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ガート帝国編

第79話 村に到着

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 なんだかんだと丘を越え、森の中を進むこと三日。二時ごろ、目的地である村に着いた。馬車が軽くなったおかげでスピードが上がり、予定よりも一日半早く着いたとディエゴが喜んでいる。
 この村――ドルト村自体はわりと小さめで、三十軒くらいしかない。家も豆腐建築で屋根の傾斜はないし、木枠を上に上げるようなタイプの単純な窓だし、木造の壁はボロボロで穴が開いているところもあった。
 久しぶりに大工の血が滾りますな! ダンジョン下層の木材もたんまりあるから、それを使って作ってもいいか、あとで交渉させてもらおう。そして御多分に漏れず畑や野菜もあまりいい状態ではないが、村人の状態は悪くない。
 たぶん、肉を含めた森の恵みで賄っているんだろう。
 つーかね……村人は男女問わずめっちゃ美形な人ばっかなんだが! エルフよりも美形ってどういうこと?
 しかも、醸し出す柔らかで穏やかな雰囲気ではあるが、かなり強いぞ、ここの村の人たちは。そりゃあこんな奥にいながら暮らせているのも納得だ。
 なんだろう……隠れ里的なものなのかしら。そこまで考えて、道中でディエゴから聞いた話を思い出し、ひっそりと溜息をつく。
 この周辺に棲息している魔物は、キングブラックベアやブラックホーンウルフ、ブラックバイソンと首狩り兎などの上位種が生息しているうえに、危険な魔物ばかりだ。レベルが上がるからと、喜々として従魔たちが狩りをしていたくらいだから、ダンジョンの下層にいたくらいのレベルはあるとみていい。
 まあ、私もそこに加わったし、護衛たちも喜々として戦っていたけどね!
 ちなみに、このドルト村は、魔族が住む村だ。
 この世界の魔族とは、人間と同じくらいの大きさの耳先が尖っていて、小麦色の肌と黒髪、いろんな目の色を持つ種族。使える魔法の属性の色が目に現れるそうだ。穏やかな性格と飛びぬけた容姿故に奴隷として狙われて祖国を蹂躙され、国を追われている。
 少数部族のようなものなので、発見した場合は保護する対象になっているのだ。
 どの種族よりも魔法に長け、武芸も達者である。冒険者にたとえると、SSSランクの強さがあるらしい。つまり、この世界最強の種族ともいえるのだ。
 最強と自負しているから、そして穏やかな性格故に好んで戦闘する種族ではないからこそ、狙われたとも言える。まあ、されるがままになるような、おとなしい性格ではないらしいが。
 そんな優しき隣人の国を蹂躙したのが、例の沈みかかっているエスクラボ国だ。国際的に保護しなければならない対象として認識・通達しているのに、その体たらく。
 エスクラボと取引していた国でさえそのやらかしに激怒して取引を中止にした挙げ句、どの国も獣人やエルフを含めて奴隷にされていた人たちを密かに助け出して逃がしたり、自力で逃げてきた人を匿い、保護している現状だという。
 このガート帝国もきちんと保護をしていて、町や村の中にはエスクラボから逃げて来たり、獣人を奴隷として売って欲しいと失礼なことを言った男のような者が流れて来ているから町に住まわせるのは危険と判断され、こういった隠れ里的なものがあちこちにあるんだそうだ。
 もちろん、この村に来るまでに通って来た森も迷いの森になっていて、必要な手順と道順があり、その通りに来ないと村に辿り着けないような仕組みになっているという。そういう意味では、ディエゴはこの国やここの村長むらおさに信用されているんだろう。
 信用されていないと、その情報を教えてもらえないのだから。
 ディエゴから言い出したこととはいえ、そんなところに来てよかったんだろうか。
 だけど、私にとっては理想の環境なんだよね。村が無理なら、ここから上にある、もっと湖に近いところに家を建てさせてもらうことにしようかな。
 今はディエゴと村長らしき人が挨拶をしつつ、私のことを説明してくれているので、黙って聞いているが。

「特別な黒にゃんすら様を連れているのです。大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、ヘラルド様。アリサ、こちらに」
「ええ。はじめまして。Aランク冒険者をしているアリサよ。にゃんすらを含めたこの四匹は従魔なの」
「はじめまして。この村の長をしているヘラルドです。おお、なんと……! にゃんすら様を従魔にしておられるのか⁉」
<アリサが気に入ったのー。だから従魔になったし、一緒に旅をしているのー>
「「「「「おおお!」」」」」

 ノンの可愛らしい声が聞こえると、その場にいた魔族とドワーフが声をあげる。名前は告げずに従魔たちの種族を教えると、フレスベルグでやっぱり顔が引きつっていた。
 ここで自己紹介。
 村長はヘラルドといい、魔族のおっさん。おっさんというには綺麗すぎて、おじさまという言葉がぴったりなほど、ナイスミドルな男性だ。ホビットが主人公の映画に出てくるエルフの王のような雰囲気の人である。
 次に紹介されたのがドワーフの夫婦。だが、ドワーフ特有の髭もじゃではないから不思議だ。人間かエルフの血が混ざっているのかもしれないが、そこはまあ置いといて。
 男性がハビエルで鍛冶師、女性がイサベルで金物屋。見た目は三十代前半にしか見えない。
 名前を聞く限り、工房の師匠はこの人だろう。……あのおっさんと比べてみても、年齢が合わないが。
 そして最後に、商店をしている人は妙齢の狼獣人の女性で、エビータ。エビータはサリタの叔母だそうだ。だからサリタに似ているのかと納得した。
 とりあえずこの四人を先に紹介された。他の村人は追々紹介してくれるという。今はいないが人族の冒険者が二人住んでいて、この四人とその二人を含め、全部で三十人にも満たない小さな村だという。
 もちろん、その住人の中には冒険者ギルドと商業ギルドの人員を含めての人数だそうだ。……思っていたよりも少ないなあ。だからこそ、私はここに住みたいという気持ちが強くなる。
 それは従魔たちも同じようで、全員<<<<ここがいい!>>>>と念話を伝えてきていた。

「ご依頼の布と裁縫道具、雑貨を持ってまいりました」
「助かります。こちらはいつもの通り、野菜と鍋をお願いします」
「かしこまりました」

 全員で村長の家の前まで行き、ディエゴと村長の話を聞く。どうもディエゴがこの村で依頼されたものを持って来て、この村では野菜や鍋を売って生活しているようだ。
 他にもこの周辺で狩れる魔物の毛皮や牙、爪と魔石があるから、そういったものも取引しているんだろう。
 うーん……野菜を見る限り、元気がない。種類がたくさんあるだけに、非常に残念だ。

「お待たせいたしました。アリサはどうしてこの村に来たいと思ったのですか?」
「自分の好きなことをしてのんびり過ごしたい……それだけよ」
「ほう?」
「これでもいろいろと……そうね、建築ができるの。だから、お役に立てると思うわ。他にもあるけど、それはまたね」
「なるほど……」

 人間が嫌いなこと。交流を持つことはあるが、多少話をするだけで、それ以上のことは望んでいないこと。
 ノンがいるから余計に、引きこもって自分のやりたいことだけをしたいのだと話すと、おかしそうに笑うヘラルド。その笑顔が祖父の笑い方に似ていて、なんだか懐かしくなった。

「この村の北側に、余った土地があります。そこでよろしければ、住んでいただいて構いません」
「え、本当に!?」
「ええ。その代わり、家を建てていただけませんか?」
「もちろん! その交渉をしようと思っていたの。あと、畑の様子も見てみたいわ」
「ふふっ! いろいろできる方のようですね」
「ええ、できるわ」

 交渉成立ですと手を出されたので、しっかりと握手をする。
 ひとまず拠点となる場所ができた。やっと、定住先を見つけることができたのだ。
 ここを拠点にして、他の国や大陸にも行ってみたいなあ……と仄かに期待しつつ、家となる場所に案内してもらうことにした。

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