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ドルト村編

第94話 三種類のミショの実

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 赤と白、普通のミショの実を五個ずつ貯蔵庫から持ち出し、南向きの窓を開けて囲炉裏端に座る。ここは板張りになっていて、東側には土間があるのだ。
 冬はリコをここに入れて過ごしてもらうつもりだけれど、小さくなれるからあまり必要ないかもしれないなあ。
 窓の外には背の高い樹木を中心に生垣を作ったので、通りから中を覗かれる心配はない。もちろん、持ってきた桜や鬼ぐるみヒッコリーも植え、ある程度成長させていた。
 桜は葉桜となっている。来年が楽しみだ。
 他にも柿やリンゴ、梨にスイカ、みかんと葡萄、ノンのお気に入りである白桃と黄桃を植えたから、いつでも食べられる。葡萄は縁側の横にぶどう棚を作り、そこに蔦を這わせていて、あと少しでたわわに実ったものが食べられそうだ。
 そろそろスイカと桃の時期が終わりそうだから、あとで収穫してしまおう。
 おっと、今はそんなことをしている場合じゃなかった。
 SSSランクの素材で作った大きくてふかふかな座布団を敷いて座ると、壺と布をを18ずつ出す。まずはミショの実をすり下ろし、醤油と味噌に分ける。このミショの実は普通に熟しているやつで、他にも熟す前のものと完熟したものとがある。
 熟す前と完熟はあとですり下ろすつもりだ。
 次に赤ミショ。見た目はミショの実と変わらず、オレンジのような形だ。色は赤みを帯びた茶色。赤銅色というのだろうか……そんな色だ。
 ひとつ手に取り、すり下ろしていく。すり下ろした感覚はミショの実と変わらず、見た目も赤銅色だけれど、中身はどうだろうか。
 しっかりと布で漉して液体と搾りかすに分ける。搾りかすを舐めてみれば、これは赤だしとか八丁味噌とか、そういう系の味だった。
 どっちかというと八丁味噌かな?
 味噌の種類が増えたのは、純粋に嬉しい。さすがに八丁味噌の作り方は知らないからね。
 そして液体のほうだが、なんとウスターソースだった。醤油じゃないんかーい!
 できれば別のものがよかった……とがっかりしつつ、二十個分全部すり下ろし、しっかりと液体と味噌に分ける。ウスターソースがあるなら、それなりに味が広がるからね~。
 村のみんなに教えるのが楽しみだ。
 これも熟す前と完熟したものがあってどっちもすり下ろしてみたけれど、熟す前のものはオイスターソースで、完熟が中濃ソースだった。味噌は同じなのに、液体になった時のこの味の違いは一体なんだ?
 不思議植物すぎて唖然とする。
 そのままでいても何も変わらないので気を取り直し、今度は白ミショの実をすり下ろすことに。これは熟していてもちょっと硬く、熟す前は少し青っぽく、完熟になるとベージュというか生成りというか、そんな色になっている。
 これだけが違う色かあ……と思いつつすり下ろし、味を確かめる。
 熟していないのは京都で使われるような白みそで、熟したのもと完熟は関西以南で使われているような、少し甘い白みそだった。そして液体は、熟していないものが料理酒、熟しているものが白醤油、完熟がみりんだった。
 期せずして欲しいものが手に入ったわけだが……おおう、本当にどうなってんの、ミショの実って! どう考えたっておかしいでしょ!

「……これでミショの実が予想通りのものなら、錬成で自作する必要なくね?」

 ぼそりと呟き、まずは熟していないミショの実をすり下ろす。すると、搾りかすは変わらず、液体は薄口醤油だった。
 そして完熟したものについても搾りかすは同じものだったが、液体はたまり醤油だった。予想通りの液体で、思わず遠い目になる。

「まあいっか。手間暇かけて作ることを考えれば、簡単に手に入るし」

 さすが異世界の不思議植物。ほかにもこういう植物があるんだろうなあ……。
 全ての作業を終えたので壺に何が入っているかわかるよう、紙に書いて貼り付け、貯蔵庫へとしまっておく。新たに熟したミショの実を持ちだし、小さな壺と樽を作る。
 壺には醤油、樽には味噌を入れた。市販されている味噌カップくらいの大きさなのだが、これでミショの実五個分の量になる。
 店で使うならともかく、一般家庭で使うならこれくらいがちょうどいいだろう。これはあとでヘラルドとゲレオンにも見てもらって、それからディエゴと相談かな?
 問題は料理のレシピなんだけれど、どうするか……。干ししいたけを広めるつもりでいるんだから、やっぱり味噌汁と豚汁かな。豚汁じゃなくてオーク汁かボア汁だが。
 肉はなんでもいい気がする。ウルフの肉も美味しいだろうし。肉だけを変えていろいろ作ってみるか。
 醤油も、ボアを使ったものがいいだろう。簡単なものでなおかつ無難なものだと、やっぱり野菜炒めかなあ。
 ……リゾットやパンに合うかは考えない方向で。いちいち気にしてたらご飯の炊き方を……なんて言い出しかねないし、そうすると土鍋が~ってなるだろうし。
 そんな面倒なことはやらんよ。陶器を扱っている職人が作れるというのであれば、話は別だが。
 そういうものはリュミエールからも頼まれてないからね。そこまでの義理もないし。作るにしても報酬のこともあるから、そうホイホイと教えるつもりはない。
 やるなら、ディエゴの家にいる料理人たちが教えればいい。そのために、あの家にいた全員に料理を教えたんだから。
 そういう意味でも、さっさとディエゴの家から出たのも、この村に家を作ったのも正解だった。
 話は逸れたけれど、どりあえずディエゴに渡す分はできたから、これも次に彼がこの村に来るまで貯蔵庫行きだな。
 カレーは食べたばかりだからまだいいとして、さて、どうするか。ミキサーを出してジュースでも作るかな。
 桃が大量にあるから桃のジュースと、ゼリーとコンポートを作ってもいいかも。シャーベットもいいな。
 まあ、屋根を葺かないと手が空かないからどうにもなんないよな……なんて思っていたら、ヘラルドが来た。

「アリサ、茅の乾燥が終わったそうです。屋根を葺いてもらえますか?」
「わかった」

 おお、乾燥が終わったのか! 早いね!
 夏野菜が植わっている畑近くの広い場所に置いてあるというのでヘラルドと一緒に行き、乾燥させた人と茅の状態を確かめる。すんごくいい状態で驚いた。
 しかも、既に虫よけと状態維持の魔法をかけてあるという。やりますな! さすが職人!
 職人が茅を束ねている間に仮の屋根を外す。念のため防水シートはそのままにすることにした。人海戦術で屋根の上に上げてもらい、充分な量になったら錬成する。
 屋根の上に上げるのは、2メートルくらいの大きさになって手伝ってくれた、ピオとエバが大活躍でした! あとでたくさん褒めてあげよう。

「立派ですねぇ……。祖国を思い出します……」
「気に入ってくれたならよかったわ」
「ええ! とても気に入りましたよ! ここまで立派な茅葺き屋根は見たことがありません!」

 目を輝かせて屋根を見つめるヘラルド。他の住人たちも目を輝かせている。
 傾斜角度は違うけれど、白川郷のような屋根の形にしてみたのだ。
 確かに立派だけどさ……つまり、裏を返せばヘラルドが住んでいたであろう王宮よりも、立派な屋根になったってことだね?
 やっちまった感は半端ないが、建物との親和性を考えると、この形が一番しっくりくるんだよね。雪深いというのもあるし。
 本人たちが納得してるからいいかと次の家に向かうと、また屋根を葺く。
 お昼を挟んで全部の建物に茅を葺き、三時ごろに終わる。その後はリコと一緒に畑で収穫を手伝ったり、カモミールの説明をして畑の周囲に植えたり。もちろん、花びらも収穫した。
 あとでお茶にして、村人たちに配るつもりだ。
 他にはノンやレベッカと一緒に薬やポーションを作る手伝いをしたり、燻製窯のところに行ってソーセージとチーズ、魚を燻製にしている間にアジとサバ、イカを一夜干し用に、ホッケとカマスを干物用にするために捌いたりして過ごした。
 きちんと家が完成したからお祝いをしよう! というヘラルドの鶴の一声で夜は宴会となり……。
 もしや、魔族やこの村の住人たちは宴会好きなのか⁉ と生温い気持ちで、楽しそうな顔をして料理を頬張る住人たちの様子を肴に、ワインをちびちび飲むのだった。

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