所へと行く。
 テーブルを出してもらい、そこに採取してきたたくさんのキノコと山芋、ブラックロック鳥やキングブラックボアなどの肉を出す。もちろん、私たちが食べる分はアイテムボックスの中に入れてある。

『おおお~!』
「ブラックロック鳥やキングブラックボア、キングブラックベアやバイソンまであるとは……。さすがというかなんというか……」
「ねえ、アリサ。皮や牙、魔石は売ってもらえるんでしょ?」
「もちろん。それは冒険者ギルドでも商業ギルドでもいいわ。たくさんあるから、半分こにしてもいいんじゃない?」
「「そうする! 王都のギルドに高値で売りつけてやるんだから!」」
「ほどほどにしておきなさい」
「「はーい」」

 おいおい、高値で売りつけるって何さ。受付嬢たちはヘラルドに諫められ、素直に返事をしていたが、顔はニンマリとしている。高値で売りつける気満々だな、おい。
 返事をしたのはギルドの受付嬢をしている双子の姉妹で、アリーナとヨハンナだ。アリーナは左目のところに泣き黒子が、ヨハンナは右側の下唇と顎の間に黒子があるから、同じ髪型をしていても見分けがつきやすい。
 牙や皮などはギルド職員の二人に任せ、残りの食材は村人用に分けていく。

「あ、まだ見ぬ冒険者の分はどうする?」
「必要ないです。自分で採りに行くでしょうし」
「そ、そう」

 そうですか、必要ないですか。まあ、本人たちがいないせいもあるが、今のところ住人としてもギルマスとしても役割を果たしていないもんな。渡すなと言われるのも無理はないか。
 鍵はヘラルドが預かっているとはいえ、勝手に家に入って入れておくわけにもいかないうえに地下の貯蔵庫は空間拡張をしていないから狭いし、彼らのための分を村の貯蔵庫に入れておくのも違うと考えているんだろうなあ、ヘラルドは。もっとも、冒険者である以上、季節に関係なく肉くらいは自分で調達できないと意味ないし、私も渡すつもりはない。
 冒険者なんだから、甘ったれるなってこと。
 この村に住めるってことは、最低でもAマイナスはあるだろう。それくらい強いんだよ、この村に来るまでや周辺にいる魔物は。
 ディエゴの護衛たちや従魔たちが喜々として狩りをするのも納得できる。強い魔物と戦うってことは、それだけレベルが上がるから。
 そんな村の事情はともかく、キノコと肉を分けたら、むかごと山芋の説明をする。むかごはバター炒めにして酒のつまみにしてもいいし、茹でるか蒸かして塩を振っただけでも美味しいおやつやつまみになると伝える。
 で、山芋のほうは実践しておく。レベッカに断ってキッチンを借り、醤油ベースのスープにして野菜と一緒にすった山芋を入れたものや短冊に切ってかつおぶしを乗せたもの。
 拍子木切りにして海苔を巻き、薄力粉を溶かしたものにくぐらせて揚げ物にしたりしてみた。お好み焼きにしてもいいけれど、それは家でやるつもりだ。

「もし食べてみて痒くなったり、体に赤い斑点ができたら食べないで」
「どうしてですか?」
「拒絶反応ってやつで、その人の体に合わないってことだから。一種の状態異常だから、すぐに食べるのをやめて、私のところに来て。ノンに回復してもらうから」
「万能薬でも大丈夫かしら」
「あるなら大丈夫だと思うわ。それでも治らなかったら来てね」
「わかったわ」

 火が通ったものなら大丈夫かもしれないけれど、〝絶対〟はないからね。きちんと注意喚起をしておくとも。
 全員一口ずつ味見をしたら特に何の問題もなく、シャキシャキとした食感が気に入ったらしくて、全員が持ち帰った。次の食材確保の時に掘ると熱く語っているのにはちょっと笑ったが。
 気に入ったならよかったとヘラルドの家をあとにして、自宅に帰ってくる。今日の夕飯はピオのリクエストだからね~。麦を入れたご飯を炊いて、浄化した卵と海苔、醤油を入れたとろろと短冊の磯辺揚げと短冊に切っただけのもの、野菜とロック鳥が入ったスープとロック鳥の唐揚げを作ってみた。
 お好み焼きは次回にとっておこうと思う。とっても美味しい山芋でござった。

 翌日、畑仕事を手伝っていたら、レベッカが呼びに来た。何をするのかと思えば、機織りのことだった。
 ダンジョンで採ってきた木材はまだまだたんまりあるから、それを使って錬成しよう。そんな話をレベッカとしているうちに集会所に着いたので、さっそく外に木材を出す。
 さすがに家の中に入れるわけにはいかないからね~。
 形を見せてもらい、詳しい構造を検分する。テーブルで作るような小さなものじゃなく、椅子に座ってぎっこんばったんと足踏みするタイプの、昔ながらの本格的もので、大きさも形も日本で見たことがあるものと代わりなかった。

「作れそう?」
「できるわ。ついでに、既存のものも木材を錬成して、丈夫にしてしまうわね」
「ありがとう、アリサ。ついでに軽くしてくれると助かるわ」
「いいわよ」

 軽くしておけば持ち運びが楽だものね。それならばと神鋼製のノコギリを出して木材にすると、まずは壊れてしまった機織り機を修理する。
 それから他の機織り機も修繕しつつ強化して、全部の機織り機に重量軽減と状態維持をかけた。椅子も新しくしてクッションも柔らかくて座り心地のいいものにし、長時間座っていても疲れないものにしたら、女性たちに喜ばれた。
 冬の間はやることがそんなにないから、どうしても機織りをして服を縫うしかないという。そのためにも蜘蛛糸が大量に必要で、中には蜘蛛を従魔にして、糸を出してもらっている人もいるんだとか。
 さすがにこの村には、そんな人はいないようだったが。嫌いではないが、私もあの大きさの蜘蛛を従魔にするのは遠慮したい。
 かなりデカいんだよ……人間の三歳児くらいの大きさはあるんだよ? そんなデカい蜘蛛が従魔なんて、私には無理だ。せいぜい、掌サイズが限度。
 なので女性たちよ、いくら私をじっと見ても従魔にはせんぞ! そこはしっかりと釘を刺したら、がっかりされた。つか、自分で従魔にしなさいよ!
 機織り機に糸をセットする仕方を教わりながら、一緒に縦糸を張っていく。それが終わったら横糸の準備。板状の糸巻きに糸をぐるぐると巻いて、横糸を左右に何回か通したあとで板を使い、上から糸を詰める。
 簡単に説明しているが、これがなかなか難しい。均等になるように詰めないと、糸も布になる部分もガタガタになってしまうのだ。
 卓上の小さなものならいざ知らず、初めてやる大きなものは大変だった。まあ、冬の間は外に出られない日が続くだろうから、それまでレベッカたちに習いつつ、精度を上げていこう。
 まあ、裁縫のスキルがあるから、慣れれば綺麗にできるだろうし。それでも、レベッカたち村の女性陣にかなうとは思わないが。
 途中で昼休憩を挟み、三時ごろまで機織りを楽しむ。私は白一色だけれど、村の女性たちは時々糸の色を変え、柄を作っている人もいる。
 図面があるわけじゃないのに、ある程度のところまで行くとパッと糸を変えるのはさすがだね。ここまで行くと職人芸だ。

「今日はここまでにしましょう。アリサ、ありがとう。助かったわ」
「どういたしまして」

 軽くなったことで持ち運びが楽になったらしい。今日は私のために全員でやったけれど、これからは各自の家でやるそうだ。わからなければ、レベッカや他の女性たちに聞けばいいね。
 レベッカたちに別れを告げ、自宅に帰る。さて、どこに置こうかな。やっぱ作業部屋かな? スペース自体は空間拡張してかなりの広さにしたから、もし狭いと感じたらさらに広げればいいだろう。
 暇つぶしが楽しみだと思いつつ、機織り機を作業場に設置したのだった。

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