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ハンデル自由都市国編

第62話 ヤミンとヤナ

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「さて、装備を用意しないとね」
「あ、あの、換金できましたし、自分で買いますよ?」
「ああ。それくらいは稼げたし」
「まあまあ、いいから。とっておきの素材があるの。それを見てから決めてくれると嬉しいかな」
「とっておきの」
「素材?」

 私の言葉に首を傾げる二人。どんな素材か見てもらうために、町の外に出ることにした。さすがに宿で見せるなんてことはしたくないし。
 二人を促して門のところまで歩く。途中にあった屋台で串焼きやスープ、果物を買うが、二人は食べ物を買うようなことはしなかった。それを不思議に思っていたけれど、よくよく考えたら二人は樹人とリッチだ。
 きっと、食べ物を必要としないんだろう。せいぜい水くらいか。
 そのあたりのことも、あとで聞こうと思う。彼らも聞きたいことがあるみたいだしね。さっきから、うざいくらいこっちをちらちらと見ているんだもの……きっと何か聞いてくるはず。
 森に着き、すぐにテントを展開する。彼らはアイテムボックスが使えるようで、空間からテントを出していた。
 つか、アイテムボックスがあるなら、杖もその中にしまっておけばよかったんじゃ……と思ったが、囚われた時に魔法も封じられていたのかもしれないと、思い至った。
 今日はこのまま森で一泊しようと話すと、彼らもホッとしたような顔をして頷く。きっと特殊な種族故に、宿に泊まることを躊躇っているんだろう。
 火を熾してから結界を張り、まったりする。

「じゃあ、杖の素材からね」

 ダンジョンでドロップした枝を彼らに見せる。

「……っ、凄い魔力が籠っていますね。トレント材ですか?」
「ええ。エルダートレントのよ。トレントと比べてみる?」

 トレントの木材を出し、二人に渡す。しげしげと両方を見たあと、二人同時に息を呑んだ。

「こ、こんなに違いがあるんですか⁉」
「上位種だもの、こんなものじゃないかしら」

 エンシェントトレントだともっと魔力が込められているとは言わないでおく。彼らのレベル的に扱えると思っていない。エルダートレントでギリギリ使えるか使えないかだからね。

「で、杖はどっちで作っても問題ないと思うけど、二人はどっちの木材がいいかしら」
「「うーん……こっち!」」
「だよね~」

 二人が指さしたのは、トレントのほうだった。魔法の制御に関しても、魔力を溜め込んでいる木材のほうがいい杖になるのだが、自分の力量がわかっているのか、トレントのほうを指さした。

「よし、木材はこれでいいとして。嵌める魔石はどうする?」
「ボクはいろいろ使えますけど、樹人ということもあって、風系統の魔法が得意なんです。だから、もしあれば風の魔石で」
「俺もいろいろ使えるけど、リッチということもあって、闇や氷が得意なんだ」
「そう……。残念ながら属性がついている魔石は持っていないから、ベア種の魔石で我慢してね。杖の形状は?」
「特にないです」
「俺も」
「なら、二人ともお揃いで一般的な形にしよう」

 ウエストポーチからダンジョンで出たレッドベアの魔石を出し、トレント材と一緒に置く。さすがにドラゴンがドロップしたものを使うようなことはしないよ、出会ったばかりだしね。
 杖の形は、杖として一般的なもので上の部分に魔石、下に行くほど細くなる「?」のような形だ。ただし、魔石を嵌め込む部分にはちょっとした装飾を施すつもりでいる。

「〝杖を錬成、装飾あり、状態維持〟、っと」
「「へ?」」
「さあ、終わり! はい、どうぞ」

 まさか錬金術で作るとは思っていなかったんだろう。二人はみるみるうちに杖が出来上がっていく様子を見て、ぽかーんと口を開けながら目を真ん丸にしていた。
 出来上がった杖は、形としては一般的なもの。ただし、杖全体に蔦がはっているような模様が掘られていて、葉っぱの部分は色がついているものにした。

「うわ~! 凄い! カッコいい! ボクの手に馴染む!」
「俺も! ここまでしっくりくるのは初めてだ!」
「それならよかった! 壊れたりしないようにしているから、安心して使ってね」
「「ありがとう、アリサ!」」
「どういたしまして」

 キラキラとした目で見ているであろう、二人。目があるわけじゃないから、雰囲気でしかわからないけれど。
 それでも喜んでいることがわかるから、こっちもほっこりする。
 それから少しだけ残していたBランクの蜘蛛糸を出し、二人のローブも錬成する。二人の種族が特殊であることを考慮して、認識阻害の魔法をかけた。
 通常ならば耐熱と耐寒をかけるところだけれど、今回ははかけていない。かけるほど彼らを知っているわけじゃないし、仲良くなったわけじゃないしね。

「うわ……その蜘蛛糸、魔力が籠ってる……」
「これ? 上層でドロップするBランクの蜘蛛糸なの。だから防御力もそれなりに高いわ。認識阻害をかけてあるから、フードさえ被ってしまえば大丈夫だと思う」
「何からなにまで……」
「ありがとう」

 色も二人に似合うよう、緑と黒にしてみた。緑はヤミンに、黒はヤナにローブを手渡すと、さっそく着替える二人。それから二人に話を聞くことに。

「二人はどうしてあのダンジョンにいたの?」
「ボクたちの村は隠れ里でさ」
「周囲は森だけど、薬草の種類が少ないんだ」

 彼らの話によると、二人だけじゃなくて他にも樹人やリッチ、獣人たちが一緒に隠れ住んでいるという。森の奥とはいえ薬草の種類が少なく、ポーションも中級までしか作れないんだそうだ。
 だから、種類を増やしたいと思ってダンジョンに潜り、根っこごと持って帰ろうとしていた。ある意味それは成功していたけれど、帰る途中でダンマスに見つかり、珍しい種族だからと囚われてしまったという。
 樹人やリッチだったからこそ食べ物が必要なかったから死ぬことはなかったが、それでも水くらいは飲む。魔法自体も封じられていたし、ダンマスに逆らわないようダンジョン独自の魔法をかけられて、逃げられないようにされていたんだとか。
 囚われていたのは、体感で五日ほど。村の人間が心配しているだろうと、ヤミンとヤナが落ち込む。

「そう……。なら、その村まで送っていくわよ?」
「「いいのか⁉」」
「いいわ。乗りかかった船だもの。それに、にゃんすらがいるから、悪人はすぐにわかるし」
「「ああ~、納得!」」

 やっぱり納得するのか。それから二人は、私を伺うように話しかけてくる。

「俺たちもアリサに聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
「もしかてさ……アリサもボクたちと同じ、転生者、だったりする?」

 その言葉に驚く。え? 彼らが、転生者⁉

「え……二人とも転生者なの? あと、どうしてわかったの?」
「〝OK〟って言葉だよ」
「あれはこの世界にない言葉だから」
「あちゃ~、それが原因か。できるだけ言わないように気をつけているけど、たま~に出ちゃうのよね……」
「わかる」
「俺も言いそうになる時があるし」

 簡単だものね、あの言葉って。
 悪いと思いつつ私たちは食事を、彼らには水を与える。ヤミンは根っこから水を吸い上げ、ヤナはきちんと口から摂っていた。おおぃ……骸骨じゃないんかーい!
 その光景に驚きつつ、三人で話を続けた。

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