上 下
72 / 190
ドルト村編

第88話 宴会再び

しおりを挟む
 魚など諸々の準備を終えたあと、ヘラルドの家へと向かう。これから宴会の用意をするのだ。
 宴会場所は、例の三十畳はあるあの部屋だ。折り畳み式の卓袱台のようなテーブルや座布団を用意して、そこで楽しむ。
 で、料理は魔族の郷土料理と、今日採れた魚や野菜を使って料理をするそうで、村の女性たちが集まっている。そんな中、私は干物を作る時に出た魚の頭を使い、それプラス別の魚を捌いて足したあら汁を作ることにした。
 魚は漁港で買ったサバだ。サバを焼いてサバサンドにしようと思っているのだ。
 女性の数だけ料理が出来上がることを想定して、サバ自体は十匹ほどにする。どのみち三枚おろしにして三等分に切って焼くんだから、それで充分だ。
 ちゃっちゃと捌いて大きな寸胴にあらと水を入れ、ついでに細く切った昆布も入れて出汁にする。沸騰するまでの間にサバに下味をつけ、竈に網を乗せて焼いていく。

「アリサ、僕が焼くから、他の料理を頼むよ」
「ありがとう。ならお願いするわね。焼けたら教えてくれる? その後のことを話すから」
「おう!」

 紫色の瞳をした男が寄ってきて、焼くのを代わってくれる。瞳の色から察するに、雷の魔法が使えるんだろう。
 ただ、瞳の色がそうだからといって、その魔法しか使えない……なんてことはないのが魔族だったりする。一番得意な、あるいは威力が強い魔法がその瞳に現れているだけで、他の魔法も使えるのだ。
 さすが、魔法に長けた種族だよなあ。私は使えないから、何種類も使えるのが羨ましい。
 サバサンドの他にカボチャサラダを作るかとカボチャを茹で、マヨネーズと塩コショウ、砂糖で味付けをする。その中に干しブドウとゆで卵を入れて完成だ。
 皮の部分は取ったほうが舌ざわりもいいんだけれどそんな時間もないし、勿体ないから全部使った。皮にも栄養があるし。彩も綺麗だしね。種は畑行きなので、しっかりととっといてある。
 他にも蒸篭を出してジャガイモを蒸かし、十字に切り目を入れてバターを落とした簡単なものを作ったり、醤油を使ってカボチャを煮たり。同時進行であれこれしていると魚が焼きあがったというので、パンを用意する。
 パンはこの村で主流になっている、大きめのロールパンだ。サバを小さく切ってあるから、上に切り目を入れても横に切れ目を入れても、どうにでもなる。
 今回はバーガーバンズのように横に切れ目を入れることにした。

「これを半分にしてバターを塗ったあと、野菜と一緒に挟むの。サバサンドっていうの」
「へえ~! 美味そう!」
「美味しいわよ。今回は焼いたけど、揚げてもいいわ」
「あげる? どんな調理方法なの?」
「たくさんの油を使った調理方法よ。今日は無理だけど、そのうちにね」
「わかったわ。その時は教えてね」

 サバサンドを作っていると、レベッカが質問してくる。油の手持ちが少ないからね~、揚げ物をするのはきつい。
 焼いても美味しいんだから、それでいいのだ。
 サバサンドもやってくれるというのでお願いし、蒸篭を片付けた。そのあとであら汁を味付けし、完成。
 ワインを一樽受け取って、その中に桃やマンゴー、オレンジなど、香りの高い果物を入れておく。熟成させたほうが美味しいんだろうけど、今回は間に合わせだ。
 ワインにフルーティーな香りと味が仄かにつけばいいと思ってのことだった。気に入ったならあとで教えよう。
 うーん、他にもおかずはいるかなあ? 作るとすれば、この村で採れるものを使ったほうがいいよね。なら、午前中に狩ったウルフの肉を使って、醤油味と味噌味の生姜焼きを作ろう。
 薄くスライスして醤油だれと味噌だれに漬け込んで、フライパンで炒める。他にもご飯を炊いたから、丼にしてもいいだろうし。
 パンにも合うだろうから、好きなように食べればいい。
 なんだかんだと二時間使い、料理がどんどんテーブルに並べられていく。そして魔族の料理はスパイスを使ったものが多い。
 南に位置する国だと言っていたからなんだろう……すっごくいい匂い!
 つかね……テーブルの上にある料理の中に、ドライカレーとタンドリーチキンがあるんだが。しかも、ナンもある。
 魔族の国って、インド料理に近いのかもしれない。ってことは、未だに手に入っていない複数のスパイスが手に入る可能性があるわけで。特にターメリックとシナモン、クミンだ。
 ドライカレーが作れるってことはそれらのスパイスが揃っているってことだから、日本のカレーも作れるはず! 夢が広がりますな!
 どんな味なんだろうとワクドキしつつテーブルにつくと、今回もヘラルドとレベッカの間に座らされた。なんでよ!

「今日は採取や狩りなど、いろいろとご苦労様でした。今はいない二人以外には食料も行き渡ったし、今年も怪我なく集めることができました」
『おー』
「食料も、野菜と米に関してはアリサが協力してくれましたし、魚も新たな食べ方を知ることができました。ありがとう、アリサ」
『ありがとう!』
「どういたしまして」
「まだまだ冬に向けてしなければならないことが目白押しですが、今日は明日以降に備えて英気を養いましょう」

 いただきますというヘラルドの言葉に続き、全員がいただきますをして食べ始める。まずは気になっているタンドリーチキンから。

「美味しい! ターメリックの香りがいいわ」
「気に入ってもらえてよかったわ! これはタンドリーチキンというの。あと、こっちはカレーよ」
「そうなのね!」

 まんまの名前だった!
 よし、ドライカレーがあるならカレーライスにしてしまえ! と深さがあるお皿にご飯を盛り、ドライカレーを載せる。その様子を見ていたヘラルドとレベッカ、近くにいた魚を焼いてくれた男性――ゲレオンが目を丸くしていた。
 ちなみに、ゲレオンは元宰相であ~る。なんとも口の悪い宰相だが。
 そんな彼らを尻目に、ご飯と一緒に食べる。
 作るのが大変だったであろうひき肉と、ニンジンと玉ねぎ、キノコとトマトが入っているし、カレー自体も味が複雑で、どのスパイスを使っているのか、正直わからない。辛うじてターメリックとクミンの味がわかるくらいで、どちらかといえば薬膳カレーに近いものだ。
 転生してから約三か月。転生前から数えると、カレーを食べるのは実に十年ぶりだった。祖母が作ったカレーがとても美味しくて、外で食べたものは好きになれなかったのだ。
 だからこそ十年ぶりなわけだけれど……このカレーは祖母の味にとても近い。とても懐かしい味に、目の奥が熱くなる。
 慌てて味わっているふりをして目を瞑り、涙を引っ込める。

「本当に美味しいわ」
「それはよかった。けれど、アリサは不思議な食べ方をするのね。ナンと一緒に食べても美味しいわよ?」
「ふふ、ありがとう。それはあとで食べるわ。今は、このカレーライスという方法で食べたいの」
「へえ……。それは美味しいのか?」
「美味しいわ。ゲレオンも試してみれば?」
「そうする」

 よっぽど気になっていたのか、ジーっと私が食べる様子を見ていたゲレオン。薦めてみると、喜々として真似をしだした。そして一口食べると、カッ! と目を見開き、また一口食べるゲレオン。
 その食べるスピードに唖然としているヘラルドやレベッカ、他の村人たち。

「アリサ……これは画期的な食べ方だな! 僕は気に入ったよ!」
「ふふっ、それはよかった! 私が知っているカレーとは違うけど、これも美味しいわ」
「おや。アリサもカレーを知っているのですか?」
「ええ。ただ、香辛料の一部がなくて、ずっと作れなかったの」
「温室の報酬はできてからになりますが、その時にスパイスを渡しますから、作ってくれますか?」
「いいわよ」

 ガッチリとヘラルドと握手をして、別の料理を食べる。カレースープも美味しいし、レモンとオリーブオイルに似た味の油を使ったドレッシングがかかったサラダも美味しい。
 私の真似をしてご飯でカレーを食べる人、生姜焼きをご飯の上に載せて食べている人。その合間にサングリアを飲んで、そのフルーティーな味に頬を染める女性たち。
 従魔たちを見ればノン以外はみんな小さくなっていて、私の傍でご飯を食べている。ただ、タンドリーチキンは従魔たちにとって辛かったようで、あまり食が進んでいない。
 これならカレーはあまり作らないほうがいいか、もしくは辛みを抑えたインドのチキンカレーのように甘くしてもいいかもしれない。まあ、作るにしても、従魔たちが食べたいと言ったらになるが。
 レベッカにドライカレーやタンドリーチキンのレシピを聞いたり、機織りのことを聞いたり。機織りも教えてくれるそうだ。
 その前に温室を完成させないとね!

しおりを挟む
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」  かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。   『お飾りの王妃』    彼に振り向いてもらうため、  政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。  アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。  そして二十五の歳。  病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。  苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。  しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。  何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。  だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。  もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。  自由に、好き勝手に……私は生きていきます。  戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。