自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ドルト村編

第91話 温室を作る

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 ヘラルドたちの家に向かう途中で、ハビエルに持っている鉱石の話をした。

「おお、鉄鉱石があるのか。そろそろ仕入れようと考えていたから助かるぞ」
「ならよかった。渡すのは明日でもいい?」
「おう、構わんぞ。他にもあるんなら見せてくれ。物によっては買い取る」
「わかった」

 鉄鉱石が必要だと知って助かった! かなりあるからね~、鉄鉱石は。他にも上位の金属があると知ったらどんな顔をするんだろう?
 きっと呆れられるだろうなあ……と若干遠い目をしているとハビエルの店に着いたので彼と別れ、二人と一緒に村長宅へ行く。着いてすぐに魔法を使って私と従魔たちの体を綺麗にし、お邪魔させてもらう。
 本格的なお風呂に入るのは帰ってからだ。その前に、すっかり忘れていた砂も集めてこないとね。
 手持ちだけじゃ絶対に足りないもの。
 ご飯をご馳走になりつつ、ダンジョンの話をする。といってもほとんどが採掘できる場所についてで、話を聞いたヘラルドは腕を組み、考え込んでいた。
 そして結論が出たんだろう、真っ直ぐに私を見る。

「……アリサ。もしハビエルが採掘をしたいと言ったら、一緒に行ってもらえませんか?」
「護衛として? それとも採掘仲間として?」
「両方ですね。従魔がいるとはいえ、アリサ一人に護衛を任せることはありませんから、そこは安心してください」
「それならいいわよ。すぐにってわけじゃないのよね?」
「ええ。アリサの持っている他の金属次第ですね。そこはハビエルが教えてくれるでしょうし」

 ですよねー! まあ、あのダンジョンなら私一人でも問題はない。従魔たちがいるからね。
 いざとなったら結界を張りながら採掘してもいいわけだし。そこはハビエルが必要な金属を教えてくれたらになるかな?
 他にも、食材が出る南のダンジョンに潜りたいという話をしたり、この村に来るまでの旅の話をしたり。元王族なだけあって、レベッカが宝石に食いついてきた。
 加工した宝石に付与エンチャントすることができれば、貴族にも冒険者にも売れるだろうと二人にも言われたから、そこはいろいろ実験してからになると伝えておく。
 そういえば、真珠に付与エンチャントできるかどうか検証するのを忘れていた。
 真珠はともかく、宝石に関してはすぐに必要ってわけじゃないし、もしかしたらセシリオたち工房の人たちが、ディエゴと話し合って何かしらを模索しているかもしれない。一応ヒントは出しておいたからね~、気づいたなら即実践しているだろう。
 今度ディエゴが来た時に話を聞くのが楽しみだ。
 ご飯を終えて、お暇する。真っ直ぐ家に帰ったあとでお風呂の用意をしたあと、従魔たちを連れて獣人たちがいる漁村の近くに転移する。浜辺に向かって歩いていると、ふたつの月が海を照らし、海面がキラキラと輝いているのが見えた。
 異世界で月がふたつあるとはいえ、その光景は日本にいた時と変わらない。車の排気がない分、空気も澄んでいるし、景色も綺麗だ。
 そんな海の光景を懐かしんでいると、遠くで何かが飛び跳ねたのが見えた。魚だろうか? イルカやクジラはまだ見ていないから、魚かもしれない。……かなりデカかったが。
 砂を麻の大袋で二十個分ほど集めたあと、波打ち際で従魔たちと一緒に遊ぶ。ここのところ忙しくて、従魔たちと一緒に遊べるような環境じゃなかったからね~。
 ダンジョンでもはしゃいでいたくらいだし、嬉しいんだろう。

「よし。もう遅い時間だし、帰ろうか」
<アリサ、また遊びに来ようよー>
<ああ。俺もまたここに来たい!>
<あたしも来たいけど、昼間がいいわ>
<オレも>
「そうね。ピオとエバには夜はきつかったわね。今度は昼間に来ましょう」

 やったー! と叫ぶ従魔たちだけれど、ピオとエバは眠いのか、声にハリがない。さっさと自宅に転移してお風呂に入り、布団に潜りこんだ。

 翌朝、朝ご飯を食べたあと、温室予定地へと向かう。ハビエルに渡す金属は、温室を作り終えてからでいいと言われているので、あとで顔を出すつもりだ。
 なーんて思っていたら、予定地にヘラルドとハビエル、ゲレオンがいた。どうやら燻製を作っているみたいで、燻製窯の下に炎が見える。

「おはよう。どうしたの?」
「おはよう。燻製を作るついでに、建てる様子を見たくてね」
「なるほど。といっても、錬成するつもりだから、面白みはないわよ?」

 鍛冶をして神鋼で骨組みを作ったり、ガラスを作るわけじゃないからね~。イメージありきの作業だけれど、そこはしっかりとイメージできるから無問題。
 問題は魔力がどれだけいるかってことだが、なんとかなるでしょ。
 そんなわけで麻袋から神鋼と砂と木材を出し、敷地を囲むように、そして必要となる場所に配置していく。そのまま目を瞑り、しっかりとイメージしてから神鋼と砂、敷地全体に魔力を流す。

「〝温室を錬成。状態維持、耐寒・防寒、村人以外に対し、認識阻害を付与〟」
「「「はぁっ!?」」」

 私の言葉に驚いたのか、三人が目を剥いて驚いている。そしてごっそりと持っていかれた魔力に焦りつつ、なんとかギリギリで足りたことに胸を撫で下ろした。
 うへ~、ヤバかった! レベルが上がっていなかったら魔力が枯渇して、作っている途中でぶっ倒れていたよ……。そんなことになったら、あれこれとこの三人に小一時間ほどお小言を言われる未来しかみえない!
 回避できて助かったと思いつつ、出来上がったばかりの温室を見て回ることに。
 まずは外周。鉄骨の太さ、ガラスの大きさと厚さ、透明度の確認をする。歪んでいたりおかしなことになっている場合は、その場で錬成し、整える。
 外周が終わったら中へと入り、こっちも確かめていく。屋根は三角で、室内の温度で雪が融け、下に落ちるようにした。
 夏だし作ったばかりだから室内の温度はそうでもないけれど、これならかなりいい線を行くんじゃなかろうか。真冬になったらボイラーと温度管理ができる魔道具を設置して、室内の温度を一定に保てばいいし。
 そんな説明をしつつ、予定通りにできた温室に満足する。最後はボイラーと魔道具を設置する予定の小屋へと行き、ここもおかしい部分は修正した。
 もちろん、作業したあとで休憩できるよう、六畳ほどの大きさの小屋にしている。テーブルや椅子の設置は、暖房機能をつけてからになるが。

「今は夏だから必要ないけど、真冬だと温かい空気を送る装置が必要になるわ。それはボイラーと魔道具か、薪ストーブと魔道具かのどっちかにしようと思うの」
「そうですね」
「ボイラーってなんだ?」
「薪を使ったストーブという位置づけかしら。燃やして温めた空気や熱を、管を通して温室内に送る装置ね。大きさが違うだけで、機能は薪ストーブと変わらないわ」
「なるほど」

 本来の意味も使い方も違うし説明が難しいけれど、石油燃料がない以上、この世界におけるボイラーの位置づけは間違っていないだろう。
 この国にある薪ストーブのような構造に近いと説明すると、三人はその形を知っているたみたいで、頷いている。

「それはハビエルにも制作を手伝ってもらうことになるけど、いい?」
「おお、任せておけ! 作ったことがあるから、だいたいわかるぞ」
「おお~、頼もしいね!」

 薪ストーブなら作ったことがあると言ったハビエル。本当に頼もしいね!
 一通り見て回り、温室から出る。そこで報酬をもらった。なんと、報酬はターメリックとクミンの種、カレーに使うスパイスを各種、粉にしたものだ。
 スパイスの配合は先日の宴会の時に聞いているから、問題ない。あとは自分好みの味を模索すればいいだけだ。
 おおお、これでカレーが作れるーー!

「アリサ、それとは別に後日またスパイスを渡しますから、アリサの知っているカレーを作ってください」
「わかった。ナンでも米でも食べられるものだから、期待してて!」
「ええ」
「「楽しみだ!」」

 そうか、楽しみなのか。
 その後、出来上がった燻製を回収した三人と一緒にハビエルの工房へ行って、ポーチから出すふりをしてアイテムボックスから鉄鉱石を出す。大きな麻袋が二十近くあるからね~。それを見て満足そうだったハビエル。
 だが、それとは別にアダマンタイトだのヒヒイロカネだの、ダマスカスだのメテオライトだの、ミスリルだのを出したところ、頭を抱えられた。神鋼が採掘できるんだから、当然じゃないか。
 そして宝石の原石を出したら、顎が外れるんじゃないかってくらい口を開けてたよ……ハビエルとゲレオン、ヘラルドが。

「ど、どこで掘って来た! ダンジョンか?」
「他国の鉱山。ミスリル採掘の依頼のついでに個人でも掘れるって聞いたから、お金を払って採掘してきたの。そしたら、金属と一緒に宝石が出てさあ……」
「普通、こんなにたくさん出ないからな!? なんでほとんど出ないイエローやブルー、ピンクダイヤがあるんだよ!」
「しかも、グリーンもあるな……」
「え~? 私のスキルと、ノンがいたからとしか言いようがないんだけど」

 リュミエールの加護があると言えない以上、ノンのおかげにしておかないとまずい。実際にノンは幸運の象徴ともいえる存在だから、疑われることもない。
 私の説明に、肩にいたノンが胸を張って触手を出しているもんだから、怒るに怒れないみたい。
 神獣様だもんな、ノンは。可愛らしい見た目に反して、ヘラルドたちよりもレベルが高いもんな。
 結局ノンの姿が可愛かったのか、相好を崩す三人に、お叱りを回避したことで内心ではガッツポーズをしていた。

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・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

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