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ガート帝国編
第77話 出発
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夕食を終えたあと、ディエゴとサリタの三人でゆったりとお茶を飲む。といっても、明日からの旅についてどこまで行くのか、どういった行程と人数で行くのかを確認しているのだ。
「今回はわたくしと、前回一緒だった護衛の四人です」
「なら大丈夫かしら。彼らは強いものね」
「ええ。あの時はいきなり集団で囲まれましたし、馬を護ることを優先させましたから、あのような状態になったのです」
あちゃー。馬を優先させたのか。
まあ、確かにあんなところで馬を食べられたりしたら、重量軽減がかかっていたとしても、人が馬車を引いて動くのは大変だものね。まあ、獣人だから、人よりも力はあるが。
結界を張りたくても波状で攻撃してきたから防戦一方で結界も張れず、疲れが見えてきたところに私たちが来たらしい。本当にギリギリだったんだなあ。
「そこでアリサにお願いしたいのは、食事の用意です」
「構わないけど、護衛はいいの?」
「できればしていただきたいですが、そこまでは……」
「別に構わないわ。ただ、従魔たちがその魔物をおやつにしたいと言ったら、譲ってくれる?」
「ありがたい。ええ、それくらいは構いません」
なんなら、皮や肉などの素材も買い取りますよとにこやかに話すディエゴに、抜け目ねえなあ……と苦笑した。他の冒険者と違って、私たちは首狙いだものね。毛皮がそのまま一枚丸ごと使えるんだから、欲しがるのも頷ける。
食料は全部ディエゴ持ちで、インベントリになっているマジックバッグがあるので、その中に食料を入れておくとのこと。途中で肉を狩れる可能性が高いから、肉はあまり持っていかないそうだ。
「で、場所はどこ?」
「この村です。近くに湖があるのですが、帝都から馬車で五日かかるところになります」
「本当に辺鄙な場所なのね。なんでそんなところに村があるの?」
「それは……秘密です」
「ふうん……。なら、道中で教えて」
「それなら構いませんよ」
ちらりと天井を見て話すディエゴに、草がいるのかと内心で溜息をつく。やり手そうだものね、ディエゴは。それなりに敵も多いんだろう。
それでも店が潰れておらず一等地に大店を構えているってことは、バックに貴族のパトロンが何人かいるのかもしれない。そうじゃないと、装飾品を中心になんて扱わないだろうし。
他の店も覗いてみたけれど、装飾品を扱っている店はなかったんだよ、この一等地にある他の店には。だからこそ、そこに参入したいと考えている商売敵がいるんだろう。
まあ、工房にいたセシリオの腕を見る限り、彼の技術に追随できるような人材がいないんだろう。いてもレベルが低いか、武器や防具のほうがいいと考えていそうだし。
あくまでも憶測だが、間違っていないような気がする。工房があった通りですら鍛冶の音があちこちから鳴り響いていたし、店も武器や防具を展示しているところばかりだったんだから。
セシリオの工房からも鍛冶の音がしていたが、他の工房よりも音が小さかったし。
宝石の加工ができなくてよかったかもしれないなあ。下手すると引き抜きにあったり、場合によっては殺されていたかもしれないから。
それとなくディエゴにあの工房の守備や護衛はどうなっているのか聞けば、問題ないらしい。きちんと護衛はいるが、それとは別に神を通じて契約しているから、もし辞めないで引き抜きに承諾すると神罰が下るらしい――神に嘘をついたという理由で。
……ほんっとうに! 抜け目ねえな!
で、村の場所なんだけれど、なんと、私たちがいいなと言っていた場所だった。帝都まで三日どころか五日もかかる距離なんて、理想的だ。
まあ、本気で走ったリコなら二日、ピオかエバなら半日で着きそうな距離ではあるが、そこは置いとくとして。村に行ってみて、雰囲気がよさそうなら定住してしまおう。もちろん、許可を得てからね。
許可が得られなかったら、村の外でもっと奥に家を作ればいいし。
その前に、マップに映し出されている赤い点を排除しておくか。
<エバ。天井にいるネズミに雷を落として。屋敷には傷つけないでね>
<はーい>
「ぎゃーー!」
「「なっ!?」」
念話でエバにお願いし、返事をした途端に悲鳴が上がる。ノンがいそいそと天井に向かい、触手で簀巻きにして転移で帰ってきた。
……ノンも転移ができることに驚きだ。さすが神獣なだけはある。
張り付いていたのは黒尽くめの男で、被っていたフードを取ると、やっぱり髪がアフロになっている水色の髪で、人間の男が現れた。これだから人間は信用も信頼もできないんだよ。獣人たちのほうがよっぽど信用できるっての。
それでも信頼まではいかないが。
「ディエゴ、この顔に見覚えは?」
「ありますな」
「なら、舌を噛んで自害できないようにしておこうか」
証拠隠滅されたら適わないものね。マウスピースでも口の中に入れておけば、舌を噛むこともできないだろうし。
ついでに腕と足を折っておこうと、さっさとポッキリと折ると、ディエゴは顔を青ざめると同時に引きつった。
「あ、あっさりと折りましたな……」
「逃げられないためでもあるしね。どうせ尋問したあとで怪我を治すんでしょ?」
「ええ、まあ……」
「なら、その時に治せばいいじゃない」
「……」
ポーションなり魔法なりを使えば、日にちがたっていたとしても治るからね、この世界の怪我や傷は。治してほしければキリキリ吐けよ?
冷たい目をして男を見下ろすと、痛い痛いと喚きながらもビクリと体を揺らして青ざめ、震え始める。
「不法侵入だもの。折られても文句はいえないわよねぇ……?」
「ひっ」
「これ以上折られたくなければ、素直にディエゴの質問に答えなさいね」
怯えた目でガクガクと激しく頷く男。そんな男を冷たい目で見たディエゴは、人を呼んでどこかに連れて行った。
「ありがとう、アリサ」
「どういたしまして。明日の出発は何時?」
「いつも七時に出発しているので、その時間で」
「わかった。じゃあ、私は寝るわ。尋問頑張って」
「ええ。おやすみなさい」
ディエゴとサリタに挨拶をして、部屋を出る。サリタは驚いた顔をしていたけれど、拒絶するような雰囲気はなかった。
……できればそこで拒絶してくれてもいいのよ? 親は重すぎるから。
まあ、定住してしまえば滅多にここに来ないだろうし、放置でいっか。
与えられている部屋に戻ると、明日の準備をする。といっても、動きやすいよう斜め掛けのバッグから必要なものをポーチに移すだけだ。
蜘蛛糸や毛糸、樹木などのSSやSSSランクの素材、鉱石やインゴット、宝石の原石はアイテムボックスの中だし、ドラゴンの魔石もこっちに入っている。すぐに使うものだけをポーチに入れたから、すぐに取り出せるだろう。
準備を終えるとさっさとお風呂に入り、布団に潜る。いい場所だといいなあ……と考えているうちに、眠ってしまった。
翌朝、出発の一時間前に目が覚めた。一緒に寝ていたノンは楽しみで仕方がないらしく、はしゃいでいる。
なんとか落ち着かせてご飯を食べ、サリタをはじめとしたお世話になった人たちにお礼を言い、馬房に行く。リコもしっかりと鞍をつけられ、準備されていたので、お礼を告げた。
「じゃあ出かけましょう」
ディエゴの合図で出発する。護衛の四人は幌馬車に、私はリコに跨って移動だ。
出る門は北側で、そっちに向かいつつ街並みを眺める。大国なだけあり、整えられている壁はレンガ造りだ。屋根は緑色が多い。
城を左に見てそのまま北門へと走り、帝都から出て行く人たちの行列に並ぶと、すぐに順番が来た。そのまま街道を北上し、直進と左に行くみちをそのまま直進していく。
さて、道中はどんな感じかな? 村もどんなところなのか楽しみ!
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「なら大丈夫かしら。彼らは強いものね」
「ええ。あの時はいきなり集団で囲まれましたし、馬を護ることを優先させましたから、あのような状態になったのです」
あちゃー。馬を優先させたのか。
まあ、確かにあんなところで馬を食べられたりしたら、重量軽減がかかっていたとしても、人が馬車を引いて動くのは大変だものね。まあ、獣人だから、人よりも力はあるが。
結界を張りたくても波状で攻撃してきたから防戦一方で結界も張れず、疲れが見えてきたところに私たちが来たらしい。本当にギリギリだったんだなあ。
「そこでアリサにお願いしたいのは、食事の用意です」
「構わないけど、護衛はいいの?」
「できればしていただきたいですが、そこまでは……」
「別に構わないわ。ただ、従魔たちがその魔物をおやつにしたいと言ったら、譲ってくれる?」
「ありがたい。ええ、それくらいは構いません」
なんなら、皮や肉などの素材も買い取りますよとにこやかに話すディエゴに、抜け目ねえなあ……と苦笑した。他の冒険者と違って、私たちは首狙いだものね。毛皮がそのまま一枚丸ごと使えるんだから、欲しがるのも頷ける。
食料は全部ディエゴ持ちで、インベントリになっているマジックバッグがあるので、その中に食料を入れておくとのこと。途中で肉を狩れる可能性が高いから、肉はあまり持っていかないそうだ。
「で、場所はどこ?」
「この村です。近くに湖があるのですが、帝都から馬車で五日かかるところになります」
「本当に辺鄙な場所なのね。なんでそんなところに村があるの?」
「それは……秘密です」
「ふうん……。なら、道中で教えて」
「それなら構いませんよ」
ちらりと天井を見て話すディエゴに、草がいるのかと内心で溜息をつく。やり手そうだものね、ディエゴは。それなりに敵も多いんだろう。
それでも店が潰れておらず一等地に大店を構えているってことは、バックに貴族のパトロンが何人かいるのかもしれない。そうじゃないと、装飾品を中心になんて扱わないだろうし。
他の店も覗いてみたけれど、装飾品を扱っている店はなかったんだよ、この一等地にある他の店には。だからこそ、そこに参入したいと考えている商売敵がいるんだろう。
まあ、工房にいたセシリオの腕を見る限り、彼の技術に追随できるような人材がいないんだろう。いてもレベルが低いか、武器や防具のほうがいいと考えていそうだし。
あくまでも憶測だが、間違っていないような気がする。工房があった通りですら鍛冶の音があちこちから鳴り響いていたし、店も武器や防具を展示しているところばかりだったんだから。
セシリオの工房からも鍛冶の音がしていたが、他の工房よりも音が小さかったし。
宝石の加工ができなくてよかったかもしれないなあ。下手すると引き抜きにあったり、場合によっては殺されていたかもしれないから。
それとなくディエゴにあの工房の守備や護衛はどうなっているのか聞けば、問題ないらしい。きちんと護衛はいるが、それとは別に神を通じて契約しているから、もし辞めないで引き抜きに承諾すると神罰が下るらしい――神に嘘をついたという理由で。
……ほんっとうに! 抜け目ねえな!
で、村の場所なんだけれど、なんと、私たちがいいなと言っていた場所だった。帝都まで三日どころか五日もかかる距離なんて、理想的だ。
まあ、本気で走ったリコなら二日、ピオかエバなら半日で着きそうな距離ではあるが、そこは置いとくとして。村に行ってみて、雰囲気がよさそうなら定住してしまおう。もちろん、許可を得てからね。
許可が得られなかったら、村の外でもっと奥に家を作ればいいし。
その前に、マップに映し出されている赤い点を排除しておくか。
<エバ。天井にいるネズミに雷を落として。屋敷には傷つけないでね>
<はーい>
「ぎゃーー!」
「「なっ!?」」
念話でエバにお願いし、返事をした途端に悲鳴が上がる。ノンがいそいそと天井に向かい、触手で簀巻きにして転移で帰ってきた。
……ノンも転移ができることに驚きだ。さすが神獣なだけはある。
張り付いていたのは黒尽くめの男で、被っていたフードを取ると、やっぱり髪がアフロになっている水色の髪で、人間の男が現れた。これだから人間は信用も信頼もできないんだよ。獣人たちのほうがよっぽど信用できるっての。
それでも信頼まではいかないが。
「ディエゴ、この顔に見覚えは?」
「ありますな」
「なら、舌を噛んで自害できないようにしておこうか」
証拠隠滅されたら適わないものね。マウスピースでも口の中に入れておけば、舌を噛むこともできないだろうし。
ついでに腕と足を折っておこうと、さっさとポッキリと折ると、ディエゴは顔を青ざめると同時に引きつった。
「あ、あっさりと折りましたな……」
「逃げられないためでもあるしね。どうせ尋問したあとで怪我を治すんでしょ?」
「ええ、まあ……」
「なら、その時に治せばいいじゃない」
「……」
ポーションなり魔法なりを使えば、日にちがたっていたとしても治るからね、この世界の怪我や傷は。治してほしければキリキリ吐けよ?
冷たい目をして男を見下ろすと、痛い痛いと喚きながらもビクリと体を揺らして青ざめ、震え始める。
「不法侵入だもの。折られても文句はいえないわよねぇ……?」
「ひっ」
「これ以上折られたくなければ、素直にディエゴの質問に答えなさいね」
怯えた目でガクガクと激しく頷く男。そんな男を冷たい目で見たディエゴは、人を呼んでどこかに連れて行った。
「ありがとう、アリサ」
「どういたしまして。明日の出発は何時?」
「いつも七時に出発しているので、その時間で」
「わかった。じゃあ、私は寝るわ。尋問頑張って」
「ええ。おやすみなさい」
ディエゴとサリタに挨拶をして、部屋を出る。サリタは驚いた顔をしていたけれど、拒絶するような雰囲気はなかった。
……できればそこで拒絶してくれてもいいのよ? 親は重すぎるから。
まあ、定住してしまえば滅多にここに来ないだろうし、放置でいっか。
与えられている部屋に戻ると、明日の準備をする。といっても、動きやすいよう斜め掛けのバッグから必要なものをポーチに移すだけだ。
蜘蛛糸や毛糸、樹木などのSSやSSSランクの素材、鉱石やインゴット、宝石の原石はアイテムボックスの中だし、ドラゴンの魔石もこっちに入っている。すぐに使うものだけをポーチに入れたから、すぐに取り出せるだろう。
準備を終えるとさっさとお風呂に入り、布団に潜る。いい場所だといいなあ……と考えているうちに、眠ってしまった。
翌朝、出発の一時間前に目が覚めた。一緒に寝ていたノンは楽しみで仕方がないらしく、はしゃいでいる。
なんとか落ち着かせてご飯を食べ、サリタをはじめとしたお世話になった人たちにお礼を言い、馬房に行く。リコもしっかりと鞍をつけられ、準備されていたので、お礼を告げた。
「じゃあ出かけましょう」
ディエゴの合図で出発する。護衛の四人は幌馬車に、私はリコに跨って移動だ。
出る門は北側で、そっちに向かいつつ街並みを眺める。大国なだけあり、整えられている壁はレンガ造りだ。屋根は緑色が多い。
城を左に見てそのまま北門へと走り、帝都から出て行く人たちの行列に並ぶと、すぐに順番が来た。そのまま街道を北上し、直進と左に行くみちをそのまま直進していく。
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