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ガート帝国編

第66話 森で冒険者に遭遇

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 ご飯を食べたあとは、それぞれ好きなことをしてまったり過ごす。私はといえば、せっかく米ともち米が手に入ったんだから、上新粉や白玉粉、もち粉を作ろうと思う。
 確か、上新粉が米、白玉粉がもち米からできてるんだったっけか。
 瓶をふたつ出してそれぞれに米ともち米を入れ、料理スキルの中にある粉砕を使って粉にした。

「……うん、これなら大丈夫かな。醤油と砂糖もあるし……白玉団子でも作ってみるか」

 焼いた餅を入れるぜんざいもいいけれど、餅をついている時間なんてないし、人手もない。もちろん、小豆もない……いや、買ってたか。すっかり忘れてたよ……。
 まあ、餅に関しては料理スキルでやってしまうか錬成すればいいんだろうけれど、ご飯のあとだから今は食べたくないんだよね。小豆を炊いてる時間もないし。
 なので白玉だ。
 木のボウルを出してその中に白玉粉を入れ、お湯を使って捏ねていく。耳たぶくらいの硬さになったら丸め、沸騰しているお湯の中に投入。

<アリサ、ノンもやってみたいのー>
「いいわよ。この棒状のものを適度な大きさにちぎってから、丸めるの」

 ノンがやってみたいというので棒状にしたものを渡す。大きさはみほんを見せると、ノンはその通りにやっていた。
 錬成でみんなの形を人数分作り、それも投入。浮いて来たら氷水の中に入れて、っと。
 しっかり〆たあとは一旦アイテムボックスへしまい、今度はみたらしを作る。醤油と砂糖、みりんと片栗粉を入れて、水気を飛ばす。
 ちなみに、片栗粉はジャガイモを使って錬成したものだ。量が少ないから、あまり使っていない。
 どこかで売ってないかなあ。まあ、錬成してしまえば楽だからいいんだけどね。
 あと、スライムが落とすスライムゼリーもそういった用途で使えそうなんだよなあ。それはいつか実験してみよう。
 ふつふつとしてきた鍋を火から下ろし、少し冷ましておく。
 アイテムボックスから白玉を出して器に盛ると、みたらしのたれをかけてから、みんなの前に出した。もちろん、にゃんすら、角がある馬、鳥の形の白玉をふたつ、しっかり入れてある。
 もちろん、人数分だ。

<あ! これ、ノンだ!>
<こっちは俺だな>
<あたしのもあるわ>
<オレのも>
<<<<アリサ、ありがとう! いただきます!>>>>

 うんうん、キラキラとした目でそれぞれの形の白玉を見る従魔たち。食べる前にドーンと私に張り付いてきて、みんなをわしゃわしゃと撫でた。
 くぅ~! 本当にいい子たち! そしてとても気持ちいいもふすべでした!
 私も従魔たちも満足したところで、白玉団子を食べる。
 うん、もっちりとした食感とみたらし餡がいい塩梅だ。今度は上新粉で団子を作って焼こう。海苔があるんだから磯辺もできるしね!
 あとは小豆を炊いて、お汁粉や餡子もいいな!
 なーんてことを考えながら、団子を食べた。美味しゅうございました。

 翌朝。白米を炊いて、おにぎりにした。米が大量に手に入ったからね~。海苔を解禁だよ!
 中に入れた具材は定番のツナマヨと鮭フレーク、昆布の佃煮と何も入れていない塩むすび。他には味噌の焼きおにぎりと醤油の焼きおにぎり、リュミエールが許可してくれた梅干とおかかを入れてみた。
 それらを大量に作り、アイテムボックスの中に放り込んである。これでいつでも食べられるぞ~!
 ……二升炊いたのは作りすぎ、かも? まあいいや。
 さすがに梅干のおにぎりを従魔たちに食べさせることはしなかったが、どれも美味しいと言ってくれてよかった。
 朝食が終わると片付けをして、川から離脱する。ちらりとマップを見ると、割と近いところに緑の点があった。
 さて……どうするか。まあ、冒険者なら放っておいてもよさそうだし……なんて考えていたら、いきなり緑の点が動き出し、こっちに向かってきた。
 そして近くで剣戟の音がし始める。

「……っそ、なんだって……!」
「鞄を置いて……しろ!」
「食料――」
「いいから!」

 どんどんと近づいてくる剣戟と、おっさんと思われる声と割と若い声。そうこうするうちに私たちのほうに走って来た。彼らの後ろには、レッドベアが三体、こっちに向かってきている。

「お嬢ちゃん、逃げろ!」
「危ないから!」
「大丈夫よ。みんな、それぞれ首を狙って!」
<<<<はーい!>>>>
「「お、おい!」」

 声の通り、逃げてきたのはおっさんと青年だった。あちこち怪我をしていて、今にも倒れそうだ。
 ここで一緒に逃げてもいいんだけれど、せっかくダンジョンでレベル上げをしたんだから、あの時と比べてどれくらいの力量になったのか、試してみたかったのだ。
 鑑定をすると、レッドベアのレベルはそれぞれ80、83、78。ぶっちゃけ、私たちの敵ではない。
 ノンとピオが一体、リコとエバが一体、私が一体を相手にして戦ったけれど、従魔たちは魔法を放って呆気なく倒し、私もスピードに乗って走りこんで来たところをひょいっと避け、そのついでに首をバッサリと斬り落とした。
 惰性で走ったレッドベアは、そのまま横倒しになる。
 ああ~! 綺麗な毛皮が! 傷ついてないかしら!

「「え……?」」
「はい、終わり。大丈夫?」
「あ、ああ」
「助かった……」

 ポカーンとした顔をして私たちを見る男二人。助かったとわかったのか、その場にへなへなと座り込んだ。
 落ち着いたところでおっさんが「ヒール」と唱えると、二人の傷がみるみるうちに塞がってゆく。おお、おっさんは回復魔法が使えるのか。これならノンに回復をかけてもらわなくても大丈夫だろう。
 二人の様子を見ていたら、ピオとエバが二人の荷物とみられるものを運んできてくれる。

「ありがとう。これ、二人の荷物で合ってる?」
「ああ」
「ありがとう」

 二人の荷物を渡すと、ホッとしたような顔をして笑みを浮かべる。どっちもイケメンだ。
 そして二人からお腹が鳴る音が。

「……」
「飯食ってる最中に襲われたんだよ」
「せっかくの飯が……」
「はあ……。軽食でいいなら用意するけど」
「え? いいのか⁉」
「助かる!」

 関わるのは面倒なんだけどなあ……と思ったものの、すがるような目で見られたら助けないわけにはいかない。とりあえずおにぎりを三個ずつと朝の残りの味噌汁を出し、二人に渡す。

「「これは?」」
「米で作ったおにぎりという食べ物よ。そのままかぶりついて食べて。こっちは味噌汁。ミショの実を使って作ったスープね」
「すまない、恩に着る!」
「レッドベアを解体してくるから、食べていて」
「「ありがとう!」」

 自分の鞄から器を出し、味噌汁をよそう二人。それを見てからレッドベアのところに行くと、さっさと解体した。
 横倒しになったレッドベアの毛皮は、幸いなことに傷ひとつついていなくてホッとした。売るにしろ自分で使うにしろ、傷があるとその分査定から引かれるからね~。よかったよ。
 解体して必要なものをマジックバッグに入れ、その他はリコに穴を掘ってもらって埋める。一通り終えてから二人の元に戻ると、服はあちこち切れていたものの、しっかりと防具を装備していた。
 最初っから防具を装備していたら、怪我しなかったのに……と呆れたが、何も言わなかった。

「ふ~、食った食った! ありがとな!」
「油断して安い防具を身に着けていたから、レッドベアに壊されてしまって……」
「……そう。とにかく、森から出たほうがいいわ。匂いは拡散してもらったけど、他の魔物が寄ってくるかもしれないし」
「そうだな」

 綺麗さっぱりなくなった味噌汁を見て、どれだけ食べたんだと驚く。まあ、三、四人前くらいしか残ってなかったから、こんなものか。
 鍋を綺麗にしてバッグにしまい、二人と連れ立って歩く。そこで自己紹介。
 おっさんはサンチョ、若者はウィルフレッド。ウィルフレッドはBランク冒険者だそうだ。
 二人はこの先にある商業都市ペペインまで護衛依頼で来ていて、これから別の依頼を受けて帝都に帰るところだという。その依頼の出発日まで数日あったことから、ギルドで討伐依頼を受けてきたんだそうだ。
 依頼を達成して、森に一泊。このあたりはホーンディアしか強い魔物がいないからと安物の防具を身に着けていたが、想定外のレッドベアが出てしまい、一撃で防具が壊れたという。
 食事を作っていたこともあり、完全に無防備な状態のところを襲われたらしい。

「結界はどうしたの?」
「解除した直後だったんだよ。そのままなし崩しで戦闘になっちまったんだ」
「バカじゃないの? なんで結界を解くのよ。食事中なんて狙われやすいでしょ」
「「……」」

 私の指摘に、二人は揃って目を逸らす。
 辛辣になるのも当たり前だ。なんで一番無防備になる食事時に、結界を解くんだ。従魔がいる私ですら、食事が終わるまで結界を解かないぞ?
 防具が壊れたのも、レッドベアに襲われたのも、自業自得としか言いようがない。

「いずれにせよ、防具が壊されたのは自業自得よね」
「そうだな」
「返す言葉もないよ……」

 落ち込む二人を冷たく見る。これ以上二人に関わるつもりはないから、さっさと森を出て、町に行こうと思ってたんだけれど……。

「町でお礼をしたいから、そこまで付き合ってくれ」
「……それくらいならいいけど」
「ペペインはいろんな屋台があるんだ。飯も美味い。せめて、飯くらいおごらせてくれ」
「わかったわ。ペペインまでは一緒に行くわ」

 面倒だなあ……と思いつつ、溜息をつく。屋台と聞いて、ノンが喜んじゃったんだよね。
 しっかりとおにぎりと味噌汁くらいの食事をおごってもらおうと決めた。

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