自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

文字の大きさ
上 下
50 / 190
ガート帝国編

第66話 森で冒険者に遭遇

しおりを挟む
 ご飯を食べたあとは、それぞれ好きなことをしてまったり過ごす。私はといえば、せっかく米ともち米が手に入ったんだから、上新粉や白玉粉、もち粉を作ろうと思う。
 確か、上新粉が米、白玉粉がもち米からできてるんだったっけか。
 瓶をふたつ出してそれぞれに米ともち米を入れ、料理スキルの中にある粉砕を使って粉にした。

「……うん、これなら大丈夫かな。醤油と砂糖もあるし……白玉団子でも作ってみるか」

 焼いた餅を入れるぜんざいもいいけれど、餅をついている時間なんてないし、人手もない。もちろん、小豆もない……いや、買ってたか。すっかり忘れてたよ……。
 まあ、餅に関しては料理スキルでやってしまうか錬成すればいいんだろうけれど、ご飯のあとだから今は食べたくないんだよね。小豆を炊いてる時間もないし。
 なので白玉だ。
 木のボウルを出してその中に白玉粉を入れ、お湯を使って捏ねていく。耳たぶくらいの硬さになったら丸め、沸騰しているお湯の中に投入。

<アリサ、ノンもやってみたいのー>
「いいわよ。この棒状のものを適度な大きさにちぎってから、丸めるの」

 ノンがやってみたいというので棒状にしたものを渡す。大きさはみほんを見せると、ノンはその通りにやっていた。
 錬成でみんなの形を人数分作り、それも投入。浮いて来たら氷水の中に入れて、っと。
 しっかり〆たあとは一旦アイテムボックスへしまい、今度はみたらしを作る。醤油と砂糖、みりんと片栗粉を入れて、水気を飛ばす。
 ちなみに、片栗粉はジャガイモを使って錬成したものだ。量が少ないから、あまり使っていない。
 どこかで売ってないかなあ。まあ、錬成してしまえば楽だからいいんだけどね。
 あと、スライムが落とすスライムゼリーもそういった用途で使えそうなんだよなあ。それはいつか実験してみよう。
 ふつふつとしてきた鍋を火から下ろし、少し冷ましておく。
 アイテムボックスから白玉を出して器に盛ると、みたらしのたれをかけてから、みんなの前に出した。もちろん、にゃんすら、角がある馬、鳥の形の白玉をふたつ、しっかり入れてある。
 もちろん、人数分だ。

<あ! これ、ノンだ!>
<こっちは俺だな>
<あたしのもあるわ>
<オレのも>
<<<<アリサ、ありがとう! いただきます!>>>>

 うんうん、キラキラとした目でそれぞれの形の白玉を見る従魔たち。食べる前にドーンと私に張り付いてきて、みんなをわしゃわしゃと撫でた。
 くぅ~! 本当にいい子たち! そしてとても気持ちいいもふすべでした!
 私も従魔たちも満足したところで、白玉団子を食べる。
 うん、もっちりとした食感とみたらし餡がいい塩梅だ。今度は上新粉で団子を作って焼こう。海苔があるんだから磯辺もできるしね!
 あとは小豆を炊いて、お汁粉や餡子もいいな!
 なーんてことを考えながら、団子を食べた。美味しゅうございました。

 翌朝。白米を炊いて、おにぎりにした。米が大量に手に入ったからね~。海苔を解禁だよ!
 中に入れた具材は定番のツナマヨと鮭フレーク、昆布の佃煮と何も入れていない塩むすび。他には味噌の焼きおにぎりと醤油の焼きおにぎり、リュミエールが許可してくれた梅干とおかかを入れてみた。
 それらを大量に作り、アイテムボックスの中に放り込んである。これでいつでも食べられるぞ~!
 ……二升炊いたのは作りすぎ、かも? まあいいや。
 さすがに梅干のおにぎりを従魔たちに食べさせることはしなかったが、どれも美味しいと言ってくれてよかった。
 朝食が終わると片付けをして、川から離脱する。ちらりとマップを見ると、割と近いところに緑の点があった。
 さて……どうするか。まあ、冒険者なら放っておいてもよさそうだし……なんて考えていたら、いきなり緑の点が動き出し、こっちに向かってきた。
 そして近くで剣戟の音がし始める。

「……っそ、なんだって……!」
「鞄を置いて……しろ!」
「食料――」
「いいから!」

 どんどんと近づいてくる剣戟と、おっさんと思われる声と割と若い声。そうこうするうちに私たちのほうに走って来た。彼らの後ろには、レッドベアが三体、こっちに向かってきている。

「お嬢ちゃん、逃げろ!」
「危ないから!」
「大丈夫よ。みんな、それぞれ首を狙って!」
<<<<はーい!>>>>
「「お、おい!」」

 声の通り、逃げてきたのはおっさんと青年だった。あちこち怪我をしていて、今にも倒れそうだ。
 ここで一緒に逃げてもいいんだけれど、せっかくダンジョンでレベル上げをしたんだから、あの時と比べてどれくらいの力量になったのか、試してみたかったのだ。
 鑑定をすると、レッドベアのレベルはそれぞれ80、83、78。ぶっちゃけ、私たちの敵ではない。
 ノンとピオが一体、リコとエバが一体、私が一体を相手にして戦ったけれど、従魔たちは魔法を放って呆気なく倒し、私もスピードに乗って走りこんで来たところをひょいっと避け、そのついでに首をバッサリと斬り落とした。
 惰性で走ったレッドベアは、そのまま横倒しになる。
 ああ~! 綺麗な毛皮が! 傷ついてないかしら!

「「え……?」」
「はい、終わり。大丈夫?」
「あ、ああ」
「助かった……」

 ポカーンとした顔をして私たちを見る男二人。助かったとわかったのか、その場にへなへなと座り込んだ。
 落ち着いたところでおっさんが「ヒール」と唱えると、二人の傷がみるみるうちに塞がってゆく。おお、おっさんは回復魔法が使えるのか。これならノンに回復をかけてもらわなくても大丈夫だろう。
 二人の様子を見ていたら、ピオとエバが二人の荷物とみられるものを運んできてくれる。

「ありがとう。これ、二人の荷物で合ってる?」
「ああ」
「ありがとう」

 二人の荷物を渡すと、ホッとしたような顔をして笑みを浮かべる。どっちもイケメンだ。
 そして二人からお腹が鳴る音が。

「……」
「飯食ってる最中に襲われたんだよ」
「せっかくの飯が……」
「はあ……。軽食でいいなら用意するけど」
「え? いいのか⁉」
「助かる!」

 関わるのは面倒なんだけどなあ……と思ったものの、すがるような目で見られたら助けないわけにはいかない。とりあえずおにぎりを三個ずつと朝の残りの味噌汁を出し、二人に渡す。

「「これは?」」
「米で作ったおにぎりという食べ物よ。そのままかぶりついて食べて。こっちは味噌汁。ミショの実を使って作ったスープね」
「すまない、恩に着る!」
「レッドベアを解体してくるから、食べていて」
「「ありがとう!」」

 自分の鞄から器を出し、味噌汁をよそう二人。それを見てからレッドベアのところに行くと、さっさと解体した。
 横倒しになったレッドベアの毛皮は、幸いなことに傷ひとつついていなくてホッとした。売るにしろ自分で使うにしろ、傷があるとその分査定から引かれるからね~。よかったよ。
 解体して必要なものをマジックバッグに入れ、その他はリコに穴を掘ってもらって埋める。一通り終えてから二人の元に戻ると、服はあちこち切れていたものの、しっかりと防具を装備していた。
 最初っから防具を装備していたら、怪我しなかったのに……と呆れたが、何も言わなかった。

「ふ~、食った食った! ありがとな!」
「油断して安い防具を身に着けていたから、レッドベアに壊されてしまって……」
「……そう。とにかく、森から出たほうがいいわ。匂いは拡散してもらったけど、他の魔物が寄ってくるかもしれないし」
「そうだな」

 綺麗さっぱりなくなった味噌汁を見て、どれだけ食べたんだと驚く。まあ、三、四人前くらいしか残ってなかったから、こんなものか。
 鍋を綺麗にしてバッグにしまい、二人と連れ立って歩く。そこで自己紹介。
 おっさんはサンチョ、若者はウィルフレッド。ウィルフレッドはBランク冒険者だそうだ。
 二人はこの先にある商業都市ペペインまで護衛依頼で来ていて、これから別の依頼を受けて帝都に帰るところだという。その依頼の出発日まで数日あったことから、ギルドで討伐依頼を受けてきたんだそうだ。
 依頼を達成して、森に一泊。このあたりはホーンディアしか強い魔物がいないからと安物の防具を身に着けていたが、想定外のレッドベアが出てしまい、一撃で防具が壊れたという。
 食事を作っていたこともあり、完全に無防備な状態のところを襲われたらしい。

「結界はどうしたの?」
「解除した直後だったんだよ。そのままなし崩しで戦闘になっちまったんだ」
「バカじゃないの? なんで結界を解くのよ。食事中なんて狙われやすいでしょ」
「「……」」

 私の指摘に、二人は揃って目を逸らす。
 辛辣になるのも当たり前だ。なんで一番無防備になる食事時に、結界を解くんだ。従魔がいる私ですら、食事が終わるまで結界を解かないぞ?
 防具が壊れたのも、レッドベアに襲われたのも、自業自得としか言いようがない。

「いずれにせよ、防具が壊されたのは自業自得よね」
「そうだな」
「返す言葉もないよ……」

 落ち込む二人を冷たく見る。これ以上二人に関わるつもりはないから、さっさと森を出て、町に行こうと思ってたんだけれど……。

「町でお礼をしたいから、そこまで付き合ってくれ」
「……それくらいならいいけど」
「ペペインはいろんな屋台があるんだ。飯も美味い。せめて、飯くらいおごらせてくれ」
「わかったわ。ペペインまでは一緒に行くわ」

 面倒だなあ……と思いつつ、溜息をつく。屋台と聞いて、ノンが喜んじゃったんだよね。
 しっかりとおにぎりと味噌汁くらいの食事をおごってもらおうと決めた。

しおりを挟む
・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。