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ドルト村編
第89話 村人の証
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翌朝。雀に似た鳥の声に起こされた。時間的には七時くらいかな。
伸びをしてベッドから出ると、下に下りて朝食を作る。今日は味を確かめるためにアジの一夜干しと昆布の佃煮、海苔の佃煮を入れた卵焼きにしてみた。味噌汁はわかめと玉ねぎだ。
パパっと作って従魔たちに配り、いただきます。
「ん、美味しい。私はこれくらいの濃度でいいかな。みんなはどう?」
<<<<美味しい! この味がいい!>>>>
「わかった。じゃあ、我が家は昨日作った味にしよう」
一夜干しの塩分を確かめると、いい塩梅だった。もう少し濃くてもいいような気がするけれど、祖母から料理を習ったからか、薄味が好みなんだよね。なので、魚に関してはこれでいいだろう。
魔物だから関係ないとはいえ、従魔たちにもあまり塩分は摂ってほしくないし。
嬉しそうな顔をしてご飯を食べる従魔たちにほっこりしつつ、昨日のことを思い出す。
いや~、凄かった! 夜も更けたというのにずっと喋って食べて飲んでたんだから、みんな。どこに入るんだってくらい食べていた。
ワインも二樽開けてたしね……。広いからとそのまま寝こける人が続出して、レベッカと二人で毛布をかけまくったのだ。
さすがに私も途中で眠くなり、さっさと家に帰って来たからそのあとどうなったかわからないが、きっと今ごろは女性たちにどやされながらも朝食を食べているんだろう。
今日の予定としては、庭に赤ミショと白ミショを植え、一回収穫する。そのあとはダンジョンに行ってみるつもりだ。
そんな予定を話すと、従魔たちが喜んだ。リコも採掘がしたかったみたいで、珍しいことに飛び跳ねている。
そんな様子を見て、本当に従魔たちはみんないい子だなあと改めて思った。
食事を終え、庭に行って赤ミショと白ミショの苗を植え、成長させる。できた実を二十個ずつ収穫し、貯蔵庫に入れておく。すり下ろすのはダンジョンから帰ってきてからだ。
ダンジョンに潜る準備をして、ヘラルドのところへ行く。村のための温室だからね~、黙って行くのは違うし。報連相は大事です。
「おはよう、村長」
「おはよう、アリサ。どうしました?」
「これからダンジョンに行って、神鋼を掘ってこようと思って。何階層に出るか知っているなら、教えてほしいの」
「おや、これからですか。ちょっと待ってくださいね」
奥に引っ込んだかと思うとすぐに戻ってきたヘラルドから、持っていたものを手渡された。渡されたものはネックレスで、緑色の石がついている。
見た限り魔石のようだったが、加工はカボションカットにされていた。へえ……魔石をカットする技術があるのか。
「これは?」
「これは、この村の住人である証です。これがあると迷いの森の中を迷わずに来ることができます」
「え……」
「しかも、手順や道順は必要ありません。地上だろうと空だろうと、この村に真っ直ぐ辿り着くことができるものです」
「おおう……」
ヘラルド曰く、認識証だという。日本でいうところの免許証やマイナンバーカードみたいなものなんだろう。あるいは住民票か。
「この村に来てそれほどたっていないのに、アリサにはたくさんのことをしていただきました。そのお礼も込みでの、認識の魔道具ですよ」
「魔道具なんかいっ!」
「ええ。アリサは自重しない子ですが、全て我々住人のためでしたし。それに、一生懸命働いてくれましたからね。ある意味、この村の戸籍をもらったと思っていただければ」
冒険者の二人もディエゴも持っていませんと唇に人差し指を当て、ウィンクのおまけ付きでそんなことを宣ったヘラルド。呆気にとられつつ、この村の住人として認められたのかと嬉しかった。
つーかさ……ディエゴは王都に住んでいる商人だから渡さないのはまだわかるけれど、この村に住んでいるはずの冒険者二人には渡していないって……どんなことをやらかしたんだ、その二人は。
よっぽど私が変な顔をしていたんだろう……ヘラルドは、冒険者の二人は元騎士だと教えてくれた。ただし、国は教えてはくれなかったが。
けれど、それだけでわかってしまった。どうしてこの村にいる人たちが、その二人を信用しないのかを。
このドルト村にいる住人たちの全てが元貴族や元近衛騎士たちだ。きっと、元王太子であるヘラルドを護るために、そして彼の人柄に惹かれて一緒に来たんだろう。
他の隠れ里にも元王族や高位貴族がいるはずだ。だからこそ少人数で、隠れるように住んでいるんだろうね。せっかく安定した生活を手に入れているのに、また蹂躙されても困るから。
だからこそ、元騎士は信用されない。仕えるべき主人を捨てて逃げてきたってことでしょ? 王族や貴族からしたら、そんな人間を信用できるはずもない。
……いくら本人やその国に事情があったとしてもね。他国の人間ならなおさらだ。
あと、ギルドの仕事をしないこともいただけない。ギルマス自ら育てる? だったらその地位を捨てて一冒険者に戻ればいいだけの話だ。もしくは帝都に移り住むか。そっちのほうがよっぽど育てやすいし、交流もできる。
人間が嫌いな私は御免だが。
けれど、ヘラルドやレベッカなど他の住人の話を聞く限り、あまりギルマスとしての仕事をしていないみたいだし、その冒険者も村の仕事を手伝っていない可能性もある。
実際はどうなのか本人たちを見てみないとわからないが、あまりにも酷いようなら、そのうちヘラルドが追い出しそうだ。ぶっちゃけた話、冒険者ギルドは必要ないしね、この村には。
ディエゴが来るし、エビータやハビエル、イサベルがいるから商業ギルドは必要だけれど、この村に限っていえば依頼はないんだから、冒険者ギルドはいらないんだろう。
みんな戦えちゃうからねぇ。
そのうち、ギルドがなくなったりして……なんて思いつつ、ひっそりと溜息をついた。
まあ、そんな冒険者たちの事情はともかく。
「住人として認めてくれるのは嬉しいけど、本当にいいの?」
「ええ。村の住人全員がアリサなら構わないと言っていましたからね。だから、その分村の住人として、しっかり働いてください」
「わかった。ありがとう」
満場一致かーい! と内心で盛大に突っ込みを入れつつ、ペンダントを首にかける。すると、私と従魔たちを淡い光が包み、体内に入った。
きっとこれが住人として認められたってことなんだろう。ヘラルドが満足そうに笑みを浮かべているしね。
その後、神鋼が出るダンジョンの場所と階層を聞いて、げんなりする。ダンジョン自体は帝都の東側にある平原にぽっかりと穴が開いているそうだが、階層が問題だった。
神鋼が採れる階層は、なんと地下十階と地下三十階。三十階は行くまでに時間がかかるから無理だけれど、十階ならなんとかなるだろう。
「確かに階層は浅いですが、スキルがないとどこにあるのかがわかりませんからね。しかも、レベルがカンストしているか高くないと、神鋼は採掘できませんし。だからこそ、ダンジョンでの採掘は難しく、数が少ないのです」
「あちゃー……。そういうことなのね」
「ええ。だから確認なのですが。アリサは採掘のスキルを持っていますか?」
「ええ、あるわ。だから、期待しててね♪」
「ふふふっ! びっくり箱のような子ですね、アリサは。わかりました。期待して待っていますね」
おー、期待してていいぞー。全部言わなくても、神鋼の話をしている以上、私のスキルが相当高いか、カンストしているとわかるはずだ。それを察せられないような人じゃないからね、ヘラルドは。
しっかり採掘してくるさー。ただし、出現率が悪かったりマナーが悪い冒険者や採掘者がいたら、さっさとダンジョンから出て鉱山に行くけどね!
そんなことを考えつつヘラルドと別れ、自宅前に行く。ここだと作業をしているみんなの邪魔にならないしね。
本来の大きさになったピオに籠をくくりつけ、ノンとリコを籠の中に入れたあと、私も飛び乗る。そのまま飛び上がったピオに、帝都方面へ向かうよう指示する。
その間にマップを見てダンジョンの場所を確かめ、その方向に修正しつつ飛んでもらう。さすがその体躯と空からのアプローチだ……一時間ほどでダンジョンの近くまで来た。
誰もいないことを確認し、平原に下りてもらい、すぐに籠からリコとノンを下ろすと、籠をしまった。
「今回もみんなで潜るよ。最短距離で行くからね」
<<<<はーい>>>>
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
ダンジョンに向かって平原を歩く。ノンが薬草を見つけたと言って籠を要求してきたので、渡した。
ノンの採取に合わせて歩いているうちにダンジョンの入口に着く。確かにぽっかりと穴が開いている。
なんというか……裂け目というかクレバスというか、そういう穴の開き方で、階段が下に伸びている。どんな強さの魔物や素材が出るダンジョンなのかな?
気を引き締めて階段を下りて行った。
伸びをしてベッドから出ると、下に下りて朝食を作る。今日は味を確かめるためにアジの一夜干しと昆布の佃煮、海苔の佃煮を入れた卵焼きにしてみた。味噌汁はわかめと玉ねぎだ。
パパっと作って従魔たちに配り、いただきます。
「ん、美味しい。私はこれくらいの濃度でいいかな。みんなはどう?」
<<<<美味しい! この味がいい!>>>>
「わかった。じゃあ、我が家は昨日作った味にしよう」
一夜干しの塩分を確かめると、いい塩梅だった。もう少し濃くてもいいような気がするけれど、祖母から料理を習ったからか、薄味が好みなんだよね。なので、魚に関してはこれでいいだろう。
魔物だから関係ないとはいえ、従魔たちにもあまり塩分は摂ってほしくないし。
嬉しそうな顔をしてご飯を食べる従魔たちにほっこりしつつ、昨日のことを思い出す。
いや~、凄かった! 夜も更けたというのにずっと喋って食べて飲んでたんだから、みんな。どこに入るんだってくらい食べていた。
ワインも二樽開けてたしね……。広いからとそのまま寝こける人が続出して、レベッカと二人で毛布をかけまくったのだ。
さすがに私も途中で眠くなり、さっさと家に帰って来たからそのあとどうなったかわからないが、きっと今ごろは女性たちにどやされながらも朝食を食べているんだろう。
今日の予定としては、庭に赤ミショと白ミショを植え、一回収穫する。そのあとはダンジョンに行ってみるつもりだ。
そんな予定を話すと、従魔たちが喜んだ。リコも採掘がしたかったみたいで、珍しいことに飛び跳ねている。
そんな様子を見て、本当に従魔たちはみんないい子だなあと改めて思った。
食事を終え、庭に行って赤ミショと白ミショの苗を植え、成長させる。できた実を二十個ずつ収穫し、貯蔵庫に入れておく。すり下ろすのはダンジョンから帰ってきてからだ。
ダンジョンに潜る準備をして、ヘラルドのところへ行く。村のための温室だからね~、黙って行くのは違うし。報連相は大事です。
「おはよう、村長」
「おはよう、アリサ。どうしました?」
「これからダンジョンに行って、神鋼を掘ってこようと思って。何階層に出るか知っているなら、教えてほしいの」
「おや、これからですか。ちょっと待ってくださいね」
奥に引っ込んだかと思うとすぐに戻ってきたヘラルドから、持っていたものを手渡された。渡されたものはネックレスで、緑色の石がついている。
見た限り魔石のようだったが、加工はカボションカットにされていた。へえ……魔石をカットする技術があるのか。
「これは?」
「これは、この村の住人である証です。これがあると迷いの森の中を迷わずに来ることができます」
「え……」
「しかも、手順や道順は必要ありません。地上だろうと空だろうと、この村に真っ直ぐ辿り着くことができるものです」
「おおう……」
ヘラルド曰く、認識証だという。日本でいうところの免許証やマイナンバーカードみたいなものなんだろう。あるいは住民票か。
「この村に来てそれほどたっていないのに、アリサにはたくさんのことをしていただきました。そのお礼も込みでの、認識の魔道具ですよ」
「魔道具なんかいっ!」
「ええ。アリサは自重しない子ですが、全て我々住人のためでしたし。それに、一生懸命働いてくれましたからね。ある意味、この村の戸籍をもらったと思っていただければ」
冒険者の二人もディエゴも持っていませんと唇に人差し指を当て、ウィンクのおまけ付きでそんなことを宣ったヘラルド。呆気にとられつつ、この村の住人として認められたのかと嬉しかった。
つーかさ……ディエゴは王都に住んでいる商人だから渡さないのはまだわかるけれど、この村に住んでいるはずの冒険者二人には渡していないって……どんなことをやらかしたんだ、その二人は。
よっぽど私が変な顔をしていたんだろう……ヘラルドは、冒険者の二人は元騎士だと教えてくれた。ただし、国は教えてはくれなかったが。
けれど、それだけでわかってしまった。どうしてこの村にいる人たちが、その二人を信用しないのかを。
このドルト村にいる住人たちの全てが元貴族や元近衛騎士たちだ。きっと、元王太子であるヘラルドを護るために、そして彼の人柄に惹かれて一緒に来たんだろう。
他の隠れ里にも元王族や高位貴族がいるはずだ。だからこそ少人数で、隠れるように住んでいるんだろうね。せっかく安定した生活を手に入れているのに、また蹂躙されても困るから。
だからこそ、元騎士は信用されない。仕えるべき主人を捨てて逃げてきたってことでしょ? 王族や貴族からしたら、そんな人間を信用できるはずもない。
……いくら本人やその国に事情があったとしてもね。他国の人間ならなおさらだ。
あと、ギルドの仕事をしないこともいただけない。ギルマス自ら育てる? だったらその地位を捨てて一冒険者に戻ればいいだけの話だ。もしくは帝都に移り住むか。そっちのほうがよっぽど育てやすいし、交流もできる。
人間が嫌いな私は御免だが。
けれど、ヘラルドやレベッカなど他の住人の話を聞く限り、あまりギルマスとしての仕事をしていないみたいだし、その冒険者も村の仕事を手伝っていない可能性もある。
実際はどうなのか本人たちを見てみないとわからないが、あまりにも酷いようなら、そのうちヘラルドが追い出しそうだ。ぶっちゃけた話、冒険者ギルドは必要ないしね、この村には。
ディエゴが来るし、エビータやハビエル、イサベルがいるから商業ギルドは必要だけれど、この村に限っていえば依頼はないんだから、冒険者ギルドはいらないんだろう。
みんな戦えちゃうからねぇ。
そのうち、ギルドがなくなったりして……なんて思いつつ、ひっそりと溜息をついた。
まあ、そんな冒険者たちの事情はともかく。
「住人として認めてくれるのは嬉しいけど、本当にいいの?」
「ええ。村の住人全員がアリサなら構わないと言っていましたからね。だから、その分村の住人として、しっかり働いてください」
「わかった。ありがとう」
満場一致かーい! と内心で盛大に突っ込みを入れつつ、ペンダントを首にかける。すると、私と従魔たちを淡い光が包み、体内に入った。
きっとこれが住人として認められたってことなんだろう。ヘラルドが満足そうに笑みを浮かべているしね。
その後、神鋼が出るダンジョンの場所と階層を聞いて、げんなりする。ダンジョン自体は帝都の東側にある平原にぽっかりと穴が開いているそうだが、階層が問題だった。
神鋼が採れる階層は、なんと地下十階と地下三十階。三十階は行くまでに時間がかかるから無理だけれど、十階ならなんとかなるだろう。
「確かに階層は浅いですが、スキルがないとどこにあるのかがわかりませんからね。しかも、レベルがカンストしているか高くないと、神鋼は採掘できませんし。だからこそ、ダンジョンでの採掘は難しく、数が少ないのです」
「あちゃー……。そういうことなのね」
「ええ。だから確認なのですが。アリサは採掘のスキルを持っていますか?」
「ええ、あるわ。だから、期待しててね♪」
「ふふふっ! びっくり箱のような子ですね、アリサは。わかりました。期待して待っていますね」
おー、期待してていいぞー。全部言わなくても、神鋼の話をしている以上、私のスキルが相当高いか、カンストしているとわかるはずだ。それを察せられないような人じゃないからね、ヘラルドは。
しっかり採掘してくるさー。ただし、出現率が悪かったりマナーが悪い冒険者や採掘者がいたら、さっさとダンジョンから出て鉱山に行くけどね!
そんなことを考えつつヘラルドと別れ、自宅前に行く。ここだと作業をしているみんなの邪魔にならないしね。
本来の大きさになったピオに籠をくくりつけ、ノンとリコを籠の中に入れたあと、私も飛び乗る。そのまま飛び上がったピオに、帝都方面へ向かうよう指示する。
その間にマップを見てダンジョンの場所を確かめ、その方向に修正しつつ飛んでもらう。さすがその体躯と空からのアプローチだ……一時間ほどでダンジョンの近くまで来た。
誰もいないことを確認し、平原に下りてもらい、すぐに籠からリコとノンを下ろすと、籠をしまった。
「今回もみんなで潜るよ。最短距離で行くからね」
<<<<はーい>>>>
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
ダンジョンに向かって平原を歩く。ノンが薬草を見つけたと言って籠を要求してきたので、渡した。
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気を引き締めて階段を下りて行った。
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・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。
・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新
・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」
を連載中です。よろしくお願いします!
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