上 下
48 / 190
ハンデル自由都市国編

第64話 移動中

しおりを挟む
 あれこれ準備しているうちに夕方になり、せっかくだからと私が晩ご飯を作ることにした。といっても、たいしたものは作らない。ついでにすり下ろし器をいくつか作り、リッキーに渡した。
 もちろん、彼らもミショの実をすり下ろし、醤油と味噌を作っていたのには笑ってしまった。
 パンとは合わないが味噌汁が飲みたいというので、大根とじゃがいもの味噌汁を作る。あと、ボアの肉を使った肉じゃがと、消費する意味で魚介類を出して網焼きや刺身にしてみた。
 リッチと樹人は変化の魔法を使って人間になり、みんなで網焼きを手伝ってくれる。久しぶりの味噌汁と肉じゃがとあってか、彼らは目を潤ませながら食べていた。
 夜遅くまで話し合いをしていた彼ら。誰一人欠けることなくガート帝国に行くと話し、できれば一緒に連れていってほしいと懇願されたのだ。

「……いいわ。ただし、ガート帝国の国境までよ」
「それで構わない」

 これは決意が固そうだ。
 彼らの武装に関して心配だったのでそれについても話をしたら、それなりにいい装備を持っていたので、そこは安心した。
 マップに関してはどうやら彼らもオールカラーらしく、私の目の前でガート帝国の確認をしているしね。何もないところを指が上下に動いたりしてるんだよ? 傍から見たらシュールだ。
 それぞれが確認して、この場で一泊した。

 翌朝。レイコと名乗った狼獣人の女性が召喚獣を二頭出し、幌馬車に繋ぐ。炎の鬣を持った茶色の馬で、ファイヤーホースという召喚獣なんだとか。リコとは違うカッコよさだ。
 バトルホースほどのスピードは出ないけれど、それでも普通の馬に比べたら早い。
 御者台にリッキーとフウと名乗った狐獣人の男が二人で並び、馬車を走らせる。私は彼らと並走する形で、リコに跨っている。
 ピオとエバが先行して魔物や盗賊を警戒してくれているから、何かあれば戻ってくるだろう。
 ちなみに、作った馬車は有料である。負けに負けて金貨五十枚と言ったら目を剥いて驚いていたけれど、相場を教えたら渋々ながらも払ってくれた。毎度あり~♪
 いくら同じ転生者だからといっても、タダで作るわけないじゃない、彼らの人となりを知らないんだから。関わったとしても、それはリュミエールからお願いされていることがあるからで、そうじゃなければ料理なんて教えてないし作らないっつーの。
 ノンが微妙に警戒してるんだよ、彼らを。彼らというよりも、一人の少年を。悪人ではないけれど、警戒しないといけない何かがあるってことでしょ?
 まあ、国境までは三日だし、もし何かやらかしたなら置いていけばいい。マップがオールカラーになっているんだから、迷うこともないだろう。
 お昼に関しては自分たちで用意してもらう。連れて行ってくれと言ってきたのは彼らなんだから、本来は彼らが私たちの分を用意しないとダメなんだよね。
 まあ、あれこれ言われるのも面倒だから、自分たちの分は自分たちで、ということにした。下手に作ってもらって、毒を入れられても困るし。
 ……一人、従魔たちを舐めるように見ていた虎獣人の男の子がいたんだよね。話に聞く限りテイマーだそうなんだけれど、どう見てもその子にテイムされているような魔物が見当たらない。
 もし、他人が持っている従魔を狙っているんだとしたら、困ったことになるのは彼や一緒にいる人たちであって、私じゃない。従魔泥棒って犯罪なんだけど……知っているんだろうか、男の子もリッキーも。
 まあ、何かあったら返り討ちにするさ~。私と彼らとでは、明らかにレベル差があるしね。
 ヤミンとヤナはいい子なのになあ……。
 とりあえず様子を見ようと思い、馬車組は放置した。

<アリサ、この先にボアが二体いるわ>
<なら、倒しちゃって。そのままエバとピオの鞄の中に入れておいてくれる?>
<<わかった>>

 先行していたエバから念話が飛んでくる。ボアなら彼らのおやつになるだろうし。一瞬だけ光った雷に、顔を引きつらせているリッキーとフウ。そしてテイマーの子は目をギラつかせている。
 これは釘を刺しておかないとダメかもね。敵対するなら、この場に置いていくことも吝かじゃないが。

「ねえ、リッキー。貴方は従魔泥棒って犯罪を知っている?」
「ああ」
「それ、テイマーの子に教えた?」
「え……? もちろん教えてあるが……って、ゲッ!」

 私の言葉に不思議そうな顔をして首を傾げたけれど、さり気なくテイマーの子を指させば、その顔を見たんだろう……真っ青な顔をして叫んだ。

「売られた喧嘩なら買うし、国境を待たずにさっさと行ってもいいんだけど?」
「すまん! こら、ジル!」
「え? なに?」
「なに、じゃないだろう!」

 リッキーの怒りに対して、きょとんとしているテイマーの子。それに気づいたペニーと呼ばれたリッチの女性が、テイマーの子の頭を叩く。

「あんた、何回同じことを言わせるの? 他人がテイムしている従魔をギラギラとした目で見るんじゃないの!」
「え~? 別にいいじゃん。奪ってしまえば、俺のモンだろ?」
「へえ? 奪えると思ってんの? たかがレベル一桁のガキに。しかも従魔泥棒って犯罪なんだけど?」
「……っ」

 意識してすっごく低い声を出したうえで、ピンポイントに殺気を飛ばす。それだけでガタガタと震えるテイマーの子。

「そっちがそのつもりなら、ここでお別れね」
「はあ……そうだな。俺たちも犯罪に巻き込まれたくない。もうじき村がある。ジルはそこで降りろ」
「そんな!」
「そんなじゃないでしょ! あたしたち、何度同じこと言った? テイムは自分でしてこそって言ったでしょ!」
「自分でテイムできないテイマーなんて、役に立たないだろうが」
「ぅ……っ」

 リッキーとペニー、フウに叱られ、真っ青になりながら震えるだけのテイマーのガキ。
 リッキーたちの話を聞く限り何度も言われていたにもかかわらず、直さなかったのか。一桁でもテイムできる方法はあるんだけれど、あの子の歪んだ性格じゃあそれも無理だろうね。
 本来は対等でないとダメだからね~。だけど、どうやら彼は魔物を下に見ている感じがするし、これはいつまでたってもテイムは無理でしょ。
 中の人がいったいいくつか知らないが、もし大人だとしたら相当痛い人だぞ、その態度は。
 呆れて彼を見ていたら、ピオとエバが戻って来て私の両肩にとまる。怯えながらも、相変わらずギラついた目で二羽を見つめるテイマーの少年。

「あんたじゃ手に負えないわよ。おしおきしてあげて」
<<わかった>>
「え……? ぎゃーーー‼」
『ひえっ!』

 ピオとエバがテイマーに雷を落とす。もちろん、一番弱い雷で、だ。
 ピクピクと痙攣して髪をアフロにした少年は、目覚めたあと如何に自分が弱くて愚かだったのか自覚したんだろう……私とピオとエバを見て、怯えた。

「あ、あ……」
「当然の結果よね、私に喧嘩を売ったんだから。自分よりも弱いテイマーに――レベルが一桁しかないあんたに、強い魔物が従うわけないでしょ」
「よくて一角兎、悪くてもスライムくらいだよな」
「そうよね。だからあたしも、レベルを上げて自分も磨けって言ったのに」
「その態度も直せって言われてたのにさあ」
「直さなかったもんね」

 同じ集落にいた人全員から冷たい目で見られる少年は、同年代であるヤミンとヤナにトドメを刺されて撃沈した。ヤミンもヤナもレベル80はあるしね。他の大人たちだって100は超えている。
 それなのに、少年だけがレベル一桁なのだ。
 どう考えたって、レベル上げをサボっていたとしか思えない。

「アリサ、すまん」
「いいわ。ただ、国境までは一緒に行けない」
「わかってる。ここまでありがとう。コイツの処遇は、俺たちで決める」
「そう……わかった。頑張ってガート帝国まで行ってね。一本道だから、迷わないだろうし」
「ああ。馬車もありがとう」
「どういたしまして。じゃあね」

 リッキーたちに手を振り、リコのスピードを上げて馬車から離れる。今後彼らが少年の処遇をどうするのか気になるところだけれど……まあ、同じ転生者とはいえ、私はこの世界に来てまだ二ヶ月半くらいだからね。
 ずっと一緒にいた彼らのほうが絆が強いだろうし、どうにでもするんだろう。少年がどうなろうと、知ったこっちゃないしね。


 私がガート帝国に定住したのちにリュミエールから聞かされた話によると、リッキーたちに追放を言い渡されたテイマーの少年は、頭を下げてレベル上げを手伝ってほしいこととテイムするまでは一緒にいてほしいと、一緒にいたみんなに頭を下げたという。
 それならばと全員一緒にダンジョンに潜ってレベルを上げたあと、なんとか外の森でフォレストウルフをテイムしたそうだ。
 テイムしたあとはリッキーたちと別れ、近くにあった村に住み着き、その村で過ごし始めたそうだ。
 そしてリッキーたちはといえばガート帝国に入ったあとは東に向かい、米を作っている村に定住し、その村の住人と結婚したりしながら、米を作って過ごしたという。


*******

今回転生者として出て来た人たちの名前は、リッキーとジルを除いてキリ番を踏んだ人たちやしょっちゅう感想を書いてくださる読者様の名前になっています。

樹人やみみん(やみみん)さん→ヤミン
yanaさん→ヤナ
八神 風さん→フウ
もらわれっこさん→レイコ
penpenさん→ペニー
狼怒さん→ロウ
黒うさぎさん→ウサギ

勝手ながら、キリ番と感想のお礼とさせていただきました~!

しおりを挟む
・「転移先は薬師が少ない世界でした」1~6巻、文庫版1~2巻発売中。こちらは本編完結。

・「転移先は薬師が少ない世界でした」コミカライズ 1巻発売中。毎月第三木曜日更新

・「転生したら幼女でした⁉ ―神様~、聞いてないよ~!」

を連載中です。よろしくお願いします!
感想 2,849

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。